本当に久々の投稿……
次は来週までには!
第225話「戦い済んで」
異なる世界においては老い、病でボロボロの体をもって尚、海軍大将と戦って重傷を負いつつもそれを打ち倒した白ひげことエドワード・ニューゲート。
自らの最後の力を振り絞り家族である配下の海賊達を逃がすべく立ち塞がった彼にトドメを刺した黒ひげことマーシャル・D・ティーチ。
かつての四皇と、新たな四皇。
海賊時代を招いた海賊王ゴール・D・ロジャーと、そのライバルでありロジャー亡き後、新たな海賊王になる事が可能でありながらそれを捨てた男という、旧来の海賊王の世代が或いは引退して身を隠し、或いは死んで最悪の世代と呼ばれる億超え世代の新世界への来訪と共に新たなる時代が幕を開いた。
だが、この世界ではそれは叶わなかった。
黒ひげは新たなる四皇となる事なく倒れ、白ひげは生き残った。
モンキー・D・ルフィが海軍に所属し、クロコダイルに代わる新たなる王下七武海にティーチがなっていない以上、大監獄インペルダウンへの侵入者もなく当然怖れられる最下層の囚人達が解放される事もない。ここでもまた一つ、歴史は変わった。
新たな歴史を作り損ねたティーチはと言えば、簡素な墓を作り埋められた。裏切り者の彼に用意されたのは原作の白ひげとエースの為に作られたような立派な墓ではなく、ただ盛り上がった土饅頭と突き立てられた一本の木だけがそれが墓であると示していた。
それでも、きちんと埋葬してもらえただけマシだっただろう。そこらの海賊であったならそもそも埋葬の手間をかけてもらえず、海に投げ込んで終わりか、放置されて野晒しにされやがて白骨化するかのいずれかであったはずだ。
そして、埋めてもらえたとしても、ここに土饅頭は更に三つ増えていたであろう。
ティーチの仲間であった三人、ヴァン・オーガー、ジーザス・バージェス、ドクQはいずれも白ひげの仲間となる事は拒んだが、白ひげは彼らを殺す事なく解放したからだった。
「恨むつもりはない」
白ひげ海賊団の手を借りる事を拒み、三人で穴を掘りティートの遺骸を埋めた後、そう告げたヴァン・オーガーの目には事実憎悪の色はなかった。
それはドクQも同じ。唯一、ジーザス・バージェスが険しい視線を隠せていなかったが、それも憎悪というよりは更なる上を見た事による戦闘狂としての色合いが強かった。
「あいつは自分が倒される事も承知していた。白ひげ、あんたを慕っていたのも事実だ。あんたに負けて殺されたならあいつも本望だろう」
そんなバージェスに言い聞かせるようにオーガーはかつて彼らにティーチが言った言葉が口にした。
『死ぬも生きるも天任せよ 恐れた奴が負けなのさ!! 次の一瞬を生きようじゃねェか!!』
原作において、それは大監獄インペルダウンにてティーチが署長マゼランの毒にやられ、それを雨のシリュウによって助られた時に口にした言葉だった。
この世界では知られる事なく終わったが……それでも仲間であるオーガーはそれを聞いた事があった。
一瞬目を閉じ、顔を伏せ、あの時に思いを馳せたヴァン・オーガーはだがすぐに顔を上げると確認するように言った。
「だが、いいのか?黒ひげの仲間だった俺達を解放しても」
「俺が黒ひげを追ってきたのは奴が俺の船の乗組員であり、俺の船の掟を破ったからだ」
俺の船の乗組員、白ひげ海賊団ではなかったお前達を今、殺す理由はねえよ。
白ひげは至極無造作に、そして当り前のようにそう告げた。
甘いと言えば甘いだろうし、白ひげらしいと言えば白ひげらしい。
それでも白ひげ海賊団の一同は苦笑を浮かべる者はいても、それに素直に従った。おそらく、彼らもこうなる事を予想していたのだろう。
「……あいつの墓を作らせてくれた事、感謝する」
そんな白ひげ海賊団の面々に、ヴァン・オーガーは帽子を取り、頭を下げた。
ドクQもまた「この世はすべて 強い望みの赴くままに巡り合う 歯車……これもまた奴の望みだったのである」、そう呟きながらその隣で帽子を取って頭を下げ。
そして、ジーザス・バージェスもまた黙って彼らと共に頭を下げた。
そうして彼らは彼らの筏のような船でもって去って行った。
その船影が小さくなるのに視線を向けた後、白ひげは「さて」と呟き、体の向きを変えた。
「で、お前さん達はどうする?」
どこか面白げに呟いたその視線の先にいたのはエース達。
……最初は主役だったはずなのに。
彼らがここにやってきた当初は黒ひげ海賊団VSエース一味とでも言うべき戦いだったのに。
白ひげという世界でも三本の指に入る超ビッグネームが登場した瞬間、完璧に空気になってしまった一同。
黒ひげが埋葬される事も含めて、これまで何も意見を求められず、発言する空気でもなく、放置プレイとなっていた彼らにようやくまた登場人物として光が与えられた瞬間だった。
「どう、って……」
どことなく困惑した声をエースは上げた。
無理もない。
ここで終わりかと絶望しかけたら、後は怒涛の勢いで白ひげと黒ひげの戦闘が始まり、黒ひげが死んだ。頭が真っ白になっていたとしても当然だろう。
「行く所はあるのか?」
「あ、ああ……」
行先はある。
合流場所も決まっている。だが……。
それなりの実力が自分には備わっていると思っていた。エースは決して弱くはないのだろう、それは理解している。それでも足りない事を彼は理解してしまった。そう、他ならぬ世界最強の一角の本気の戦いを眼前で見た事によって。
これまで彼が見てきたものはいずれも世界最高クラスの実力者、海軍本部の海軍大将や海軍中将だった。
それでも、彼らが見せてきたものは彼らからすれば未だ本気ではなかった。それを改めて実感したのだ。かつてアスラ中将と王下七武海の大剣豪ミホークの戦いを見た事があったが、あれとて結局は手合わせであったのだと殺気を伴う戦いを見て感じ取ったのだ。
本当に辿り着けるのか。
そんな思いがエースに渦巻いていたし、それをサボらも感じ取っていた。
「にしても……」
そんな思いから沈黙するエース達にどこか面白げな雰囲気をまとって白ひげが言った。
「実力なんかを考えりゃ見捨てりゃ良かったのに、お前さんもバカをしたな」
「取り消せ」
思わず、その言葉にはそう答えていた。
いや、本当に長らくお待たせしました……