本当にお久しぶりです
長らく間があきましたが続き投稿です
第224話「決着」
突き上げられる拳。
だが、ティーチの視線は白ひげの右膝に行く。
(本命はそっちだろうが!)
集束された覇気が白ひげの右膝を黒く染め上げている。
ティーチは今更言うまでもなく、ヤミヤミの実の能力者であり、自然系悪魔の実の能力者だ。
確かにヤミヤミの実は痛みは通じる、痛みすら喰らい、呑み込んでしまうからだ。
だが、自然系の悪魔の実である、という事に変わりはない。あくまでヤミヤミの実の欠点は全てを呑み込む、痛みすら呑み込んでしまう、という点であり他の実がそうであるように体を貫かれても穴があくといった事態にはならない。
ならば、致命傷レベルの一撃を与える為には覇気が必要な事に変わりはない。
だからこそ、覇気が明らかに集束している箇所を警戒していた訳だが……。
ドォン!!!!!!
直後に轟音が振り下ろされた拳の傍で響き渡った。
ティーチの至近距離で、だ。
慌てて視線を向ける間もなくグラグラの実の空間破砕によって引き起こされた衝撃がティーチへと襲い掛かる。
「!?ぐあ!!」
至近距離故の轟音と直後に襲ってきた痛み、そうして何より思わず、といった風情で視線をそちらに向けた瞬間に。
「ぐぼっ!!!」
目を逸らした為にぶち込まれた覇気の集中した膝に対応出来なかった。
腹に抉りこむように叩き込まれた一撃で体がくの字に曲り、突き出す形になった顎へと再び振るわれた拳がアッパー気味に決まり、ティーチの巨体を宙に舞い上げる。
大きく吹き飛んだティーチは受身すら取れず、大地に「ぐあ!」と唸り声を上げながら叩きつけられ、そのまま転がり、それでも途中で姿勢を立て直し立ち上がる。
「ぜえ……はあ……ぜえ……」
「ふん……」
しかし、荒い息をつき、ボロボロになっているティーチに比べ、白ひげは未だ余裕、といった様子で肩を回す。
別の世界の、別の歴史においてはティーチが白ひげを部下と共に射殺した。
では何故こちらの世界ではここまで逆の結果となっているのだろうか?
……それは、それぞれの状況の差が生み出した結果と言わざるをえない。
別の世界においては、白ひげは海軍と激しい戦いを繰り広げた後だった。
海軍の策略によって部下である大渦蜘蛛スクアードに腹を刺し貫かれ、赤犬大将らとやりあい、赤犬大将のマグマによって顔の一部を削り取られた。これに対してティーチは満を持して大監獄インペルダウンの最下層より得た凶悪な囚人達を部下にして姿を現した。
あの時点で負傷し、疲弊していたのは白ひげであり、ティーチは体調も万全でティーチの能力も白ひげはろくに知らなかった。
これに対して、今はその逆。
ティーチはアスラに鍛えられて何気に実力を底上げされたエースとの激戦で消耗していた上に、手札も軒並み見られてしまった。
ヤミヤミの実の特性、攻撃能力、自身の現在の戦闘力と戦い方、そこら辺を全部だ。
その一方で、白ひげは全く消耗していない。それどころか、この戦いに合わせて準備してきた為に比較的体調も良い。
更に言うなら、海軍に包囲されていた原作と異なり、今は白ひげの部下達がティーチを包囲している状況だ。
つまり、全てが逆。
そうなれば当然、結果も逆になろうというもの。確かに後に七武海の一角となり、更には新たなる四皇へと上り詰める力を「黒ひげ」マーシャル・D・ティーチは持っているのかもしれない。だが、それは目の前の男も同じ事、「白ひげ」エドワード・ニューゲートは病と年で全盛期より衰えたとはいえ、今も尚世界最強を謳われる四皇の頂点。事前に準備をした調子の良い状態では今が全盛期に近いティーチに劣るものではない。
ましてや、白ひげの背後には彼の率いる海賊団の精鋭達が控えている。
白ひげが彼らに手を出させる事はないと分かっていても、それでもティーチは警戒をせずにはいられない。
だからこそのこの結果、ティーチは刻一刻と追い詰められている。
それを誰よりも理解しているティーチは諦観の篭った、けれどもふてぶてしい笑みを浮かべた。その覚悟の定まった顔を見て、一つ鼻を鳴らすと白ひげは告げる。
「運がなかったな、ティーチ」
「……ああ、そうだな」
そう答えた後、ティーチは笑う。
いぶかしげに眉をしかめる白ひげに、だがティーチは構う事なく笑いながら告げる。
「そうさ、俺は運ってえ実力がなかった!だから負けて、ここで死ぬ!」
ギラリ、と輝く瞳でティーチは白ひげを睨むように熱の篭った視線を向ける。
その目に微動だにしない白ひげに笑いかけながら叫ぶように語り掛ける。
「この時代に生きる奴は運だって実力の内さ!どんだけ強い奴だって、運の悪い奴はあっさりおっ死ぬし、運の強い奴はどんな死地だって生き残る!!」
そう、それもまたこの世の真理の一つ。
原作の世界でモンキー・D・ルフィが始まりの街ローグタウンで道化のバギーにギロチンにかけられながら、自らの死を覚悟しながら、ギリギリの瞬間に天から落ちた雷によって一命を取り留めたように、本当に強運の者はまるで世界が「生きろ」と告げているように命を拾う。
道化のバギーもそうだ。
その実力は決して高いものではなく、東の海でならともかくグランドラインでは未熟。それは誰より彼自身が理解している。
けれど、彼は後に七武海の一角へと上り詰めた。
その一方で、圧倒的な力を持ちながら、あっさりと死ぬ者だっている。
誰だって、最初から強い訳ではない。例え大きな可能性を秘めていようとも駆け出しの頃に海軍大将と敵対するような事態ともなればあっさり死ぬ。
エネルとてそうだ。
彼も本来の実力から言えば負ける要素はなかったにも関わらず、彼の電気という自然系の悪魔の実にとっての天敵たる能力と正にこれから!というその瞬間に遭遇し、打ちのめされる事になった。それでも夢自体は叶える事が出来たのだから、まだ彼は運があった、というべきだろう。
「だから俺が死ぬのは実力が足りなかったからさ。でありゃあ……」
にいっ、と笑ってティーチは言った。
「勝者のあんたは敗者の俺を殺せばいいのさ。そんだけの話だ」
命乞いはしない。
仲間への情けも求めない。
ティーチの声を、この時ティーチの部下たる三人、「音越」ヴァン・オーガーも、「チャンピオン」ジーザス・バージェスも「死神」ドクQもいずれも耳にしていたが、彼らもまたバージェスが舌打ちしたぐらいで特に反応を示したりはしない。
「そうか」
そのティーチの態度に白ひげも特にそれ以上語る必要を感じなかったのだろう。そう一言呟くと、これまで握りながら振るわれる事のなかった薙刀を振り上げる。
覇気によって黒く染まったその刃ではなく、白ひげの顔を笑みを浮かべて睨むティーチに最後に一言。
「じゃあな、息子よ」
「ああ、あばよ、親父」
振り抜かれた刃がティーチの首を飛ばし、戦いは幕を閉じた。
ほんっとーーーーに長らくお待たせしました
久々の投稿です
この後、なるだけ二週に一ペースで投稿出来ればと考えています。……出来れば週一を目指して