第48話−日常編4
時折思う事がある。
あの時、あの場所で、エースと出会っていなかったら、自分はどうなっていたのだろう、と。
俺はゴア王国の貴族の家に生まれた。
貴族、貴い一族と書く訳だが、俺からすれば、醜族だ。
外面こそ綺麗に着飾って取り繕っているが、その内面は見るに耐えない醜悪さだ。
俺の親は2人とも俺なんて見ていなかった。あいつらにとって、俺は自分達がより楽しい思いをする為の道具で、重要なのは俺が王族と結婚するかどうか。
俺が王族と喧嘩して怪我をした時も、あいつの方が武器を持って喧嘩を売ってきたのに、母は俺を叱り飛ばし、王族にぺこぺこと頭を下げていた。これがまだ、表だってはそうせざるをえなかったというなら、救いはある。けれど、違った。
だから、俺は家を飛び出した。
事故にあった風を装って……。
そうして、俺とエースは出会った。既に『不確かな物の終着駅(グレイターミナル)』で一目置かれつつあったエースが、俺を何故気に入ったのかは分からない。
俺だってそうだ。飛び出した事は後悔しないが、不安があったのは確かだ。
何しろ、俺は貴族生まれの高町育ち。
端町さえまともに行った事のなかった俺が、更に危険地帯である『不確かな物の終着駅(グレイターミナル)』で暮らしていけるのか、いきなり危険な奴に出くわして、やられたりするんじゃないかと内心ではビクビクしていた。
それがばったりエースに出会って……何でいきなり信用出来たのか。
エースだって、何で最初から友好的だったのか。当時のエースの普段がそうじゃないって事は、その後の付き合いですぐ分かったけれど、でも何故か俺もエースの事は信じられた。
敢えて言うなら、ウマが合った、としか言いようがない。
そして、エースと一緒にいるという事で、『不確かな物の終着駅(グレイターミナル)』で俺も一目置かれるようになり、エースから色々教わったお陰で俺もここでやっていけるという自信を持つ事が出来た。
そうして、互いの夢として海賊として海に出ようと誓い、その為に必要な金を溜めようと貯金を始めて……。
そうして、アスラに出会った。
アスラはエースの爺さんで海軍本部中将、英雄とも呼ばれるガープ中将の子育てのやり方に問題あり(まあ、実際俺もそう思ったし、真っ当な常識を持つ人は皆賛成してくれた)、としてエースを引き取りにやって来た。
その際に、俺がエースの友達って事もあり、俺も連れてった。まあ、俺が孤児だと思ったからだったんだろうが……。
そうして、俺達は……『海賊』を知った。
『海賊』に俺達は夢を持っていた。
16年前に処刑された海賊王ゴールド・ロジャー。彼の処刑直前の言葉。
『俺の財宝か?欲しけりゃくれてやる!探せ!この世の全てをそこに置いて来た!!』
その一言で、世界は大海賊時代と呼ばれる時代へと突入した。
海賊王と呼ばれた男が遺した財宝。
それをゴールとして、一斉に皆が海へ出た。我こそが次の海賊王だ!として……けれど、皆当たり前の事を忘れていた。
勝者は1人だけ、って冷酷な事実をだ。
そうして、更に言うならば、大多数は本当の意味でのスタート地点にさえ立つ事が出来ない、って事もだ。
海賊王の宝はグランドラインのどこかにある。それは確実だ。
だけど、殆どの奴はグランドラインにさえ入れない。
そうして苦労してグランドラインに入り、そこで生き残ってレッドラインに辿り着き、大陸を越えて新世界に入って……初めて本当の意味でのスタートラインに立てた、と言える。
じゃあ、そういう大部分の奴はどうするのか?
いや、そもそもスタートラインに立てる程の奴だって、どうやってそこまで辿り着くのか。
当たり前の話だけれど、世界のどこかにある目的地を目指すなんて事をしているのに、のんびり商売をしながら何て奴はいないだろう。誰も目指してない土地なんてのならともかく、世界中からそこを目指して人が集まってくるというのに……。
結果、海賊は奪う。
海賊王の財宝なんてものに興味を持たず、普通に生き、普通に暮らしている人々を襲い、財貨を奪う。その過程で頑張って溜めた財貨を奪われまいと抵抗する人達を殺し、犯す。より酷い時は売り飛ばし、拷問したりもする。
そうしてやってく連中の中には、何時しか海賊王の財宝を目指しての冒険ではなく、そうやって人を殺し、奪う生活こそを楽しむようになる連中もいる。もちろん、海軍に追われるようになった事による恐怖とかそうした事も影響があるだろう。
そんな海賊の所業って奴をたっぷりと見せられ……もちろん、中にはマシな海賊がいたのも事実だけれど、そんな奴は本当に一握りの連中だった。
だから、自分達は海賊になるのは諦めた。
というか、現実を見せられて、その気が失せた。
自分達は自分達なりに夢を追い求めたいと思うが、その為に頑張って普通に暮らしてる人達から奪って自分達がやっていくんじゃ、結局貴族達と同じじゃないか、って思った事もある。
なので、最近はエースと自分は賞金稼ぎをしようって話になっている。
素直に海軍に入るには、自分もエースもどっちも政府組織ってのにわだかまりがあったからだ。まあ、ルフィは素直に海軍に入るって言ってるし、それはそれでいいと思うんだけど。
今はまだ、俺達は迷ってる。
自分達が本当にしたい事は何なのか、って。
海賊になるのは止めた、けど、海軍に入るのもわだかまりがある。でも、賞金稼ぎだって、これで生きていくんだ、ってのにはどうも首を傾げてしまう。
だから、とりあえずは旅をして何をしたいか探してみたい、と思ったんだ。
それを言ったら、アスラには幾つか条件を出されたが、約束したらOKを出してくれた。
1つは最初は東の海から始める事。
理由は、あそこが最弱の海だから。
まあ、初めて海賊退治して、金を稼ぐって事やるのにいきなりグランドラインはないよな。
2つめは、旅の途中で海軍の不正を見つけたら、知らせて欲しいって事。
ナミの時みたいに、どっかの支部がバカやってたからって、いきなり殴ったら俺らが悪者にされちまう。けど、アスラに連絡取ってからなら、結構やりようもある。
まあ、その他偶には連絡入れろとか、あったりしたんだが、代わりに小さいけど船をくれる約束もしてくれた。
まあ、今は頑張って、夢をかなえる為……いや。
何を成し遂げたいかを見極める為に、俺達は海へ出る。そこで生き抜いて行く為に腕を磨かないとな!
アスラには感謝してるんだ。
まあ、お兄ちゃんと慕ってくれるエスメラルダと別れるのは寂しいし、憧れのハンコックさんに会えなくなるのも寂しい。
けど、俺も男だ。エースは六式が気に入ったらしく、頑張ってるけど、俺は武器を使う方が性にあってるんで、刀を使ってる。
「おーい、サボ、早く行こうぜ〜」
「分かった、すぐ行く」
おっと、エースの奴が呼んでる。
今日も鍛錬の時間だったな。さって行くか。