第49話−裏の日常
「つまらん」
「まあ、そう言うでない」
「あ、これ〜も〜我らが仕事なればぁ〜」
はあ、と溜息をついたのはカクだった。
今、彼らはCPの訓練所に来ている。これもまた、先だって新たなCP長官となったアスラ中将の命令によるものだった。
先だっての監査で、CPは大量の逮捕者を出した。
結果として、今やCPは大規模な戦闘に駆り出された訳でもないのに、壊滅寸前だ。
当初は、『自分達には関係ない』を貫いていたCP9だったが、すぐに弊害は現れた。
……これまでのCP1〜8の面々を指揮下に置き、スパンダインは仕事はちゃんとしていた。だからこそ、発覚がここまで遅れたとも言えるが、基本的にCP9自身が裏づけ捜査を行なう事もあるが、彼らは僅か7人が正規の隊員となる少数精鋭部隊だ。
無論、サポート部隊はあるが、単純な情報処理には人手が足りない。
一般的に諜報部隊というと派手な印象があるが、アスラの元の世界での映画で007がやらかすような派手な仕事は滅多にあるものではない。実際には、大部分の諜報員が行なう事は地味な情報を集めての調査だ。
それは大量の新聞であったり、或いは通信であったり、その中から情報を拾い集め、組み立てていく。
必要なら、金で釣り、脅迫して情報を引き出す。
そうやって集めた情報から判明した宝石を元にCP9のような実働部隊が動く。原作において、CP9がW7に役職持ちになる程、何年も潜入していた事を考えれば、納得いくだろう。
あの件とて、可能ならば誰にも気づかれる事なく、必要な古代兵器の情報のみ入手して、バラバラにあの町を出て行くのが理想だった。まあ、この世界ではそもそも、そういう潜入話自体が立ち消えになっている訳だが。
さて、話を戻すが、これまで細々して地味な、けれど重要な情報分析や足を使った情報収集を行なっていたCP部隊が一気に1/4になった結果として、情報整理に支障を来たした。
実行部隊を削る訳にはいかないが、今のままではまともな活動が不可能。
そこで、とりあえずはCP部隊の再建をアスラは最優先とした。
五老星も、今の状態での活動が最悪の状態にある事は理解していたから、アスラが内心涙が出そうな気持ちで、センゴク元帥に暇そうだった黄猿や青キジも赤犬が引っ張ってきて、何とか纏めた再建案を了承した。
1年。
それで、前より劣るのは仕方ないが、とりあえず組織として動けるまでに持っていく。
その為には、余り手段を選んではいられなかった。
まず、逮捕された人員から、さすがに連続強姦犯や強盗殺人犯は無理だが、他の連中には減刑を条件に、これまでと同じような活動を行なわせた。CPへの復帰は叶わないが、これをきちんとこなせば、1年後には多少の報酬も得られるし、インペルダウン送りも免れる。後は普通の刑務所で何年か我慢すれば、社会復帰も叶う。
ただし、これを機に脱走した場合、或いは懲りずに罪を追加で犯した場合はDEAD ONLYの賞金首として手配され、即効で命を狙われる事になる。
早い話が、今のままなら死刑にならない面々をインペルダウン送りか、それとも協力するか選べ、とき脅した訳だ。逃げたり、問題起こしたりしたら、その罪も加算して死刑になるけど、1年頑張れば、その後が楽になる。そういう話だ。
この取引は五老星にすんなり承認され、一方捕まったCP隊員達の大多数はこの話を持ちかけられると、即効で話に乗った。
インペルダウンの恐怖は誰もが知っていたし、そこに何だかんだで理由つけて送られるぐらいなら、1年頑張ろう、という事だ。
こうして時間を稼いでいる間に、まだ育成途上だった人員らを鍛え上げていた。
前述の一時解放処置を受けた面々に強制的についていかせて、実地も受けさせる。ちなみに同行させられる囚人側は命令権はあるし、無事に連れて帰ってくればボーナスも出る。反面、全滅なんて事になったら大幅減給となっている。
だからといって、何もさせずに後方で待機させておくとかは許されていないので、結局は懸命に自分達のノウハウを叩き込むという事になっている。何しろ、1年経てばその後が楽になるとはいえ、世界政府の役人に復活出来る訳じゃないから、金は幾等あっても足りるという事はないからだ。
そうして、CP9もまた、一時その裏活動を停止して、各地にて教官役として派遣されていた。
ちなみに、もう1組、ジャブラ&ブルーノ&フクロウ組もまた、別の場所に派遣されている。こちらはジャブラが非常に熱心で、ブルーノも真面目な為、こちらより大分楽らしい。
カクとしては溜息をつきたい気分だ。
ジャブラが真面目且つ張り切っている原因は分かっている。そりゃあ、アスラ中将の命令に『よし、分かった、未来の義兄の為なら一肌脱ごうじゃないか!』と言い出せば、誰だって分かる。
ちなみに、カリファはCP9の本部で書類処理中だ。
なお、CP9が指揮下に入った事で、『生命帰還』を覚えられるかも、とアスラが一瞬考えて、どこをひっくり返してもそんな技を新たに取得する為の時間が取れない事に気付いて落ち込んだりしている。
(まあ、クマドリはああ見えて案外まともじゃから、大丈夫じゃろう。問題はむしろ……)
と、カクはちらりとつまらなそうにしているロブ・ルッチを見やる。
一応大丈夫だとは思う。政府から任命された「長官」の命令には従う男だし、前の長官と比べれば遥かに今の長官は色々な意味でマシでもある。
事実、中将はルッチと模擬戦を行なって勝ってもいる。
一応模擬戦となってはいるが、最後はルッチは『六王銃(ろくおうがん)』まで用いて、そして敗北した。
カクが見た所、おそらく純粋な六式の技術ではルッチの方が上だ。
だが、悪魔の実やそれ以外の技全てをひっくるめた戦いになれば、アスラ中将にルッチは三戦全てで完敗した。特に最後の試合では、ルッチが開始早々に間合いに入った瞬間に吹き飛ばされ、終わった。悪魔の実ではなく、純粋な武の力によって。
それ以後は、少なくともカクはロブ・ルッチがアスラ中将について不満を言うのは聞いた事がない。反抗はする心配はないだろう。
ただ……この男はそもそも『殺しが正当化される』という理由でCP9に在籍している男だ。
先だって、戦闘の後、アスラ中将から何やら言われた後、どうも口数が少ないが……。
(頼むから、未熟だからとかで殺したりせんでくれよ)
そう内心で思いつつ、何やら胃が痛くなりそうなカクだった。
一方ルッチはといえば……。
(……王下七武海か)
来年までの間に幾つかの部隊を使って、試験として調査を命じると言っていた。
実の所、原作でもルフィの船長としての姿勢はきちんと認めていた。
同様に、自分すら上回ったアスラ中将の事もきちんと認めている。無論、自分の六王銃(ろくおうがん)を防いだのは悪魔の実の力だろうが、それも含めて本当の実力だ。その辺は気にしていない。
そうして、その調査の中に、王下七武海もあるという。一応、他にもダンスパウダーなど禁制品の取り扱い調査や各国の内情(アラバスタ王国やドラム王国など)への潜入調査なども実地訓練の一環として行なうらしいが……。
その中で、将来的に『王下七武海と戦う可能性』をも密かに明かしてきた。
無論、あくまで可能性、戦わずに済めば、それにこした事はない、とも言っていたが……。
(あの様子では、確信しているな)
面白い、と思う。
世界三大勢力の一角、王下七武海と称される政府公認の海賊達。弱い相手を殺すのはもう飽きた。
強者と命をかけた戦いにこそ、心が躍る。
先だってのアスラ中将との戦いも破れはしたが、楽しかった。ただ、そうやって楽しむ為には、手足となって調査を行う人員が必要不可欠だ。
ぐるり、と周囲を見回す。
どいつもこいつも未熟だ。六式全てを使いこなせずとも六式使い以上に強くなれる実例を先だって目の当たりにしたが、あれはきっちりと使いこなせていたからだ。今いる人員はいずれも振り回されている状態だ。
だが、こんな連中でも枯れ木も山の賑わい、作業を行なう手駒にはなるだろう。その上で、足手まといになるならば、その時改めてどうするか考えればいい。
そう考えると、ルッチは笑みを浮かべながら、『とりあえず、仕事だ、行くぞ』そう、カクとクマドリに声を掛けると歩き出した。