東の海の革命軍7
「折角のお誘いですが、お断りします」
エースの言葉に、サムライはだが、笑顔のまま『そうか』とだけ答えた。
どうやら、ある程度予想はしていたようだ。
「その様子だと予想してたか」
サボの言葉に、隠すような事でもないとばかりに頷く。
「少なくとも、ベラベラと喋るような性質ではないと判断したのだがね?ただ、疑問に思ったのは、君達の行動だ。……王族貴族が雇うのに加わっていれば、金になっただろうに、何故参加しなかったのか、と思ってね?」
ああ、成る程、と頷いた。
確かに、疑問に思われても仕方ないだろう。実の所、暇な殆どの賞金稼ぎはあの募集に参加した。
当然だろう、普通は賞金稼ぎとてそんなに余裕はないから、金は欲しい。
しかも、雇い主は王国。権力で踏み倒される危険はないではないが、そこまで切羽詰っている王国ではない、いや、なかった。
「最初は何かしらの目的があるのかと思った。そう思って、誘いをかけてみたのだが……他の者と違って、君は受けてくれたからな、どう考えても一銭にもならないお願いを」
はっきり言ってしまえば、エース達が引き受けたのは、たしぎの事があったのと、懐の暖かさのお陰だ。
元々、エース達はその実力自体は海軍本部で鍛えられていただけあって、東の海の基準に措いては桁外れに強い。
つまり、普通の賞金稼ぎであれば、自分で勝てる相手かどうかをまず見極めねばならない。勝てるからといって、賞金のかかっていない相手を倒しても意味はない。
これに対して、エース達は基本、狙う相手をいちいち選ぶ必要が余りない。
賞金がかかっているかどうか、ほぼその程度だ。
さすがに、『首領(ドン)』クリークのような艦隊規模の戦力を有する相手では問題があるが……。
「次に考えたのは、何かしら目的があるのかと思った、この国に留まる事にね……仲間の為だけではなく」
たしぎが仲間である事は既に把握していたのだろう。
ただ、それ以外、例えば革命軍を探るといった動きがあるのでは……そう予測していた訳だ。
「だが、それもなかった、純粋に仲間の為に行動していたようだったからね……」
「そうだなあ……」
ちらり、とサボと互いに目を合わせる。
『言ってもいいか?』『構わないさ、隠してても仕方ない』そんな遣り取りを無言のままに交わすと、エースは口を開いた。
……………
「そうか、成る程、ゴア王国のな」
エースが語ったのは嘗てのゴア王国の記憶、『不確かなものの終着駅(グレイターミナル)』の最後の思い出。
無論、グレイターミナル自体はまたすぐ再生した。
あの国がゴミを捨て続ける限り、決してなくなる事はない。なかった。
サムライ自身にも思い出のある国だ。
あの時、ドラゴンの旗艦に乗っていた折に聞いた、ゴア王国の貴族の子供の話、『貴族に生まれた事が恥ずかしい』、にはショックを受け、また同時に嬉しくもあった。まだ、そんな貴族が残っていた事に。
そして、ドラゴンが炎を吹き飛ばした折に、空から舞い降りた人影。
海軍本部中将アスラ。
確かに、彼がゴア王国に滞在しているのは知っていたが、まさかあんな所に突如現れるとは予想だにしていなかった。
一戦交えるのも覚悟したが、少しばかりの会話の後、現れた時と同じように空へと舞い上がり、立ち去った。
後で、あれが海軍の使う武術、六式の1つ、月歩と呼ばれるものである事を知った。
無論、サムライは知らない。
目の前の相手こそが、その貴族の子供である事を。
目の前の相手が、アスラ中将に育てられた人間である事を。
知らぬままに、彼は1枚の紙切れを差し出した。
「こいつは?」
「連絡先だ。まあ、縁があったらそこに連絡してくれ。例えば、革命軍に入りたい、とかな?」
エースの、『いいのか?海軍に通報するかもしれないぜ?』との言葉にもサムライは動じなかった。
サムライが言うには、その連絡先自体は自分が何を受けているのかも知らない、一般人なのだという。
ただ単に、金で次へと『連絡があった』という事を伝える役なのだとか。
この辺はさすがに、革命軍も世界政府に敵対する側だけに徹底している。
複数の、お金を貰って仕事をする何でも屋的な人間に、『この番号で連絡があったら、この番号にそういう連絡があったという事を伝える』という仕事を依頼し、更にそこから複数の経路を通じて伝達を行なっている。
が、実際にはその全てを追跡していっても最後はただ、書類がまとめられているだけ、という意味のない場所へ導かれるようになっている。
細かい点はサムライ自身も知らないが、この辺も下手に情報が洩れないような仕掛けの1つであったりする。
「何か聞きたい事があれば、答えるが?まあ、答えられる範囲だがな」
その言葉に、ふと顔を上げた人間がいる。たしぎだ。
「……なら、1ついいですか?」
急に口を開いた事で、全員の視線が彼女に集中する。
「……革命軍は、本当にそこまでしないといけないんですか?今、世界は海賊さえいなければ平和だって思ったのに……力で政府を打倒しないといけないぐらいなんですか?」
その問いかけに、サムライ——ヘイゾーは顎を撫でる。
確かに、それは革命軍の原点だ。
顔を改め、ヘイゾーはその事——たしぎの問いについて語り始めた。
「折角のお誘いですが、お断りします」
エースの言葉に、サムライはだが、笑顔のまま『そうか』とだけ答えた。
どうやら、ある程度予想はしていたようだ。
「その様子だと予想してたか」
サボの言葉に、隠すような事でもないとばかりに頷く。
「少なくとも、ベラベラと喋るような性質ではないと判断したのだがね?ただ、疑問に思ったのは、君達の行動だ。……王族貴族が雇うのに加わっていれば、金になっただろうに、何故参加しなかったのか、と思ってね?」
ああ、成る程、と頷いた。
確かに、疑問に思われても仕方ないだろう。実の所、暇な殆どの賞金稼ぎはあの募集に参加した。
当然だろう、普通は賞金稼ぎとてそんなに余裕はないから、金は欲しい。
しかも、雇い主は王国。権力で踏み倒される危険はないではないが、そこまで切羽詰っている王国ではない、いや、なかった。
「最初は何かしらの目的があるのかと思った。そう思って、誘いをかけてみたのだが……他の者と違って、君は受けてくれたからな、どう考えても一銭にもならないお願いを」
はっきり言ってしまえば、エース達が引き受けたのは、たしぎの事があったのと、懐の暖かさのお陰だ。
元々、エース達はその実力自体は海軍本部で鍛えられていただけあって、東の海の基準に措いては桁外れに強い。
つまり、普通の賞金稼ぎであれば、自分で勝てる相手かどうかをまず見極めねばならない。勝てるからといって、賞金のかかっていない相手を倒しても意味はない。
これに対して、エース達は基本、狙う相手をいちいち選ぶ必要が余りない。
賞金がかかっているかどうか、ほぼその程度だ。
さすがに、『首領(ドン)』クリークのような艦隊規模の戦力を有する相手では問題があるが……。
「次に考えたのは、何かしら目的があるのかと思った、この国に留まる事にね……仲間の為だけではなく」
たしぎが仲間である事は既に把握していたのだろう。
ただ、それ以外、例えば革命軍を探るといった動きがあるのでは……そう予測していた訳だ。
「だが、それもなかった、純粋に仲間の為に行動していたようだったからね……」
「そうだなあ……」
ちらり、とサボと互いに目を合わせる。
『言ってもいいか?』『構わないさ、隠してても仕方ない』そんな遣り取りを無言のままに交わすと、エースは口を開いた。
……………
「そうか、成る程、ゴア王国のな」
エースが語ったのは嘗てのゴア王国の記憶、『不確かなものの終着駅(グレイターミナル)』の最後の思い出。
無論、グレイターミナル自体はまたすぐ再生した。
あの国がゴミを捨て続ける限り、決してなくなる事はない。なかった。
サムライ自身にも思い出のある国だ。
あの時、ドラゴンの旗艦に乗っていた折に聞いた、ゴア王国の貴族の子供の話、『貴族に生まれた事が恥ずかしい』、にはショックを受け、また同時に嬉しくもあった。まだ、そんな貴族が残っていた事に。
そして、ドラゴンが炎を吹き飛ばした折に、空から舞い降りた人影。
海軍本部中将アスラ。
確かに、彼がゴア王国に滞在しているのは知っていたが、まさかあんな所に突如現れるとは予想だにしていなかった。
一戦交えるのも覚悟したが、少しばかりの会話の後、現れた時と同じように空へと舞い上がり、立ち去った。
後で、あれが海軍の使う武術、六式の1つ、月歩と呼ばれるものである事を知った。
無論、サムライは知らない。
目の前の相手こそが、その貴族の子供である事を。
目の前の相手が、アスラ中将に育てられた人間である事を。
知らぬままに、彼は1枚の紙切れを差し出した。
「こいつは?」
「連絡先だ。まあ、縁があったらそこに連絡してくれ。例えば、革命軍に入りたい、とかな?」
エースの、『いいのか?海軍に通報するかもしれないぜ?』との言葉にもサムライは動じなかった。
サムライが言うには、その連絡先自体は自分が何を受けているのかも知らない、一般人なのだという。
ただ単に、金で次へと『連絡があった』という事を伝える役なのだとか。
この辺はさすがに、革命軍も世界政府に敵対する側だけに徹底している。
複数の、お金を貰って仕事をする何でも屋的な人間に、『この番号で連絡があったら、この番号にそういう連絡があったという事を伝える』という仕事を依頼し、更にそこから複数の経路を通じて伝達を行なっている。
が、実際にはその全てを追跡していっても最後はただ、書類がまとめられているだけ、という意味のない場所へ導かれるようになっている。
細かい点はサムライ自身も知らないが、この辺も下手に情報が洩れないような仕掛けの1つであったりする。
「何か聞きたい事があれば、答えるが?まあ、答えられる範囲だがな」
その言葉に、ふと顔を上げた人間がいる。たしぎだ。
「……なら、1ついいですか?」
急に口を開いた事で、全員の視線が彼女に集中する。
「……革命軍は、本当にそこまでしないといけないんですか?今、世界は海賊さえいなければ平和だって思ったのに……力で政府を打倒しないといけないぐらいなんですか?」
その問いかけに、サムライ——ヘイゾーは顎を撫でる。
確かに、それは革命軍の原点だ。
顔を改め、ヘイゾーはその事——たしぎの問いについて語り始めた。