モーガン討伐記1
「ああ、元気でな」
海軍本部でモーガン本部大尉がスモーカー准将に対して一礼していた。
アスラも結構相手をしてやっていたのだが……さすがに大尉の見送りに来れるような立場ではない。そもそも、幾ら縁があったといえ、准将が見送りに来た事自体がかなりの例外なのだ。
モーガンがこの島に来た頃はどこか歪んだ気配を漂わせる男だった。
だが、アスラがキャプテン・クロ逮捕時があまりに曖昧である事から詳しく調べるよう指示を出した事から彼の状況は変わった。
幾ら聞いても、余りに漠然としたイメージしか湧かない為、催眠術も用いての調査が行われた。何しろ海軍は巨大組織であり、後ろには世界政府があり、アスラが動いた以上CPという伝手もある。催眠術が使える者もいた。
モーガンとしても自分の出世がこのままでは……と焦っていた為に同意したのだが……その結果、何かしらの暗示がかけられているようだ、という事が判明した。
そうして、その暗示を解くべく治療が行なわれ……ある日突然それは解けた。
解けた時、モーガンは……慟哭した。
本来、モーガンは仲間思いの真面目な海兵である。原作ではそれが歪められていた訳だが……思い出した時、彼は無残に殺された仲間達の姿を、その中に立つクロ達の姿を思い出したのだ。
……自分がクロを捕らえてなどいない事も。
全てを伝え、今もどこかに潜んでいるであろうクロの逮捕に向かいたいと東の海へと戻る事を願ったモーガンに、当初は海軍もそのまま行かせても、という雰囲気だったが、アスラがストップをかけた。
当人曰く『モーガンの事件のお陰で、海軍の改革の端緒がついた。これも何かの縁だ』との話だったが、とにかく、キャプテン・クロと戦えるだけの実力をつけるべきだ、と伝えたのだ。
モーガンも確かに今のままでは返り討ち、と納得し、海軍で鍛えた。
その姿は鬼気迫るもので、鍛え実戦に出撃し、また鍛えて……。
1度ならず、重傷を負った事もあったが、それでも鍛錬を止めようとはしなかった。
特に彼が熱心に取得したのは六式の中でも2つ、【剃】と【鉄塊】だった。クロの速度と攻撃に耐えるにはこれがいい、とばかりに励んだ成果があり、修得した事とそれなりの実力がついたと看做された故に、ほぼ1年後の現在、アスラ感覚で原作の2年前弱となった今、こうして再び東の海へと戻る事になったのだ。
「息子さんの事はいいのか?」
「あいつはここでこのまま鍛えてやって下さい」
原作と異なり、ヘルメッポは今では真面目に鍛えている。
何しろ、原作では父親は町の絶対的な権力者だったが、マリンフォードでは一介の尉官。
遊び呆けようにも父親は真面目に仕事中。
ふざけようにもちょっと周囲を見れば偉い海軍軍人がゴロゴロしている有様。
こんな状況では自然と態度も改めざるをえない。
元々、ヘルメッポも原作で素直に『自分が間違っていた』と頭を下げる事が出来たように、その後の彼を見れば分かるように真面目な頃のモーガンの血が流れている。
今では海軍に入って、下から上を目指して鍛えている。
「とりあえずお前さんの立場だが、本部直属の巡察官っていう立場になる。どこかの支部に配属って訳じゃなく、小型の艦船であちらこちらへ移動して手伝いと監査って立場だな」
「はい。ありがとうございます」
モーガンにとってもその方がありがたい。
キャプテン・クロはどこに潜んでいるか分からないからだ。
どうやら、クロ自身は一味を離れているらしい。
最近手配書で確認したが、クロの右腕と言われたジャンゴが海賊団の長となっている。
まず、狙うはそこだろう。
ジャンゴは『あの時』も間違いなく、クロの傍にいた。あの後、どうなったのか、何故クロが捕まったという事になっているのかについても知っているはずだ。
……とはいえ、そうすぐに狙った海賊に会えるはずもない。
東の海で出会った最初の海賊はこちらが小型の海軍艦艇と見るや、逆に攻撃をかけてきたのだが……。
「……こんなものか」
あまりの呆気なさに逆に拍子抜けしてしまう。
以前の自分なら苦戦していた。
『金棒』のアルビダ。
懸賞金額400万ベリー。
力自慢の猛女だったが……この程度の力の持ち主ならば、マリンフォードにはゴロゴロしていた。何しろ、ガープ中将など船より巨大な鉄球をぶん投げてくるような真似までするのだ。
おまけに、それに他の面々も平然と対処するし……。
そんな中で生活していれば、ごつい金棒を振り回してくるぐらいなんだというのか。1年程ではあったが、自分が恐ろしく濃密な日々を送っていた事に、グランドラインの常識がどれだけ東の海とかけ離れているかを実感したモーガンだった。
彼の役割上、海兵もグランドラインの海兵達だ。
この程度の弱小海賊団にやられるほど弱くはない。
「モーガン大尉!」
「なんだ?」
「は、捕らえた海賊の1人なのですが、その相手が」
「あっ、あの!」
話している時、誰かが後方から声を掛けてきた。
見ると、海兵に抑えられながら少年が声を上げている。
「僕を……海兵にしてください!」
ちなみに、アルビダの懸賞金が400万と100万安いのは、原作からまだ2年弱時間があるからです
その間捕まってないんだから、多少は上がるだろうと