モーガン討伐記2
「そうか、そうすると、あの少年は間違って乗船した、と?」
「はい、海軍入隊を目指して船に乗り込んだのはいいものの、間違えて海賊船に乗り込んでしまい、航海士兼雑用係として使われだした、という所だったようです。生き残っていた海賊達からも確認しました」
ふむ、とモーガンは鋼の顎に手をやって考える。
どうやら、嘘ではないようだ。
それに、乗り込んで間もないという事はまだ罪も犯していない。それなら、海兵になりたいというのならば採用してもいいだろう。
「ふむ、そういう事ならば取りあえずは見習いという形で採用しよう。正式な採用は俺から上へ確認を取る……ああ、それで少年の名前は何だ?」
「コビーだそうです」
コビーの朝は早い。
といっても、別にそれは問題ない。アルビダの船では1人早起きして、あれをしろこれをしろ、で扱き使われていたが、海軍の船では単純に夜番と交代して、仕事を始めるだけだからだ。
とはいえ、コビーに今出来る事など限られている。
確かに勉強していた事もあり、航海士の真似事も出来るが、本職のそれとは比べ物にならない。
なので、今は他の面々に混じって掃除だ。
そんなコビーの動きを確認しながら、モーガンは考えていた。
昨晩、本部に電伝虫で連絡を入れた際、申し訳ないと思いつつも上へと伺いを立て、スモーカーが対応してくれたお陰で、アスラ中将へと連絡が行き、あっという間に片がついた。
まだ犯罪に関わっていないのならば、問題はない、という事だった。
ただ、問題はコビーの動きだ。
勉強はしていたようだが、体の鍛え方が明らかに足りない。
将来的には、マリンフォードへ送った方がいいだろう。ヘルメッポと同じぐらいの年だ。互いに切磋琢磨する間柄となってくれれば、そう思う。
ただ、その為には向こうでの訓練に耐えられる体を作っておかねば……。
かくして、この日からコビーの地獄とも言うべき鍛錬の日々が始まる事になる。
何しろ、周囲にいるのは全員グランドラインの海兵達だ。
基本となるレベルが今のコビーには高すぎる。
ただ、海兵達がそれでもコビーに感心したのは、確かにコビーは下手だし、体力が全然出来ていない。
だが、諦めなかった。
時間はかかっても、体力が限界に達しようとも、皆と同じ訓練の課題をこなし続けた。
そんな日々を送り続ければ、次第に体も出来てくる。
ただし、そうなるとコビー自身への鍛錬も次第に本来の海兵の鍛錬に近づけていっている為に、なかなか当人には成長しているという実感はなかったのだが……。
さて、コビーがそうやって訓練を続けている一方で、モーガンは仕事をしている。
何時もコビー1人の相手をしている訳にはいかないからだ。
「ふむ……」
ジャンゴ海賊団の航路を計測していると不思議な事に気付く。
海賊には縄張りとでも呼ぶべきものがある。
ある意味当然の話で、互いに好き勝手に荒らしていては、海賊同士の潰し合いになってしまう。海賊行為を行なうのはあくまで利益を得る為なのだから、ある程度は住み分けが必要だ。
当然、ジャンゴ海賊団にもそれはあるのだが、彼らが荒らしていない場所がある。
1つはある意味当然の場所だ。
母港としている港町であり、そこでは海賊も大人しくする。そこで暴れた場合には、他ならぬ同じ船の海賊達からの処罰を受ける。これは仕方のない話で、どんな海賊であろうとも母港がなくては立ち枯れるしかない。
食料や水は略奪でどうにかなっても、船の修理はそれなりの施設が必要だし、時間もかかる。
しかも、修理や整備を行なっている間は海に出れない。
そんな所を海軍に通報されでもしたら、お仕舞いだ。かくして、母港では海賊は大人しくなり、それどころか他の海賊が襲撃をかけでもしたら、住民と協力して守る事さえする。
港町としても、ちゃんと(少なくとも彼らの町では)法を守ってくれて、お金を落としてくれるならお客様だし、下手に海軍に知らせたりして追い詰めるなりして暴れたりされても困るので、結局正体を知りながら見て見ぬ振りが横行する訳だ。
さて、話を戻すが、ジャンゴ海賊団は母港以外にその縄張りに裕福な町や村を幾つか含んでいる。
だが、その中で母港でもないのに全く襲撃を受けていない村があった。
「シロップ村……」
確認すると、この島には資産家の家族が住んでいるらしい。
だが、この村への襲撃は1度もない。
そう、1度も、だ。ジャンゴ海賊団の縄張りへの侵入で、別の海賊がこの島を狙った時にはジャンゴ海賊団が撃退したという話もある。いや、無論、海賊が自分の縄張りを守るのは当たり前なのだが……。
ステルスの実験船で面白い話がある。
余りに優れたステルス性を持っていた為に、波でレーダー波が反射して白く表示されている海の中に船の形が黒く、くっきりと映し出されていたという笑い話だ。
同様に、正にシロップ村は襲撃を受けていないが故に、モーガン大尉の目を惹きつけていた。
「……気になるな、1度確認してみるか」