突き抜ける拳の奇行文。
ちょっと寄り道4回目。
ゲーム開始から1週間が経った。
「豪殺居合い拳・弐之拳———!!」
「ヴィヴィオさん。
すり抜けると分かってはいるんですが、俺を間に置いて敵に攻撃しないで下さい。
漏らします」
「狐パパなら大丈夫!
リアルHPが減らないから!
……ん?
狐パパ、なんかLAST ATTACKって文字が出たんだけど」
「敵に止めさしたからじゃね。
どうなった?」
「アイテムゲッツした。
コート・オブ・ミッドナイトだって」
「漆黒のコートか。
中二臭いな。
雑魚モンスターでもそういうの落とすのか。
着てみれば?」
「拒否」
俺達は着実にレベルをあげ、来るべきフロアボス戦に向けて準備を進める。
「お稲荷さん。
すごい大きな扉があったんだけど、中に階段しか無かったよ」
「ダミー部屋多すぎでしょ。
普通こういう大仰とした場所にはボスがいるものだろうに。
どこまで進めばフロアボスがいるんだ」
冒険は、決して楽しいことばかりではなく、辛いことも勿論あった。
「おーいヴィヴィオ。
なのはさん。
その他2人よ。
今夜は龍鍋だ」
「ピ——————!!!」
「……あの、稲荷さん。
その子龍みたいなのはどうしたんですか?」
「木の上で寝てたから捕まえてみた。
ドラゴンって食えるのかな?」
「食べないで下さい!
ほら、もう大丈夫だよ?
こわーい狐さんから守ってあげるからね?」
「シリカがわっちのタンパク質を……」
「…………」
「分かったから、その光のない目で見ないで下さい。
怖いです」
だが、それを乗り越えて俺達の絆はより深いものになっていき。
「稲荷さん。
稲荷さんって武器作れるんですよね?」
「どうしたアスナ、藪から棒に。
作れるぞ。
毛を犠牲にな」
「私のもお願いしていいですか?
少し細身の剣で、耐久力と攻撃力が高くて、色は青い方がいいです。
持ち手は私の手に合うくらいの太さで。
あ、鞘もあった方がいいかな……」
「希望が多すぎる上に鞘もとな。
わっちの尻尾の毛を何と心得る」
「お礼はなのはさん特製のお揚げで」
「犬と呼んでください」
「犬」
「わん」
そして今日、遂に街の広場で。
俺達も見つけることの出来なかったフロアボス討伐の作戦会議が行われる。
「はーい、それじゃあそろそろ始めさせてもらいまーす!」
大学の大講義室の席を全て石にしたような円状の広場。
その中央で、青髪のおにーさんが声を張り上げた。
みんな手鏡でリアルの姿に戻ったーって言ってたけど、青髪か。
あいつも多分ミッド出身。
そんな彼は茶化し始める周囲を静かにさせ、最初のおちゃらけた喋り方をやめ。
真剣な声色で話し始めた。
「今日、俺達のパーティーが、あの塔でボスの部屋を発見した!」
周囲がざわめく。
俺達も凄いと思っていた。
1週間、毎日ダンジョンに篭って結構色々と動き回った筈なのに。
そんな俺達でさえ見つけれなかったボスを見つけたというのだ。
「恐らく、最初の階層という事で敵の配置も甘く設定されていたのだろう。
攻略は順調に行われた。
それでも、フロアの広さ故に1週間という時間がかかってしまったが。
……いいか皆。
俺達はボスを倒し、第2層に到達して、このデス・ゲームもどきを終わらせる事が出来ることを、始まりの街で待っている人達に伝えなくちゃならない!」
もどき。
「その為に、これからボス攻略会議を始めたいと思う。
まずは、6人のパーティーを組んでみてくれ」
ふと、俺の周りにいる人を見てみる。
なのはさん。
ヴィヴィオ。
シリカ。
アスナ。
後……
「シリカになついて着いてきたあの子龍、なんて名前だっけ。
フリードだっけか」
「ピナです!
そんな車みたいな名前つけません!」
「お前ゲームクリアしたらキャロに謝れ。
後、ピナは人数に数えていいんかな」
「お稲荷さん……
可哀想に、そこまで頭逝っちゃったんだね。
大丈夫、優しく教えてあげるから。
龍はね、匹って数えるんだよ?」
何だろう、この果てしないデジャヴ感。
「となると後1人か」
周りの人達はもうパーティーを組んでいるようで。
誰か溢れている人でも居ないかと、振り返ってみる。
すると、1人ポツンと石段に座り、オロオロしている少年が。
「ヴィヴィオ、確保————!!」
「ガッテン!!」
瞬動にて少年の横に移動するヴィヴィオ。
そのまま背後に回り込み羽交い絞め。
しかし少年は驚いて立ち上がる。
結果、ヴィヴィオは小さいし軽いのでおんぶされてるみたいになった。
「むあー!
狐パパ、ヴィヴィオにはこんな弱点があったのかー!!」
「あ、この間の幼女」
「誰が幼女だ小僧」
「お前いくつよ」
「推定0歳」
「幼女じゃん」
「クソォォォォオオオ!!」
ヴィヴィオが少年に言い負かされている。
珍しい。
まぁ、珍しいんだけど放置すると進まないので俺も少年のもとへ。
「やぁ、うちのヴィヴィオが失礼をば」
「思いっきりあんたの指示だったように思うけどな、稲荷」
ん?
俺を知ってるか。
誰だっけ。
「……あぁ、大串君?
久しぶりー、何あの金魚またでかくなってんの?」
「誰が大串君だ!!
キリトだ、キリト!!
草原でクラインと一緒に喋っただろう!?」
「……いた」
「思い出してないだろ、稲荷」
いやほら。
よくあるじゃん。
向こうは知ってるけど、こっちは知らないから適当に合わせるやつ。
あれだよあれ。
「まぁいいや。
キリト。
ぼっちなら一緒にパーティーしよう。
このままだと男性比率がすごいことになる。
パーティー名が『女傑族』になっちゃう」
もしくは機動六課アインクラッド出張所。
「ぼっちならって……
でも、パーティーは正直有難い。
ボスは1人じゃ倒せないし、何より顔見知りがいると心強い」
よし、6人目ゲット。
そのままキリトを連れてなのはさん達の所まで戻り、キリトを紹介。
みんなはキリトを歓迎し、アスナは記念にとあの漆黒のローブをキリトにプレゼントした。
中二臭いから誰も着なかったし、押し付けられたアスナも処分に困ってたからな。
ていのいい厄介払いだろう。
「すげ、カッコイイ……!」
キリトくんは中二病だったようだ。
「……よーし、そろそろ組み終わったかな?」
しばらく静観していた青髪の彼が、再び声を上げる。
「じゃあ……」
「ちょお、待ってんか!」
会議を再開しようとした青髪の彼の声に被せて、後方より別の声が聞こえた。
何事かとみんなして振り向くと、頭がトゲトゲのおっさんが1人。
どうやってセットしたのか、そこが謎である。
よっ、ほっ、という声と共に1段1段飛び跳ねながら降りてきて、広場中央へと躍り出た。
そのまま振り向き、口を開く。
「ワイはキバオウってもんや。
ボスと戦う前に、言わせてもらいたい事がある!」
曰く、このソードアート・オンラインにはベータテスターがいて。
その人達は、他のビギナーよりも多く情報を持っている筈なのに、それをビギナーに伝えず自分達だけでいい思いをした。
結果何も知らないまま始めたビギナーは、たった1週間という短い時間で2000人余りがこのアインクラッドに帰らぬ人となった。
そのベータテスター達に今まで貯めた装備・金銭を提供させ。
詫びを入れさせないと、パーティーメンバーとして命を預ける訳にはいかないし、預かれないと。
「……預けたくは無いかな」
「あぁん?」
声を発したのは我らがなのはさん。
何か思うところがあったのだろうか。
とりあえず、顔は笑っているが眼は笑っていないので。
パーティーメンバーには、触らぬ神に祟りなし、と視線で合図。
全員が勢い良く首を縦に振る。
「情報は力。
これはどこの世界でも同じだよね。
教えることが出来なかった?
聞けばいいでしょ。
この世界での命がかかってるんだから、そのくらい慎重になるのは戦いに身を置く人として常識。
仮に聞かなくても、システムアシストとか何とか、色々サポートしてもらってるんだからさ。
それこそボスに挑まず、数人で協力してやれば安全に・確実に・無事に戦闘を終わらす事が出来るはずだよ。
どんな敵が危険で、自分の実力ならどこまで行けるのか。
戦いに行くのなら、そう言った情報を集めるのは基本中の基本だよ。
それをしないまま、無茶な戦闘をして死んじゃったのは自己責任ってやつかな。
そんな人達を全員救いたいと思うなら、こんな所に居るんじゃなくてもっと初心者がいっぱいいる場所に自分が行って、教導でもするべきだと思うよ」
「……じゃあ何か?
ベータテスターはそのままにしておけと?
お咎めなしと言いたいんかあんたは!!」
「……はぁ。
じゃあ聞くけどマキバオーさん」
「誰がマキバオーや!?
キバオウやキバオウ!!」
「ベータテスターの装備・金銭の分配をしないと命を預けられないって言ってたけど。
じゃあ、装備とかを分配しました。
結果、その人は他の人と同等、もしくはそれ以下の力しか持たなくなりました。
死ぬ危険性が上がった人に、命を預けることなんてできる?」
「なっ……
それは、他のプレイヤーの底上げに繋がれば全員の生存率も上がるってもんやろ!!」
「何で?
ベータテスターが、それこそこのゲームをプレイしてる人の過半数もいるのなら話は分かるよ。
でも、例えば一般プレイヤー10人に対し1人程度だったら?
100人に1人だったら?
攻略の仕方を一般プレイヤーより分かっていると言っても、たかだか1週間。
その間に、戦闘に関わる一般プレイヤーの戦闘力底上げに関われる程、いい武具を数多く持っているのかな?」
「ぐっ……!」
ちょんちょんと、横から脇腹をつつかれる感覚があったので視線を向けると。
そこには困った表情のキリト君。
そっとなのはさんを指差し一言。
「なぁ稲荷。
前に戦闘してる所を見たときも思ったんだけどさ。
なのはさんって何者?」
「現役の軍人で、教導官やってる」
「わーお……」
休暇中だけどね。
今では堕落の軍人。
……で、いいんだよな?
「マキバオーさんがやってるのは、ただ単に個人的な妬み。
そしてこれから集団行動をしようとする人達に対する妨害・迷惑行為。
他の人の為っていうのを建前にした、ただそれだけの事だよ」
「い、言わせておけば……!!
調子乗ってんやないぞ!!」
「感情論で隊を動かすなんて一番やってはならない行為。
反論があるなら納得できる理由と共に発言をお願いします」
隊とか言っちゃったよ。
教官モードの入ったなのはさんは怖いです。
「稲荷さん、なのはさんって怒ると怖いんですね」
「シリカ。
あれはまだ怒り度数45%だ。
70%を超えると前見た砲撃が出始める。
MAXでスターライトブレイカー」
「は、破壊の星の光ですか……凄そうですね」
「撃てばこのアインクラッドが一撃で崩壊するか、最上階まで貫通する」
「え」
さてさて。
この騒ぎ、どう納めたものか。
「……発言いいか」
皆が静まり返る中。
立ち上がる1人のハゲの巨漢。
若干離れてる為よく聞こえなかったが、名前はエネルというらしい。
きっと悪魔の実に憧れた人なんだろう。
背中に連なったちっちゃい太鼓を幻視する。
彼は1冊の本を取り出すと、マキバオーに見せた。
曰く、ソードアート・オンラインのガイドブック。
ベータテスター達が作成し、無料配布していたものらしい。
「キリト、あのガイドブックは持っているか?」
「あぁ……まさかこれ、ベータテスター達が作成していたなんて……」
「アスナ、シリカ、ヴィヴィオ。
知ってたか?」
「えっと、稲荷さん。
どっちの意味で、でしょうか……?」
「アスナ、愚問だ。
存在を、だ」
「ヴィヴィオは知らなーい」
「私も知りません……
というか、道具屋に行きましたっけ?
食料品店にはピナのご飯を買いによく行きましたけど……」
行ってなかったっけ。
キリトくんの視線が痛いです。
「しかしエネルはいい事言った。
もうゴムの存在知らないからって馬鹿にできないな。
後で貰いに行ってこよう」
「……稲荷、エネルって誰だ」
「あのハゲた人。
笑い声は『ヤハハハハハ!』である事に期待」
「あいつ……エギルって名乗ってたぞ?」
わっちの期待を返せ。
「いいか皆。
さっきこのお嬢さんが言ったように、情報は誰にでも手に入れることが出来た。
なのに沢山のプレイヤーが死んだ。
その失敗を踏まえて、俺達はどうボスに挑むべきなのか。
それがこの場で論議されると、俺は思っていたんだがな」
そう言うと、エギルはマキバオーを軽く睨みつける。
こちらでは、なのはさんが笑ってない目で笑顔を浮かべながら、マキバオーを見ている。
どっちが原因か知らないが、タジタジになったマキバオーは不機嫌顔になりながら席に戻り、どっかりと腰を下ろした。
続いてエギルもその隣に座る。
キリトくんがこっちもどうにかしろという視線を送ってくるので、なのはさんの頭を撫でてみた。
表情を崩して、にへーって言ってきた。
それは表情を文字にしたものであって、実際に口にする言葉じゃありません。
「……よし、再開していいかな。
先程話に上がったガイドブックだが、最新版が配布された。
それによるボスの情報だが。
ボスの名前は、イルファング・ザ・コボルトロード。
それと、ルインコボルト・センチネルという取り巻きがいる」
……あれ。
「狐パパ……」
「あぁ。
やっちまったかもしれん」
「ヴィヴィオは悪くない!」
「悪くはないが、お前のせいだ。
やったね、ここでは大体ヴィヴィオのせいになるぞ」
「……稲荷、ヴィヴィオ。
何の話をしてるんだ?」
いや実はさ。
その漆黒のコートが出たとき、システムメッセージでうんたらかんたらコボルトロードの撃破~ってメッセージがあったのだが。
ヴィヴィオ無双してたし、敵も密集してた時にこの子がはっちゃけたもんだから。
その集団のリーダー格をやっつけたのかと。
「まさかフロアボスだったとはにゃー」
「若干、おかしいとは思ったんです。
ピナみたいなモンスターが、第1層にいるとは思えませんもん」
シリカが、膝の上で寝ているピナを優しく撫でる。
「なんでだろう。
爬虫類相手なのに負けた気分になる」
「やってあげようか、お稲荷さん?」
「……やってもらって、ピナにどーだ!って表情したらそれはそれで負けな気がする。
色んな意味で」
「じゃあヴィヴィオがやってあげるー!」
犯罪スレスレな気がするのはわっちだけでしょうか。
「しかし……姿も見ない彼がフロアボスだったのなら、俺達は何層まで上がってたんだろうか。
同じ様な階段を何回か上がったよな?
というかヴィヴィオ。
お前は知らない間にどんだけボスを葬っていたんだ」
「そもそもどれがボスだったのかも分からない件について」
間違いない。
「あー、そういや数えてなかったね。
全部1層だと思ってたから」
「俺、このパーティーでやっていけるんだろうか……」
俺とヴィヴィオの問答となのはさんの呟きに、キリトが頭を抱える。
アスナはそれの介抱をし、ヴィヴィオは今度はシリカと談笑。
うん、やってけるんじゃね?
「キリトくん。
稲荷さん達と一緒にパーティーをしてきた私から、1つアドバイスね?」
「……?」
「『深く考えちゃだめ』
そのうち分かるけど、大体稲荷さんのせいだから。
何かやらかしても、凄いねーで留めておかないと。
胃に、穴が、あくよ」
「う、うん……え?」
異議あり。
「今回はわっちは何もしておりません!」
「ヴィヴィオちゃんを育てたのは?」
「ワシです」
「ほら」
……あるぇー?
「そういや稲荷さん」
「どうしたシリカ」
「以前、なのはさんの砲撃を受けた時に痛がってましたよね?」
「アレを食らって無痛だったら神経全損じゃなかろうか」
「いえ、このソードアート・オンラインにはペインアブソーバー?とかいうシステムがあるんです。
簡単に言うと、切られたり叩かれたりしても違和感を感じるだけで、はっきりと痛いって感じる事がないようにするシステムです」
「現実世界で受けた時と同じ痛みなんですが」
「むしろ何で生きてるんですか?」
「一応非殺傷設定という設定だから。
ホントかどうかは分からん。
痛みについては……
教えてスカえもん!」
『スカえもーん!
ジャイアンのね、砲撃が痛いんだ!』
そーしん。
着信。
『それはだね稲太くん。
そっちの方が面白いから、私がペインアブソーバーを切ったのだよ!』
「なるほどなるほど。
シリカ、痛くないだろうから俺に攻撃が向けられたら盾になってくれ」
「断固拒否です。
そもそもそんな超反応、私には出来ません!」
「何、こうやって俺がシリカを後ろから抱き締めるから。
後はされるがままに……」
「なるほど。
……あ、稲荷さん!!
そんな、大胆な!!」
「いきなり大声出して何を口走ってるんですか貴女は。
……はっ、殺気。
謀ったなシリカ!」
「てへ」
お久しぶりです、アメフラシです。
ちょっと前話からの間が空いてしまい申し訳ありません。
随分前に書き上がってはいたのですが、投稿出来なかった唯一の原因。
なのはさんです。
正確にはなのはさんのセリフ回しですが。
不肖アメフラシ、色々と語らせましたが軍隊なんて分かりません。
波に流されるまま紫汁を出しているだけなので、戦う軟体生物の心構えとかも微妙です。
なので1週間程、他の作家様の小説を読みあさり。
説教をするシーンを斜め読みし。
その後、推敲を重ねてこうなりました。
知識不足はこういう時の大敵です。
焼酎を持ったヴィヴィオレベルで危険です。
後はグダろう。
特に今回は、アメフラシにしては珍しくシリアス回。
もうゴールしてもいいよね。
そんな事を考えつつ、今日もどこかの海から投稿しました。
次回ものんびり進行中。
みなさんも一緒にアメフラシになって待ちませう。
「はーいお稲荷さん、寄り道4回目ね?」
「これは罠だ!」
「そうだね、だから2人とも罰ゲーム!」
「2人?」
「じゃあお稲荷さん、これ食べて」
「……このアメフラシはどうしたんでせう?」
「海で採ってきた。
口移しの前にまずはコレでお仕置き!」
「紫汁滴ってるから。
ヤメテ!」
「断固拒否ー!」
アッーーーーーーーー!!!