光迸るアインクラッド奇行文。
ちょっと寄り道3回目。
「……せ!」
青い光に包まれて、やってきましたスタート地点。
ログインした時最初にいた広場。
先程の鐘は、この広場中央の時計台のモノだったようだ。
同じ場所にいた俺とヴィヴィオは同時に転送。
何事かと周りを見回していたら、数秒遅れてなのはさんが転送されてきた。
しかし、出現したその瞬間大声で何やら1文字叫び、キャルーンという擬音がつきそうなポーズを取っていたものだから周りの視線が痛い痛い。
ヴィヴィオを連れ立って、無関係を装う事にした。
「あ、あの、待って、お稲荷さん……」
予想外の出来事とはいえ、流石に恥ずかしかったのか。
スルーを決め込んだ俺の服を、顔を赤らめてちょんと摘んでくる。
「いいんだ、なのはさんは魔法少女だもんな。
そのくらい少女な心がなければ、20歳付近で魔法少女なんて出来ないよな。
でもそういうのは、自分の部屋だけで留めておくべきだと思うんだ」
「本気で泣くよ!?」
大丈夫、鮮烈な時代の高町さんより数歳若いんだから。
イケルイケル。
なんて棒読みで言ってたら、後ろに回られて尻尾の付け根をフンッ!って握られた。
ハンッって声が出た。
この感覚、久々である。
「狐パパ、尻尾って握られると痛いの?」
「いや、こう……力が入らなくなる感じ。
股間のメルヘンボックスを握られるのとはまた違う危うさ」
何てことを話していたら、さっきなのはさんが現れた時よりも多くの視線が。
どうやら、俺達の会話でみんなの注目を集めてしまったようである。
「見ろ、こんな緊急事態なのに大人しくしてないから。
皆さんこっちを見ちゃってるじゃないか」
「周りの言葉をよく聞いてお稲荷さん。
ほぼ全員が『尻尾……』『おい、なんだあの尻尾』って言ってるから」
「狐パパの耳はどこの世界でもスルー」
黙らっしゃい。
「ん?
お稲荷さん、あれ何だろう?」
なのはさんが何かを見つけたのか、空を指差す。
そこには、赤い六角形の中に『WARNING』の文字が描かれた変な模様が。
空中に、1つだけ異様な雰囲気を醸しつつ点滅していた。
その模様は、数回点滅を繰り返した後。
広場をすっぽり覆う形に増殖し。
俺達の見上げる空を、瞬く間に赤く染め上げる。
「……狐パパ、何してるの?」
「いや、油揚げ帝国の入口を探してて」
「少なくとも、お稲荷さんが今自作した壺の中には無いと思う。
だから出てきなさい!
ホラーじゃないから!
多分」
多分はヤメテ。
壺の中から顔だけ出して恐る恐る空を見上げる。
すると今度は、空を覆っているいくつもの六角形同士が繋がる隙間から。
血液のような物が大量に流れてきて。
その液体は、空中で1箇所に集まると、顔のない巨大なローブの化物へと姿を変えた。
「やはり、やはり油揚げ帝国への入口はここにあったのだ————!!」
「あ、なのはママ。
狐パパが壺の中に戻っちゃった。
中で逆さになってるのかな、尻尾だけ外に出てて変な物体に……」
「蓋しとこっか」
勘弁してつかぁさい。
てか、あの巨人は何者か。
再び壺から顔だけ出して見上げる。
「ゲームマスター?」
「何で顔が無いの?」
「何のイベント?」
周りの人達もざわめき出す。
ふむ、そうか。
「なのはさん、ヴィヴィオ。
俺が思うに、あれはきっとゲームマスターだ」
「他人の発言を自分の発言のように言うのはどうかと思うよ?」
俺の最大の見せ場終了のお知らせ。
「もうわっちに分かることは何もにぃ。
壺に帰る」
「気に入ったの? それ」
そこはかとなく。
『プレイヤーの諸君。
私の世界へ、ようこそ』
黙って佇んでいたローブの巨人。
そいつが突然腕を広げ、語り始めた。
ざわついていたプレイヤーは皆、その口を閉ざして空を見上げている。
『私の名前は茅場晶彦。
今やこの世界をコントロールできる、唯一の人間だ』
「誰だ」
周囲の人達が、今まで見たことのない視線を向けてきた。
知らなきゃいけない事だったらしい。
『プレイヤー諸君は、既にメインメニューからログアウトボタンが消滅している事に気付いていると思う。
しかし、これはゲームの不具合ではない。
繰り返す。
不具合ではなく、ソードアート・オンライン本来の仕様である』
このスカリエッティコールは不具合だと思う。
『諸君は自発的にログアウトする事は出来ない。
また、外部の人間の手によるナーヴギアの停止、あるいは解除も有り得ない。
もしそれが試みられた場合、ナーヴギアの信号阻止が発する高出力マイクロウェーブが、諸君らの脳を焼き、生命活動を停止させる』
うん、よく分からん。
信号阻止って、マイクロウェーブってなんだ。
文系なめんな。
スカリエッティコールという名前だから、多分スカさんに繋がる通信だと予想。
みんなの味方、スカえもん。
状況を説明してくれ。
あの人、言うまでもなく理系だから。
ポチッと、メインメニューの設定画面にある1番下のボタンを押した。
「お、お稲荷さん……これ、大変な事態になってるんじゃ……」
俺がそんな事をしている横で。
状況を理解できたなのはさんが、不安気に聞いてくる。
『残念ながら、現時点でプレイヤーの家族・友人などが警告を無視し……』
ローブの巨人がそこまで発言したところで。
彼の横に、彼が出現した時と同じエフェクトが出現した。
つまり、天井から血液が滴るようなあの現象が。
同じく、その液体が空中で1箇所に集まり。
今度は白衣を纏った、巨大なスカさんへとその姿を変えた。
「……あぁ、大変な事になっちまった」
「いや、狐パパのせいだよね。
今ヴィヴィオ見てたよ、ボタン押すの」
いや、こう、携帯みたく目の前に画面が出てくるのかと思って。
『……あぁ、繋がったかね。
やぁ、ゲームの世界はどうだい?
やはり君は、とことん厄介事に好かれているみたいだね。
実にいい、退屈しないよ』
そんな変なものに好かれても嬉しくないとです。
『……誰だね、君は』
『これは申し遅れた。
ジェイル・スカリエッティと言う、以後よしなに。
何、今ニュースでも大々的に、ソードアート・オンラインのプレイヤーがログアウト出来ないという状況を報道しているからね。
加えて茅場晶彦と名乗る者が、ナーヴギアを取り外した瞬間にそのプレイヤーは生命活動を停止させるため、強制的に解除しようとしてはならない。
なんて言う情報を流したものだからもう大変さ』
空中で会話するローブの巨人と白衣の巨人。
シュールだ。
誰か、エレンかミカサを連れてこい。
壁の中に攻め込まれてるぞ。
『そうだ。
そして、現時点で213名のプレイヤーが、アインクラッド及び、現実世界から強制退場を……』
『していないさ』
『何?』
『このゲームが開始される前に、サーバー側に存在するゲームのプログラムを見る機会があってね。
斜め読みしたら、プレイヤーのHPが0になると同時に、ナーヴギアから脳を破壊するという信号が発せられるプログラムが組まれているじゃないか。
このゲームは私の勧めで、私の友人もプレイしているのでね。
ナーヴギア自体は私のお手製だから友人達には被害はないのだが。
自分がプレイするゲームから死者が出るのも気が滅入るだろう?
だから、少々弄らせてもらった』
右手を腰に、左手を前に。
バッと白衣を靡かせて、何かカッコつけたポーズを取るスカさん。
言ってる事は凄いけど、犯罪者スレスレの発言をしている自覚はあるのだろうか。
幸運なのは、ハッキングとかそういう単語が出ていない事である。
『とは言っても、見ず知らずの人間にそこまでする義理も無いからね。
精々、プレイヤーのHPが0になっても脳は焼かれなくしただけさ。
恐らくゲームをクリアするまで、ログアウトはできなさそうだからね。
それに私の友人たちは存在自体がバグだ。
救済措置をする必要もないだろう』
よーしスカさん。
帰ったら泣くまで説教な。
「ねぇ、お稲荷さん。
お稲荷さんとヴィヴィオは分かるんだけど、何で私もバグ扱いなのかな?」
本気で分からないという表情をしてますがなのはさん。
お昼にイノシシを葬った方法を思い出してください。
後、一般人に砲撃は使えません。
『また、確かに213名は強制的にログアウトしたのかもしれないが。
PCの電源を引っこ抜くと、下手するとPC自体が壊れる可能性があるのはご存知の通り。
ましてや今回は、繋がっているのは人の脳。
今のところ死者は居ないらしいが、強制的に外すと身体に重大な問題が発生する可能性も大いにある。
その為、例えナーヴギアを外すことでログアウト出来たとしても、その影響は人体にどのように現れるのか予想できないので、不用意に外すなとナーヴギアの制作会社からも警告されている。
先程の茅場晶彦の報道と併せて、今ここにいるプレイヤーで外部的にナーヴギアを外される可能性は限りなく低いと思っていいだろう。
命を奪う、または今後の生活に支障をきたす可能性のある行動を、軽く実行できる人間はそうそう居ないからね』
『……』
『あぁ、因みにプレイヤーのHPが0になったときはだが。
その時は、このソードアート・オンラインをクリアするまで意識は戻らない。
つまりは昏睡状態になるという訳だね。
あくまでナーヴギアを装着している場合に限りだが。
死ぬよりはマシと思って欲しい。
本来、赤の他人にそこまでする理由はないのだからね。
コンティニューはないのだよ』
『私の世界が……』
『そしてゲームをクリアする方法だが。
この城、アインクラッドの最上層。
つまり第100層にいるボスを倒せばクリアというものらしい。
なんちゃってドルアーガの塔のようなものだね。
まぁ、ここで死んでも現実では死にはしない。
クリアまでは眠ってしまうがね。
それでも、強制的にログアウトさせられるよりは十分安全な仕様さ。
プレイヤー諸君は、頑張ってクリアを目指すといい』
『わ、私のチュートリアルが……』
空中でリアルorzの態勢になるローブの巨人。
ご愁傷様である。
『……あなたは、何者だ?』
『君と同じ、ただの科学者さ。
人からは、無限の欲望(アンリミテッド・デザイア)なんて呼ばれたりもしてるがね』
ただの、の所にマッドとルビが振られているに違いない。
では、とスカさんが続ける。
『私からプレイヤーの諸君に伝えることは以上だ。
まぁ、年単位で攻略すると例え昏睡状態でも死ぬことはあるだろうし、社会復帰も厳しい。
なるべく早めの攻略をお勧めするよ。
それと、この広場にいる私の友人たち。
……程々にね』
明らかに俺に視線を合わせて言ってきたスカさん。
言いたいことがあるならはっきり言いましょう。
ともかく、そこまで言うと巨人のスカさんは、その姿をボロボロにして消えていった。
なんとも不気味な退出である。
『……やはり、そう全て上手くはいかないものだな。
仕方ない……か。
……では、プレイヤー諸君。
残りのチュートリアルを続けよう。
諸君らのアイテムストレージに、私からのプレゼントを用意してある。
確認してくれたまえ』
残ったローブの巨人の言葉で、周りの人達が一斉に手をスライドさせてメニュー画面を表示する。
俺達3人もそれに習い、アイテムストレージを開く。
一番上に『壺』
これじゃない。
てかこれアイテム扱いなのね。
その下に、手鏡の文字が。
なのはさんとヴィヴィオと視線を交わし。
同時に頷き、そのボタンを押す。
すると目の前に、タブレットクラスの大きさの鏡が出現し。
そしてすぐに重力に従い落下し。
カシャン、という音を3つ奏でた。
「あ」
異口同音とはまさにこれ。
「ヴィヴィオ、お前……」
「狐パパ……」
「お稲荷さん……」
多数決で俺が悪いことに。
破片でも覗いてみようかと、落とした手鏡を見てみるも。
その瞬間、手鏡はポリゴン状態になって四散してしまった。
そんな事をしている間にも、周りの人達は取り出した手鏡を見て驚きの声を上げている。
「狐パパ、どうする?」
「なんの、ここはオンラインゲームの強みを利用しよう。
そこのツインテール少女さん」
丁度、俺達の真横にちっちゃい少女がいたので声を掛けてみる。
ちょっとオドオドしてるのは、今の巨人達の話のせいだろうか。
しかし茶髪のツインテールとは。
なのはを彷彿させる少女だな。
「あ、えっと……私、ですか?」
「です。
手鏡を出したんだけど、3人共キャッチミスって。
落として割っちゃったので貸して下さい」
「狐パパ、お願いする時は壺から出ようね」
忘れてた。
よいしょと壺から抜け出す。
「え……尻尾?
割っちゃったって?」
「いやほら、こういうゲームは初めてなので。
まさかアイテム選択したら目の前に出現して、そのまま落下するとは思わなかった訳で。
身内3人同時にやったから、誰も手持ちがないのです」
しばらく呆然としていた少女だったが、突然プフッと吹き出した。
「この状況下で何か余裕ありますね、凄いです」
「毎日が命懸けの日々だったので」
「何があったんですか……」
呆れながらも、手鏡を貸してくれた少女。
君のことは忘れない。
名前知らんけど。
「サンクス!
なのはさーん!
鏡ゲットした!」
「うん、私も」
なん……だと……
「ほら、この子。
アスナちゃんって言うらしいんだけど、事情を説明したら貸してくれたんだ!」
「あ、ど、どうも……」
腰まで髪を伸ばした、えらい美少女がそこにいた。
パッと見の年齢、中学生から高校生くらいだろうか。
そんな外見故に、なのはさんからすれば他の男に話しかけるよりは気軽に声がかけれたのだろう。
しかし、また茶髪である。
これ重要。
最近の若いもんは。
「どうも、稲荷です。
こっちのちっこいのがヴィヴィオ。
中くらいのがツインテール少女です」
言いながら、ヴィヴィオとツインテール少女を指差す。
「誰ですかツインテール少女って!
というか、自己紹介してませんでしたね。
シリカと言います」
「シリカね。
まぁ、それはいいや。
なのはさん、せーの! で鏡見ようぜ!」
「いいよー!」
「ヴィヴィオの分はー?」
「お前にはまだ早い」
こらヴィヴィオ。
脛を蹴るな脛を。
お前の蹴りは洒落にならん。
「あ、でもその手鏡……」
「では、せーのっ!」
シリカが何か呟いていたが、俺達の耳に入る前に2人して既に手鏡を覗き込んでいた。
瞬間、俺となのはさんはまた青い光に包まれ。
手鏡の中、そこにはなんと。
俺の顔が。
「……うむ、俺の顔だ」
「……だね、私だよ」
……で?
「あぁ、あれか。
覚醒フラグだったのか。
……くっ、俺の中に溢れる魔力が!」
「お稲荷さんにはリンカーコア無いから安心してね」
違ったようである。
「え、あ、え?
稲荷さんとなのはさんとヴィヴィオちゃん、キャラメイキングしなかったんですか……?
あの手鏡を見ると、自分の設定したアバターからリアルの姿に変化するんですけど……」
「お稲荷さんも私も、ヴィヴィオも元からリアルの姿だよー?」
「んだ」
「だよー!」
俺達の返答に、シリカもアスナもポカンとしている。
と、先に正気に戻ったのかアスナがずいっと近づいてきた。
「色々と突っ込みたい事はありますが。
何で稲荷さんは尻尾なんですか?」
「尻尾が俺個人みたく言うのやめてくれませんかね。
何でと言われても、リアルでこれだから仕方あるまい。
今や半分ヴィヴィオの巣だが」
「信じられるわけ無いでしょう?
後ヴィヴィオちゃん。
一応このゲームは12歳以上が対象なんだよ?」
「規則とは破るためにある」
あの、アスナさん。
そんな怖い目でこっち見ないでね。
育てたのは俺だけど。
『……それと、プレイヤー諸君の中に不正を行っている者はいない。
私の求めた年齢層以外のプレイヤーも何人か居るが、それは想定内である。
特に罰する事もない。
そしてステータスの不正操作。
所謂チートというものはそのゲームの存在を脅かすものになる。
故に、その点においては徹底させてもらった。
今この場にいる全てのプレイヤーの初期ステータスは同一であり、受けられるシステムサポートは均一化されている。
また全てのプレイヤーが行う行動は、私がプログラムしたソードアート・オンラインに関するスキルか。
現実世界において、その人個人が成すことの出来るもののみとなる』
しばらくの間黙っていたローブの巨人が、またゆっくりと話し始めた。
『私が世界を創造し、その世界を鑑賞する。
多少思惑から逸れてしまったが、それでも私の目的は今、達成せしめられた。
……以上で、ソードアート・オンラインの正式チュートリアルを終了する。
プレイヤー諸君の、幸運を祈る』
そう言い終わると、ローブの巨人は先程の巨大スカさんと同様にボロボロに崩れ去り。
同時に、空を赤く染め上げていた六角形の模様も消え去った。
後に残ったのは、静寂に包まれたプレイヤーのみ。
俺はゆっくりと、シリカとアスナの方を向き。
「プレイヤー諸君の中に不正を行っている者はいない」
ドヤ顔して2人に向かって言ったら、2人から両頬を摘まれた。
なんでさ。
「はぁ……
じゃあ本当に、稲荷さんはリアルでもその姿なんですね」
「お、シリカは狐に興味がおありかな?」
「ないです。
というか、狐は狐でもそこまでいくと妖怪ですよ」
何気に酷いシリカである。
あ。
「なのはさん、今気付いた。
これはやばいんじゃ」
「だね。
ちょっとみんなで奥に隠れよっか」
え? と疑問の声を上げる他3人をなのはさんと一緒に誘導し、やってきたのは広場の端っこ。
あまり人目につかない場所である。
「あの……なのはさん?
一体何が……」
「ごめんね、説明も無しに連れてきちゃって。
管理局に居た頃はこういう現場に結構遭遇したから。
この後のみんなの行動が大体予測出来るんだよね」
「こんな場面に出くわす管理局って何ですか!?」
頭を抱えるアスナ。
まぁ、別に管理局に居なくても想像できるとです。
案の定、広場にいた人達はパニックに。
その場で悪態をつく人。
広場から駆け出していく人。
力なくその場に座り込む人。
「……お稲荷さん、どう思う?」
「んむ、ヴィヴィオになのはさん、アスナにシリカ。
男が俺1人って六課よりきつい。
エリオ来ないかな」
「なんの話かな?」
ごめんなさい。
真剣に答えるからシャドウボクシングは勘弁。
「まぁ、しゃーなし。
1万人だっけ?
そんな人数を俺達個人でどうこう出来るはずがない。
死にゃーしないんだし、ほっといて俺達は俺達で行こう」
「き、狐パパがまともなこと言ってる……」
いつでも俺は本気ですが。
「さて、俺達は適当に動くことにするけど。
2人はどうする?
来るなら一緒に行く?」
「……お願いしていいですか?
正直、1人じゃ心細いんで」
一瞬だけ考え、直ぐに頭を下げてくるシリカ。
心細い、の後にヴィヴィオをチラ見したのはあれか。
自分より年下がいる安心感か。
本性見て絶望しなけりゃいいが。
「私もお願いします。
全然知らない人についていくの、怖いんで……」
アスナも続いて頭を下げる。
「了承。
ヴィヴィオもなのはさんもいい?」
「聞くまでもないよ!」
「大丈夫—! 狐パパとなのはママ共々、お願いしますー!」
かくして、仲良し3人組の中に新たな2人が加わったのでした。
まる。
「しかし、年単位でクリア出来ない可能性があるのか。
なのはさん、この状況どう思う?」
「つまり、遊んで暮らせるって事だね!!」
ダメだこの人、何とかしないと。
「ヴィヴィオ」
「学校に行かなくてもいいって事だね!!」
ダメだこの人達、何とかしないと。
「何を言ってるんですか!
早くこんなゲーム抜け出して、現実世界に戻りたいです!」
「そうね。
私もシリカちゃんと同意見です。
なのはさん達は戻りたくないんですか?」
若干怒りを含んだ視線をヴィヴィオとなのはさんに向ける、シリカとアスナ。
その2人に、疲れきった目をしたなのはさんが答える。
「……私の職業ね、今は時空管理局武装隊の教導官をしてるんだけど。
たまに犯罪者集団を鎮圧するのに、出向させられたりするんだ。
毎日毎日、訓練で現場で戦いの日々。
お稲荷さんと出会って、機動六課も無事目的を達成できたし。
出来ることならもう戦いたくないんですー
お稲荷さんと一緒に翠屋を継いで平和に暮らすんですー」
「稲荷さん。
なのはさんが何を言っているのか分かりません……」
「アスナ。
難しく考えるんじゃない。
言葉通りの意味と受け取って貰えれば。
なのはさんは、リアルに管理局で最強に見える部類。
侮ると砲撃に飲み込まれる」
「ヴィヴィオちゃん。
稲荷さんの言ってることが分かりません……」
「んー……
狐パパに向かって『稲荷さん大好き!』って言ってみれば分かるかもだよ?
その後の保証はしないけど。
出来れば被害の拡散の為、シリカさんと一緒にやる事をお勧めしますー!」
「……?」
俺に背を向けてヴィヴィオと話していたアスナがシリカに話しかけ。
そのまま2人してこちらに振り返る。
そして大声で。
「稲荷さん、大好き!」
ハモる声。
下がる気温。
背中にのしかかる重圧。
振り向く。
般若。
「お稲荷さん……?
覇王ちゃんの次はこの2人……?」
それでも俺はやってない。
弁解の余地なく。
展開される多重魔法陣。
集まる魔力が球体となる。
SLBと書いて波動砲と読む。
発射5秒前。
「え……ヴィ、ヴィヴィオちゃん!?
あれ何!?」
「魔法陣——!」
「いや、アスナさんが聞いてるのはそういう事じゃないと思うんですが……
ヴィヴィオちゃん、あれで何するの?」
「砲撃——!」
「……えっと、ごめん、わからないや。
とりあえず、稲荷さんは大丈夫なんだよね?」
「稀によくある事だから大丈夫!
今回は幸運にもシリカさん達は標的にならなかったから安心して」
ヴィヴィオ、お前後でお尻100叩きの刑な。
俺マジで何もしてないもん。
その日、アインクラッド第1層に極太のピンクの光が迸った。
プレイヤーの間では、茅場晶彦の仕業ではないかと囁かれていたらしいが。
真偽は不明だったそうである。
前回の前書き忘れました。
アメフラシです。
親知らずのせいで鈍痛が迸って寝付けないので、気晴らしに仕上げて投下しました。
『魔理沙は大変な物を〜っていきました』のドンツードンツー(痛くないわ)
あの歌詞は嘘だと思う瞬間でした。
穴のない設定を考える人って尊敬できます。
スカさんに説明させる事1回目。
読み直して穴を見つけて補足説明2回目。
継ぎ足し部分の言葉回しを直して3回目。
わっけわからなくなって4回目。
細かい所はきっとスカさんが1日で何かやってくれます。
そろそろ戦闘が絡みそう。
数話分が一気に進みそう。
未だに戦闘描写が下手なアメフラシ。
だってあいつら、ヒュンヒュン消えるんですもの。
そんなこんなで寄り道3回目でした。
1話分の長さとしては最長。
今回もお楽しみ頂けたら幸いです。
よろしければ、また4回目の寄り道でお会いしましょう。
「狐パパ……」
「何の。
二度あることは三度ある。
三度あることは四度ある。
四度目の寄り道だ」
「お稲荷さん、仏の顔も三度までって言葉知ってる?
四度目は阿修羅になるよ?
また口移しで飲ませよっか?」
「進化の仕方が半端ないんですが」