第29話 温泉
今日の水族館は楽しかったな。
海鳴駅から8つ離れた都市、矢後市にある矢後サイドビル水族館、入場料は大人700円、子供400円。
オススメはアーチ型の水槽の下を歩く擬似水中散歩に、イルカのショーやペンギンのお散歩。
近くに寄った際は是非ともご利用を。
なんて宣伝してみた。
夜、温泉に行く支度をしていると、なのはから電話がかかってくる。
「はい、一之瀬太郎です」
「もしもし、ユーノです」
「また、なのはの携帯電話から?」
「うん、このままじゃ申し訳ないから、そのうち携帯電話は買おうかと思っているんだけど、なかなかね」
「こっちだと戸籍とか色々大変なんだね」
「そうなんだよ。っと、本題に入るね。明日以降の温泉旅行なんだけど、どこで合流する?」
「確か車は高町家と月村家だったよね。集合場所は高町家だったから、僕たちは近くの公園で合流してから行こうか」
「うん、分かった」
「着替えとか持ってきなよ」
「うん、それじゃまた明日」
「また明日ね」
ユーノとの電話を切って、荷物を詰める続きをする。
一応グローブとボールは持って行かないとね。
バットはやっぱり難しいかな〜?
まぁ、仕方がないか。
リニスを抱きしめて撫でながら寝る。
温泉旅行は2泊3日だから、その分念入りに撫でておかなきゃね。
次の日、朝一番で公園へ行く。
ユーノは……いたいた。
「ユーノおはよ」
「タローおはよ」
「んじゃ、のんびりと高町家に行こうか。ユーノは戻る感じだけどさ」
「そうだけど、別に気にしないよ」
「そう言えばユーノってこのまま高町家に住み着くの?」
「んー、もう魔力も完全に回復してるから、どこか住む場所を探そうかなーって思っているんだけどね。でも、ジュエルシードが全部集まればミッドに帰るからさ」
「そっか、長期滞在にはならないのか」
「うん。でも、先のことは分からないからね」
「そうだね」
そんな会話をしていると高町家に到着した。
既に月村家とアリサは来ている。
みんなに挨拶をして、車に荷物を積み込む。
「タロー、遅かったわね」
「うん、公園でユーノと合流してきたから、少し遅れちゃったかな?」
「ううん、時間は平気よ」
「それなら良かった」
高町家の5人乗りの車に士郎さん、桃子さん、美由希さん、なのは、ユーノ。
月村家の7人乗りの車に忍さん、恭也さん、ノエルさん、ファリンさん、すずか、アリサ、僕。
僕は走って行こうとしたら、全力で止められた。
おかしいな〜?
車に揺られる事しばらく、やって来ました海鳴温泉。
到着して早々、フェイトとアルフの気配を感じる。
温泉旅行にでも来てるのかな?
「アリサちゃん、なのはちゃん。荷物をおいたら温泉に行こうね」
「そうね。タローもあたし達と入る?」
「わわわ、アリサちゃん!?」
「冗談よ、冗談」
「あれ、冗談だったの?」
「えっ、あ、う……」
「まぁ、年齢的には一緒に入っても良いんだけどね。でも、僕たちは恭也さん達と入るよ」
「もう、知らない!」
「アリサちゃん。自業自得なの」
「じゃあ、また後でね」
「「「うん、また後で」」」
そして士郎さん、恭也さん、ユーノと僕で男湯に入る。
士郎さんと恭也さんは体中に古傷があり、歴戦の戦士っぽい……。
ユーノも細マッチョと言うか、身体が引き締まってる。
あ、士郎さんの興味対象になった。
「ユーノ君。君は結構身体を鍛えたりしているのかい?」
「はい、基礎的な運動はしています。僕の家族は遺跡発掘作業が仕事なので、一緒にそういうところに行くと、身体が資本になりますから」
「そうか……今度良かったらサッカーをやってみないかい?」
「え、えぇ。機会がありましたらぜひ」
サッカーの勧誘は僕にもしてきたけど、ユーノがサッカーか……。
ミッドチルダには無いみたいだから、意外と楽しめるかもね。
野球も勧めてみようかな?
女湯の方からみんなの笑い声などが聞こえる。
「あっちは楽しそうですね」
「年頃の女の子たちが集まってるんだ。騒がしくもなるさ」
「そうだな。桃子がいるが他の客に迷惑がかからなければ、特に止めないだろう」
女三人寄れば姦しいってね。
8人もいたらもっと騒がしいか。
そういえば恭也さんに聞きたいことがあったんだっけ。
「あ、そう言えば恭也さん。忍さんとはいつ結婚するんですか? プロポーズしたって聞いたんですけど」
「う……。だ、誰だバラしたの……。と、とりあえず大学卒業を目処になんとかするつもりなんだが……」
「なんなら、学生結婚でもいいぞ」
「ほら、士郎さんの許可が出ましたよ」
「ま、まだちゃんと稼いでないから、忍達を養えないし……」
そんなこんなでタジタジの恭也さん。
僕とユーノは笑ってたけど、士郎さんの「孫が早くみたいな」のセリフは本気っぽかったな。
も一つ火種を投下。
「ユーノはなのはと上手く行ってる?」
「え!?」
「そう言えばユーノ君。君はなのはと随分親しいようだが……」
「えっ、えっ!? ぼ、僕ですか?」
「ほう、それは興味深いな」
あ、ユーノが捕まった。
フェレットのユーノと同一人物と知ってるから、恭也さんの目がちょっと怖いな。
もしかしたら、士郎さんや桃子さんにも話してあるのかな?
つまり、逃げられない……。
さて、面倒になる前にっと。
「じゃ、僕は先に出ますから」
「た、タロー!?」
「ごゆっくり〜」
「裏切り者〜」
「「ユーノ君、色々話して貰おうか!」」
ユーノ……南無。
さて、先に出たのは良いけど、女性はお風呂が長いから、出てくるまでその辺を散歩でもしようかな。
旅館から外に出てフェイトの気配がある方に進む。
アルフの気配は旅館の中だね。
折角同じ場所にいたなら、探して話でもしてくれば良かったかな?
森の中を歩いて行くと、木の枝にフェイトがバルディッシュを抱きかかえ座っている。
何やら集中しているので、魔法でも使っているのかな?
「こんにちは、フェイト」
「え、あ、た、タロー?」
「そうだよ。木の上に登ってジュエルシードでも探しているのかい?」
「う、うん。探知魔法を使って、この辺りの絞り込みをしているんだ」
「へー、わざわざ木に登って大変だね。でも、スカートで木に登るのはどうかと思うよ」
「えっ!? あっ……」
僕の言葉で自分の格好に気が付いたのか、顔を真っ赤にしながら木から飛び降りる。
だから、スカートでそーゆー事すると…。
「み、見えた?」
「何が?」
「わ、分からないなら良いよ……」
「趣味はそれぞれだけど、黒は早いかなーと思うよ」
「はぅ……」
フェイトは地面に座り込んでしまった。
ありゃりゃ、やっぱり言わない方が良かったかな?
とりあえずフォローしないと…。
「うん、ドンマイ」
「ドンマイじゃないよぉ……」
余計に落ち込んでしまった。
こんな時は鞄をゴソゴソ……あった。
「はい、お菓子食べる?」
「そんなんじゃ誤魔化されないよ!」
「いやいや、このお菓子は美味しいよ」
『タロー、そのお菓子はなんですか?』
「バルディッシュ!?」
「うん、チョコバットって言って、お値段30円と言うかお買い得価格で、パン生地にチョコレートをコーティングした美味しいお菓子さ」
『……メモリに保存しました』
「はい、フェイト。どーぞ」
「はぁ〜。……いただきます」
結局飽きれて溜息を付き、チョコバットを食べるフェイト。
30円でこの味なら美味しいよね。
実は秋冬商品で、あまり春や夏には見かけないんだよ。
賞味期限がそこそこ長いから、家に買い溜めてあるし、季節はあまり関係ないんだけどさ。
「そう言えばフェイトは宿泊予定なの?」
「うん、旅館を取ってある。今はアルフが温泉に早く入りたいって言うから、アルフは旅館の温泉で先にゆっくりしてるよ」
なんだか主従逆転してないか?
じゃあ、同じ旅館でアルフの気配がしたから、泊まる場所も同じかな。
なのはと旅館でばったり会わなきゃイイけど……。
「フェイトも折角温泉に来ているんだから、ジュエルシード探索ばかりでなく、ゆっくりもした方がイイよ」
「うん。夜になったらアルフと探索を交代して、私が温泉で休むんだ。タロー達に言われた通り、ちゃんと息抜きしないと効率が落ちるから……」
「お、ちゃんと覚えていて実践しているんだ。偉い偉い」
そう言ってフェイトの頭を撫でる。
前にリニスが僕の撫では疲労回復とかもあるって言ってたから、探知魔法での疲れとかが取れるかな?
「はぅ……」
頭を撫でると初めはくすぐったそうにしていたが、段々と気持ち良さそうに目を細める。
嫌がらないなら、しばらく撫でておこう。