第55話 出会いと別れ
出会いと別れ。
それは平凡ではない小学3年生だった僕、一之瀬太郎に訪れた小さいようで大きな事件。
信じて手にしたのは野球の力。
願ったのは優しい思いが届くこと。
心はきっと通じ合えるから……。
野球少年?と リリカル☆なのは
始まります。
早朝、臨海公園に到着した。
既に封時結界が張ってあり、僕は無造作に入って行く。
そこにはリンディさん、クロノと言うアースラスタッフ。
プレシアさん、フェイト、アルフと言うテスタロッサ家。
なのは、ユーノの高町家。
そして僕とリニスが到着した。
今、なのはとフェイトは2人で話をしている。
僕はリニスを連れて、クロノの元へ行く。
「やあ、おはよー」
「あぁ、タローか。おはよう」
クロノが挨拶を返すが、横では首を傾げているリンディさんがボソボソとつぶやいている。
「何でタロー君は封時結界に普通に入ってこれるのかしら?」
「リンディ、それは気にしても無駄よ」
「プレシアがそう言うなら……」
あれ、いつの間にかリンディさんとプレシアさんの仲が良くなっている。
同じ子持ちの母親として、意外と気が合うのかな?
「母さん達は何だか意気投合しちゃってね。2人ともバツイチだから(ぼそ)」
「「クロノ聞こえてるわよ!」」
「ひぃ」
うわぁ、すごい殺気だ。
アルフとユーノなんて頭を抱えてしゃがみ込んでるし……。
クロノは小さく漏らした悲鳴を取り繕うかのように、咳払いをして僕に話しかける。
「エイミィは書類作成で徹夜したから、寝ちゃってて来れなかった。タローによろしくと言っておいてくれってさ」
「そっか。書類……大変なのか?」
「まぁ……これも仕事さ。取引材料がたっぷりあるから、テスタロッサ家の罪は全く無くせたし、僕としてはやりがいのある書類だよ」
「迷惑ばっかかけて悪いね」
「僕とタローは友達だろ。そして、死線を共に潜り抜けたら戦友さ。そういう時はそう言うモノじゃない」
ニヤリと笑うクロノに僕も笑って答える。
「そうだな。ありがとよ戦友」
「それでいい」
そう言ってクロノと手を組む。
そこにユーノも手を乗せてくる。
「僕も混ぜてくれよ。どうも男性比率が少なくてね」
「ユーノは高町家に戻れば士郎さんや恭也さんがいるだろ」
「いや、師匠達はちょっと……」
ユーノはその2人の名前を出すと、明らかに怯えている。
そんなに修行が厳しいのか?
「そういえばクロノ。僕の戸籍申請は大丈夫そうかい?」
「あぁ、ユーノのは後回しにしたから解答はまだだが、スクライアの族長と連絡さえ取れれば一発だろう」
「あぁ……それは結構問題かも」
「スクライア一族は元々一ヶ所にいないから、こう言う時は本当に困るんだよ。まぁ、ミッドに戻ったら僕のツテで探してもらうさ」
「ありがとうクロノ」
「なぁに、そのうちたっぷり返してもらうさ」
クロノの黒い笑いに、ユーノは若干引き気味みになる。
でも、ユーノも地球に住むなら戸籍必要だからな〜。
そんな話をしているとアルフが僕に声をかけてくる。
「タロー、世話になったね」
「いや、僕は大したことしてないよ」
「そんなことはないよ。アンタのお陰で本当にあたし達は救われたんだ」
「そっか、僕に出来る事をやって、それでそう思ってもらえたなら嬉しいね」
何だか照れくさいな。
僕は持ってきたバッグをアルフに渡す。
「これ、プレゼント。どうせ直ぐに会えるんだろうけど、折角だからね」
アルフは戸惑いながらバッグを開ける。
そこにはグローブが2つとボールが入れてあるんだ。
「これで暇な時にでもフェイトとキャッチボールは出来るよ。帰ってきたら僕とまたやろうね」
「あぁ……ありがとう。タローとキャッチボールをやるのを楽しみにしているよ」
アルフは喜んでくれているようで、良かった良かった。
「「タロー(君)」」
なのはとフェイトから呼ばれる。
僕はそっちに歩いて行く。
その際に気が付いたんだが、なのはが付けていたリボンをフェイトが付けていて、フェイトが付けていたリボンをなのはが付けていた。
2人で交換したのかな?
女の子同士は交換するものがあって良いな。
「僕のことは良いから2人で話をしていれば良かったのに」
「にゃははは。私とフェイトちゃんはたっぷりとお話をしたから平気なの」
「タローは私と話をするの……いや?」
涙目になって上目遣いで見られると、さすがに小学生でもドキッとするよね。
「別に嫌じゃないさ。でも、直ぐに会えるだろ」
「そうなんだけど……」
そう言ってフェイトは俯いてしまった。
う〜ん、どうするかな……。
「アルフー、フェイトのグローブ取って〜」
「あいよ〜」
そう言ってアルフはこっちにグローブを持って来てくれる。
フェイトは顔をあげるけど、意味が分かっていないようだ。
「はい、僕からフェイトへのプレゼント」
「グローブ……?」
「そそ、付けてみて」
僕の言葉にフェイトがグローブを付ける。
その間に少し離れ、僕もグローブを付けボールを取り出す。
「いくよー」
「え? あっ、う、うん」
僕の投げたボールはフェイトのグローブに綺麗に収まった。
フェイトはそのボールを見て、どうすれば良いか悩んでいる。
「キャッチボールだよフェイト。まだ、僕とはしてないでしょ」
「う、うん!」
そう言ってキャッチボールを2人で始める。
何度かボールが行き来していると、フェイトから嬉しさと寂しさが伝わってくる。
なんだかんだと色々あった事件だったんだな〜。
「そろそろ時間だね」
「……うん」
「ちょっとの間、会えなくなるね」
「うん……」
「でも、また会えるんだから、その時はまたキャッチボールをやろうね」
「うん!」
そう言ってキャッチボールを終える。
グローブを片付けていると、なのはがフェイトに抱きついて来る。
なのはは……泣いているね。
フェイトはなのはを優しく抱きしめる。
「っく……うっ……」
「少し分かったことがある。友達が泣いていると、同じように自分も悲しいんだ」
「……フェイトちゃんっ!」
「ありがとう、なのは。今は離れてしまうけど、きっとまた会える。そうしたら、また、君の名前を呼んでもいい?」
「うん……うんっ」
「会いたくなったら、きっと名前を呼ぶ。だから、なのはも私を呼んで。なのはに困ったことがあったら、今度はきっと、私がなのはを助けるから」
少し離れてそれを見ていると、クロノが側に寄ってくる。
嘱託魔導師の試験自体はそんなに掛からないが、合格すれば研修があるらしい。
その辺は上手くアースラで出来るようにするけど、すぐには帰って来れない。
そんな話をクロノが僕に教えてくれる。
クロノは時計を見て、リンディさんの方を向く。
リンディさんがそれを見て頷く。
「そろそろ時間だ………もういいか?」
「「……はい」」
2人とも晴々とした表情で返事をする。
お互いに涙は浮かべたままだが……。
「それじゃ……またなフェイト、アルフ」
「うん、タローは母さんとリニスをよろしくね」
「フェイトのことはあたしに任せときな」
僕の言葉に笑顔で答える2人。
その後、フェイトとアルフはみんなと挨拶を済ませる。
リンディさんを中心とし、魔方陣を展開する。
そしてそこに入りアースラへ行ってしまった。
最後までフェイトとアルフは手を振っていたね。
「これでジュエルシード事件も終わったんだね」
ユーノの言葉に僕は頷く。
「僕のミスから始まった……いや、事故から始まった事件だったけど……」
「良いんじゃ無いか? ちゃんとハッピーエンドだろ」
「でも、なのはを魔法に関わらせてしまった……」
ユーノはそう言うと俯いてしまう。
それを見て僕は背中を叩く。
「巻き込んだなら、関わらせたなら、最後まで責任を持てば良い。ユーノがなのはの背中を守るんだろ」
「あぁ、そうだったね。なのはが前を向いていられるよう、僕が背中を守るんだ」
ユーノは決意を秘めた目をして頷き、なのはの方へ走って行く。
そして、なのはとユーノは手を繋いで先に帰って行く。
アレはアレで良いのかな?
プレシアさんとリニスが僕の側に寄って来た。
「タロー、本当にありがとうね」
「まだまだこれからですから、お礼は早いですよ」
「それでも貴方がいなかったら、私は間違ったままだった……」
「でも、プレシアさんは気付けたじゃないですか。それで良いんですよ」
僕の言葉に笑顔になるプレシアさん。
それを見て微笑むリニス。
「さ、帰ろっか。しばらくはウチに泊まって、その後は両親から話があるよ」
「「はい」」
そうして3人で僕の家へ帰る。
これからのことを話しながら……。
魔法少女リリカルなのは 無印
ジュエルシード事件 完
まだまだこれからも続くよ。