第1話 念話
フェイトとアルフ、アースラのみんなと別れて帰宅する。
プレシアさんとリニスも一緒だよ。
まずは両親に説明しないとね。
「ただいまー」
「ただ今帰りました」
「お、お邪魔します……」
フェイトの前じゃないので、少しだけプレシアさんが気弱モードになってる。
全然知らない世界だから仕方がないか。
「おかえりなさ〜い。朝ご飯は出来てるわよ〜」
母は玄関まで僕達を迎えに来る。
そこでプレシアさんとのファーストコンタクトなんだけど……。
「あらあら、初めまして。私、一之瀬太郎の母親で一之瀬楓と申します」
「あ、え、えっと、プレシア・テスタロッサです。タローさんには色々とお世話に……」
「タローさんだなんて言わなくて良いですよ。みんなタローで呼んでますから」
「は、はい。タローにお世話に……」
「あ、固いお話は後でにしましょ。朝ご飯が冷めちゃうわ〜。プレシアさんも食べてくださいね〜」
そう言って家の奥に入って行ってしまう。
完全に母のペースに巻き込まれてるね。
プレシアさん平気かな?
「プレシア、アレがタローのお母様です。タローのマイペースの原点です」
「あぁ……なるほどね。アレじゃ、こっちのペースで話が出来ないわ」
「私もまだ人型になって長い時間この家で生活して居るわけではありませんが、この一之瀬家の基本は諦めも肝心ということです」
「なるほど……。タローに接するように、家族にも行かないと駄目なのね」
そう言って2人で深く頷いてる。
あれ、結構失礼なことを言われているような気がするんだけど……。
まぁ、いいか。
とりあえず家の中に入り、リビングへ行く。
そこには5人分の朝食が用意されており、父は新聞を読んでいた。
「タロー、お帰り。まずは全員席に着いてくれ」
「ただいま父さん。分かりました。プレシアさん、リニス椅子に座って」
「「はい」」
2人が椅子に座ると母も飲み物を用意し終え席に着く。
「それではいただきます」
「「「「いただきます」」」」
父の言葉で朝食が始まる。
食べながら自己紹介が始まる。
まぁ、特に両親が驚くことはないんだけどね。
魔法のこととか言われても気にしてなさそうだし……。
その反応にプレシアさんが驚いているぐらいか。
「まずはプレシアさんが住む場所だが、さざなみ寮と言う場所を用意させてもらった。ここは寮と言う名前の通り、複数人による共同生活を送らなければならない」
「はい」
「本来ならマンションを借りるなど方法があるが、まだ戸籍がないので難しいと思って、身内経営で悪いが用意させてもらった」
「ありがとうございます」
父の言葉にプレシアさんとリニスが頭を下げる。
「2部屋ほど用意させてもらったので、プレシアさんとリニスさんがしばらく住むと良い。フェイトさんが戻ってくれば、その時には戸籍もあるだろうから、そこで改めて違う場所を用意すれば良い」
「何から何までありがとうございます」
「さざなみ寮の住人は退魔師、猫又、超能力者とバラエティ豊富だから、魔導師や使い魔が増えた程度では誰も驚かないから安心してくれ」
「はぁ……」
(リニス、これどこまでが冗談なの?)
(違いますよプレシア。あれは全て本当です。お母様に聞いた話では、幽霊が住んでいたこともあるそうです)
(あぁ……だからタローはアリシアの幽霊とか普通に友達になったとか言ったのね)
(いえ、あれはまた別で素です。タローはさざなみ寮に1度しか行ったことが無いようで、全然その辺の人達との接触はないんですよ)
(はぁ〜。もう、本当になんなのかしらね……)
毎回念話が聞こえるけど、内容は酷いことを言われている気がするんだよね。
こうなったら僕も念じて言葉を届けてみよう!
(あー、テステス)
((!?))
(聞こえますか〜?)
(た、タロー……?)
(お、聞こえてるみたいだね。やったー、出来た出来た)
ついに念話を聞き取るだけでなく、言葉を送り込むことが出来るようになったぞ。
いつも聞いていたからかな?
人間何事もやってみるもんだよね。
(リニス……タローはリンカーコア無いわよね)
(今、ちゃんと確認しましたけど……絶対にありません)
プレシアさんとリニスが顔を見合わせて溜息をついている。
酷いなー、せっかく努力の賜物なのに!
おっと、父の話はまだ続いているんだった。
「それで地球の風習、生活などに慣れて貰えば、フェイトさんが来てもちゃんと母親として出来るだろう」
「それまでに〜、しっかりとお料理の勉強と練習をしましょうね〜」
「「よろしくお願いします」」
母の言葉にプレシアさんとリニスが返事をする。
母はすごい料理を作るのが上手いんだよね。
父の姉である槙原彰子さんと家族が、長崎で洋食屋「サフラン」と言うのを経営していて、その彰子さんに料理を教わったので、母の料理はプロ顔負けらしいんだ。
比べたことがないからはっきりと分からないけどさ。
外食だと僕はカレーか牛タン、ジャンクフードしか食べないし……。
「それでプレシアさんは着替えや日用品などの荷物はどうしました?」
「あ、このデバイスと言う魔導師の杖のような物の中に収納してあります。今はアクセサリーやカードのような形をしていますけど、通常モードになると杖になったりします。そしてその中に物も入れられるので、とても便利なんですよ」
両親は興味津々だね。
実は僕も興味がある。
これがあればバットやグローブを持ち運ぶのが楽そうだなーって。
「これ、魔力のない僕達でも使えるの?」
僕の質問にプレシアさんは少し考える。
「デバイスの動力は魔力なの。だから魔力がないと動かないんだけど、デバイスそのものに魔力を貯めておける機能を付ければ……」
あぁ、考えに入っちゃた。
リニスが溜息をついて僕達に続きを言う。
「今、普通に出回っている物では使えません。ですが、充電式にすれば行けるかも知れませんね。特にタローの使い道は荷物を入れることだけでしょうけど」
「うん。バットやグローブが入れば持ち運びに便利だし、旅行とかも手ぶらでいけるよね」
僕の言葉に両親は深く頷いている。
リニスはプレシアさんの方をチラリと見て……。
「プレシアは優秀な魔導師で、さらに研究者でもあるので、作ることが出来るかも知れませんね。今は思考の海に入ってしまったので、しばらくお待ちください」
そう言う訳で僕達は普通に食事を続ける。
しばらくするとプレシアさんが再起動した。
「リンカーコアのない一般の人が、収納スペースや辞書機能、資料やデータの保存を主とすれば、魔力充電機能を付けるぐらいの空きは出来そうです。でも、今すぐにとかは難しいので、しばらく研究と実験をさせてください」
「あまり無理はしなくても良いですよ。タローは気まぐれに言っているだけですから」
「そうですよ〜。たっちゃんは便利そうだな〜ぐらいの考えしかないんですから〜。でも、あればお出掛けが楽になりそうね〜」
両親の酷いフォロー。
まぁ、便利なだけで欲しいと思っただけだから、なんとも言えないんだけどね。
「それでは、無理のない程度に時間がある時にやってみますね」
「「「お願いします」」」
って、僕以外もお願いしてる!?
両親を見ると父は新聞で顔を隠し、母はニコニコしている。
もう、いいよ……。
そんな感じに朝食は終わったよ。
プレシアさん達がさざなみ寮に行くのは来週の土曜日から。
それまでに日用品などを買いに行ったり、引越しの準備をしたりすることとなった。
引越しの準備って、デバイスの中に入っているんだから別に必要ないんじゃ……。
正確には向こうの準備もあるらしいので一週間は家に泊まることになったよ。
空き部屋をプレシアさんとリニスが住めるように、掃除をしたり準備をしたりもしないといけないので、今日は忙しいかもしれないなー。