第2話 買い物
朝食を終えてリビングでくつろいでいると、僕の携帯電話が鳴る。
さくらさんからの電話だ。
「もしもし、一之瀬太郎ですけど」
「タロー君、おはよ。私、綺堂さくらよ」
「さくらさん、おはようございます。昨日の件ですか?」
「えぇ、そうよ。イレインはタロー君からの頼みだからって、すごく張り切って……ちょっと、イレイン! 電話の邪魔しないでよ! え? わーかーりーまーしーたー。もう、つまんないなー。あ、ごめんね。イレインは了承してくれたから、明日にはそっちに行くわよ」
後ろが騒がしいな。
さくらさん、何をやってるんだろ?
「本当ですか! ありがとうございます。イレインにもお礼を言いたいんですけど、近くにいますか?」
僕の言葉にさくらさんは笑っている。
「えぇ、すぐ近くにいるから代わるわね。はい、イレイン。タロー君からよ」
「……もしもし?」
さくらさんからイレインに代わったみたいだね。
「あ、イレイン? タローです」
「あ、あぁ……」
「メイドさんと車椅子介護の件、了承してくれてありがとうね」
「あぁ」
「本当に助かったよー。こんな事を頼めるのイレインしか思いつかなくってさ」
「あたしだけ?」
訝しげな返事だな。
信じられないのかな?
「そうだよー。イレインならバッチリとメイドを出来るんでしょ。僕が一人暮らしをする時はお願いしたいぐらいだもん」
「そ、そうか? ん……ゴホン。そうご主人様に思って頂けて幸いです」
「え?」
「あたしはこれでもメイドだから、ちゃんと出来るんだぜ!」
呆気にとられた僕に対して自慢げに言うイレイン。
なんともまぁ、反応に困るよね。
「ちょっとビックリしたよ」
「へぇ〜、タローでもビックリするんだな。おっと、これ以上サボってるとさくらが煩いから電話を切るな。明日行くから楽しみにしてろ」
「うん、楽しみに待ってる」
「そ、そうか? ん……ゴホン。それではご主人様、失礼致します」
そう言って電話は切れた。
さくらさんと話しをしていたんだけど……。
まぁ、いいか。
電話を終えて雑談している両親とプレシアさん、リニスの方へ行くと、母が話しかけてくる。
「たっちゃん、早くお出かけの準備をしてね〜」
「え、どこか行くの?」
「あぁ。プレシアさんは向こうの服は持っていても、地球の服装は持っていないようだからね。郷に入りては郷に従えというから、一緒に服などを買いに行くんだよ」
父はそう言い、母はニコニコと頷いている。
「それじゃ、後はたっちゃんよろしくね〜」
「え?」
「簡単に言うと、私と母さんはデートなんでな。タローはプレシアさんとリニスさんをしっかりとエスコートしてくるように」
そう言って両親は部屋の方に行ってしまう。
あれは完全にデートの準備に行ったんだろうな。
「タロー? あの……良いんですか?」
「何が良いか分からないけど、平気だよ。大体プレシアさんのハデハデ衣装は、室内はともかく外じゃ着てられないでしょ」
「はぅ!?」
リニスの質問に僕が答えると、プレシアさんがガックリとソファーに倒れこむ。
自覚なかったのかな?
まぁ、人の趣味をどうこう言わないけど、日常で着るにはさすがに厳しいよね。
「プレシアさんの勝負服はともかくとして、普通の服を買いに行きましょうね。何気にリニスも服持ってないんだからさ」
「え、あっ、わ、私は良いですよ。いざとなれば猫になっていれば良いんですし……」
「僕はリニスのバリアジャケット姿以外は見たこと無いけど、要するに服を持ってないんでしょ」
「はぅ……」
リニス撃沈。
プレシアさんと共にガックリとソファーに倒れ込んでいる。
「とりあえず2人とも、バリアジャケットの魔力消費を抑えるのも含めて、服とかの買い物に行きますよー」
「「……はい」」
僕の言葉に弱々しく返事をする2人。
こんなんだから、あんなバリアジャケットとかになるんじゃないんだろうか?
あんなに凹んでいたのに、買い物先のショッピングモールに到着すると元気になる2人。
やっぱり女性は買い物が好きだな〜。
「さ、タロー。まずはどこに行きますか?」
「最初は基本を抑えて服からかしら?」
僕がエスコートというより、どんどん進んでいく2人。
これ、僕が来る必要はなかったんじゃないだろうか?
まずは服屋。
「タロー、これ似合いますか?」
これから夏に向けてなのか、キャミワンピースを着て試着室から僕を呼ぶリニス。
尻尾と耳は隠しているが、これで尻尾が出たらスカート部分が捲れ上がっちゃうんじゃ……?
でも、アルフと違ってその辺はしっかり自重できそうだし、大丈夫なんだろうな。
「うん、可愛いリニスには似合ってるよ。夏に向けて涼しそうで良いね」
「そ、そうですか。じゃあ、これは買いにして……。他のを見てきますね」
そう言ってリニスは他の服を探しに行った。
あぁ、一着じゃないのね。
「タロー、私のも見なさい」
試着室を開け、プレシアさんが出てくる。
デニムのショートパンツに、ノースリレース……脚も腕もほとんど出している服装。
「正直、随分と露出が激しいですよね。でも、プレシアさんは35歳と思えないぐらい綺麗なので、こういう格好は似合いますね」
「あら、分かってるじゃない。でも、年齢のことを女性に言うのはタブーよ」
「すいません」
「分かればイイのよ。私の肌が綺麗なのは、魔法によってUVカットなどをしてるから、日焼けとは無縁なのよ」
「あぁ、そう言う魔法あるんですか……」
「女性魔導師には必須魔法よ」
知りたくなかった衝撃の事実。
だから若々しく感じるのかな?
「タローから似合うって言われたから、これは決定ね。さ、他のも探してこなきゃ」
そう言って買う物のカートに入れ、次々と服を探しコーディネートして行く。
これ、僕はいつまで付き合えば良いんだろう……。
服屋は2時間で出ることになった。
買った服の総額は、知りたくないレベルに達していた。
お陰で店員さんの対応が良い事……。
途中で飽きていた僕に椅子が用意され、さらにジュースが出るぐらいだよ。
お店に買ったものを預け、お昼ご飯を食べに行く。
リニスは地球の料理は分かっているが、プレシアさんは初めてなので、メニュー表を見て楽しそうに悩んでいる。
たっぷり悩んだ結果、和食膳にしていた。
これなら色々入っているからね。
あ、僕は当然カレーだよ。
しかも4種類のカレーを楽しめるスペシャルセットだ。
やっぱりカレーは素晴らしいね。
食後も買い物に付き合わされる。
靴から始まりバックから帽子、そしてアクセサリーと。
軽くこれも合わせて3時間……。
最後は僕にとって最大のピンチとなる下着コーナです。
さすがに一緒に入りたくなかったのですけど……。
「タローはまだ8歳なんだから気にすることないわよ」
「ま、まぁ、私は気にしませんから……。プレシアが良いならイイですよ」
そう言って左右から僕の手を引き、お店に入って行く2人。
気にすることはないんだけど……あれ?
「た、タロー!?」
「アリサ? なんでこんな所に?」
お店の中にはアリサがいた。
思い切り慌てているけど、どうしたんだろ?
「え、あっ、その……買い物よ。タローは?」
「僕は……この2人の買い物に付き合ってるんだよ」
そう言って僕は左右を見ると、アリサも左右の人物を見る。
リニスは少し恥ずかしそうにしているけど、プレシアさんは堂々としている。
「プレシア、この子はタローの学友ですよ」
「あら、そうなの? 初めまして、プレシア・テスタロッサよ」
「は、初めまして! アリサ・バニングスです」
アリサは緊張している感じだね。
とりあえず伝えておかなきゃ。
「アリサ、プレシアさんの事は前に説明したよね。フェイトのお母さんだよ」
「う、うん」
「プレシアさん。アリサにはジュエルシード事件の事は全部話してあるから、魔法のこととか大丈夫だよ」
「あら、そうなの? それなら遠慮はしなくてイイわよ。私もしないから」
「は、はい」
それにしても下着売り場でなんで自己紹介しているんだろ……?