第13話 炎雷
学園都市最大の電圧と学園都市最大の熱量がぶつかり合う。
それにより頭上にあったハイウェイは炭と化し、それを支える柱は砕け散り、地面はえぐれて行く。
それはまるで局地的な災害が起きたように破壊されて行った。
「まさか
「
木山の言葉に御坂が叫ぶが、そんな姿を見て木山は笑う。
「おや、
「初春さんが……?」
「あぁ。佐天くんと一緒に一緒に意識を失ったと言っていたからね」
御坂はその言葉で直ぐにその人物に辿り着く。
しかし彼女は能力のことなんて一切話したことがない。
まるで本人は興味が無いように。
「アリサ・バニングス。才能だけで上り詰めたが故か、なぜか一般の中学に通い、
木山はそう言い、炎の翼を広げ空を舞う。
ハイウェイを破壊した今、上空からの攻撃を一方的に行える木山の方が有利だ。
「アリサさんは出来損ないじゃない! レベルも序列も関係ない私の友達よ!」
「その友達がなぜ君に能力を隠していたのかな?」
「別に能力で友達になるわけじゃないからだよ」
木山の言葉を遮るように1人の男の声が聞こえる。
御坂と木山はその声の方を見ると、野球のユニフォームを身にまとった男が、能力で荒れ果てた道を歩いて来た。
「タロー!?」
「おや、君は先ほど見た一般人か。ここは
その言葉が聞こえているはずだが、タローは消して立ち止まらない。
木山は威嚇として何発か火の玉をタローに向けて撃ち出す。
「タロー、危ないわよ!」
「いや、この炎は僕を傷つけることはないよ」
威嚇をまるで気にせず近付いて来るため、木山は仕方なくタローの足にぶつけようと火の玉を撃ち出した。
その火の玉をいつの間にか着けていたグローブでタローはキャッチする。
「「え?」」
木山だけでなく御坂すら驚きの声を上げる。
一応、御坂は上条の
しかしあれは目の錯覚で、実際は上条が抑えたものだと勝手に自分の記憶を書き換えていた。
それほどまでに普通の人には信じられない光景なのだ。
「ははは……。同じ
木山は動揺しつつも、自分なりにその現象を納得させる。
そして御坂と撃ち合っていた威力の火の玉を十数発、タローに向けて撃ち出す。
しかし、タローをよく知る人には当然の現象として、火の玉はグローブで全てキャッチされる。
「僕とキャッチボールしたいのは分かったけど、そろそろその
「馬鹿な……なぜ
木山の叫び声で思い出したかのような表情をタローは浮かべる。
「そう言えば自己紹介がまだでしたね」
歩みを止め木山に向かってタローは答える。
「僕の名前は一之瀬太郎……見ての通りの野球選手さ」
「「いや、それはおかしい」」
御坂と木山のツッコミの声が揃う。
タローはそのツッコミをスルーしつつ、いつの間にか手に持っているバットを振り抜く。
ギュォン!
そんな音と共に一陣の風が吹き抜けた。
それによって起きた現象は、木山の纏っている炎の翼が消えた事だろうか。
「きゃー!」
炎の翼が消えて飛ぶことが出来なくなった木山が、らしからぬ可愛らしい悲鳴を上げながら上空から落ちて来る。
流石に1万の脳を統べていようが、本人が予想できないことに驚いてしまえば意味を持たない。
そして落ちてきた木山を難なくタローが抱きとめる。
「はい、タッチアウトだよ。木山さん……いや、木山先生か。そんな事しても、寝ているあの子達は喜ばないんじゃないかな?」
「君はどこまで知っている……」
タローの言葉に木山が反応する。
そんな木山にタローは笑いかける。
「君ではなくタローですよ。それと、木山先生とやったキャッチボールで伝わってきただけです。貴女がこんな事件を起こした理由とかね」
「そんな馬鹿なことが……。大体、君とキャッチボールなんて……」
木山は「僕とキャッチボールしたいのは分かったけど……」と言う、タローの言葉を思い出す。
思わずタローの顔を見上げるが、タローは優しく笑っている。
「常識に縛られてたら、先には進めませんよ」
「いや、タローは少し常識に縛られなさいよ!」
タローの言葉に思わず御坂がツッコミを入れる。
きっと誰もが思っていることだが、タローには無駄だろう。
「
そんな木山の絶叫が響き渡るが、その瞬間木山は頭を押さえて苦しみだす。
その姿を見て御坂も慌てて近付いて来るが、木山は言葉にならない様な悲鳴を上げ始める。
「ちょ、ちょっと、タローは何をしたのよ!」
「なんだろこれ?」
木山の変貌に御坂は声を荒げる。
その言葉にタローは首を傾げつつ、木山の頭頂部付近で動くAIMを掴んで引っ張る。
AIMとは能力者が無意識に周囲へ発している微弱な力のフィールドで、普通の人には見えるものではないし、当然掴むことも出来ないモノだ。
木山から引っこ抜かれたAIMは形を成し、空中に浮遊している。
「巨大な胎児……?」
御坂の呟きに答えるものは誰もいない。
木山は引っこ抜かれると同時に意識を失い、タローに答えを求めるのは無駄なこと。
胎児は声を上げながら、周囲を破壊し始める。
「何なのよアレ!」
「さあ?」
慌てて走って逃げる御坂と、木山を抱きかかえたまま付いて行くタロー。
胎児は闇雲に暴れているだけで、ある程度離れると追っては来ない。
「このまま距離を取れば安全だね」
「タロー。あそこの施設ってなんだか分かる?」
タローの脳天気な言葉に、御坂が胎児の先にある施設を指さす。
当然分からず首を傾げているタローに御坂は伝える。
「原子力実験炉よ。さっき黒子から報告があったから間違いないわ」
「ってことは胎児を放置したら……」
タローの言葉に御坂は冷や汗をかきつつ頷く。
そして2人は足を止める。
「役割分担! タローは木山を安全なところに避難させて。私は足止めをするわ」
「うん、分かったよ。あまり無理しないようにね」
「あれが止められれば無理でもなんでもするわよ!」
そう言って御坂は胎児の元へ走って行く。
タローは溜息を付きつつも、木山を抱きかかえたまま
「全く厄介な胎児ね……」
胎児に御坂の攻撃は通り、簡単に爆ぜるが直ぐに再生してしまう。
完全にそのものを消滅させても同様だ。
血が出ないだけ精神衛生上マシというだけだ。
「ホント、どうすればいいのかしらね……」
御坂はボヤきつつも、攻撃の手を休めない。
自分を囮として原子力実験炉に近付けさせないためにも。
「タローさん!」
「あ、飾利。目が覚めたんだ」
他に気絶していた人達も意識を取り戻し、各々行動している。
「何が起きているんですか? それと腕の中の木山先生は……」
「うーん、説明とかは僕の領分じゃないから良く分からいんだけどさ。とりあえず巨大な胎児が出て来て、原子力実験炉の方で暴れているから、美琴さんが現在足止め中ってところかな?」
タローのあっさりとした言い方に、初春は唖然とする。
原子力実験炉が破壊されれば、この学園都市にどれだけの被害が被るのか……。
「それと木山先生は……本人に聞いて」
「ふむ、なかなかお姫様抱っこというのは居心地が良いものだな」
既に意識を取り戻していたが、身体の自由がうまく効かず、タローに抱かれたままでいた木山は思わず呟く。
この緊張感の欠片もない2人に対して初春は深い溜息を付くしかなかった……。