第12話 多才能力者
1日ぶりに帰宅したタローは、家に誰の気配がないことに気が付く。
無断外泊をアリサに謝ろうと思っていたのに肩すかしされたが、後に回すと大変なことになりそうなのでアリサの携帯電話を鳴らす。
しかし、電源が入っていないようで連絡がつかず、のんびりと待つことにした。
タローの時間の潰し方は基本的にトレーニングしかないので、集中してやっているとあっと言う間に夜になってしまった。
未だ帰ってこないアリサとイレインに疑問を覚えつつも、タローは待つしか選択肢がない。
幾度と無くアリサに対して連絡を取ろうとするが、全く反応がないことに違和感を覚えつつも……。
そして次の日の早朝、イレインが帰宅した。
イレインはタローを見るとホッとした表情をするが、すぐに表情を引き締めてタローの前に来る。
「おかえりイレイン。何かあったのかい?」
「ただいま戻りましたご主人様。遅くなり申し訳ありません」
イレインの謝罪をタローは軽く流すが、イレインは頭を下げたまま動かない。
「どうかしたの?」
「お嬢様が意識不明です」
イレインが発した言葉により、タローが動揺した雰囲気を発する。
しかし、あえて口には出さず話の続きを催促している。
イレインは順を追ってタローに説明して行く。
先日、タローも関わった
その能力者は
それの事後処理にイレインが動いている最中、自分の
その後どう言う経緯があったかは分からないが、2人して
「そうか……生命の危機はないのかい?」
「はい。現在着替えなどを含めて私が一旦家に帰ってきた次第ですが、すぐさま病院へ戻りお嬢様の側について居たいと思います」
「うん、イレインはアリサをよろしく頼むね」
タローはそう言ってイレインに深く頭を下げる。
イレインはそれが強い願いであると同時に、自分の表情を見せないで居ることに気が付く。
「ご主人様、お嬢様の事はお任せ下さい。それでは準備がありますのでこれで……」
イレインは頭を下げ、リビングからアリサの部屋へ移動して行く。
タローは頭を下げたままイレインに感謝の言葉を呟き、顔を上げた。
そして自室に戻り、ユニフォームに着替え、窓から飛び出して行く。
「ご主人様お気をつけて……」
それをアリサの部屋の窓から見ながら両手を握り合わせ、祈るようにイレインはそっと呟いた。
「
風紀委員活動第一七七支部の通信システムより情報を取得している白井と御坂。
彼女たちは先日
それにより病院へ行ったが原因の特定には至らず、病院の要請により外部から来た大脳生理学の研究をしている木山春生と出会う。
木山は協力者として名乗りを上げ、現在は初春が昏睡に陥った佐天のためにと張り切り接触中。
しかし、別線で
それは
しかし、使用者はネットワークに取り込まれ、脳が自由を奪われてしまう。
「ジッとしているのは性に合わないし、私も出るわ」
御坂が白井に話しかける。
「黒子は
「お姉様!」
「あんたは私の後輩なんだから」
白井は先日の戦闘で負傷しており、無理を重ねている。
それに御坂が気が付かないはずはなく、優しく微笑む。
「こんな時ぐらい“お姉様”に頼んなさい」
歓喜のあまり白井がいつもの様に御坂に飛びかかるが、いつもの様に電撃で鎮圧される。
「じゃあ、それには僕も参加させて貰うよ」
いつの間にか扉の前に立っていたタローが居る。
「タロー、どうしてここに?」
「お姉様のお知り合いですか?」
「自己紹介は移動中にさせて貰うよ。ともかくウチの眠り姫を早く起こさないといけないからさ」
タローのそこ言葉で御坂は気が付く。
昏睡者には佐天だけでなくアリサも居た事に……。
「アリサは……」
「うん、話は後で。急いで行くよ」
そう言ってタローは階段を降りて行き、それを御坂は追いかけて行く。
そして御坂の呼んだタクシーに乗り込み、移動中に白井と自己紹介などをすませる。
木山は初春を助手席に乗せた車でハイウェイを逃走中、
「どうするんです? 年貢の納め時みたいですよ」
「
初春の言葉に笑いながら木山は答え、車から降りる。
そこには
慌てふためく
それを笑いながら見ながら、木山は風を操り
「馬鹿な! 学生じゃないのに能力者だと!?」
木山は笑いながら火を操り、水を使い、念動力を駆使して
御坂とタローの乗ったタクシーはその現場付近に辿り着くが、爆煙が上がる現場故にタクシーは近づけない。
2人はタクシーを降りて自分の足で現場に向かう。
「黒子、何が起こってんの?」
「木山が能力を使用して
御坂の携帯電話の先で白井が風紀委員の通信システムより情報を取得しながら伝える。
しかも木山が複数の能力を使っているという事実を。
「能力ってのは1人に1つだけ……例外はないはずよ!」
「状況から推測するしかないのですが、木山の能力は
御坂の叫びに白井は冷静に答える。
何千人もの能力者の脳と、ネットワークと言う名のシナプスでできた“1つの強大な脳”……それを操れるなら人間の脳ではありえないことも起こすと言う。
「この推測が正しいなら木山は実現不可能と言われた幻の存在……“
白井の報告を受けつつも、御坂とタローは現場に辿り着く。
そこには破壊された
「
御坂は思わず呟く。
それほどにも現場は荒れ果てていた。
そんな中、1台の車の助手席で初春が気絶しているのを見つける。
「初春さん、しっかりして!」
「安心していい。戦闘の余波を受けて気絶しているだけだ。命に別条はない」
御坂の呼びかけに初春ではない別の人物が答える。
2人はその声の方向を見ると、この荒れ果てた場所で無傷の木山が1人立っていた。
「御坂美琴……学園都市に七人しか居ない
周りの砂煙を飛ばし、2人に対峙する木山。
「君に1万の脳を統べる私を止められるかな?」
自信ありげに言葉を発する木山を前に御坂は呟く。
「タローは
「美琴さんはどうするの?」
「私は……木山を止める!」
御坂の言葉が終わると同時に電撃同士が空中でぶつかり合う。
2人が能力を使い戦い始めた。
御坂が木山を現場から引き離して行ったのを確認し、タローは動き始める。
「人命優先……なんだよね。とりあえず言われたことをやるよ」
タローにしては珍しく、ぶつくさ文句を言いながら
一方、御坂と木山は戦闘を続ける。
「驚いたわ。本当に能力を使えるのね。しかも“
「その呼称は適切ではないな。私の能力は理論上不可能とされるアレとは方式が違う。言うなれば“
木山の足元から水の刃が飛び出し襲いかかるが、御坂はそれを走って回避し続ける。
「呼び方なんかどうでもいいわよ。こっちがやることに変わりはないんだから」
御坂はそう言い電撃を木山に放つが、木山の周辺に張り巡らされた能力の壁に遮られる。
単体では防げない電撃も、幾つかの能力を組み合わせて避雷針のようなものを作り出していた。
「どうした? 複数の能力を同時に使うことは出来ないと踏んでいたのかね?」
木山は笑いながらハイウェイを破壊し、御坂を遥か下に落とす。
しかし、御坂は電気を足に纏い、重力に逆らい金属の柱に立つ。
地面に無傷で着地した木山は、状況に応じて能力を自在に使い分けて御坂に攻撃を続ける。
「もう止めにしないか? 私はある事柄について調べたいだけなんだ。それが終われば全員開放する。誰も犠牲にはしない……」
「ふざけんじゃないわよっ!」
御坂の攻撃……電撃を防ぎ切り、砂鉄の剣を防御し一切無傷の木山はそう伝えるが、御坂の怒鳴り声でかき消される。
「誰も犠牲にしない? アンタの身勝手な目的にアレだけの人間を巻き込んでおいて……人の心を弄んで……こんなことをしないと成り立たない研究なんてロクなもんじゃない! そんなモノ、見過ごせるわけ無いでしょうがっ!」
御坂の言葉に木山は深くため息を吐く。
「学園都市で君たちが受けている“能力開発”……アレが安全で人道的なものだと君は思っているのか?」
「!?」
「学園都市は“能力”に関する重大な何かを我々から隠している。それを知らずに学生たちの脳を日々“開発”しているんだ。それがどんなに危険なことか分かるだろ?」
木山の言葉にミサカは動揺するが、我に返って攻撃を再会する。
「なかなか面白そうな話じゃない。アンタを捕まえた後でゆっくりと調べさせてもらうわっ!」
しかしそんな御坂の攻撃も木山には通用しない。
「だが、それもここから無事に帰れたらの話だ」
木山はそう言って他の能力を止める。
そして背中から炎の翼を作り出す。
「さて、他の能力では防げる君も
「その、炎の翼は……?」
「おや、知らないのかい? 君たち
そして木山は少し空に浮き、周りに火の玉を浮かばせる。
その幻想的な風景と熱量に御坂も数歩後ろに下がり、警戒の色を強めた。
「さて、