第15話 眠り姫
すべてが終わり、現場に
「何とかなりましたね……」
初春の言葉に御坂は頷くと、ポテっと地面に倒れ込む。
「御坂さん!? 大丈夫ですか?」
「ど、どうしたんだ!?」
初春と木山が心配そうに声をかけるが、電池切れと呟く御坂に思わず呆れて顔を合わせてしまう。
「どうすんの? タローはともかく、今の私にはあんたを止めるとからは残ってないけど?」
「……いや、ネットワークを失った今、
御坂の言葉に木山は微笑みながら言う。
「だが、あの子達を諦めたわけじゃない。もう一度最初からやり直すさ。理論を組み立てる事はどこでも出来るからな」
「あの子達?」
木山の言葉に御坂は首を傾げる。
初春も何のことか分からず頭の上にハテナマークを浮かべている。
「そう言えば君たちには話していなかったな」
そう言って木山は語りだす。
過去にAIM拡散力場の研究に従事しており、その過程で被験者である“
しかし、その子供達は非人道的な実験の犠牲となり、昏睡状態に陥る。
以後は子供達を目覚めさせることを第一に研究し、そのために必要な“
そこで、代替の演算装置として制作した“
「そんなことがあったとはね……。でもアンタがやったことも同じことよ!」
「御坂さん……」
木山のやったことに御坂は強い批判をする。
そんな中、がれきに腰掛けていたタローが立ち上がり、おもむろに屈伸などの準備体操を始めた。
「タローさん……なにやってるんですか?」
「ん? 全力を出す準備」
「なんですかそれ?」
初春の言葉に返事をしつつ、準備体操を終えたタローは集中し始める。
訳の分からない3人はそれを黙って見つめている。
「木山先生……貴女がやった事が良い事なのか、悪い事なのかは僕には良くわかりません。でも、アリサを巻き込んだのだけは許す気にはなりません」
「そうか……
「
木山の言葉を遮るようにタローは言う。
「でも、子供を何としても助けたい先生ってのは、良い教師だと僕は思いますから……。1度だけ、1度だけ協力しますね」
「「「……?」」」
タローの言葉の意味を3人は理解できない。
集中を終えてタローは気合を込めたガッツポーズをする。
グッ!
その瞬間、雲の合間から学園都市のとある場所に不思議な光が差し込む。
「綺麗な光……」
「薄明光線……いや、それにしては不自然過ぎるな……」
そして光は何事もなかったように収まる。
タローはリストバンドで汗を拭い深く息を吐きだす。
「さすがに全力を出した後に細かい動作は疲れるね」
珍しく全身にびっしょりと汗をかいたタローが呟く。
そんなタローをジト目で御坂が見つめる。
「タロー……アンタ今、何やったのよ!」
「えっと……目覚まし?」
「なんで自分が言った言葉に首かしげてるのよ! いい加減常識という枠に大人しく入りなさい!」
御坂の言葉にタローは首を傾げ、初春と木山が優しく御坂の肩に手を置く。
「御坂さん……それはタローさんには無理ですよ」
「御坂くん。それは論理的ではないよ」
「なんで私が2人にツッコまれなきゃならないのよー!」
御坂は地面に座りギャーギャー喚く。
そんな中、
木山は手錠をはめられた。
「それではしばらく檻の中でゆっくりするとしよう」
そして護送車に連行されていった。
それを3人が眺めていると、後ろの方から勢いのイイ足音が聞こえてくる。
タローは初春を引っ張り、御坂から数歩離れた。
「お姉様ぁぁぁぁぁ!!!!!」
電池切れで動けない御坂に白井が飛びついてくる。
「ああっ御髪に乱れが! ひぃい! お肌に無数の擦り傷がああ!!」
御坂に頬ずりしつつ、白井は叫んでいる。
「どうやら電撃を飛ばす体力も残っていないご様子。ここは黒子が体の隅々まで看てさしあげますのよ」
「く、黒子? ちょっと待ちなさ……」
御坂の言葉を遮るように白井は御坂の全身を弄り始める。
「ギャー!!」
女性とは思えない御坂の悲鳴が木霊する……。
そんな2人を放置して、タローは初春の方を向く。
「飾利。ここはあの2人に任せて、僕らは病院へ行こうか?」
「えっ……でも……」
タローの言葉に初春は戸惑う。
「今日のところは上がって結構ですのよ」
「え? 白井さん?」
「病院から連絡がありましたの。“
その言葉に初春は驚きの表情となる。
「貴女のおかげですわよ初春。頑張りましたわね」
タローも御坂も白井の言葉に頷く。
初春は涙を浮かべるが、急にタローに抱き上げられ、顔を真っ赤にする。
「ちょ、ちょっと、タローさん。何してるんですか!?」
「ん? 早く涙子に会いたいだろ。超特急で行くよ」
「え、えっ、えー!?」
タローの言葉を初春が理解出来ぬまま、タローは走りだす。
「口開けてると舌噛むから気をつけてね」
「んー!!」
「あ、もう噛んだのね」
涙ながらに訴える初春。
しかしタローは街灯に足をかけ、ビルの上に跳ね上がり、色々なものを足場にして病院へ一直線で進んで行く……。
ズザザザザ!
病院の屋上に飛び降りて来たタロー。
初春はすでに腕の中でぐったりしている。
「た、タロー? それに初春まで!?」
屋上に1人佇んでいた佐天は驚きの表情を浮かべた。
タローはそのまま佐天の目の前まで移動して、初春をそっと降ろす。
「やあ、涙子。お目覚めだね」
「起き上がって大丈夫なんですか? どこか痛かったり吐き気がするとか……」
復活した初春が、口早に佐天に問いかける。
「アハハ、ちょっと眠ってただけだもん。すっかり元通りよ。能力が使えないところ……」
佐天がそう言って能力を使うように初春に手をかざす。
その瞬間、ふわりと風が舞い、初春のスカートがめくり上がる。
「「!?」」
あまりの出来事に佐天だけでなく初春まで言葉を失う。
タローはそんな2人に微笑み、屋上を後にする。
「いいい、今のって!?」
「ののの、能力ですよ! 佐天さんの、能力!!」
「あたしの!? でも……だって……」
「一度能力を発動させたから、感覚が残ってるのかも知れませんね!」
そう言って初春は笑顔で佐天の両手を握り締める。
「体の具合とか大丈夫ですか? 何か変化とか……」
「えっと、うーんと……特に何もないのよね」
初春の問いかけに佐天は首を傾げる。
「ただ、寝ている時に夢を見たよ」
「夢……ですか?」
佐天はコクリと頷く。
「夢のなかで朦朧としていたあたしを起こそうと、強烈な光のような送球……まるでレーザービームみたいなのが全身を駆け抜けたのよ」
「なんですかそれ……」
「さあ? あたしも良く分からないよ〜」
呆れる初春に、佐天は笑いながら答える。
その笑いは初春に伝染し、屋上では2人の笑い声が木霊していった。
アリサの気配だけで病室を探し当て、そっとその扉をタローは開いた。
その病室には1つのベッドと、そこにまだ眠るアリサがいた。
「ただいま、アリサ。全部終わらせてきたよ」
「…………」
そう言ってベッドの横、アリサの顔位置まで移動する。
「さすがに全力を出しきったから、少し疲れたよ。アポロキャップもユニフォームもダメになっちゃったしね」
「…………」
そう言って消し炭と化した物を思い浮かべる。
タローは顔に付いている煤や、身体に付いている埃を払う仕草をしようとするが、病室ということを思い出して留まる。
「そろそろ目を覚ましてくれないかな? アリサが目を覚まさないと、
「…………」
タローは珍しくアリサから視線を逸らし、指で頬をポリポリと掻く。
その頬は何となく赤い。
「アリサに黙ってするのもアレなんだけど……。起きてよ、僕の眠り姫」
「…………」
タローはそう言い、アリサの唇に優しくキスをする。
そしてタローはアリサから顔を離そうとすると、ベッドから伸びてきた両腕に抱きしめられる。
「ばか……遅いわよ」
「おはよアリサ……」
そのタローの言葉を遮るように、アリサはタローにキスをする。
「おはよタロー。それと……ありがとね」
「アリサ……僕、結構汚れているし、汗を結構かいたから離れたほうが……」
「い・や・よ」
そう言ってタローを抱きしめる腕に力を込める。
タローは呆れながらも両腕でアリサを抱きしめ、ベッドから起き上がらせた。
「さ、帰ろっか。僕達の家に」
「そうね。イレイン、退院の手続きをお願いね」
「はい、お嬢様」
そう言って窓の外から撮影していたイレインが室内に入って来る。
ホント何やってるんだこの自動人形……。