第22話 エピローグ
シュタッと学園都市の壁を乗り越え、アリサをお姫様抱っこしたまま外に着地するタロー。
そして周りをゆっくりと見渡すと、お目当ての人物を見つけ出し、そっちに向かって歩いて行く。
「やぁ、そっちは無事に出てこれたんだね」
「当然。タローがアレだけ騒ぎを起こせば、我らの脱出は容易い事」
「いや、僕だけのせいにしないでよ……」
タローの言葉に当然のように返事をするのは、先ほど学園都市で別れたアウレオルス・イザードだ。
ちなみに三沢塾で会った時に着ていたのは白いスーツだったが、さすがに目立つため今は黒いスーツを身に纏っている。
「そう言えばステイルは?」
「必然。任務完了のためイギリスへ帰国すると言って去った。タローに感謝を伝えて欲しいとの言伝を受けている」
「そっか……また会えると良いな。今度はイギリスへ直接行くのも……」
タローは言葉途中に服を引っ張られ、そっち……引っ張った人物を見る。
「どうしたのアリサ?」
「この人がさっき言ってたアウさん?」
「唖然。
アリサの呼び方に不満気に言葉を挟むが、表情は怒っておらず穏やかだ。
既にタローに毒され……慣れてきているのかもしれない。
「あたしはもう学園都市から出たの……だから
「了然。ならばその名は私が受けよう。その名に相応しきものを用意し、タローの横に立つに手助けしよう」
アリサの言葉に突然アウレオルスが宣言する。
そしてタローへ視線を移す。
「同然。タローにも送らせてもらおう」
「うん、ありがと。楽しみにしてるよ……僕の全力が出せるバットをね」
「……努力しよう」
タローの嬉しそうな表情と求めるモノに若干後悔しつつ、アウレオルスは錬金術の全てを賭ける覚悟を決めた。
コレがいつの日か次元の壁を打ち破ることとなるとは、さすがに
3人でそんな事だけでなく次元野球について話しをしていると、リムジンが横付けされ運転手とメイドが降りてくる。
「アリサお嬢様、お久しぶりでございます」
「鮫島!」
恭しくお辞儀をした鮫島と呼ばれた人物は、バニングス家の執事兼運転手をしている男性。
そしてメイドは学園都市の機能を停電という荒業で一時的に麻痺させたイレインだ。
「海鳴市までお車の中でゆっくりとお休みください」
そう言ってリムジンのドアを開け全員を乗せ出発する。
「鮫島……無理言ってごめんね」
「いえ、お嬢様がタロー様に着いて行くと言った時より、この程度のことは想定済みでございます」
「あれ? 遠回しに僕が非常識って言われてる?」
鮫島の言葉にタローが反応するが、スルーして話を続ける。
「それよりも旦那様がお会い出来るのを楽しみにしておりますので、逆に帰宅はよろしい事かと」
「お父様とも4ヶ月会ってないものね。でも、これからは家から通える学校にするから平気よ」
「はい。転校手続きは全て滞り無く終わらせております」
さも当然のごとく鮫島は言うが、夜から明け方の間に手続きを済ませるには、相当無理や無茶を通さねば出来ない。
しかしそれを可能にする男……バニングス家の執事長の役職はダテではない。
その後アリサは
それを優しげな表情で見つめ、そっと髪を撫でるタロー。
「何だか毎回振り回してごめんね」
「う〜ん……タロー……」
「アリサ、いつもありがとうね」
そんな2人を鮫島は嬉しそうに見ていた。
◇
「土御門元春」
「お呼びですかにゃー?」
窓のないビルの一室でアレイスターの声に土御門がのんきな声で返事をする。
「やはり抑えきれなかったか……」
「当然だろう」
先程までの雰囲気から一転、土御門は冷たい声で答える。
サングラスが冷たく光り、上下逆さまのアレイスターの顔を反射させた。
「彼をいつまでもこの街に閉じ込めておく……しかも鎖付きで。そんな事は不可能だと俺は言ったはずだ」
「あぁ、アレは私の計算ミスだったよ。だが、今回の取引はそれを帳消しにしてくれた」
思い浮かべるはアリサとの取引。
元々タローをアリサ共々学園都市から追い出す予定だったアレイスターにしてみれば、全く損のないものだ。
「
「
土御門の言葉にアレイスターはそう言って笑う。
変えの人材を用意すれば良い……そんなアレイスターの考えを土御門は読むことが出来なかった。
この後、
それによって序列6位は影も形も掴めなくなり、火力だけを称し“一人で軍隊と渡り合える”学園都市に歯向かった事から“人格が破綻している”などの断片的で間接的な噂だけが広がって行った。
「それに
「
精一杯の皮肉を込めて笑いながら土御門は言う。
それを気にも止めず、アレイスターは微笑み余裕を持って答えた。
「なに、全ては順調に進むさ。彼が交わらず、私がここにいる限り」
そしてタローが今後は学園都市に関わらないとしても、騒ぎに自分から踏み込んだり、なんとなく巻き込まれる事はなぜか多い。
例えば神奈川県の某海岸……。
「やあ、火織さんお久しぶり」
「た、タロー!? ななな、なんでここに?」
「ん? 家族で海へ旅行だよ。それよりも火織さん。なんで人の外見と中身が変わってるのか知ってる?」
「!?」
「おっかしいんだよねー。でも火織さんはそのままだし、その後ろにいる当麻の友達も変わってないでしょ」
「あぁ、そう言えば俺の名前は名乗ってなかったな。土御門元春だよろしくなタロー」
「うん、元春さんヨロシク」
「“神の力”は私が押さえます。あなたは刀夜氏を連れて一刻も早く逃げてください」
「な、なんで……」
「そうだよ当麻。折角神様と野球するチャンスなんだから邪魔しないでしょ」
「いえ……タロー、それはなにか違う気がします」
「え、そうなの? むしろ火織さんも安全な場所へ行っても良いんだけど……」
「素人に気遣われても侮辱にしかなりません!」
「なんでお前らそんなに余裕なんだよ……。ったく、頼んだぜタローに神裂!」
「さて
「——
例えば学園都市から遠くない場所にあるパラレルスウィーツパーク……。
「ねえ、なんでこんな夜中に修道服で両手を拘束されて、口まで塞がれてるの?」
「むぐー。むがむぐむむぐむーむー」
「うん、このテーマパークの近くにあるホテルに家族で宿泊しているんだけど、知り合いの気配があったから見に来たんだ」
「むむむ? むーむがむーむー」
「結界? 何ソレ? それよりも息苦しそうだからそれ外すね」
「ありがとうございます。それより、あなた様は一体何者なんですか?」
「僕の名前は一之瀬太郎。通りすがりの野球選手さ」
「それはどうもご丁寧に。私はオルソラ・アクィナスと申します。只今絶賛追われている身でございます」
「へー、それは大変そうですね」
「そうなんでございます。私は混乱に乗じて何とか抜け出すことが出来たのですが……」
「オルソラ……タロー!? お前ら一体何やってんだ?」
「上条様?」「当麻?」
例えばイタリアのキオッジア……。
「なぜタロー様はこんなところに?」
「えーっとね。イギリスのグレアムさんの家に行こうと思ったら、間違えてイタリアに来ちゃったみたいなんだよね」
「なるほどでございますね。イギリスとイタリア、似ておりますから仕方がありませんでございましょう」
「いや、迷子になった俺が言うのもなんだけど、似ても似つかねーから」
「イギリス」「イタリア」
「タローとオルソラで同時に言っても似てないから! 文字にしても2文字しか合ってないから!」
「4文字中2文字なら半分あってるよ」
「そうでございますよ上条様」
「あー、この2人が揃うと俺のツッコミだけじゃ間に合わねー!」
「タロー様はどうやってイギリスへ行くおつもりでございました?」
「うん、走って」
「なるほどでございますね」
「それも意味わかんねー!!」
◇
「「「「「アリサ(ちゃん)おかえりー」」」」」
海鳴市に戻って来たタローとアリサは久しぶりに会う友人たちと夏休みを満喫した。
しかし転校の事は敢えて言わずに秘密にしており、そんなアリサが夏休みが終わり二学期が始まると私立聖祥大附属中学校に転入して来た。
みんなは驚きつつもアリサを笑顔で迎え、昼休みの屋上でお弁当を食べながら歓迎してくれている。
「それにしても秘密にしとるとは、アリサちゃんも酷いでー」
「そうだよアリサ。今回の転校だけでなく、学園都市に行っちゃうことも秘密にしてたのは駄目だよ」
はやてとフェイトに詰め寄られながらも、笑いながらアリサは誤魔化してる。
「それでアリサちゃんが海鳴市に帰って来たってことは、タロー君は風芽丘学園に転校したの?」
「違うわ。タローはこれからチームメンバーやスタッフを集めるために、管理外世界を飛び回るみたいなのよ」
すずかの言葉にアリサは首を左右に振る。
「おいおい、それでも中学は義務教育なんだろ。あたしだって通わされてんのにアイツは何やってんだよ!」
「ヴィータ? 通わされてるって……私と学校に行くん嫌なん?」
「はやて、そんな意味じゃねーよ。あたしははやてと一緒に学校に行けて嬉しい……」
「私もやでー」
ヴィータの言葉の途中ではやてが抱きつき、嬉しそうにワシャワシャと髪を撫でる。
一応手では嫌そうに振舞っているが、ヴィータの表情も嬉しそうだ。
そんな2人を面白そうに見ながらなのはが口を開く。
「はやてちゃんとヴィータちゃんは置いといて……アリサちゃん、タロー君はどこ行っちゃったの?」
「それは……」
「今日からこのクラスでお世話になる一之瀬太郎です。ちょっと事情があって休みがちになると思います」
「おいおい、一之瀬。転校早々、サボり宣言とは見逃すことは出来ないぞ」
タローの自己紹介に教師が軽く突っ込みを入れ、クラスがドッと笑いに包まれる。
科学の学園を飛び出してきてしまった以上、それとはなるべくかけ離れた場所……。
凶悪なまでの認識阻害によって、タローが異常ではなく普通と認識されてしまう学園に転校させられたが、本人は至って呑気に野球のことを考えているだけだ。
「好きなスポーツは野球です! 皆さんよろしくお願いします」
拍手でクラスに迎えられたタローがこの学園で騒ぎを起こすまで、まだ1年以上の時間がある。
それまでは各管理外世界を飛び回りチームメイトの勧誘を行い、それが終わった中学3年生から次は始まる……かも知れない。
あとがき
これにて「とある球技の完全試合」は終了です。
一応学園都市から逃げた形になりましたが、学園都市以外でなら話を混ぜることはできます。
なので、原作4巻「エンゼルフォール」7巻「法の書」11巻「アドリア海の女王」は書けるので、一先ずダイジェスト的に会話だけ載せてみました。
その辺の掛け合いから想像して笑ってもらえると幸いです。
最初は拍手用のネタでしたが、驚きの反響で連載として書き始めることとなりました。
その時から原作2巻、アウレオルス・イザードの救済と、救済された彼によって作られる最高のバットを……の予定でした。
最後は勢い余って麦のんやていと君を出しましたけどね。
そんなに長い話ではなかったですけど、最後までお付き合い頂きありがとうございました。