第1話 夢の中で逢った、ような……
少女は荒れ果てた暗い街の中で、ナニカと戦う1人の長い黒髪の少女の姿を見た。
ナニカには巨大な歯車のようなものが付いていているが、アレが何なのかさっぱりわからない。
巨大なビルやコンクリートの塊が宙を舞い黒髪の少女を襲うが、それを避けながらナニカに向かって攻撃をしようとする。
しかし、黒髪の少女の力はナニカに通用せず、ナニカの攻撃を避けるので精いっぱいだ。
「酷い……」
その光景を見て少女は呟く。
「しかたないよ。彼女1人には荷が重すぎた」
少女の隣には白い小型犬の様な謎の生物がいた。
その生物が喋ることに違和感を感じず、続く言葉を少女は聞いた。
「でも、彼女は覚悟の上だよ」
その言葉と共に吹き飛ばされ、ビルに叩きつけられる黒髪の少女。
叩きつけられたビルに身体が埋まり捕らわれてしまっている。
「そんな、あんまりだよ! こんなのってないよ」
絶望的な戦い……いや一方的な攻撃を受けている黒髪の少女の姿を見て、少女は悲しくなり叫んだ。
その叫びが聞こえたのか、黒髪の少女と目が合った気がした。
声すらも届かないほど遠くにいているはずなのに、なぜか目の前にいるように感じる。
2人共に同じくらいの歳だ。
「諦めたらそれまでだ」
謎の生物は相変わらず淡々とした調子で喋る。
「でも、キミなら運命を変えられる。その力がキミにはあるんだ」
「ほ、本当なの……? 本当に、私にそんな力があるの?」
「もちろんさ」
「ど、どうすればいいの?」
「そのために、僕と契約して、魔法少女になってよ!」
「魔法……少女?」
謎の生物の言葉を少女が復唱する。
その呟きが聞こえないハズの黒髪の少女は、少女のことを悲しそうな表情で見ているような気がする。
「その必要はないよ」
その言葉とともに、どこからとも無く飛んできた白球が謎の生物を消滅させ、その先にある黒髪の少女が埋まっていたビルが粉砕される。
「レーザービームみたい……」
少女は目の前で消滅した謎の生物の事よりも、白球が飛んで行った光の道を見て思わず呟く。
そんな少女の横を一陣の風の様に、1人の少年が走り抜ける。
その少年は野球のユニフォームを着ており、背中には“51”と言う背番号が見える。
ビルに捕らわれていた黒髪の少女が開放され、ゆっくりと下に落ちて行くところを、その少年が抱き止める。
「もう、大丈夫だよ」
その少年の言葉に2人の少女は安堵の表情を浮かべ……。
ゆっくりと目を開け、布団からむっくりと起き上がる。
そして今いる状況が良く分からず、パチパチと音がするように瞬きをする。
「夢オチ?」
少女が周りを確認すると、いつもの自分の部屋の、いつものベッドの上。
確かに良く考えれば、巨大なビルが飛び交うなんて非常識な光景。
それを現実だなんて思えるほど、少女の頭の中は春ではない。
しかし、夢の中で見た黒髪の少女、そして背番号51の野球選手とは、どこかで会ったような気がした……。
カツーン、カツーン、カツーン。
時空管理局の廊下を1人の男性が2人の女性を引き連れ歩いている。
3人は管理局の制服を身に纏い、背筋を伸ばしてしっかりと歩いている。
男性はあまり背は高くないものの、整った容姿をしており、執務官の役職にある17歳。
2人の女性は猫耳と尻尾が付いているので使い魔だということが良く分かるが、とても美しい容姿をしている。
そして1つの大きな扉の前に立つと、男性は深く息を吐き扉を開ける。
ミッドチルダの共用言語が読めるならば、その扉の上にはこの部屋を示す文字が読めるであろう。
世界の記憶を収めた場所である“無限書庫”と……。
扉を開くと円筒形で縦に無限とも思われる程に長く伸びており、通路と思われる部分がその内部を縦横に走っている。
無重力状態なのか、複数人の司書が飛んで奥の方へ行ったり、戻ってきたりと忙しない。
3人は慣れた様子でこの無限書庫の頭脳とも言われる場所へ赴く。
そこには1人の少年が球状の紙に囲まれ、忙しなくキーボードを叩いていた。
その横に女性というには……はい、いくつになっても女性は女性ですよね。
3名の女性が半球状の紙に囲まれ、少年同様に忙しなくキーボードを叩き、色々とインカムで指示を出している。
「あれ、クロノじゃないか。この間頼まれた資料は既に送ってるはずだよ」
「ああ、アレは本当に助かったよ。ユーノのお陰で無罪を勝ち取れた」
「そっか、それは良かった。それで今日はリーゼ姉妹となんの用事だい?」
ユーノと呼ばれた少年がキーボードを打つ手を止め、球状の紙を開放する。
それに合わせ、回りにいる3人の女性も同じ様に一息をつく。
3人の女性は司書長補佐の腕章をしており、名前をプレシア、リニス、アルフと言う。
通称テスタロッサ家、無限書庫組……と言いつつも、他には執務官で活動しているフェイトしかいないが。
「あらクロノ、フェイトは元気にやってるかしら?」
「プレシアさん。それは僕に毎回聞いても意味ないと思いますが……。だって、ほぼ毎日通信で話をしているんでしょ」
「そうよ! 仕事がなければ一緒にいるし、仕事なら手伝えるものは全て手伝う。そのためにこんなカビ臭い職場で頑張ってるのよ」
プレシアは、ふふん! っと言う擬音が聞こえるほどに、自信満々に胸を張る。
「プレシア……カビ臭いは言い過ぎです。せめて歴史を感じさせる匂いとかにしないと……」
「リニスのもフォローになってないとあたしゃ思うんだけど……」
プレシアを見てリニスがたしなめるが、むしろ煽っているようにしか感じない。
悪意がないだけマシだが、アルフにしてみるとどっちもどっちと言う感じだ。
「雑談はこのへんで一旦止めて、ユーノにはこれを見て欲しかったんだ」
みんなの会話を一旦止めさせ、クロノは指を鳴らす。
それによりリーゼ姉妹が結界を張って周りに気が付かれないようにすると、クロノは空中モニタを展開する。
そこには色々なデータがびっしりと詰まっているが、無限書庫で働いている人達に、この程度の量を読んで把握するのに時間はいらない。
「
「やはりユーノはS級秘匿指定でも知っているか……」
クロノの言葉にユーノはうなずく。
「これが第97管理外世界にあると知ったら……ユーノはどうする?」
「!?」
無限書庫に働いている4人が驚く。
ここに居る7人共に第97管理外世界……つまり地球に住居を構え住んでいるからだ。
「そして出来れば三人娘には伝えずに片付けたい。今のあの子たちに過度の負担は掛けたくないんだ」
「それは僕も思うけど……」
クロノの言葉にテスタロッサ家は強く縦に首を振っている。
正直三人娘……なのは、フェイト、はやては優秀過ぎるが故に、無理をしすぎている。
しかも、困った人を放おっては置けない性格をしているために、どんどんと負担を自ら背負い込む。
既にフェイトは2名目の保護児童を抱えようとしているぐらいだ。
「そう言う訳で、ユーノ。お前に力を貸して欲しい。S級秘匿指定だと担当できる人間が少なすぎる。だから僕とユーノの2人で担当したい」
「でも、僕がいなくなると無限書庫はどうするんだい?」
クロノの言葉にユーノは不安そうに言う。
正直ユーノはこの無限書庫の司書長としての責任ある立場で居るわけだ。
そう簡単に抜けられるはずも……。
「「「行って来なさい、ユーノ司書長!」」」
テスタロッサ家の3人が声を揃えて言う。
司書長補佐……3人の裁決があれば、司書長がいなくても問題はない。
「で、ですが……」
「ついでにユーノの抜けた穴はリーゼ姉妹を出向させることで埋める」
「私達にお任せですよ」
「そういう事だから行って来なよ淫獣」
ユーノを後押しするようにクロノとリーゼ姉妹が言葉を発する。
その言葉に覚悟を決めたのか、ユーノは力強く頷く。
「じゃあ、お願いします。なのはの住む地球を
「そうよ、フェイトの負担は極力減らしなさい」
「はやて達が住んでいるんだからよろしく頼むよ」
ユーノの言葉にプレシアとロッテが被せる。
正直身内の事となると必死になるもんだ。
そしてクロノとユーノのコンビが秘密裏に結成された。
目指すは第97管理外世界地球、