第2話 奇跡も、魔法も、あるんだよ
ドドドド……。
静かな町中にバイクの排気音が響き渡る。
ホンダのバイクであるVTR250、カラーはパールコスミックブラックにスーツを着た男性……クロノが跨っている。
「それにしても変わった街だな。地球にしては近代的で、人工的な景観の緑地や小川に整備されている」
街を軽くバイクで流し、一息を付いたクロノはそう呟く。
当然ただ流したわけではなく、サーチャーを散布していた。
(クロノ、妙に僕の配分が多いんだけど嫌がらせかい?)
見滝原まではクロノのバイクを二人で乗り、街に入ると同時に別れたユーノから念話が入る。
(なんだ、もう散布は終わったのか?)
(いや、まだだけど……)
(それなら早くしてくれ。僕の方はもう終わるぞ)
(クロノはバイクだろ! なんで僕は徒歩なんだよ)
あっさりと言い放つクロノに対し、ユーノは愚痴る。
(免許を取得した者の特典さ。悔しかったらユーノも取れば良いじゃないか)
(簡単に言わないでくれよ。僕はまだ地球だと中学校に行かなければいけない年齢なんだよ)
管理世界での免許や資格取得には制限年齢がほとんど無く、優秀であれば誰でも早い段階から取得できるが、管理外世界ではそうは行かない。
地球でのバイクの免許を取るには16歳以上となっているし、2人乗りは免許取得から1年の経過が必要だ。
ユーノは現在中学2年生と同じ14歳のため、現在17歳となっているクロノと違い免許の取得は無理だ。
(あぁ、そうか。本来なら中学校にユーノは通わなきゃいけない年齢だったな)
(そうだよ! だからこっちでバイクなんて乗れないんだよ。ミッドに行けば車は乗れるんだけどさ)
ミッドでの移動手段として車の免許は取得しているユーノはボヤく。
当然クロノも取得しているし、現在フェイト達が教習所に通っているらしい。
(2人乗りさせてもらったけどバイクは意外と面白そうだね)
(ああ、車とは違った良さがある。ミッドで免許を取得したらどうだ?)
(そうだね、これが終わったら考えてみるよ)
ユーノもバイクの魅力に取り付かれたようだ。
魔導師はバリアジャケットなどがあるので、わざわざライダースーツを着なくても安全なため、バイク好きは結構多い。
(それで、中学2年生のユーノ君……)
(なんだよ、わざとらしい呼び方してさ)
(知ってるか? 地球では中学までが義務教育らしいぞ)
(それは当然知ってるよ。なのは達も中学を終えるまでは、管理局の仕事一本に絞れないって言ってたしさ)
クロノの質問にユーノは嫌な予感がする。
そう、まるで八神家で逃げ道を全て塞がれ、地獄のシャマル料理を食べさせられた時のように……。
(そう言う訳で、ユーノの転入は明日からだから)
(え?)
(だから、見滝原中学校の二年生を頑張ってくれ)
(えーーー!!)
クロノの言葉にユーノは念話で絶叫する。
もしかしたら声に出してるんじゃないかとクロノは想像して笑いを噛み締めている。
(な、なんでそんな大事なことを今、言うんだよ!)
(だって、明日転入だから、その前に言わないと駄目だろ)
(前に言うのは当然として、前日に言うバカがどこに居るんだ!)
(あっはっは、忙しくってね。悪い悪い)
(絶対ワザとだ! 何、思いっきり笑ってんだよ!)
(そうそう、引越しの荷物とかは全部マンションに送って貰ってるから、後で食料品とか買い出しに行かなきゃな)
(僕の話を聞けー!!)
ユーノの訴えを軽く退け、次の話題に移行するクロノ。
相変わらずユーノは人に流されやすいというか、被害を被りやすい。
そんな中、2人は何かを感じ取った。
(クロノ!)
(あぁ、分かっている。これが魔女の結界なのか?)
(うん、間違いないね。封時結界とかとはぜんぜん違う、独特の雰囲気だ)
魔女の結界に気が付いた2人は緊張感に包まれる。
(クロノ、場所は今デュランダルに送ったよ!)
(病院か……厄介だな。ユーノ、サーチャーはどれぐらい終わってる?)
(……7割は終わってる。それは良いから僕の向かうよ!)
(いや、駄目だ。ここで後回しにすると、後手に回る可能性がある。僕の位置からなら直ぐに着くから、ここは任せてくれ)
クロノの言葉にユーノは黙りこむ。
しかし時間がないのが分かっているので、すぐに念話を送る。
(大丈夫かい?)
(誰にその言葉を言っているんだ?)
お互いの顔が見えない場所にいるが、2人とも同時にニヤリと笑う。
(任せたよ相棒。僕はサーチャーの散布が終わり次第すぐに向かうね)
(任されたよ相棒。その時に全て終わらせておくから、仕事を適当に終わらせるなよ)
((フッ))
2人の吐息で念話は切れる。
クロノはバイクのアクセルを吹かし、一直線に病院へ向かう。
ユーノはサーチャーの散布を続ける。
お互いを信じて……。
魔女の結界の中には3人……いや、4人の少女と1匹の白い動物(?)がおり、1人が魔女と対峙していた。
対峙しているのは中学生離れしたグラマラスな体型の持ち主で、金髪を縦ロールにした魔法少女、
そのマミを応援しているのは、桃色の髪を赤いリボンで左右2つに結っている
動物は子犬ぐらいの大きさで、白くて耳長の可愛らしい姿のキュゥべえ。
そして結界内には居るものの、この場にはいないもう1人の魔法少女、
「さあ、ちゃっちゃと片付けましょう」
マミはそう言うとマスケット銃を振り回して、魔女に叩きつける。
魔女は吹き飛び壁にぶつかった。
戦いはマミが優勢に進めており、魔女は抵抗らしい抵抗を見せず、マミの攻撃を一方的に受けている。
「よっしゃあ、マミさん行けー!」
マミの有利な姿を見て喜ぶさやかの横で、まどかは不安を感じていた。
なんだか違和感を感じるような光景。
「さあ、そろそろトドメを行くわよ」
マミはそう言うとマスケット銃を巨大化させ、大砲を作る。
「ティロ・フィナーレ!」
マミの必殺技。
魔女に対するトドメの一撃。
マミだけでなく、見ていた2人も勝ちを確信したその時、マミに巨大な恵方巻きのようなバケモノが大きな口を広げて彼女に襲いかかる。
「マミさん!?」
「え?」
まどかの言葉にただ驚くだけのマミ。
間に合わない……まどかは恐怖と絶望に顔を歪める。
「ブレイズキャノン!」
『Blaze Cannon』
男性の声と、それを復唱する機械的な音声が聞こえると、熱量を伴う光線がバケモノを撃ち抜き爆発した。
そして爆煙の中、マミを抱きかかえ現れたスーツ姿の男性。
そう、先ほど病院前までバイクで飛ばしてきて、結界に強制侵入し、魔法を唱えバケモノに攻撃したクロノだ。
「マミさん!」
「何があったんだ……あ、待ってよまどか!」
(危ないよまどか)
マミの名前を呼び走りだしたまどかを、さやかとキュゥべえが追いかけて行く。
動揺しているマミは状況が理解できず、ただ震えている。
クロノは抱きかかえたマミに向かって優しく微笑む。
「危ないところだが、もう大丈夫だ」
駆け寄ってきたまどか達の前でマミを下ろし、「よしよし」頭を優しく撫でる。
「マミさん、大丈夫ですか!」
「ホント、ビックリしましたよー?」
2人はマミに抱きつく。
それを見たクロノは手に持つカードを回し、杖の状態に変化させる。
「ちょっとその場を動かないでくれ。後、そこから見ている君も危ないからこの子達と居て欲しい」
「!?」
クロノの言葉に2人が振り向くと、そこには黒髪の少女……拳銃を持ったほむらが立っていた。
ほむらはクロノに対し拳銃を向けて警戒している。
「貴方……何?」
「質量兵器か……危ないからと言っても、警戒していて下げる気は無さそうだな。ちょっと待っててくれ、すぐに片付ける」
先ほど倒したはずのバケモノは、クロノ達に噛み付こうと動き出す。
しかし、クロノは既に動きを想定してバインドを設置してある。
魔法の戒めにより身動きが出来なくなるバケモノ。
「ふむ……これは本体じゃないか。どこに隠れているかまでははっきり分からないが、この部屋にいることぐらいは僕でも分かる」
そう呟き杖を構える。
「スティンガーブレイド・エクスキューションシフト」
『Stinger Blade Execution Shift』
クロノ達を中心として周辺に向け数え切れないほどの魔力の刃が出現する。
「こういう魔力の無駄遣いは僕のやり方じゃないんだが……ユーノが来る前に終わらせたいから、一気に行かせてもらう」
クロノが指を鳴らすと。室内全てが爆発したような光りに包まれ、それに驚きまどか達はつぶる。
そして目を開いた時には、病院の敷地内にいた。
「あれ? こ、ここは……」
「結界が消えた?」
まどかとほむらが呟くが、説明できる者は誰もいない。
ただ、先ほど持っていた杖を今は持っておらず、カードを手の中で遊ばせているクロノの背中を呆然と見るだけであった……。