第9話 エピローグ
ユーノの封時結界が解除され、壊れた町並みは全て元の状態に戻る。
ワルプルギスの夜もいなくなり、魔法少女を生み出すインキュベーターも捕獲され、見滝原に平穏が戻ってきた。
あの戦いの後、タローは「チームメイトを探している途中なんだ」との謎の言葉を残し去って行った。
そしてクロノとユーノもインキュベーターの封印処理があるため、詳しい説明は後日と言い去って行く。
後に残された4人の少女は顔を合わせ今後の事について話し合う。
「とりあえず私の家に行きましょう。ここじゃゆっくり話もできないものね」
「あたしは腹減ったから賛成ー」
マミの言葉に杏子は直ぐに返事をする。
「暁美さんと鹿目さんも良いわよね」
「うん」「はい」
マミの誘いに2人共返事をするが、ほむらは全て終わったことに安心し地面に座り込んでしまい、まどかはそんなほむらを後ろから抱きしめたまま離れない。
そんな2人が動き出すのをゆっくり待ち、マミの家へみんなで向かった。
「色々と信じられないことも多いかもしれないけど、鹿目さんは最後まで聞いてね」
そしてマミはまどかに対し、今まであった出来事や真実をゆっくり話して行く。
あまりの悲しい真実にまどかは顔を伏せ涙ぐむ。
「酷いよ……あんまりだよ……」
「あんまり悲しい顔してんじゃねーよ。もう済んだ事なんだぜ」
「だって……」
「そうよ鹿目さん。それにもう1つ真実があるのよ」
うつむくまどかに杏子とマミが声をかけた。
まどかは顔を上げ、視線をほむらに送る。
その視線を受けほむらは口を開く。
「鹿目まどか、聞いて欲しい」
「いや!」
「え!?」
ほむらの言葉にまどかは即拒否して顔を背ける。
「え、えっと……」
「……まどかってさっき呼んでくれたのに」
「え、あ、その……」
あまりにもくだらない理由のためマミと杏子は顔を見合わせ苦笑いする。
しかし、2人にとっては重要なことらしく、まどかはそっぽを向いたままだ。
「おい、ほむら。名前で呼んでやれよ」
「そうよ暁美さん。いえ、ほむらさん。まどかさんが可哀想よ」
杏子とマミがフォローにほむらは小さく頷き、おずおずと口を開いた。
「ま、まどか……」
「うん、ほむらちゃん」
やっと名前を呼んだことによって、ほむらの方にまどかが顔を向ける。
笑顔のまどかに安心してほむらはゆっくりと説明を始めた。
まどかとの出会い、時間遡行の事、繰り返される失敗……。
全てを語り終えた時、まどかはほむらを抱きしめる。
「……何度も泣いて、傷だらけになりながら、それでも私のために……ずっと気付いてあげられなくて、ごめんね」
「まどか……」
「ずっと、ずっと……私の為にありがとう……ほむらちゃん」
2人は過去と現在……その隙間を埋めるように抱き合い涙を流す。
それを優しい瞳でマミと杏子が見つめていた……。
数日後……既に魔力切れに近いほむらは、魔力による視力強化や身体強化を止めていた。
つまり昔のようにメガネをかけて、貧血持ちで運動神経ゼロの状態に……。
「大丈夫ほむらちゃん?」
「あ、ありがとう……まどか」
日常生活では何もない所で躓き、体育の授業では準備体操で息切れ。
何度も繰り返しただけあって勉強は問題なかったが、急なほむらの変化にクラスメイトは混乱することとなる。
しかし、まどかの献身的なまでのフォローと、気遣いスキルのレベルが上がっているさやかによって数日もしないうちに受け入れられた。
それ以外に上条の学校復帰や、ユーノの転校話が衝撃的なだけだったかもしれないが……。
「ほむらさんも大変ね」
「いえ……いつもまどかがフォローしてくれてるから……」
「そうですよマミさん。ほむらちゃんは私に任せてください。それよりも杏子ちゃんは平気ですか?」
昼休みに屋上でお弁当を食べながら3人は会話する。
さやかは上条と2人でお弁当を食べているためこっちには来ていない。
仁美は……木の影から誰か達を見てるのかもしれない。
「ええ、家の掃除をしたり料理を作ってくれたりと、色々やってくれているわ」
「杏子ちゃんって料理できるんですか?」
「上手いものよ。お菓子作りは私の方が上手いけどね」
「へーそうなんですかー」
魔力切れな上に住む家もない杏子は、現在マミの家に居候することとなる。
学校には行っていないため、炊事洗濯など主婦のようにマミの世話をしていた。
そのため動く量が減ったマミの体重は徐々に増えている。。
それからまた数日たち、クロノとユーノは見滝原に戻って来た。
連絡を受けた4人の少女達がクロノ達の居るマンションに集まる。
「やあ、遅くなってすまない。みんな集まってるから色々説明させてもらうよ」
そう言ってクロノは魔法少女達の今後について説明を始める。
ソウルジェムを体内に戻す処置はミッドでしか行えないので、1ヶ月は学校を休んで来てもらう事となる。
既にインキュベーターから情報を収集し、無限書庫のメンバーで解析を行ったので治療法は確立された。
「まぁ、おかげで僕は最近寝た記憶が無いんだけどね」
「僕だって報告書とか色々あって寝てないんだから、ユーノの事は気にするな。僕達の仕事なんてものはそういうものなのさ」
そう言って力なく笑うユーノと、それを聞いて申し訳なさそうにしている魔法少女達をフォローするクロノ。
正直ユーノは報告書の作成も協力しているので、クロノよりも事務処理面ではハードであったが、それをわざわざ言うこともない。
「そしてここからが君達にとって重要な話なんだ」
一呼吸入れてクロノは話し始める。
ソウルジェムを体内に戻す……つまりこれによって魔法少女ではなく、魔導師になることになる。
そしてこの地球は管理外世界。
「このまま君達が魔法を一生使わず平穏に暮らすというなら、リンカーコアの封印処置を行い魔法を一切使えなくさせてもらう。もし、魔法を使って何かをしたい、仕事をしたいというなら嘱託魔導師という形で管理局に登録するか、管理局に入局すると言う選択肢がある」
「管理局は万年人不足だから、戦闘経験がある君達なら入局は簡単だろうね。勿論戦闘以外でも僕の所属する無限書庫なんて部署もあるよ」
「申し訳ないんだが魔法に関わってしまった以上は、不本意ながらこういう処置を取らないといけない。もちろん管理局員になるなら、僕達は最大限にバックアップをさせてもらおう」
「ただ君達には、今の生活、今の家族、今の日常もあるよね。だから治療が終わるまで約1ヶ月間、ゆっくりと考えて欲しいんだ。その間に気になる情報や資料は僕が全部用意させてもらうよ」
そう言ってクロノとユーノは説明を終える。
「あのさ……管理局員になったら住む場所とかあるのか?」
「ああ。管理局には寮があるし、給料も出る。未成年でも管理局員ということで身分が保証されるから、管理世界なら自分で住む場所を契約することも出来る」
「このままここに住みながら仕事もできるのかしら?」
「うん、僕とクロノは地球ぐらしだし、他にも管理局員が数人住んでるよ。ただしこっちだと未成年の契約とか大変だけどね」
色々と気になることが多いようで、杏子とマミが質問を始め、それをクロノとユーノが答えていく。
それを聞きながらまどかはほむらに話しかける。
「ほむらちゃんはどうするつもり?」
「う、うん。最終的には決めてないけど、しばらくはこっちに居るわ。もちろん治療中に資料とかは見せて貰うつもりだけど……」
「ホント!」
ほむらの答えにまどかは嬉しそうに微笑む。
その表情を見てほむらは少し顔を赤らめながら小声で話を続ける。
「今までやり直しばかりでちゃんと生活してなかったし、まどかと一緒に卒業もしたいから……。まどかが高校に行くなら私も一緒に進学したいなと」
「うん、それじゃずっと一緒だね」
まどかの何気ない言葉にほむらは余計顔を赤らめる。
脳内ではこの言葉がプロポーズかのように処理されているのであろう。
「ちなみにまどかもリンカーコアがあるから、魔導師になることも可能だからね」
「「ホントなの!?」」
突然のユーノの言葉に驚く2人。
魔法少女の素質とリンカーコアは密接な関係にあったらしく、ほむらがループして作り上げたまどかの因果はリンカーコアに作用していた。
「つまり魔力量ならほむら達よりも上だね。ただ、魔力イコール強さではないから何とも言えないけどね」
「そ、そうなんだ……」
まどかはユーノの説明にちょっとだけがっかりする。
「まどかは魔導師になりたいの?」
「ううん、違うよほむらちゃん」
ほむらが心配気に声をかけるが、まどかは首をゆっくり左右に振る。
「魔女になる心配がなく魔法少女になれるなら、今度は私がほむらちゃんを守れるかなーってね」
「まどかー!」
まどかの言葉が嬉しかったのか、ほむらはまどかに抱きつく。
それを嬉しそうに抱きしめ返すまどかと、いつもの風景だなと見守るマミと杏子。
「ほむらって性格変わったのか?」
「いや、アレが素なんじゃないかな。タローも何となくそんな事言ってたし」
「あー、タローは気がついては居ないけど、真実に踏み込むからな」
「それで何度も振り回されるんだよね」
「「はぁ~」」
クロノとユーノは色々なことを思い出しため息をつく。
一生懸命探している情報をタローがいつの間にか無意識に手に入れていたことは1度や2度では済まない。
それのフォローはクロノやユーノだけでなく、アリサなどが上手く引き出さなければならないため、たまに苦労することとなる。
「クロノさん。そのタローって人はどんな人なのかしら?」
「ワルプルギスの夜を倒したアイツだろ。一体何なんだアレ?」
マミと杏子が気になって声をかける。
「野球選手と言っても納得しないだろ……」
クロノは頭をかきつつため息を付く。
そして中学1年生の時に呼ばれたらしい異名を思い出す。
ユーノの方を向けば同じ様に何かを思いついたようで、お互いに顔を合わせ頷く。
「「
そう言って笑い合うクロノとユーノを、首を傾げながらマミと杏子が見つめていた。
しかし妙に納得できる答だった様で、2人はそれ以上聞くことがなかった。
※
「……と言うわけなんだ」
聖王教会管理下にある病院の喫茶店で2人の男女が話をしている。
正確には男性が一方的に説明をして、女性が腕を組みそれを聞いていると言う感じだ。
「ふーん、クロノ君はあたしに内緒でそんな任務をしてたんだー」
「い、いや、それはS級秘匿指定ロストロギアの任務の条件なんだから仕方がないじゃないか」
「でも、ユーノ君は連れて行ったんでしょー」
「それも説明した通り、現地で無限書庫の知識と解析能力……そして結界魔導師としてユーノ以上の適任は居ないじゃないか」
クロノを責めるように言葉を発しているのは、クロノの執務官補佐であるエイミィ・リミエッタだ。
表情はニコニコと笑っているが、全く笑っているように見えないため、クロノの背中には嫌な汗しか垂れていない。
ちなみにタローが何となしに発した「クロノは最近、女の子のお見舞いで大変そうだよね」から、執務官補佐の情報収集能力を最大限に発揮し、ここの病院に辿り着いたと言う訳だ。
「そうだよねー。あたしじゃ役に立たないよねー」
「ち、違う。エイミィは
クロノは頭を掻きながら一生懸命伝えるべき言葉を探している。
しかし“僕のパートナー”と言うクロノの発した言葉で、エイミィの機嫌はあっさり直っている。
悪戯好きなエイミィは表面上の態度を変えないので、クロノはそれにまだ気が付かない。
そんなクロノはエイミィが満足行くまでオロオロし続けるのであった。
「「よろしくお願いします」」
ほむらは学生生活をまどかと楽しむとのことで入局は見送ったが、マミと杏子は治療が終わると管理局員になることを決意した。
2人共に家族もいないためマミの卒業と同時に入局したが、管理外世界出身でデバイスの使用経験もない。
まずは管理世界についての勉強や基礎的な訓練などを受け、次の年には陸士訓練校に入校することとなった。
「うんうん、このエイミィさんにまっかせなさーい」
「戦闘技術は私達が教えるからね」
「しっかり覚えろよー」
つまりエイミィとリーゼ姉妹と言う、クロノの身内が付きっきりで行う研修だ。
そのため2人は住んでいた見滝原のマンションを引き払い、クロノの住む海鳴市にやって来ている。
まだ未成年なのでこれまたツテで住める場所……さざなみ寮に入寮することとなった。
「一緒に頑張りましょうね杏子」
「ああ。あたしらのコンビならやっていけるさ」
そう言ってコツンと拳を合わせる2人。
彼女たち2人が海鳴市で騒ぎに巻き込まれたり、第四陸士訓練校で彼女らと出会うのはまた別の話……。
「春だね」
「そうね」
桜並木を2人の少女が並んで歩く。
「こんな風に3年生になれると思わなかった」
メガネをかけたほむらがそう呟く。
貧血持ちなどの体調不良は全て完治し、運動も徐々に出来るようになって来たが、視力だけはメガネを頼らざるをえない状態だ。
「本当に夢みたい……」
「ウェヒヒヒ! 大げさだよほむらちゃんは~。それに……」
まどかは笑いながらほむらの手を繋ぐ。
ほむらは一瞬だけびっくりした表情になる。
「ね、夢じゃないでしょ」
「……うん」
そのまま2人は手を繋いで学校まで歩いて行く。
そう、彼女たちにとってここまでが序曲であり、これからが始まりの物語……。
これにて「野球少年外伝 リリカル☆マギカ」は完結です。
元々12話のアニメからなので、さやかを救済した途端に話数が減って、連載なのに最短の物語になってしまいました。
しかも独自設定、独自解釈満載でこんな結末になりました。
まどか☆マギカの救われない話に、タローを混ぜたらどーなるのかなと。
むしろあのまどかの夢のシーンに颯爽と登場したら……と言うところから考えた話でした。
しかし毎回ネタのパワープレイになっては飽きられてしまう……。
それならあえてタローの友人ポジションに収まっている2人をメインに、真面目でシリアスな話にしようとなりました。
あまり真面目な文章は得意ではないので上手く書けたかは分かりませんが、楽しんでもらえたら幸いです。
最後までお付き合いありがとうございました。