第1話 使い魔召喚
んー、何で僕は横になっているんだろう?
そして空には二つの月が見えるけど、ここは一体どこなんだ?
「あんた誰?」
頭の中に色々な疑問を浮かべている僕に少女の問いかけが聞こえてくる。
そっちを向くと桃色の髪の毛をした少女は、寝ている僕に対してしゃがみ込み顔を覗きこんでくる。
「どこの平民?」
僕が少女の問いかけに答えないでいると、更に言葉を続ける。
平民……なんの事だろう?
周りを見渡すと、少女と同年代の子供達が、少女と同じ様な制服を着ている。
そして、そのすべての子供たちは手に“デバイス”のようなもの……杖を持っていた。
「ルイズ、“サモン・サーヴァント”で平民を呼び出してどうするの?」
回りにいる子供たちの誰かが言う。
ルイズと呼ばれた少女以外はみんなして笑い出す。
「ちょ、ちょっと間違っただけよ!」
ルイズはみんなに怒鳴って言い返すが、周りの子供達は皆笑っている。
「間違えって、ルイズはいっつもそうじゃん」
「さすがはゼロのルイズだ!」
周りの子供達はそうやってルイズを馬鹿にする。
自分の状況も良く分からないが、僕を好いてくれている女性と
まずは寝ている状態から起き上がるとしよう。
周りの子供達はルイズを囃し立てることに集中し、僕が動いていることを気にも止めない。
「ミスタ・コルベール!」
ルイズが怒鳴ると周りの子供達の間から、少し長い友達が減っている中年の男性が現れた。
その男性……コルベールと呼ばれた人も大きな木の“デバイス”を持ち、真っ黒なローブに身を包んでいる。
「うん、魔法学校みたいだね。でも、管理局の陸士学校とかとは違うみたいだけど……」
僕の呟きを聞いた者は少ない。
いや、聞こえていてもルイズを馬鹿にするのが忙しいのかもしれないが……。
まずは手をグーパーさせたりし、身体のセルフチェックを行う。
左腕には腕時計型のデバイス、プレシアさんの力作があるのを確認する。
大量の荷物を入れっぱなしにできるから、正直無くてはならないものとなっている。
管理局でも簡易型が正式採用され、レジアスさんが喜んでいたっけな。
そして自分の格好……管理外世界連合チーム“マリナーズ”51番のユニフォーム。
確かクロイツや遊とオフトレーニング中の記憶が最後だな。
トレーニングとはいえ、集中力を高めるためにユニフォームで実施していたんだが、その格好と言うことはその途中と言うことか。
初のオフトレはアリサも見にきていたんだけどなー。
右手には学園都市で知り合った錬金術師が、全てを込めて作り上げてくれた素材不明のバット。
僕の全力全開、本気の一撃にも一度は耐えてくれると言う品。
本来は道具に対し生命力を送り込み、僕の力でも壊れないようにしているから、本当の全力全開というのは無理なんだ。
しかも自動修復機能もあるらしいので、壊れてもデバイスに入れておけばそのうち直るらしい。
あの学園都市に居た時には壊れなかったから分からないんだよね。
「うん、僕はいつも通り問題無さそうだ。最近は次元野球のチームメイト探しや練習ぐらいで、特にトラブルには巻き込まれていなかったから、こういうのは久し振りだね」
そう呟き思い出すのは、ジュエルシード事件や闇の書事件、禁書目録事件や幻想御手事件など小学生から中学生にかけて起きた数々の騒動。
中学2年になってからチームメイトを集め、僕の中学卒業に合わせミッドチルダで華々しくデビューしたマリナーズ。
初年度からプレーオフ進出を果たし、優勝争いに食い込んだ。
まだまだ層が厚くないチームのため、最後は勝ちをこぼしてしまい、ワールドシリーズへは届かなかったんだよね。
一応僕は成績を評価され、魔導師ではない人間としては異例のベストナイン賞を取得したんだけど、チームが勝てなかったんじゃ複雑だよな。
さて、ルイズに問われた以上、周りの子供達はうるさいが、まずは自己紹介をせねばならない。
僕はおもむろにバットを振り、
ギュオォン
一陣の風が起き、騒いでいた少女たちのすべての声を打ち、周りに沈黙が起きる。
何が起きたか分かっていない周りの人たちの視線を集める。
「名乗りが遅れて悪かったね」
そう言って少女たちの顔を見渡す。
周りは何も喋ってはいけない雰囲気に包まれたかな。
みんなが注目している中、ゆっくりと口を開く。
「僕の名前は一之瀬太郎……
しばらく周りの人たちはしばらく無言でいたが、ハッとルイズが我に返って口を開く。
「あの! もう1回召喚させてください!」
コルベールと呼ばれた男はルイズの言葉に我に返り、ルイズの方を向き首を左右に振った。
「それはダメだ。ミス・ヴァリエール」
「どうしてですか!」
「決まりだよ。2年生に進級する際、君たちは“使い魔”を召喚する。今、やっているとおりだ」
ふむ、それで僕は呼び出されたというわけか。
そしてコルベールさんの話を聞いていると、“使い魔”を召喚して今後の属性を固定し、専門課程へと進む。
つまり、ここは魔法を習う学校ってことなんだろうな。
「一度呼び出した“使い魔”は変更できない。何故なら春の使い魔召喚は神聖な儀式だからだ。好むと好まざるかかわらず、彼を使い魔にするしかない」
「でも! 平民を使い魔にするなんて聞いたことがありません!」
ルイズの言葉に周りがまた笑い始める。
周りの笑っている人たちをルイズは睨みつけるが、笑いは止まらない。
「すまないがコルベールさん、ちょっとイイかな?」
「何かね……えー」
「タローです。それで、呼び出されたのは分かったけど、帰る方法はないのですか?」
「“サモン・サーヴァント”は呼び出すだけなんです。使い魔を元に戻す呪文なんて、私が知るかぎり存在しない」
「そっか……そりゃ困ったな」
世界そのものが違う場所だから、次元を切り開かなきゃダメか……。
今ならオフシーズンで全く消耗していないから出来るかな?
数歩後ろに下がり、バットの範囲からみんなを避けた場所に立つ。
足元を固め、数回軽く素振りをして準備をする。
ルイズはコルベールさんに詰め寄って、何度もお願いしているな。
僕が帰れば再召喚が出来るかもしれない。
ルイズが求めている使い魔を……。
僕は背筋を伸ばして後傾気味に重心を取り、右手でバットを垂直に揃え、左手を右上腕部に添える。
そして精神を集中して、本来は見えない次元の壁を睨みつけ……一気に振り抜く!
僕の全力のスイングスピードに耐え、本気で振り抜かせてくれる素材不明のバット。
ゴゥギュウン!!
振りぬくと次元の壁が切り裂かれ、マリナーズの本拠地……ミッドチルダ南駐屯地内にある球場へ門が開く。
それと同時に素材不明のバットは砕け散り、手の中には1本の
「アウレオルス・イザード……すまない」
その
「また直ったら一緒に野球しような……」
次元の切れ目を見ると、徐々に切れ目が元に戻って行く。
その前にここから戻らないとな……。
「タロー!!」
その次元の狭間から1人の女性が飛び出してきた。
思わず……と言うよりは、いつもの様に抱きとめる。
しかし、女性は背中に炎の翼を纏い、音速クラスの突撃力を持っているんだけど……。
さすがにその場で踏みとどまれるはずもなく、その場で仰向けに倒れて勢いを流す。
女性には衝撃を行かないように上手く抱きしめるんだけどさ。
「タロー! タロー! 今度はあなた、どこに行ってたのよ!!」
僕の胸に顔を擦り付けながら喚く……泣いてるのか?
抱きしめたままそっと頭を撫でる。
「アリサ……落ち着いて。とりあえず離れて!」
「いや! 絶対離さないもん!!」
「いや、そういう訳でなくて……」
「いーやーよー!」
そう言いながら、僕の体を抱きしめてジタバタする。
周りの人は……呆気にとられていて全く動かない。
そして、しがみついているアリサを他所に、次元の切れ目が閉まって行く。
「アリサ! このままじゃ帰れなくなるよー!」
「良いの、あたしも一緒に居るから!」
「いや、そう言う問題じゃないんだってば!」
「タローはあたしと一緒に居るのは嫌なの?」
「いや、さらにそれ関係ないって……」
アリサとそんな事をやってると、次元の切れ目は完全に閉じてしまった。
これ、バットを壊してまで次元の壁を切り裂いた意味が……。
「タローと一緒にいるのー」
……まぁ、いいか。