第77話
「魅惑の妖精亭」
此処に来るのも久し振りだ。
シェフィールドさんを伴い店に入る。
「すいませーん。
今日は貸切なんで……
あら、ツアイツ様いらっしゃいませ。
少し早いですよ?」
ジェシカが、笑顔で出迎えてくれる。
「まだ、こんにちは!かな?
少し早いけど良いかな?」
「どうぞ!
入って下さい。
……あの、貴女はシェフィールドさんですか?
ソフィアから聞いてます」
シェフィールドさんは、最近仲の良いソフィアの知り合いで有り、多分僕に対して好意的な彼女が気に入ったのだろう。
「宜しくね。
ソフィアの友達なのね?
お名前は?」
にっこりと微笑みながら手を差し出す。
ジェシカはワタワタして、自分の掌をビスチェで拭いてから握手をした。
真っ赤になりながら…
「じぇジェシカです!
ソフィアとは、出身が同じ村で……
タルブって言う葡萄の産地の……」
んーしっかり者の彼女が、慌てているのは微笑ましいのかな?
「ちょっと話が有るので先に奥のテーブルに行って良いかな?」
ジェシカに断って奥のテーブルに座る。
シェフィールドさんに確認したい事が有った。
「シェフィールドさん。
確認したいんだけど……」
「何ですか?改まって」
「その……k」
「どうぞ!
まだお酒は早いので、果汁水ですが」
ジェシカが気を利かせてくれて、飲み物と簡単な料理を出してくれた。
「……うん。有難う」
ジェシカは、シェフィールドさんを気にしながら……
チラチラと盗み見ながら配膳すると、お辞儀してから下がっていった。
「シェフィールドさん人気者ですね」
「…………?」
「気を取り直して……
シェフィールドさんは、神の頭脳ミョズニトニルンですよね。
だから主のジョゼフ王は、虚無の使い手」
シェフィールドさんは、にこやかに頷く。
「王家の血を引く者で魔法が苦手な者は……
虚無の可能性が有る。
ならば、魔法が失敗で爆発してしまうルイズは……」
「トリステインの虚無使いだと?」
言葉を引き継いでくれた、シェフィールドさんに頷く。
「ほら、駄剣もお聞き」
デルフリンガーを鞘から少しだけ抜いて話し掛ける。
アレ?
汚い剣に戻ってる?
「デルフリンガー、刀身が汚くなったよ?」
「ふん。
俺様はガンダールヴが本来の使い手。
さっきはこのネーチャンに脅されて戻っちまったけど、本来は心の震えを感じて真の力を発揮するのよ!
あと、長げーからデルフで良いぜ!」
デルフはやはりガンダールヴにしか使えないのか?
心の震えが強いと、誰でも使えるのかな……
「そんで、この時代の虚無は目覚めてるんだな?」
僕は、シェフィールドさんを見る。
彼女は頷いて
「我が主は、ガリアの虚無として目覚めてるわ。
あと、トリステインにそう思われる娘が居るわ」
「虚無の覚醒と言うか、使える様になるのってどうするのかな?」
「さぁ?
私が召喚された時は、主は虚無を使いこなしていたから……
駄剣、知ってる?」
「駄剣はヒデェよネーチャン……
いや姉さん」
シェフィールドに一睨みされて大人しくなる。
「それで、覚醒の切欠って知ってる?」
「んー、何せ6000年も前の記憶だからなー?
何だっけかなー?」
本当は知ってるけど、教えてもらった事実が欲しいんだけどな。
剣が、うんうんと唸りながら考えている。
シュールだ!
「話は変わるけど、ブリミルや初代のガンダールヴってどんな人?」
「んーもう記憶も擦り切れる昔だからなー。
でも使い手の娘っ子は……
アイツは、アイツ等は良く喧嘩してたなー
確か名前がs」
「ああ、先に来てましたか、ツアイツ殿」
「お久し振りです。
ソウルブラザー!」
肝心な事を聞けそうな時に風の変態コンビが来た……
「お久し振りです、カステルモール殿。
えーと、本体ですか?」
「ええ、本体です。
同志ワルドより、無事学業を納め夏期休暇に入られたとお聞きしましたのでお祝いと、明日以降学園外に行かれるそうなので護衛を兼ねて来ました」
「しかし、本来の仕事が?」
「大丈夫です。
私も休暇をイザベラ様より頂きましたので。
それに遍在も置いてきました。
これが、イザベラ様よりの報告書です。
なにより、この場にジャネットが来て夏期休暇中付きまとう方が良ければ代わりますが……」
「イザベラ様の意地悪。
分かりました。
歓迎します、カステルモール殿」
「ツアイツ殿、折角なので、私も同行します。
それにタバサ殿にも声を掛けておきました」
何故か、何故だろう?
得意気に報告するワルド殿を憎らしいと思うのは……
「トリステインの大貴族、ド・モンモランシ領に行くメンバーがコレか……
先方に失礼の無い様にして下さい。
くれぐれも失礼の無い様に!」
「「はっはっは!
元より承知していますぞ」」
暫く胃薬とは縁が無かったけど、明日からは必要かもしれない……
がっくりと机に突っ伏した!
シェフィールドさんが、優しく頭を撫でてくれる。
お姉ちゃん、僕はへこたれそうです。
「安心して下さい。
私も同行しますし、我々ならば大抵の貴族が攻めてきても余裕ですわ」
「「おう!
まさにシェフィールド殿の言う通り。
トリステインやアルビオンを敵に廻しても余裕ですな」」
にこやかに笑い合う三人の豪傑達。
この時、僕は知らなかった……
彼等が既に同盟を組んで、僕を護衛してくれていた事を。
でも、トリステインとアルビオンは滅ぼすんじゃなくて助けるからー!
「おでれーた!
兄さん凄いお人なんだな。
あんな連中を従えてるなんて!
兄さん、実は使い手なんじゃないか?
俺を持ってみろよ」
デルフに慰められて、あの有名な「おでれーた!」が聞けるなんて……
嬉しくないけど。
試しにデルフを持ってみました。
「んー不思議な感覚だけど、ちげーな」
ダメ出しされました。
「おや、何ですか?
その汚い剣は……」
ワルド殿が、何気なくデルフを持つ。
すると、刀身が鈍く輝き始めた。
「なっ何でぃ?
この心の震えは……
こっこれは、これから来るロリっ子に今夜こそ勝負を賭ける心の高ぶりと、ヒデー妄想の渦だ!
ちくしょう離せ、この変態がぁ!
オレをオレ様を汚すんじゃねぇ」
デルフが、微妙に本来っぽい輝きを見せている。
一定以上の感情なら、誰でも可能性が有るのか?
「てってめぇ!
妄想を強化するな。
誰だよエターナルロリータって?
知らねえよ。
そんな情報を送り込むな!
やめてー、ペドはイヤー!」
ワルド殿は、すっきり満足したような漢の顔で、デルフをカステルモール殿に渡した。
「どうやらこのインテリジェンスソードは、我ら紳士の漢度を測るマジックアイテムらしい。
次はカステルモール殿の番だ!
見せ付けようぞ!
我らが思いを」
デルフは、身の危険を感じて大騒ぎだ!
「やめてー!犯されるー!兄さん助けてくれー!」
ごめん。興味が有るからやらせてみたいんだ。
それに、妄想なら平成のサブカルチャーを修めた僕も、もう一回最後に試したいから。
哀れ、伝説の剣も真の変態と言う漢達にとっては、己の漢度を測る道具でしかなかった。
「本当に、助けてー!」