第98話
夢の中でテファに叱られたツアイツです。
あの後、ラ・フォンティーヌ領の庭園やらお花畑やらメルヘン&アニマルを堪能し疲れ果てて屋敷に帰ってきました。
そしてマナーは余り関係無い砕けた夕食を頂いている訳です。
今回はシェフィールドさんとソフィアも同じテーブルです。
ソフィアは恐縮しまくりですが、シェフィールドさんは流暢な仕草で食事をしています。
聞けば、王妃となる為にジョゼフ王に恥をかかせない為に訓練しているそうです。
流石はお姉ちゃん!
努力を怠りませんね。
昼の疲れか、食後は皆さん宛がわれた寝室に向かいました。
僕は眠れずに、テラスに設けられたテーブルセットに座り双子の月を眺めてます……
シェフィールドさんのくれた牙の腕輪を弄ぶ。
指には、これも貰った指輪……
ポケットには、木の札。
随分と大切にされていると思う。
此方の世界に来てから、この双子の月を眺めながら考えに浸る事も多くなったし……
でもお月見って雰囲気は無いんだよね。
ただ眺めならがボーっと考える。
「あら?
ツアイツ君、眠れないの?」
なにやらカップを2つ持ってカトレア様が後ろに立っている。
カップを2つ持っている時点で、僕に話が有るんだろうね……
「双子の月が綺麗でしたから……
何か僕に話が有るのですね?」
「あら?
何故分かったのかしら?」
僕は、カトレア様の持っている2つのカップを指差す。
「ホットミルクに少しお酒を垂らしたのよ」
カップの1つを僕の前に置きながら向かいの椅子に座る。
「…………頂きます」
カトレア様は、ニコニコと僕を見ているだけ。
2人して、無言でホットミルクを飲む。
半分程飲み終えた所で、沈黙が辛くなった僕の方から話し掛けた……
「それで、お話とは?」
「随分と怖い腕輪ですね?
何の牙かしら?」
シェフィールドさんから貰った牙の腕輪を指差して聞いてくる。
「マジックアイテムです。
バラまけば、ゴーレム兵士となり守ってくれます」
「その指輪も?」
「ええ……
自身の魔力を底上げしてくれます」
カトレア様は、何やら考え込んでます。
普段は、直感で話を進める彼女がまるで考えながら言葉を選んでいる様な……
「昔はマジックアイテムなど身に付けてませんでしたわ。
最近なのかしら?」
「そうですね……
ひと月位、前でしょうか?」
「…………ツアイツ君。
私の病気を治す手立てって危ない事をするのね?」
アレ?
ヴァリエール夫妻には説明してあるけど……
「カリーヌ様からは聞いてないのですか?」
「…………ツアイツ君。
初めて会った時から既に、貴方は私を警戒してた。
違うかしら?」
……やはり何かを気付いている。
「昔の事ですから、よく覚えてません……
ただ、ヴァリエールの一族の方としては優しい人だと感じてましたが」
「そうかしら?
常に警戒されていたと感じたわよ。
とても子供とは思えなかったわ」
疑われてるのかな?
「自分でも早熟だとは感じてましたけど……
警戒してるなんて酷いですよ。
逆に僕が避けられていたと思ってましたよ」
カトレア様は僕を見ていない……
ずっと月を見上げている。
「公爵家の娘に生まれながら体の弱かった私。
公爵家の義務も果たせず、若くして死ぬ事を理解していたわ……
それを私を警戒している貴方が治すのは……
何故かしら?」
不信感なのかな?
分からない……
この人の考えは、何を知りたいのか?
「カトレア様は……
僕が怪しいと思ってるのですか?」
初めて目を合わせて
「お姉ちゃんでしょ?」
と、宣った!
「僕は、ヴァリエール家の人達は家族と思ってます。
ならば……
お、お姉ちゃんの病が治る手立てを見付けたら実行するのが普通ですよね?」
目を逸らさないカトレア様を逆に見詰める。
何時ものフワフワした彼女じゃない心の底を見透かす様な危険な目……
「何故かしら?
君は、君からは年上のイメージしか流れてこないわ。
それにハルケギニアには存在する筈が無い……
東方でもエルフでもない不思議な人」
やはり……
覚悟をしていたから、動揺はしなかった筈だけど。
理屈じゃなくて感覚でバレたって事かな。
「結構酷いです。
確かに僕は、ブリミル至上主義の世界では異端なのは理解してます。
オッパイ教祖ですから……
しかしこの世界での自分を全否定された気持ちです」
そう言って下を向く。
これ以上、目を見るのは危険だから……
「ツアイツ君の見詰める先には、何が見えるのかしら?」
おどけて誤魔化すか。
「そうですね。
巨乳で綺麗な奥さんを沢山貰って自堕落に暮らしたいです。
苦労と努力は今回でおしまいにしたいから……」
「ふふふっ。
やっぱりエッチで優しい子なのね。
私ね、小さい頃から決めていた事が有るのよ」
えーと、女性なら嫌に感じるニートでハーレム願望を伝えたんだけど?
「何ですか?」
「私を助け出してくれた、白馬の王子様が現れたら……
その人のお嫁さんになろうって!
良かったわ。
ルイズ以外要らないとか言われなくて。
宜しくお願いしますわ」
そう言って、本気とも冗談とも思えない顔で頭を下げると去って行った……
何?何なの?
考えが纏まらない?
この人騒がせな巨乳天然美人は、翌朝会った時はそんな素振りも見せなかったので冗談と思う事にした。
流石に、ルイズを嫁に貰うのにカトレア様も……
は、貴族の立場的に双方の家が不味い事になるし。
何より、カトレア様にヤンデレの素養を見出したから。
アレはシェフィールドさんと同じレベルだ。
後からデルフで刺されるかもしれない。
そんな未来予想図を感じさせる視線だった……
SIDEカトレア
先程迄の事を考える。
ツアイツ君……
修行の為にと、何年か我が家で家族同然に過ごしてきた不思議な子。
常に周りに気遣い、大人顔負けの能力と行動力を持っている。
このハルケギニアでは異端だと思う思想を持った……
だけど、悪い子ではなく寧ろ底抜けに善人なのに抜け目のない子。
この子と関わった事で、ヴァリエール家の繁栄と存続に影響がでている。
病弱だった私には、勘が人一倍強い。
彼が、ヴァリエール家の未来を握っているのが分かるわ。
しかし、逆に彼の存在が危険とも感じている。
悪い子ではないの……
しかし私を危険視している事も分かるの。
そして彼に私も嫁ぐ事になるとも感じている。
現在の状況では、準王家の私達が他国の……
それも始祖の血を引かないゲルマニアに嫁ぐ事は有り得ない。
ルイズの場合は、三女で有り魔法が苦手な事も有るから。
ヴァリエール家とツェルプストー家の融和政策の立役者としてゴリ押しした感じだけど……
2人となれば無理だわ。
それが可能になるのは、今のヴァリエール家に二つの未来が有ると思うの。
つまり王家に近い権力を握るのか……
全く逆に落ちぶれて彼を頼るのか……
どちらかは、今の私では分からないわ。
でも、諦めていた未来が、とてもワクワクした事になるのは間違いないわ。
しかし、エレオノール姉さんの未来が不確定に感じるのは何故なのかしら?