第97話
白炎のメンヌヴィル……
かつてトリステインのアカデミーに所属していた、元魔法研究所実験小隊の副隊長。
炎蛇のコルベール隊長に復讐を誓った盲目の狂人か……
確か、原作でもトリステイン魔法学院を襲撃した賊のリーダーだったな。
本来なら戦争が始まってからの襲撃だが、此処まで原作ブレイクしちゃってるから、明日にでも暗殺しに来てもおかしくない。
しかし、コルベール先生との絡みは……
キュルケも頂いちゃってるし、蛇君シリーズも余り誉めてない。
つまり全くの生徒と先生の関係だ!
三人娘襲撃の時にはお世話になったから、少しは仲が良いと思っても良いかな?
確実に奴は、僕の所に襲撃に来るだろう。
クロムウェルの恨みは、僕と父上……
ハーナウ一族に向いている筈だから。
おはようございます!
ツアイツです。
ロングビルさんから、衝撃の報告を貰ってから一夜明けました!
園遊会迄は、ヴァリエール領に居候決定な今日この頃です。
今日の予定は……
「ツアイツー!
そろそろ出掛けるわよー」
これから、カトレア様の領地に出掛けてきます。
ラ・フォンティーヌ領は、体の弱いカトレア様の為にヴァリエール公爵が用意した景色の良い領地。
今年23歳になる彼女は、このラ・フォンティーヌ領主な訳です。
領地に向かう馬車の中で、一寸した騒ぎが有りましたが……
兎に角、動物大好きムツゴロウさん的な彼女の馬車は移動する動物園!
乗せて貰っている僕の頭と肩には小鳥が、膝には猫が乗っています。
彼女の人徳なのか、動物達は仲良くしていますね。
普通、猫に捕食される小鳥とか騒ぎますよ。
元々前世が鳥好きだったので気にしないのですが、フンはしないでね……
僕の向かいには、カトレア様にルイズと小熊。
僕の両脇には、キュルケとシェフィールドさん。
ん?
小熊?何故小熊?
「あらあら、大人しくしてなくてはダメよ」
結構な重さの小熊を抱き上げて膝にのせ、ナデナデするカトレア様……
どんだけ力持ちなの?
ルイズ!
羨ましそうに見ない。
キュルケは僕の肩に頭を乗せて現実逃避の居眠り。
シェフィールドさんは若干のヤンデレオーラを放出する事で、動物達を近付けない様にしています。
凄い応用力!
「あの……
カトレア様、重くないですか?」
ニコニコと優しい笑みを浮かべながら
「ん?」
とか首を傾げて返事をする彼女は、可愛いです。
年上とは思えない程に……
しかし、今迄は意図的と思える程に接触が少なかったのに、今回のヴァリエール家の訪問中は良く接してくるんだろう?
この、優しいけど押しの強い彼女は少し苦手だ。
あの目でみられると、全てを見透かされてる様な錯覚に陥る。
原作でも、ホームシックに陥ったサイトに
「お姉ちゃんになってあげる!」
宣言をしてるし、サイトが異世界の住人で有る事を見破ったのも彼女。
ヴァリエール公爵家の中で有る意味一番警戒しているのが彼女だから。
「お姉ちゃん、でしょ?
ルイズと一緒になるなら、私はお姉ちゃんよね?」
はっ恥ずかしい台詞を言われたぞ。
「カトレア様……」
「お姉ちゃん、でしょ」
「いえ……はい。
お姉ちゃん」
カトレア様は、僕にお姉ちゃんと呼ばれたからかご機嫌だ。
春の日差しみたいな笑顔です。
「良かったですね?
お姉ちゃんが増えて」
シェフィールドさん?
アレ?
普通だ……
ヤンデレ化もしてないし、黒いオーラも無い。
此方も慈愛溢れる微笑みだ。
だけど……
カトレア様の膝に乗っていた小熊が、ルイズの方にワタワタと非難しているし、何故か此方はキュルケが魘されている。
「えーと、シェフィールドさn」
「ツアイツ、お姉ちゃんでしょ?
私達はもう家族なんだし」
「お姉ちゃんが増えて嬉しいなぁ……」
「ふふふふふっ!
そうよねツアイツ……」
「そうですね。
ツアイツ君、うふふっ……」
嗚呼……
共に20代の方や天然お姉ちゃん。
方やしっかり者のお姉ちゃん。
普通なら、嬉しくて堪らない筈だけど……
やはり、ヤンデレは混ぜちゃいけなかったんだ!
しかし、この破壊力は凄い物が有る。
これは、創作意欲が湧いたぞ!
書く、書くぞ!
ヤンデレ作品を。
そして造るぞ!
フィギュアのヤンデレお姉ちゃんズを!
などと現実逃避をした……
脳内でプロットが固まった頃に漸くラ・フォンティーヌ領に到着。
不思議な空間から解放された……
動物って敏感なんだね。
今までジッとして動かなかったのに、馬車の扉が開いたら凄い勢いで飛び出して行きました……
ちゃんと戻ってくるか心配ですが。
「あらあら。
元気に遊びに行ってしまったわね」
アレをあの逃げっぷりを遊びと言い切ったぞ!
「飼い主に似ずに元気なのねぇ?」
ナチュラルに毒を吐いたよね?
「ラ・フォンティーヌ領へようこそ!
新しい家族達。
歓迎するわ。
さぁ入って下さい」
シェフィールドさんの口撃をスルーして屋敷に入っていくカトレア様……
「ちいねえさま待ってー」
と走って腕を絡めているルイズ。
僕は、妙に疲労困憊なキュルケの手を引きながら後に続いた。
キュルケが小声で
「ヴァリエール一族の女性陣は短気でプライドが高いのが多いのに、あの人は違うわね……
やり難いわ」
と、僕も思っていた事を零していた。
天然系お姉ちゃん。
周りに居なかったタイプだ!
エーファも近いけど、似て非なる物だ。
「シェフィールドさ……
お姉ちゃん、大人しくして下さいね」
名前で呼ぼうとしたら、悲しそうな目で見られてしまったので、思わず言い直す。
「ツアイツ、大丈夫よ。
敵対しなければ大人しくしているから……
さぁあの偽物を追いましょうね」
僕の手を繋いで歩き出した。
カリーヌ様ともそうだったけど、カトレア様も混ぜるな危険だ……
どうか無事に園遊会まで保ってくれ。僕の胃と神経よ……
この日、初めてブリミル様に祈った!
しかし、浮かんだのは巨乳巫女テファだった。
「早く帰ってこないからですよ?
もう知りません!」
と、プンプンと両手を腰に当てて怒っているテファに、横を向きながら言われてしまった電波が返ってきました……