第116話
こんにちは!
ツアイツです。
キュルケとの結婚式と初夜を終えてから、漸くハーナウ領へ向かっています。
両親は竜籠で帰りましたが、僕は高所にトラウマが有るので最後は陸路にしました。
元々ウチとツェルプストー辺境伯領とは隣同士。
距離も大体馬なら半日で着くから、夕飯までには帰れるかな?
道も整備されているし……
のんびりとデルフと2人で帰っています。
それと、デルフには聞いておきたい事も有ったから……
「兄さん!
久し振りですね。
俺っちに活躍の場が有るかも知れないっす」
カタカタと鍔を鳴らしながら話す剣と話していると、端から見れば独り言を言う帯剣した貴族?
って変人扱いだ!
しかし街道とはいえ人は疎らだから、そんなには気にならない。
「デルフさ!
前に話した虚無の使い手だけど……
やはり普通の魔法は使えないのかな?」
「兄さん、気になるんすか?
その桃色髪の娘っ子が、虚無かも知れねーって?」
デルフ、ちゃんと覚えているんだ。
君の記憶媒体って何なんだろう?
「そうなんだ。
魔法を使えば全て爆発するんだ……
でもディテクトマジックで調べると魔力の流れは途中までは正常だし。
確認出来ているジョゼフ王も無能と呼ばれる程、普通の魔法は苦手だろ?」
「三王家には虚無が生まれる事は0じゃないっすね……」
「でも覚醒の方法が分からないんだよね。
デルフは覚えてない?」
カタカタと鍔は鳴らすが、考え込んでいるデルフ……
「兄さんには恩が有りやすから……
死ぬ気で思い出すっすよ!」
インテリジェンスソードがウンウンと考え込み始めた……
邪魔をしない様に静かに馬を歩かせる。
カッポカッポと街道に長閑な馬の足音が響く……
「兄さん、やっぱり思い出せないっすよ。
俺っちは使い手の相棒だから、その主人の記憶は曖昧でさぁ……」
「そうか。
ブリミルブリミルって6000年も騒いでる癖に、詳細は謎が多いんだよな。
今に伝わる物なんて、始祖の名を冠した祈祷書かオルゴール位か……
もっとも国宝だから、僕らじゃ確かめる術も無いけどさ!」
デルフのカタカタが止まる……
「祈祷書にオルゴール……
確かあいつ等は、必要な時に読めるだか聞こえるだか言ってやした。
本と楽器……
関係が有るかも知れやせんね?」
ヨッシャー!
不自然でなく、始祖の祈祷書とオルゴールとの関連を聞けた。
あとは指輪だな……
しかし、火はコルベール先生。
土はジョゼフ王。
水はアンリエッタ姫。
風はウェールズ皇太子か……
アンリエッタ姫とウェールズ皇太子なら何とかなりそうだ……
コルベール先生は所持を確認してないし、ジョゼフ王は……
回春のお礼に頼むか?
無理だ!
あの男にトリステインと言うか
僕の奥様は虚無です!
なんて言ったらどうなる事か、分からない。
あとは、ロマリアの2人も虚無使いと使い魔だろうし……
アレ?
僕の平穏って、果てしなく遠くないかな。
「兄さん?
黙っちまってどうしたんですかい?」
「いや……
平穏って言葉が、えらく遠いと思ってさ」
「良く分かんねーっすけど、兄さん程の人物は波乱万丈が当たり前っすよ!」
……デルフ。
あとでカステルモール殿かワルド殿に持たせて、第2回妄想大会を開催するぞ!
「兄さん?
何かヒデー事考えてませんか?」
もう遅いよデルフ。
「いや、久し振りに自分の漢度を計ろうかな!」
「兄さん、まさかあの変態2人は呼ばないっすよね?」
「…………」
「ヒデー!
事実を言っただけでー!」
ある意味、真実は人を傷つけるんだよ。
ガリアは、シェフィールドさんとイザベラ姫である程度は押さえ込める。
トリステインは、アンリエッタ姫さえ上手く動かせば平気だ。
アルビオンは、これから恩を着せる。
問題はロマリア……
教皇ヴィットーリオとヴィンダールヴのジュリオの謀略腹黒2人組だ!
あのイケメン組は、魂から敵だと思うんだ。
「兄さん、敵襲だ!
アブネー、避けろー!」
デルフの叫びに我に返る!
咄嗟に馬から飛び降りると同時に、僕の居た辺りに火球が通過する!
馬が驚いて走り出した……
「しまった!
馬が……
デルフ、力を貸してくれ!」
「任せろ!
あの程度の火なら食い尽くすぜ」
頼もしい相棒を抜いて周りを確認する。
脇の茂みから、傭兵らしき一団と……
筋肉ムキムキのメイジ?
が、現れた。
「これはこれは……
貴族の小僧1人殺すなんて退屈だと思ったら、中々しぶといな」
このムキムキ馬鹿は……
「白炎のメンヴィヌルか……
盲目の脱走兵が殺し屋まで身を落としますか?
なぁ元アカデミー実験小隊の副隊長さん」
言葉で牽制し、状況を確認する。
迂闊だった……
久し振りの祖国とキュルケの件で浮かれ過ぎたか。
傭兵は目視で確認出来ているので12人か……
僕の死角へ回ろうと、広範囲に散らばっている。
魔法で纏めて攻撃は無理かな……
「……そんな胸糞ワリィ昔話は聞きたくないんでね!
んじゃ死んでくれよ。
俺に、貴様の焦げた臭いを嗅がせてくれよぉ!
ヒヒヒヒヒ……
巨乳派教祖様はどんな臭いだぁ?」
やはり臭いフェチかよ!
「殺し屋の癖に良く喋るよね?
教えてくれないか?
誰が僕を殺そうと頼んだのかを?
心当たりが多くてね」
僕は肩を竦めて質問をする。
周りの傭兵達は弓をつがえ始めたか……
時間はそんなに無い。
しかし、これだけは言質を取らないと駄目だから……
「はっはははっ!
余裕だな、小僧。
教えると思うのかぁ?
馬鹿がぁ、死ねよぉ」
この脳筋、やはり駆け引きは分かり易く言わないと駄目かよ!
「炎蛇……
居場所知りたくない?」
「何故、その名を知ってるんだ小僧?」
ヨシ!
固まったぞ。
脳筋馬鹿でも話に乗ってくるかな?
杖を向けたままで聞いてくる。
「お前、何処まで知ってるんだ?
言えよ……
そしたらこっちも話すぜ!
まぁどうせ殺すがな」
やっぱり顧客より復讐か……
原作では、手強い相手として扱われていたが、カリーヌ様やシェフィールドさんの威圧感に比べれば……
どうって事は無い。
それだけ、あの2人が恐ろしいって事だけどね。
義母と義姉になるんだよ。
あの2人と、さ……
でも、今はビビらない胆力を鍛えてくれた2人に感謝しなければ。
「先に教えてよ。
こんなに包囲してるのに、それ位のサービス精神は無いの?」
「あーっはっはぁ!
大したタマだな坊主。
良いだろう。
お前を殺す様に頼んだのは、オリヴァー・クロムウェル司教だ!
なんと1万エキューだとよ。
どんだけ恨まれてるんだよ小僧?
何したんだよ?」
「有難う!
これで、コルベール先生に恩返しが出来るよ。
何たって、本来彼とくっ付くレディを昨日食べてしまってね……
気まずかったんだ。
では、お相手するよ!」
ツアイツ+デルフVSメンヴィヌル+傭兵の戦いの火蓋は切って落とされた!