第148話
ド・ゼッサール隊長の悲劇(希望)……
公務を終えて帰路につく。
最近はワルド殿のグリフォン隊がアンリェッタ姫にべったりな為、我らの被害が少なくて良い。
折角上り詰めたマンティコア隊隊長の地位だ。
あのアホ姫の我が儘で失脚したくないのが本音だ。
「頑張ってくれ!
我らの分まで……」
「何を頑張るのですか?」
「だっ誰だ?」
幾ら思考に耽っていたとは言え、気配を感じずにこんな近くまで接近を許すとは!
後ろから、桃色の髪の女性が……
「まっまさか、カリン隊長ですか?」
記憶の中に棲む鬼が目の前に居た。
喉がヒリヒリと渇く……
「久し振りですね。
元気でやっていましたか?」
「はっはい!」
「今日はお願いが有って来ました。
何処か落ち着ける場所は有りますか?」
現役隊長当時より、言葉使いは優しいがプレッシャーはそのままだ。
「では、我が屋敷で宜しいでしょうか?」
カリン隊長は、珍しく笑顔で頷いてくれた。
結婚して丸くなったのだろうか?
屋敷に案内し、応接室に通す。
両親を紹介したが、ヴァリエール公爵夫人になっている事は余り知られておらず、家族の驚きは酷かった……
地位は人を変えるか?
優雅に勧めた紅茶を飲む彼女は、見た目は一流の貴婦人だ。
しかし、私は騙されないぞ。
「ド・ゼッサール隊長」
「はっはい」
「アンリェッタ姫が、有力貴族を集め会議を開くのはご存知か?」
ああ、あの姫様の気紛れの為に来たのか。
黙って頷く。
「ではアルビオン王国の内乱の件もご存知ですか?」
アルビオンで、ブリミル司教が起こした反乱か。
確か現状は王党派が不利らしいな。
「レコンキスタですね。
ブリミル司教が反乱を企てるなど……」
「此度の緊急召集。
アンリェッタ姫は、王党派に応援を……
つまり派兵したいので、その話し合いです」
「なっ?
何故その様な話になっているのですか?
しかも現在不利な王党派に応援などと……
下手をすればトリステイン王国にも戦火を招く恐れが!」
馬鹿な!
姫様は、トリステインを戦争に巻き込むつもりか?
「レコンキスタ……
アルビオン王国を平らげたら、次はトリステイン王国ですよ。
盟主オリヴァー・クロムウェルは明言してます。
我が情報網も中々確かな精度ですよ。
どうせなら、他国で戦乱を収めた方が良い」
カリン様は、私に何をさせたいんだ?
近衛としてトリステイン王国の象徴たる3隊の1つ、マンティコア隊の隊長の私に……
「アンリェッタ姫は、その会議中にレコンキスタから買収された貴族の粛清を行います。
私が現役復帰したのも、その為です。
他にもグラモン元帥にド・モンモランシ伯爵……
それにグリフォン隊と銃士隊もです。
ド・ゼッサール隊長!
貴方の忠誠心は何処に向いていますか?
私と共に、売国奴を捕まえるか?
それとも、まさか既に買収されてはいませんよね?」
なっ何てプレッシャーだ……
下手を言うと、現役時代のトラウマが蘇って……
「もっ勿論、我が忠誠心はトリステイン王国に!
不肖ド・ゼッサール、アンリェッタ姫の力になる事をお約束します!」
やっとカリン様がプレッシャーを抑えてくれた。
最早、何処にも逃げ道は無しか……
安穏な生活ともオサラバ。
また鉄の紀律の生活か始まるのか……
「時に、ド・ゼッサール隊長。
彼処に飾ってあるフィギュアですが……
まさか、貴方も男の浪漫本ファンクラブ会員なのですか?」
しまった!
やっと買えたエーファたんが嬉しくて飾ってしまった!
エーファたんが壊される?
「ちっちちち違わないけど違います!
これは……」
「私の義理の息子にも、同じ物が沢山有ります。
ええもう売るほど」
へー、烈風のカリンの娘を貰うのか……
大変だな。
きっと怒れるカリン様にフィギュアを全て壊されたのか……
哀れな、同士よ!
いつか会う事が有れば、共に素晴らしき乳について語り合おう。
「そのモデルのエーファの主人ですよ。
分かりますか、ド・ゼッサールよ。
今回の作戦が上手く行けば、彼に紹介しても良いですよ。
ツアイツ殿に……」
「ツアイツ殿?
……ツアイツ・フォン・ハーナウ殿ですってー!」
「そうです。
彼は今、レコンキスタの刺客によって傷付き実家で療養してますが、共にレコンキスタと戦う同士。
貴方の活躍を私が伝えれば……
悪い様にはしませんよ?
何でも市販されていない逸品や、フィギュアの実在モデル達と会えr」
「ヴァリエール公爵夫人、皆まで言わずとも結構です。
漢ド・ゼッサール!
レコンキスタには常日頃より義憤を感じていました。
しかし、立場故に沈黙を保ったましたが……
その様なお話ならば、全力で当たらせて頂きます。
全て私にお任せを」
何てこったい、ブリミル様よ!
これは私に与えられた千載一遇のチャンスだ!
魔法衛士隊隊長とは言え、領地の無い私では俸給のみで、さほど自由になる金は少ない。
中級会員昇格もまだまだ先かと思っていたが……
こんな抜け道が有ったなんて!
「レコンキスタ!
我が忠誠心(エーファたんに会う為に)により滅びて貰う!」
「それと、ワルド子爵も同様の条件でグリフォン隊として動いていますから……」
なっ何だってー!
ワルド子爵よ。
貴様、既に上級会員の癖に私とエーファたんの恋路を邪魔するとは……
「分かりました。
全てお任せ下さい。
それと部下達にも同じ条件でお願いします。
士気も高まるでしょう」
「では、詳細は追って連絡します。
宜しく頼みますよ。
ド・ゼッサール隊長」
SIDE烈風のカリン
ツアイツ殿、既にトリステイン王国の中枢にまで影響を与えていたとは……
グリフォン隊とは既に仲良くしていますね。
マンティコア隊にも、信者が居たとは……
これは、売国奴を一掃した後ならば。
例の作戦を進められるかしら?
エレオノールと作戦の詳細を練りましょう!
義息子よ。
我らヴァリエール一族から逃げられませんよ。
貴方の為だから……