第149話
イザベラ暴走!
何時も何時も私を驚かすアイツが、この国に来ている。
明日には会える。
明日まで会えない。
色々言いたい事が有るんだ!
話し合いたい事も……
「明日までなんて、待てるかー!
メイド。
出掛けるよ、支度だ。
それと元素の兄弟を……
ジャネットだけ呼びな。
勿論、内密にだ」
ここは、私の国なんだ。
私の好きにするのさ。
ふふふっ……
「何だい?
その地味な服は……
えっ?
派手な服は目立つって?
いや、でも地味過ぎないかい?
もう少し、こう華やかに……
マントで隠せるからさ……」
城を抜け出そうとしている意図を正確に見抜いているメイド達。
最近のイザベラ姫は、言葉は悪いが使用人達に決して人気が無い訳でない。
寧ろ、無理難題を言う貴族達を抑えている方だ。
彼女の、初ミッションが始まった……
SIDEカステルモールの屋敷
大国ガリアの団長だけ有って、支給された官舎で有る屋敷も大した物だった。
「流石は大国ガリア……
官舎でこの規模とは!」
「宿を取ろうとも思いましたが、大人数ですし。
ツアイツ殿の護衛や目立たない事も考えて我が家にしました。
たまには団員達も呼んでいますから、不自然ではないですよ」
確かに夜遅くに、貴族が30人以上押し掛けては噂にもなるか……
「明日の段取りは?」
「ツアイツ殿には我が従者として、竜騎士団詰め所に同行して貰います。
そこにイザベラ姫が、折を見てお訪ねになりますから……」
なる程。
それなら目立たないし、周りは彼らが警戒してくれる。
竜騎士団団長が同行してくれるなら、疑われる心配も低い。
「了解しました。
何から何まですみません」
「いえ、無理を言ってガリア迄来て貰ったのは此方ですから……
では今日は此方の部屋でお休み下さい。
後で、治療の水メイジを寄越しますから」
「其処までお世話には……
僕も水メイジですから、水の秘薬だけ下さい。
これも鍛錬ですから」
「そうですか?
では、ゆっくり休んで下さい」
やはり強行軍は疲れたな。
少し休んだら、治療して眠ろう。
いよいよ明日か。
忙しくな……るか……な……
ミッションスタート、イザベラ姫!
「と、言う訳だ!
カステルモールの屋敷まで護衛を頼む」
急に呼び出され、訳の解らない事をいわれて不機嫌になる。
半日位、待って下さい。
「はい?
何故でしょうか?
こんな夜遅くに。
危険ですから、大人しく明日を待ちましょうよ」
「待てるか!
良いから行くよ。
ほら、早くしな」
「ちょ、せめて他にも人員を用意しま……
ってイザベラ様、待って下さい」
珍しく暴走するイザベラ姫だった。
イザベラが治世を始めて、力を入れているのは街の治安だ。
勿論、貴族の横暴を抑える事も含まれている。
そして国民的アイドルでも有るイザベラだ。
バレれば大騒ぎだろう。
メイド達が準備したのは、地味な馬車だ。
しかし、主を心配する彼女達はちゃんと手を打っている。
具体的には、馬車を護衛する
「ツンデレプリンセス隊」
「蒼い髪の乙女隊」
の2隊だ!
某姫と違い、彼女には言われなくてもサポートしたがる家臣に溢れていた。
彼女が秘密で深夜にツアイツに会いに行く。
それは、皆さんが知ってしまった!
彼女は完璧に護衛された道をひた走っている。
「どうだいジャネット?
我ながら中々の隠密行動だろ?
朝には帰るから安心しなよ。
何の問題も無いね」
ご機嫌のイザベラを見て溜め息をつく……
周りに護衛の気配が有る事を話すべきか?
出掛けにメイドから耳打ちされた言葉。
「姫様ファンクラブが既にカステルモール様のお屋敷まで護衛の準備をしていますが、内密にお願いします」
本人は秘密の逢い引きのつもりかも知れない。
しかし、このミッションは既に50人からの護衛を投入した大作戦だ!
後にファンクラブの中で
「ツンデレプリンセス、深夜の逢い引き大作戦!」
とツアイツに夜這いをかけたと思われてしまう。
本人は最後までバレてないと信じているのだが……
漸く、カステルモールの屋敷に着いた!
しかし当然カステルモールにもイザベラが来るのは知らされている。
知らない振りをするが……
「イザベラ様!
こんな夜遅くに、どうなされたのですか?」
「ああ、カステルモールすまないね。
ちょっと、アンタの客に用が有るんだ!
少しだけだから、構わないね?」
「二階の客間に居ます。
余り問題を起こさないで下さい。
帰りは同行しますよ。
ってイザベラ姫、聞いて下さい」
「二階に居るんだろ?
聞いてるよ。
じゃ後は頼んだよ」
さっさと二階に行く姫を見ながら呟く。
「イザベラ様……
まだ子供は早いですよ?」
「イザベラ様……
秘密の逢い引きだと信じてるんですね」
隣に、北花壇騎士団のジャネットが音も無く立っていた。
「あの姫が、色事で動くとはな」
「しかし、周りにバレたら問題ですよ?
私は楽しいから良いけど」
確かに、ガリアの第一王位継承権を持つイザベラ姫が、他国の一貴族と恋仲になったなど大問題だ。
騒ぎ出す奴も多いだろう。
父親がアレだし、未だ反発する地方領主も多い。
「大問題だな……
だから?
イザベラ姫が望むなら叶えるのが家臣の務め。
手が無い訳ではないな。
簡単なのは、ジョゼフ王に認めさせる事だ」
「ジョゼフ王に?」
「そうだ!
家柄や勢力地盤を除けば、ツアイツ殿は有能だ。
ガリアの統治も出来るだろう……
それをジョゼフ王が認めれば、反発する輩は我々が処理すれば良い」
「こっ怖い考え方ですね……
また粛清ですか?」
「まぁ本気でツアイツ殿がイザベラ様と結ばれたいと思えば……
協力を申し出る連中は沢山居るぞ。
大した苦労も無いだろうけどな。
彼の支持者は何処にでも居るから」
ツアイツ殿をガリア王に、か……
それは、面白いかもしれん。
あの頑張っている姫様にそれ位のご褒美が有っても良いだろう。
少し真剣に考えてみるかな。
真の漢達の国を建国出来るやもしれん。
まぁ建前なら、イザベラ姫のアイドル大国でも構わないけどな……