第156話
城塞都市サウスゴータ。
かつて、モード大公に縁のあったロングビル……
いや、マチルダ・オブ・サウスゴータの故郷はレコンキスタとの最前線として賑わっていた。
かつての領主の館のベランダでウェールズ皇太子は、闇夜の街を見ている。
所々で篝火が焚かれ、物々しい警戒がされているが、治安も良く住民も協力的だ。
対レコンキスタ総司令官に任命されたウェールズ皇太子は悩んでいた。
先程、物見の報告により明朝レコンキスタが進軍するとの報告が有った。
いよいよ最終決戦だ。
かの地から、大軍を動かすとなれば、4日後には接敵するだろう……
負ける気はしない。
しかし、机の上に有る二通の手紙が気になる。
1つは、心の友であるツアイツ殿より送られてきた手紙だ。
これは、良い事だろうし早く読みだい。
もう1つは……
アンリエッタ姫の直属部隊の銃士隊が、怪しい行動をしていた。
何組かに分かれて、アルビオン大陸に侵入してきたのだ。
アンリエッタ姫からの親書を携えて……
確認出来ただけで3通。
彼女達は、丁重に送り返した。
しかし、話した所では父上の方にも届ける部隊が居るらしい……
これは、読みたくない。
私はどちらかと言えば、美味しい物は先に食べる主義だ!
だから、心の友の手紙を読もう。
「ウェールズ様。
此度の戦ですが、良く平民を守り部隊の損傷も少なく撤退している事。
流石と言わずにはいられません。」
ツアイツ殿の情報網の方が凄いな。
正確に我らの動きを掴んでいるとは。
「レコンキスタの動向ですが、どうやらトリステイン王国にも魔の手を伸ばしていました。
既に何人もの貴族が買収されています。
アルビオン王党派の方々はそんな誘いには乗らなかったのに……
義父上で有る、ヴァリエール公爵に売国奴のリストと証拠を渡しましたので、そちらからのレコンキスタへの増援の可能性は潰せた筈です。」
何故、ツアイツ殿がそんな証拠を?
アレかな、昔ウチの諜報を手玉に取った連中か……
国の諜報機関より有能ってどうなんだ?
「アンリエッタ姫次第ですが、上手くすれば王党派に応援を派兵出来るでしょう。
上手く行かなければ、彼女は国内の騒動を抑えるだけで手一杯でしょうね?」
アンリエッタ姫か……
まさか、この手紙に?
しかし、彼女にそんな政治的手腕が有るとはとても……
少なくとも、トリステインからの裏切り者がレコンキスタに合流しないだけ有り難いかな。
「微力ながら、私もアルブレヒト閣下に増援の願いをします。
同盟国の危機ですし、両国に利も有ります。
問題無いと思いますが、派兵には時間が掛かります。」
これが、前に言っていた応援を送れるかもしれない……
の事だな。
心の友よ……
有難う、それだけで感謝し足りない位だ。
私は君に何を恩返しすれば良いのだ!
「それと、僕はこれからガリアのイザベラ様に会ってから其方に向かいます。
大した役にはならないと思いますが、ファンクラブの激励位にはなるでしょう。
皆は僕の事を知ってるとは思いますが、一応来ると言う事を伝えておいて下さい。
では、会えるのを楽しみに。」
なっ何だと!
我ら王党派の為に……
この戦場に来るだと……
何て漢なんだ。
トリステイン王国の裏切り者を牽制し、ゲルマニア皇帝に増援を嘆願。
そして、戦意高揚の為に戦場に現れるだと……
何処まで突き抜けた漢なんだ!
しかし、ガリアのイザベラ姫に会うとは?
まさか、フィギュアのツンデレプリンセスたる彼女と良い仲なのか?
大変だろう、この貴族社会でそのラブロマンスは……
よし!
恩返しには、イザベラ姫と結ばれる様に国を挙げて協力しようではないか!
この戦いに勝てば、彼は英雄だからな。
それ位はお安いご用だよ。
さて、気分も高揚したのでアンリエッタ姫からの手紙を読もうかな……
アンリエッタ姫の手紙
ウェールズ様へ
私の心は、張り裂けそうですわ。
愛する貴方の国の一大事。
でも力の無い私には、貴方に差し伸べる事が無いのです。
自国も纏められない、哀れな姫とお笑い下さい。
貴方の近くに行き、貴方を感じたい。
ラグドリアン湖の辺(ほとり)で、私の沐浴を偶然見付けてしまったウェールズ様……
かなり長い間、熱い視線を送って頂きましたわ!
私は代々トリステイン王家に伝わる決まりにより、肌を見られた相手に嫁がねばなりません。
ウェールズ様は仰いました。
あと少し胸が有れば、その場で押し倒したのにと。
あの一言は、私の硝子細工のハートを砕きましたわ!
何て、残酷なお方……
そして、己の欲望に忠実な人。
私は、王家のしきたりに従い貴方に嫁がねばなりません。
私の玉の肌を見たからには、ウェールズ様も男の責任を果たして頂かなければなりませんわ。
具体的に分かり易く言えば、婚姻ですわ!
こ・ん・い・ん!
大切だから、二回書きました。
でも、安心して下さい。
私の胸は、とある人からの指導により巨乳の階段を三段飛びで駆け上がっています!
ツアイツ様の設定によればD84との事です。
もう微妙などとは言わせません!
だから、私の方には問題は有りません。
問題なのは、ウェールズ様の責任の取り方だけですわ!
…………最近疲れているのかな?
随分と捏造された、手紙の様だが?
はははっ!
疲れが溜まっているのだろうか。
さて、これは燃やしておかねばならないな。
残りも全て……
ツアイツ殿が来たら、アンリエッタ姫との事は、誤解無き様に説明をせねばなるまい。
まぁこの様な手紙1つでは、もう私は動じぬがな。
父上にも、連絡を入れておくか。
トリステインから、我が国へ謀略を仕掛けられている疑いが有ります、と。
さてと、ではツアイツ殿の歓迎準備をしなければ……
「バリー、バリーは居るか!
一大事だぞ。
皆を集めて緊急会議だ!
ツアイツ殿が、戦意高揚の為に、我らが為にこの地に向かっているのだ。
歓迎の準備を……」微妙にツアイツとイザベラ姫の事を勘違いをしてしまった、ウェールズ皇太子であった。
そしてアンリエッタ姫の渾身の手紙は、ただイタい女と認識されただけだった!
やはり覚醒ウェールズに単騎で挑むのは無理だったか?