第157話
デレベラさん頑張る!
プチトロアの執務室で、気が付けばメイドが昼食の準備が出来たと呼びに来た。
見渡せば、シャルロットもジャネットも居ない……
あれ?
何時の間に、出て行ったんだろう……
「昼食かい?
働き過ぎかね……
もう午前中が終わりとは、時間が経つのが早く感じるよ」
彼女も、アンリエッタ姫ばりに妄想……
いや、実行可能だから妄想ではくシミュレーションか?
「メイド!
今夜も出掛けるから準備を頼むよ。
それとツアイツに見舞い品を……
何か一緒に食べれるスィーツを見繕ってくれよ。
余りは皆で分けて構わないから」
1人の食事を終えて、食後の紅茶を楽しんでいる。
ツアイツの怪我を知ってからアルコールは断っているのだが……
「うう……
ワインが飲みだいけど我慢だよ。
ツアイツが回復する迄は」
好物を断つ願掛けとは、割と古風なイザベラで有ったが、好物がアルコール……
これを機に減酒を!
そして2回目の深夜の逢い引きが始まる。
昨夜と同じ様に、完璧に警護された道をカステルモールの屋敷まで馬車を走らせる。
昨夜と違うのは、ジャネットの他にシャルロットが乗っている。
イザベラの肩に頭を乗せて寝ているが……
「おい?」
「なんでしょう?」
「何故、シャルロットが乗っているんだ?」
彼女を起こさない様に、視線を送りながら質問する。
「はぁ……
昼間の執務室で、今夜も会いに行くから見舞い品が何とか。
って話されていたのでバレたんですよ」
溜め息をつかれたぞ!
「私のせいだって言うのかい?」
「はい。百パーセント、イザベラ様の自業自得かと……」
「……幸い寝ている。
着いても起こさずに、馬車に置いていこう」
イザベラの膝に頭を乗せて、本格的に寝入っているシャルロットを見ながら話す。
「子供に夜更かしは良くないんだよ」
これを見たらイザベラファンクラブは、ご飯三杯は逝けるだろう……
シャルロットは、イザベラのスカートに涎を垂らして熟睡中だから。
結局カステルモールの屋敷に着いたが起きず、そのまま馬車に寝かせておいた。
「イザベラ様、いらっしゃいませ。
お待ちしておりました」
「うん。
それでツアイツは、昨日と同じ部屋かい?」
背中にエルザを貼り付けた、出迎えのカステルモールに質問する。
「はい。
既にお待ちです。
それと、ツアイツ殿が我らを交えた相談が有ると話しておりました。
呼ばれる迄は近付きませんので」
「イザベラ姫様、ツアイツお兄ちゃんに激しい運動させちゃ駄目だよ!
怪我に響くから」
「……頼まれなければしない。
それと見舞いの品だ。
直ぐにお茶と共に運んでくれよ」
頼まれたら、激しい運動をするんかい!
突っ込みは、仕える姫には出来なかった。
いや、オヤジギャグを本音で切り返されては何も言えないぞ。
扉の前で身嗜みをチェックし、深呼吸をする。
ノックをしてから部屋に入る。
「今晩は、ツアイツ。
体調はどうだい?」
ツアイツは、ソファーに座っていたが立ち上がり近付いてきた。
えーと、彼をハグすれば良いんだっけ?
「お待ちしておりました。
さぁ此方へ」
そう言ってソファーを勧める。
何だい、意気地なし……
「昨夜は急だったから何も用意しなかったけど、今夜はガリアのスィーツを用意したよ。
直ぐに持ってくるはずさ」
「イザベラ様のお薦めですか?」
ヨシ!
会話の流れは、良い感じだよ。
昨夜は出来なかった、たわいない話をしているとメイドが紅茶とスィーツを運んで来た。
「ザッハトルテですね。
どちらかと言えば、ゲルマニアのスィーツでは?」
「いや、ツアイツが好きだと思ってね」
和やかな雰囲気が続く。
「それで、相談とは何なんだい?」
嫌な女だね……
もう少し甘い雰囲気を作りたいんだけどね。
ツアイツの顔が、普段見せない厳しい顔付きに変わったね。
私はこっちの方が好きだよ。
謀略に長ける私達にはお似合いさ。
「ジョゼフ王からの挑戦……
いよいよ大詰めです。
レコンキスタは王党派に総攻撃をかけるでしょう。
トリステインから増援をとも画策しましたが……
アンリエッタ姫の暴走でタイミングが危うい。
だから、我が閣下にもお頼みしました」
ツアイツと知り合えたのは、お父様のお陰。
しかし問題もお父様か。
「レコンキスタはダータルネスで準備中だが、間者の報告では一両日中に侵攻を開始するよ」
「その情報は、知りませんでした。
流石はイザベラ様。
なので、トリステインかゲルマニアの増援が来るまでの繋ぎとして……
僕は、王党派に行くつもりです」
「なっ……」
何だって!
怪我人が戦場に行くだって?
クソッ……
普通なら止めるだろうけど……
私にはツアイツが行く事の効果が理解出来てしまう。
タイミングが悪いんだ。
両国の増援は間に合わない。
王党派の応援として、精神的な支柱としてツアイツは有効だ!
しかし、それはオリヴァー・クロムウェルから目の敵にされているアンタの危険度が跳ね上がる。
「イザベラ様?」
「言葉は悪いが、王党派の神輿としてツアイツは有効だね……
しかし危険度は高い。
アンタに懸賞金がかかっているのは知ってるね?」
本当なら止めるべきだが……
私は、コイツの相棒になると決めたんだ。
「はい。
戦場ともなれば、僕の首を取りに殺到しますね。
それこそ、作戦も連携も関係無く……」
嗚呼、コイツは自分が極上のエサだとも理解しているのか。
ならば、私も覚悟を決めようかね。
「偽装船を用意するよ。
それとイザベラ隊を付ける。
カステルモールも持って行きな。
変態を従えるのは、ド変態なアンタなら楽勝だろ?」
笑顔で言ってやる。
私はね、情で縋る他の婚約者達とは違うよ。
「はい。
イザベラ様、有難う御座います」
「止めたって行くんだろ?
なら出来るだけの協力はしてやるよ」
序でに、私も内緒で付いて行くよ。
アンタが広めたツンデレプリンセスの私だって、戦意高揚にはなる筈さ。
替え玉はシャルロットにフェイスチェンジでやらせるし、ツンデレプリンセス隊と蒼い髪の乙女隊で周りを固めれば……
暫くはバレないだろう。
現地で騒がれても、しらばっくれるから問題無い。
要はレコンキスタを殲滅すれば良い。
後は、ツアイツだけに私の功績を認めて貰えば……
仮にも王女を戦地に連れ出したんだ。
責任は取ってくれるよね?
「あの……
イザベラ様?
凄く邪悪な笑みですけど……」
覚悟を決めた女は強かった!