第17話
藪をツツイたら蛇が出たのか?
それとも棚からボタモチか?
SIDEソフィア
絶望だった。
使用人の中では、気に入った女性を強引に攫っては手篭めにし、飽きたら捨てる最悪の噂のモット伯様。
今までも実際に何人かの女性がメイドにと強引に攫われて行ったが、その後の話では働き続けている人は殆ど居ないらしい。
自分には家族に仕送りをしなければならないし、逃げたり逆らったりしたら家族に迷惑が掛かってしまう。
どんな仕打ちを受けても我慢する覚悟で新しいご主人様のもとに向かえば、何故かツアイツ様が笑って居た。
何も考えられずにいると、私の為に秘宝を渡してまで助けに来てくれた、と。
しかも私の事を気に入っていてくれて、取り戻しに態々本人が掛け付けてくれるなんて……
嬉しい。
ツアイツ様の良い噂は色々聞いていますし、実際に学院の貴族様の中では異常な位に平民に優しい貴族様です。
ゲルマニアでは普通だとお薬を無料でくれたり、怪我をした使用人が居れば無料で治癒をしてくれる不思議な人。
多分、憧れていた初恋の人。
でもどんなに優しくても身分が許さない。
そんな雲の上のお方。
でも今回は、私をモット伯様から買い戻してくれた。
つまりこの身はツアイツ様の物であり、これから生涯お仕えしなければならないお方。
もう魔法学院で働く理由はないけど、学院には専属メイドを置くことは許されていません。
近くにお屋敷を構えたとおっしゃってましたから、そちらに住み込みで働くとなると、ツアイツ様に会えるのが殆どなくなります。
やはり学院にて専属メイドとして働かせて貰えるように、学院長さまにお願いしましょう。
私は既に身請された体ですから、ご主人様から離れるわけにはいきませんので。
SIDEツアイツ
ヤベーもうこれ以上メイドを増やすのは、色んな方面の方々からお叱りをうけそうです。
特にヴァリエール夫人やエレオノール様など
「「まだ増やすのですか汚らわしい……」」
とまで言われましたし。
シエスタを迎えた時の苦労も凄かった……
後悔はしてないけど。
しかしソフィアは一旦、マルトー達に会わせて安心させないと、明日とかに連れて行ったら間に合わなかったのかとか誤解しそうだし。
「取り敢えず学院に一旦戻って、マルトー達を安心させよう。
心配していたよ」
「解りましたご主人様、マルトーさん達には心配をかけて申し訳ないです」
良かった納得してくれた。でもご主人様は……
良いかも!
まだ学院までは距離があるので、再び彼女をお姫様抱っこしてフライで飛んでいく。
ソフィアは両手を僕の首にまわし落ちない様にしているが、オッパイが胸の辺りに強く押し付けられているし首筋や髪の良い匂いがしますYO-!
ヤバイ……
理性が段々無くなっていく。
唯でさえ溜まってるんですよ。
そうだ、素数を数えるんだ……
今度は魔法制御がおざなりに……
しっかりしろツアイツ!
でも何かを考えてないと、無意識にソフィアを意識してヤバイ形状に暴れん棒が……
そうだ、カリン様&エレオノール様の冷笑を思い浮かべるんだ!
暴れん棒が萎えて気持ちも冷静にはなったけど……
悲しい気持ちで一杯にになってきた。
学院の正面門少し手前で降りて、あとは歩いて取り敢えず厨房に顔を出しに行く。
もう精神力は底を尽きそうだ……
普通フライでは、こんな長距離は飛ばないから……
2大ドS女王様の想像も。
もう嫌だ!
心底疲れ果てた。
今日は屋敷に行くのは諦めて、明日一番で向かおう。
厨房に無事にソフィアを送り届けてからは、凄い歓待を受けた。
それもそうだろう。
一度貴族に攫われた平民が、無事で戻るなんて有り得ない国だから。
このトリステインは……
ただメイド仲間からの抱擁を受けていたソフィアが、爆弾発言をしちゃったりしてくれました。
「ご主人様はモット伯様から私を取り戻すのに、秘宝を3つもお渡ししてくれました。
どれほどの価値かも想像もつきませんが、このご恩を少しでもお返しする為に、これからはツアイツ様の専属メイドになる事になりました」
なにそれ決定ナノー?
「秘宝って……
俺達が頼んだからって、そんな物までモット伯に渡してしまったのか……」
いや元手無料だからね。
「あんた凄いよ、どれだけ俺たちの事を大切に思ってくれているんだー!」
マルトー抱きつくなー!
マルトーを引き離そうとしたら、ソフィアが
「マルトーさん駄目ですよ?
許可無くご主人様に抱きついては……メキョ」
ソフィアが般若の笑顔で、マルトーの肩を握りつぶして引き剥がしてくれました。
女性でも肉体労働に従事していると、逞しくなるのね。
「僕は事の顛末をオールドオスマンに報告してくるから……」
取り敢えず逃げよう。
「あっご主人様、私も専属メイドの件で、お願いが有りますので同行します」
何か吹っ切れた笑顔で、ソフィアも付いて来るって。
肩を抑えて蹲るマルトーさんに今晩夕食、食べるから宜しく!
と言って学院長室に向かった。
マルトー哀れなり……
コンコン「失礼します。学院長」
学院長室に入ると……
アレ女性秘書が居ますよ?
あの緑の髪は、土くれのフーケだよね?
アレアレレ?
「どうしたミスタ・ツアイツ。
それにメイドも同行しているが、何じゃな?」
ヤベェ一!
一瞬固まってしまったよ。
「いえ……
ご存知かとは思いますが、モット伯の所に勧誘されたソフィアです。
ごく平和的な話し合いで取り止めて貰いましたので、ご報告と再度この学院で雇って貰えないかな……と」
「ほぅ!
あの色狂いめをどうやって説得したかが気になるが、再雇用は問題ないそ。
明日からでも働いてもらおうかのう」
「お待ち下さい。
学院長様、既に私はツアイツ様……
ご主人様に買い取られた身ですので、ご主人様専属メイドでお願いします」
「ソフィア、その事は気にしなくて良いと言っただろう」
まだ気にしているのか、律義な娘さんだなぁ。
「それでは身請けとしてモット伯様にお渡しした秘宝のお返しが出来ません。
もうご主人様以外に、お仕えする気も有りません」
「なんじゃ?
ミスタツアイツは、その子を取り戻す為に相当無茶したんじゃな」
ニヤニヤ。
お前が何とかしないから僕がしたんだよ!
「いえ……
例の新刊を何冊か渡しただけですよ」
ムカムカ。
「なんじゃと!
あの秘宝をむざむざモット伯に渡したじゃと……
なんでワシに言わんのじゃ!
1冊500エキューででも引き取ったのに」
「アレだから、あのモット伯もゴネずにソフィアを渡したんですよ。
他の物だと後日改めてだとか言われて、間に合わなくなってしまうから」
「しかし……惜しいのう……
アレが奴に渡ってしまうとはのぅ……」
メソメソ。
ソフィアは自身の純潔の為に、学院長がアレだけ悔しがる物をあっさりモット伯に渡したツアイツの度量に感動して腰砕け状態だ。
「ではソフィアは今日は休ませますので、待遇はまた明日にでも話しましょう。
今日は色々疲れたので……
これで失礼します」
ソフィアを連れて部屋を出る。
その時、一瞬だけロングビルと目が合うが、軽く会釈して問題事を先送りした。
「ソフィア、夕食前に起こしにきてくれ。
それまでは君も休んでいて良いから」
と自室に入り、ベットにダイブした。
兎に角、ソフィアの純潔は守れたから良しとしよう……
どうしようもなく眠かったzzz
SIDEロングビル
この学院に潜入したのは、気に入らない貴族のボンボンの集まる所から
「破壊の杖」
って宝物を盗んで奴らに一泡吹かせたかったのと、全長18m級の鋼鉄のゴーレムを操るメイジが居ると聞いて、同じゴーレム使いとして興味が有ったからだよ。
直ぐに色んな噂が入ってきたね。
信じられない物も多かったけど、平民に優しく芸術性に優れ魔法もスクエアの優等生。
学生と領地経営の二足の草鞋を履いて、あの生きる伝説の烈風のカリンの愛弟子とか……
一体どんな完璧超人かと思えば、底抜けなお人好しだねこりゃ。
たかがメイド一人の為に、どんだけ散財してるんだか……
しかもそれを気にしてないばかりか、逆にメイドに気を使う始末だ。
貴族らしくない貴族……か。
でも嫌いじゃないね。
それだけの力を持っているんだから……
ティファニアの事も守ってくれないかねぇ?
でもどんなに善人でも、ハーフエルフやエルフにまでその優しさを向けてもらえるとは限らない。
その辺の意識調査もしたいけど、接点がないから難しいねぇ。
ただ気になるのは、最初に部屋に入ってきた時に、私を見て一瞬だけど驚いた様な表情をしたね。
普通なら、前任の秘書と違うから驚いた……
と思うだろうが、私の勘がなにか怪しいと告げるんだ。
些細な事だが、盗賊家業を始めてこの勘に助けられた事が何度もあったしねぇ……
危険とか危機とかじゃないと思うんだけど……
どうにも気になる。
やはり早期に偶然を装って、接触し調べるべきだ。
善人だけど、それじゃこのトリステインやゲルマニアでは勢力を伸ばせない。
何かを隠しているか、私程度じゃ読みきれない実力が有るのか。
危険と判断したら、この学院も去る位の覚悟が必要だね。
もし味方か最悪でも敵対の意思は無いならその時は、ティファニアの事を相談しても良いか……
いやそれは危険だ。
こちらは盗賊!
本性がバレたら、通報や拘束はされないと思うけど、味方にはなってくれないだろう。
雇って貰うのも一つの考えだが、孤児も含めて生活する給金は貰えないだろうね。
全く……
何でこんなに気になるんだろうねぇ。
とっとと、彼が居ない時にでも破壊の杖を盗んでトンズラすれば、関係ないのにね。
その頃、これだけロングビルを悩ませているツアイツは無用心にも鍵を掛けず、大鼾で熟睡中。
涎も出てます。
そして部屋の隅には、専属メイドとなったソフィアが(内緒でし)控えていた。
彼女にはツアイツのだらしない姿も、自分の為に苦労してくれたんだと思うと、それは感激すれども幻滅にはならなかった。
添い寝癖が有る事を知ったら、彼女は迷う事なくベットに潜りこんだだろう。
ツアイツはこの後、色々な女性陣に報告と言う苦労をしなければならないのだが、今はゆっくりと休ませてあげよう。