分岐第18話
腎虚で死んでしまえ主人公!
ゆさゆさ、
「起きて下さいご主人様、もう直に夕食のお時間です」
ソフィアが約束通り、僕を起こしてくれる。
「おはよう?
かな夕方だけど……有難う」
僕はある程度、精神力が回復し疲労も取れた事を体感で確認しながら起き上がった。
屋敷に行くのは、明日の朝一で馬で行こうかと考えていたら
「先ほど厩舎に行き、明日の朝一で馬車の手配をしておきました」
とソフィアから報告が有ったが……
馬車?
乗馬でなくて?
「僭越ながら私は御者も出来ますので、大丈夫です。
一応朝食後直ぐに出発と思ってますが、宜しいでしょうか?」
ソフィアにっこり。
同行する気満々ですね。
てか、早い時期にナディーネ達には顔合わせしておいた方が良い気がする。
「有難う。それで良いよ。
あーお腹空いたね。
今日の献立は何だろうね?」
などと話しながら、扉に歩いていくと部屋の隅に椅子が?
「アレ?
こんな所に椅子なんて置いたかな?」
ソフィアが申し訳無さそうに
「実は直立で、お部屋の隅に控えているつもりでしたが。
起こすまで休んで良いとのお言葉でしたので……」
「えっ?
この部屋に居たの?
何時から?」
おぃおぃ……
恥ずかしいぞそれは!
ルーツィアの時みたいだな。
彼女も小さい頃は眠るまで手を繋いでくれていたが、今では夜伽して貰ってるんだぜ。
良いだろ!
「馬車の手配後、直ぐにお部屋に伺いましたので……
もしかしてご迷惑でしたか?」
めっさ不安そうな顔で見上げてくる。
金髪ロリ巨乳ツインテールメイドの不安で見上げるお願いポーズは……
破壊力抜群だ!
ツアイツはあっさり折れた。
「いや構わないよ。
向こうにいるナディーネ達にも紹介するから」
シエスタの時の苦労は、すっかり忘れてお気楽に言ってしまった。
ソフィアの先導で、アルヴィーズの食堂に向かう。
基本他の貴族が居る時に彼女からは話し掛けてこない。
後姿を見ながら黙って歩いていると……
こうお姫様抱っこの時の感触が蘇ってくる……
でへへ!
ちっちゃいけど出る所は出てるし、可愛いし金髪ツインテールだ。
もしかしなくても、ウチで引き取れたのは当りかな。
でも手を出すのは控えないとな。
流石にモット伯から守ったけど、自分がご馳走様しました!
じゃ不味すぎるだろう。
ソフィアの感動丸潰しの思考をしなら、彼女のお尻を凝視して思いに耽っていた。
妄想中…妄想中…妄想中…
はっ!
気が付けば、既に自分の席についていた。
見回せば休日前の為か、のんびりした雰囲気が漂っていて結構な数の生徒が、既にワインを傾けながら思い思いに談笑したり、黙々と食事をしたりしている。
今日も豪華だな……
でも元日本人としては、和食が食べたくなる時が有る。
味噌や醤油の製作は難しい。
このハルケギニアには同じ発酵食品のチーズは有れども、流石に麹菌などの製法は確立されておらず、自分も錬金に挑戦したが上手くはいかなかった……
タルブ村に和風ベースの料理は有っても、調味料は流石になくこればかりは再現が難しい。
僕にも製法の知識なんて全く無いから、多分無理だろうな……残念。
遠い魂の故郷に思いを馳せていると、微妙にモテナイーズがギーシュを先頭に食堂に入ってきた。
軽く手を上げて挨拶すると、僕の周りに集まってくる。
「あれツアイツ?
今日は夕食は食べずに、屋敷に行くとかいってなかったっけ?」
「ああギーシュ。
ちょっと問題があって、明日の朝食後に行く事に変更したんだ」
「なんだ……残念だよ。
折角夕食は二人分食べれると思って、楽しみだったのにさ」
現在、マリコルヌを餌付け中です。
飼わないけど……
食べ切れず手を付けてない魚料理の皿をマルコリヌの方に押しやる。
何気に、こいつ僕の隣が定位置になっている。
「君の屋敷には綺麗どころのメイドが20人以上居るんだろ。
羨ましいな。
他国にまで屋敷を構えるなよ」
ヴィリエ君絡みますね。
あれは僕の夢の城だから、招待はしないよ。
「確かに屋敷の規模以上にメイドが居るけど……
殆どがヴァリエール公爵夫人からの派遣?だから断れないんだ」
「えっ?
なんでヴァリエール公爵夫人が、君にメイドを派遣するのさ?」
本当の事は居えない(まさか巨乳プログラム成功の女性陣を全員押し付けられたとは言えないから)
「多分気を使ってくれたんだろ。
自国から大量の人員を派遣する事は国防上、許可が難しい。
現地雇用だと今度は、我が家の方が機密を扱う為の屋敷だから……
防諜上の身元確認とか大変だし」
「ヴァリエール公爵家にそこまで気を使わせるとは……
凄いんだね」
ヴィリエが、うんうん感心している。
「だって在学中に婚約者を見付けないと、エレオノール様と婚約を強行されそうなんだ」
「うわぁ……
それ絶対、監視目的も入ってるんじゃないかい?」
それはないけどね。
皆信者だから僕の味方なんだからさ。
「考えたくはないけどね……」
カモフラージュには良い言い訳かな?
「エレオノール様……はぁはぁ……罵って下さい」
マリコルヌ、自重しろよ。
しかしあの女王様振りは、M素養が有る奴には堪らないのかな?
最近はギーシュ・マリコリヌ・ヴィリエそして僕と言うメンバーでの行動が多い気がするんだ。
気楽だけどね。
こいつ等について考える……
先ずはギーシュ
グラモン家の四男で土のドットメイジ。
相変わらずの気障男だけど、原作との違いはモンモンと上手く行ってない。
と言うかモンモンにアプローチしているが、相手にされてないと言うか……
原作開始迄になんとか口説くのかな?
他の女子にもアタックし続けているが、成功例を僕は知らない。
次にマリコルヌ
グランドプレ?家だっけ。
風のドットメイジ。
毎食事時に餌付けしているせいか、丸っこく懐いている……
原作だと良くルイズに突っ掛かっていく描写が有るが……
そんな事はないんだよな。
可哀想だが、女性陣からは恋愛対象には見られてない感じがする。
最後にヴィリエ
風の名門ロレーヌ家の長男。
プライドが高いが、原作ほど酷い性格じゃない……
と思う。
こちらは原作通り、タバサの事を意識している感じがする。
実はこのメンバーの中では、いかにもトリステイン貴族らしい性格だが、腐っても名門の一角。
一目置いている女子は意外に多いのに、本人があまり意識していないのが勿体無い。
原作では女子と共謀してタバサやキュルケにチョッカイ掛けるのだが、その辺の女子への折衝力は有るのか?
尊大だが、面倒見の良い性格で、常識を持っている奴だった……
びっくりだ。
僕自身には……
余りに女性の影が多い為か、ルイズ・キュルケに遠慮してか?
会話は普通にしてくれるが、アプローチはモンモンが割りと話し掛けてくれる位かな……
寂しくなんかないぞ。
食事後は直ぐに休みたかったのだが、オールドオスマンが居れば早めにソフィアの待遇を決めておかないと問題になりそうなので学院長室にむかった。
ノックをしようとすると
「使い魔に私のスカートの中を覗かせようとしないで下さい!」
あの有名なやり取りが聞こえた。
「そうかそうか白か。
もう清楚で逝ける年でもなし、黒でセクシーさを押出した方がよいのではないかね?」
「このエロジジィが……ゲシゲシゲシ!」
気を取り直してノックする。
「あー学院長、宜しいでしょうか?」
ガタガタッ
「入りたまえミスタ・ツアイツ」
「失礼します……」
何時もの片付けられた室内だ……
先程の狂態の跡は見受けられない……
ロングビルさんも澄ましている。
「どうかしたのかね?
こんな時間に?」
「夜分すいません。
明日朝から出掛けてしまうので、ソフィアの待遇だけでも決めておきたいと思いまして」
「君が身請けしたんじゃろ?
だが此方にも負目があるしの……
学院の使用人室にそのまま居て貰うが、基本的にお主の世話を専属でして貰おうかの。
なに給金はお主持ちじゃが、部屋代は取らぬよ」
「有難う御座います。
あまり周りに言わない様にお願いします。
その分、手すきの時間には学院の仕事も手伝う様にします」
「それだけなら急ぐ話ではないじゃろ?」
不思議そうに聞いてくる。
そうそれだけなら問題はないのだが……
「モット伯の件も有りますし、ハーナウ家に仕えると言う事は、我が家の使用人の待遇になりますから」
「それがどうしたのかな?」
「今回の様にチョッカイかけてくるなら覚悟しろよって意味です。
例えそれがトリステインの有力貴族だったとしても……
我が家の雇用条件には、使用人の保護も入っていますから」
ニッコリと念を押しておく。
「つまりは今後同じ様な事が有れば、ハーナウ家が動くという事じゃな。
どうしてそこまで平民に入れ込むんじゃ?」
「普通ですよウチでは、父上も納得してます。
雇用者が被雇用者を守るのは当たり前でしょ」
その当たり前が通用しないのが貴族と平民の壁なのだが、あっさりと言ってくれるよのぅ……
SIDEロングビル
驚いたねぇ……
この若様だけでなく、現当主まで納得済みの対応とは……
有りえないねこりゃ!
ここまで厚遇されたら、使用人の忠誠と結束は凄いもんだろうね。
平民を人として扱う貴族なんて、このハルケギニアにはいやしないと思っていたよ。
私だって没落してから感じて、学んだ事だからね。
これはトリステイン魔法学院に潜り込むより、ハーナウ家に就職した方が良いかもしれないね。
その晩の事。
ツアイツから自室に来る様に言われたソフィアは、期待に胸を膨らませて向かった。
が、雇用契約書やら生命保険やらなんやらにサインをさせられ、一抱えも有る雇用条件書を渡され目を通しておく様に言われ半泣きになっていた。
字が読めない事を伝えたら、今度読み聞かせるからと二人の時間が持てた事を喜んだ。
この書類にサインと判を押した事で、どれだけ自分が守られる事になるなど思いもせずに……