第172話
城塞都市サウスゴータ。
南側の城壁に登りレコンキスタの軍勢を見る……
一万弱。
傭兵主体の軍勢だ。
北側にはシェフィールドさんが単身敵と向き合っている筈だ。
イザベラ様のメイドさんの使い魔がトリステイン王国軍がダータルネスを制圧し、軍を整えてサウスゴータに進軍を始めたと報告。
到着は、3日後の朝辺りだろうか……
「どうしたんだい?
らしくないじゃないか……
そんな緊張した顔をするなんてさ」
並んで立っているイザベラ様が、僕の顔を覗き込んでからかう様に言う。
「らしくないですか?
これから戦争するんですから緊張もしますよ。
まぁ負けるつもりはありませんが」
ニッコリと笑いかける。
内心は何千という傭兵……
人間を殺めようとしているから緊張しているんだ。
この世界に転生し魔法と言う非常識な物を知り、領地で盗賊などを討伐しているから……
気持ちの整理は済んでいる。
「さて……
これが、僕の謀の結果だ。
この戦いを勝ち抜いてジョゼフ王に合うんだ」
「そうだね。
2人でお父様に会おうか……
まさかアンタと、こうなるなんて不思議だよね」
そう言って手を握る。
「イザベラ様……
僕はn……」
北側から物凄い破壊音が鳴り響いた!
「ああ、あの女派手にやってるねぇ……
ここからでも火柱が見えるよ。
さぁ、こっちも始めようかね」
SIDEシェフィールド
漸くレコンキスタを潰す事が出来る。
この戦いが終われば、ツアイツを我が主の下に連れて行って……
ジョゼフ様の記憶から、シャルルを抜き取り私とのストロベリる記憶を焼き付ければ完了ね。
もはや、この眼下のゴミは要らないの……
だから燃やすわ。
この火石の力で!
「凪払ってあげるわ!」
そう言って、上質の火石の力を前方に向けて解放する、解放する、解放する。
「ふははははぁ……
私とツアイツと主の幸せの為に燃え尽きろー!」
気がつけば、周り一面の焼け野原だったわ。
後ろに配していた、アルビオン王党派の兵達が遠巻きに此方を伺っているわね。
全く、嫌な視線だわ。
「こっちはお終いよ。
私は南側に行くから……
後始末は任せたわ」
最早この国には用が無い。
ツアイツが心配だから、南側に急がないと……
SIDE残された兵士達……
「なぁ……」
茫然と南側へ飛んでいく黒い魔女を見送る。
「ああ、世界は広いな……
あんな規格外の人間が居るとは」
視線は問い掛けた彼と同じ方向を茫然と見ている。
「烈風のカリン殿も、同レベルらしいが……
このハルケギニアでは、女性に逆らうのは危険だな。
あんなの……
どうにもならないよな」
あんなのを2人も相手にするレコンキスタに同情するよ。
「全くだ。
さぁ隊列を整えて東側に進軍しよう。
ここには生存者は居ないだろう」
予定通り、本隊の突撃をフォローする為に進軍する。
南側も気になるが、彼女が行くならツアイツ殿は安心だから。
SIDEツアイツ
さて、僕も頑張ろう!
「クリエイトゴーレム!」
全長18メートルの金属製ゴーレムが、周りの大地を削りながら錬成されていく。
モノアイを光らせて、排気口から排気させる。
「「「おおっ!」」」
周りから歓声が上がる!
「へーツアイツ、凄いじゃないか!
これ程のゴーレムは見た事がないよ。
これが、ジャネットからの報告が有ったヤツか……
しかし、敵から随分と離れてないかい?」
確かに、此処から走らせて攻めるのは間抜けだね。
「いえ、これからが本番ですよ。
錬金、黒色火薬アックス!」
僕のゴーレム専用、全長4メートルの黒色火薬製のアックスを錬金する。
「さてと……
凪払え、ゴーレム!」
義姉と同じような台詞を吐いて敵を攻撃する。
命令されたゴーレムが、黒色火薬アックスを山なりに投擲する……
着弾と共に大爆発が起こる。
「続けていくぞ!
錬金、錬金、れーんーきーんー」
次々と黒色火薬アックスを錬金し、ゴーレムが投擲!
レコンキスタ陣営は火だるまだ。
「何てエゲツない攻撃なんだい!
一方的じゃないか……
しかし艦砲よりも攻撃力の高い個人魔法って。
ド変態でもスクエアって事かね?」
実際200キログラムの黒色火薬が炸裂してるので破壊力は凄い。
「……ツアイツ。
もう止めな。
敵がチリジリになって逃げ出したよ。
おまえ等、追撃しな。
1人も逃がすんじゃないよ」
イザベラ様の号令で、カステルモール殿の乗ったブリュンヒルデが突撃!
継いで火竜・風竜に乗ったイザベラ隊が敵に突っ込んで行く。
それと預かっている王党派の歩兵部隊が、生存者の治療と捕縛に向かう。
「ツアイツ……
本当に強かったんだね」
「ただのド変態では、イザベラ様と釣り合わないでしょうから……
では、敵の治療と捕縛が終わったら東側に向かいましょう」
幾ら傭兵とは言え相手が悪かったよね。
僕の攻撃で半数以下にしたとは言え、ガリアの精鋭軍団を相手に一万程度じゃ適わないだろう。
準備に時間を掛けて、勝てる迄持って行ったが……
始まれば呆気ないね。
まぁ、これだけ準備して苦戦してます!
じゃ意味は無いけど。
何千と言う敵が傷付いているのだが、イザベラ様も僕も罪悪感は無い。
敵対するなら、殺るならば……
やられる覚悟も出来ているのだかから。
SIDEオリヴァー・クロムウェル
今まで守勢だった連中が、初めて攻撃してきた。
報告を聞かなくても分かる……
北側に配置した傭兵達の野営地から轟音と火柱が上がっている。
「あっ悪魔の劫火だ……
アルビオン王党派には、悪魔が居るのか?」
この漏らした一言に周りが動揺する。
「盟主オリヴァー・クロムウェル!
敵には異教徒の悪魔が居るのですか?」
この連中は、ブリミル教の狂信的な信者連中だ。
「悪魔を倒しましょう!
異教徒はハルケギニアに居てはならないのです」
「そうだ!
奴らは皆殺しだ」
攻撃論が出始め、今から北側に兵士を差し向けようとした時……
南側からも爆音が聞こえた!
「なっ?
二方向からだと!」
此方は、火柱こそ見えないが爆音とモウモウと立ち上る黒煙が幾筋も見える。
「悪魔が2人も居るのか……
何故だ!
何故、今まで守勢だったのだ」
今までの有利な状況が一変した。
二万の傭兵を瞬殺出来るなら、この本隊三万に勝てない訳が無い。
「皆、落ち着くんだ。
体制を立て直す為にダータルネス迄、一旦撤退するぞ!」
こんな悪魔に勝てるか!
もっと沢山の傭兵を使い捨ての盾を雇い入れてから、攻め滅ぼしてやる。
今は逃げるのが先だ!
「盟主オリヴァー・クロムウェル!
王党派軍が動き出しました。
大型戦艦が二隻!
ロイヤル・ソヴリンと未確認の戦艦です」
どうやら最後の戦いになりそうだ……