第181話
ジョゼフ王執務室。
此処で未来の家族達のささやかな宴が催されようとしていた。
未来の王妃(予定)シェフィールドさんが、甲斐甲斐しく料理を並べていくのを神妙な顔で見ている手持ち無沙汰な男2人……
「俺のミューズが積極的になっているのは、お前の影響か?」
取り敢えず邪魔にならない様に席を立ち部屋の隅に移動する。
応接セットとはいえ、無駄にデカい。
此処での食事は食べ難いのでは?
「いえ……
(ヤンデレの)素養が有ったのでしょうか?
情の深い女性ではないですか」何となく壁に2人して寄りかかり雑談する。
「そうか?
ただ、たまに異様な雰囲気を醸し出すのだ……
お前の言うヤンデレか?
我が諜報によれば意味不明な単語だが、丁度あの様な状態の時に呟いたよな?」
思わず、ジョゼフ王の情報収集能力に驚く!
「そんな驚いた顔をするな……
お前の情報収集能力も大した物だろう?」
僕のは原作知識だけど……
目の前では、やはり食べ難いと思ったのか応接セットからメイドさんに持って来させたダイニングテーブルに料理を移動させている。
あのメイド三人衆だ……
「東方の諺によれば、愛と情が深い女性の総称らしいですよ。
一途な思いは、時に周りを苦しめる……
良かったですね?
ジョゼフ王にしか向けられていない愛情で」
最終的には、お姉ちゃんの気持ちをジョゼフ王に全てぶつけてもらい、僕は安全圏に……
「多分だが……
お前と俺で4:6の比率だと思うぞ」
「何が?」
思わず素で返してしまった!
「我がミューズの思いの矛先だ。
俺もアイツは大切に思っているが、あの気持ちを全て受け止めるには、な。
良かったよ。
我が義弟にして婿殿よ」
サラリと返された言葉は大変な物だった!
「あっあの……それは……」
ジョゼフ王がニヤニヤと笑っている。
「知らないと思っていたのか?
俺を甘く見たな?
只ではやられんよ」
ジョゼフ王はシェフィールドさんが、ヤンデレで危険な事を理解している?
「お父様、婿殿って私達はまだ……」
振り返れば真っ赤になったイザベラ様が居た。
何か手をワキワキとさせて驚いているが……
「ああ、イザベラよ。
俺がお前達の事を知らないとでも思ったのか?
真面目で融通のきかないお前が男の事で右往左往するのは楽しかったぞ。
俺もコイツは気に入った。
なら良いだろう?
ガリアの王族に加えても……
俺は何もしないから、お前達で宮中を纏めろ。
ただし、ロマリアの件は噛ませろ。
あれは退屈しのぎに丁度良い」
原作で退屈しのぎに国をチェス代わりに遊んでいたが、この世界では面白い物が多いのか……
「ジョゼフ王、ロマリアを潰したその先n」
「ジョゼフ様、用意が出来ました」
肝心な所で、お姉ちゃんから声が掛かった。
ガリア王と王女と壁際で密談と言う不思議空間は終わった。
各々が用意された椅子に座る。
軽く飲む予定だが、キッチリとしたコース料理が用意されている。
椅子を引いて座るのを待っているメイドさん達……
「まぁ良い、座れ。
話は食べながらでも良かろう」
ジョゼフ王はシェフィールドさんが引いてくれた椅子に座る。
ちょっと憮然としているが、狂王にしては大人しいと思われているのが嫌なのかな?
目の前には肉料理を中心とし……
いや肉料理しかない。
精力をつけろって事かな?
隣に座るイザベラ様を見れば、下を向いたままだ。
シェフィールドさんは、ワインをジョゼフ王に注いでいる。
「イザベラ様、ワインをどうぞ。
マナー違反ですが身内だけと言う事で」
普通なら貴族が食卓で相手にお酒を注がない。
メイドや侍従の仕事だから……
「いや私は良いよ。
ツアイツの傷が完治するまでは飲まないって決めてるし、最初はアレを用意してくれているんだろ?
おい、果汁水を用意しておくれ」
アイスワインをご所望ですね。
このやり取りを面白そうに見ているジョゼフ王。
彼は白ワインを飲んでいる。
肉料理なら赤ワインかと思ったが、色々種類は有るらしい。
現世はビール党だったからキンキンに冷えた生ビールが飲みたい。
当然スーパード○イだ。
「お前ら、父親の前でイチャイチャするな……
さて、話を戻すぞ。
ロマリアの対応だがどうする?
俺は男の娘だか知らないがホ○国家など……
攻め滅ぼしたい」
割とマナーには五月蠅くないのかな?
ジョゼフ王は肉を頬張りながら話し掛けてくる。
お姉ちゃんは恍惚として、そんな彼を見詰めている。
イザベラ様は……
小口なのか、ナイフとフォークで肉を小さく切っている。
なかなか様になっている。
僕は緊張でワインばかり飲んでいる……
流石に王族の食卓に饗されるワインは、味の分からない僕でも美味しいと思う。
「宗教には宗教を……
アイドル、男の浪漫本ファンクラブ。
それに付随するフィギュアや本、演劇……
売り買いだけでなく製造にも携わる人を広げていく。
産業と文化として組み込めば簡単には排除出来ないですよね。
先ずは地力の強化でしょうか、表の情報戦は……」
悪代官並みのニヤリ笑いを浮かべる。
「情報戦?
おっぱい教祖のツアイツとトップアイドルのイザベラが居れば、ゆっくりと洗脳が広まるか……
お前の会報には、微妙にブリミル教排斥のニュアンスが組み込まれているな。
これが情報戦か……
なる程、民意を煽るか。
エゲツねーなお前?
でもロマリアの威信失墜か……
くっくっく……
いや、表は分かった。
では裏の情報戦とは?
それとも直接に武力介入か?」
心底楽しそうなジョゼフ王が居る。
しかもモリモリ肉を食べているが……
謀略好きは根っからか?
ワインばかり飲んでいたら顔が暑い……
「ツアイツ、病み上がりに飲み過ぎだよ?
もうお止めな。
おい、水を持ってきな」
ワイングラスを取り上げられた……
「お気遣い有難う御座います……
裏の情報戦はアレです。
教皇ヴィットーリオの威信を落とします。
男の娘ですか……
爛れてますよね?
人の事は言えた義理ではないのですが、あの性癖を禁忌な物へと誘導します。
ホモ教皇は、我等おっぱい教に……
具体的に言うと、女好きな我々にホモを押し付けようとしている。
これは我が教義に忠実な者程、衝撃的でしょう?
そして民衆には非生産的な性癖を強制する教皇……
子供が産まれなければ国は成り立たない。
女性は自分達を蔑ろにする教皇をどう思うか?
移民、積極的に行いましょう。
人は石垣、人は城……
人口とはそれだけで強力な武器で有り仕事は山ほど有ります。
別にブリミル教を拒絶はしませんよ。
好きにすれば良い。
安定した暮らし、良い仕事環境、娯楽も有ります。
さてどちら側に付きますかね?」
「しかし公然と移民は認めらんないだろう?
奴らだって民は税金の元だぞ。
腐れ坊主が黙っていまい?
新教徒として弾圧が始まるか異端審問だぞ」
かつてトリステインでも行われた新教徒狩り……
タングルテールの再発はお断りだ。
「確かに平民達だけでは厳しいですよね。
でも手を貸せば?
マトモなブリミル教の神官を抱き込めば?
でも教皇の敵対勢力は要りません。
皆さん腐ってますから……
マザリーニ枢機卿辺りを担ぎ上げますか?
宗教なんて弾圧したら死兵となって抵抗するから面倒くさいです。
だからガス抜きと建て前をぶら下げれば良い。
大国故に移民の受け入れ場所も豊富だし、そのまま国力強化だし」
ね?って聞いてみる。
「お前、ロマリアの平民ごっそり奪う気か?」
新しい家族の密談は続く……