エレオノール&ソフィアルート第2話
まさかのデレオノール爆誕!
待ち合せ場所に行くと既にソフィアが待っていた。
「ごめん遅れちゃったかな?」
まだ15分位前の筈だけと……
男は女を待たせたらこう言わなければならないのだ。
「いえ今来たところですから」
ソフィアにっこり……
初々しいデートみたいだね。
「では出発しましょう」
御者台にソフィアが乗り込もうとしたので手綱は僕が持ち隣にソフィアを座らせた。
折角だから話しながら行こう。
ソフィアが嬉しそうに、しかし申し訳無さそうに
「せめて手綱は私が……」
とか恐縮しているが、そこは無理を押し通した。
だって運転手が女性で助手席に男が座っているって、現代感覚が残っているのか恥ずかしいし……
折角なので昨日の雇用条件について話す事1時間、草案は僕が作ったので内容は全て頭の中に入っているから説明に問題はない。
結構大事な話なのにソフィアはニコニコしながら頷くだけ……
ちゃんと内容聞いてるのかな?
「大丈夫です。
ご主人様の説明の内容で不服はありません」
ひと段落着いてソフィアに聞いてみたが、ちゃんと聞いていたみたいだ。
実はこの時ソフィアは話の半分も聞いていなかったが、ツアイツと並んで馬車に乗っているだけで満足だった。
嗚呼……
ご主人様の凛々しいお顔サイコー!
何か難しい事を言われているけど、ご主人様に任せておけば幸せになれるって昨日教えて貰ったから平気。
でもご恩返しはどうしましょうか?
そうだ!
今日お会いする他のメイドさん達に相談してみよう。
その後、のんびりと馬車に揺られツアイツの執務用の屋敷に到着し……
見慣れた家紋の馬車が……
あれ?
あの家紋はヴァリエール公爵のだけど、なにか用事が有ったかな?
事前連絡は無かった筈だけど。
僕の馬車を視認した使用人達が、出迎えの準備を整然としている。
ヴァリエール家から来たメイドズが正面入口前に2列で並び、扉付近にはナディーネ達が控えている。
その脇には……
ヴァリエール夫人とエレオノール様がイマスネ!
ミマチガイデハナイデスヨネ?
目上の人達に馬上から挨拶は不敬なので、少し前で馬車を降り歩いて屋敷に向かう。
「「「「「「「「「「お帰りなさいませ、ご主人様」」」」」」」」」」
一斉に礼をするメイドズ。
「ただいま、皆変わりはないかい?」
メイドのアーチを潜りながら玄関へと向かう。
くーっ前世ではこの感動を味わう事は出来ないだろう至福の時!
玄関前に行くと、ナディーネ・エーファ・ルーツィア・シエスタが笑顔で迎えてくれた。
彼女達の位置付は上級メイドになっており、信者メイド達は一般メイドだ……
但し待遇に差は無い。
夜のお相手までしてくれる娘達が上級と言う括りらしい。
因みにこのネーミングは僕が決めていない。
彼女達が自主的にきめたのだ。
そしてヴァリエール夫人とエレオノール様に
「お待たせしてしまいました。
本日はどの様なご用件ですか?」
「同行しているそのメイドは何ですか?
婿殿?
またですか?
またなんですか?」
流石は烈風のカリン。
こんな質問でもプレッシャーが半端でない。
てか隣のエレオノール様と後ろのナディーネ達の視線も突き刺さる……
息苦しいっす。
「彼女はモット伯に不当に妾にされそうだったので、成り行きですが当家で世話をする事にしました」
「聞いています。
我が家にも防諜機関が有りますから。
相変わらず平民に甘いですね」
ふっとプレッシャーを緩めて微笑してくれた。
この人の偶に見せる笑顔は好きなんだよね。
多分ルイズの将来の姿だ。
烈風の騎士姫はまんまルイズだったし。
「調べではモット伯は貴方に隔意はないみたいですね。
上手く例の本で篭絡したのですか?
我が夫と同じく」
この辺の配慮がこの人の凄い所だ。
多分モット伯が僕に何かしようとするか調べたんだな僕のために……
「男は単純ですからね。
まぁ実害の無い本ですしヴァリエール公爵にも程々にしてあげて下さい。
そして有難う御座います」
「お礼はエレオノールに言いなさい。
最近貴方の周りに不穏な空気が有るからと調べさせていましたよ」
はっとエレオノール様を見る。
あっ目を逸らされた。
「貴方は……
まぁ割と、本当にアレですが……
その話すと其れなりに……
楽しいから……
失脚して欲しくは無いのです」
まさかのデレオノール!
えっ本当にエレオノール様ですか?
「改めて有難う御座います。
僕はその辺の貴族の機微に疎いので、知らない内に敵を作ってそうですから……」
「まぁ良いわ。
暇潰し程度に気を配ってあげるわ。
どうせ来週から臨時講師で学院に呼ばれているし。
あくまでついでよ」
「立ち話も何ですから屋敷に入りませんか?」
とヴァリエール夫人らを促し
「エーファ、彼女はソフィア、今日から正式にうちの従業員になるので面倒を見てくれ」
と引き渡した。
応接室に、ヴァリエール夫人とエレオノール様を案内しお茶の手配をさせる。
一寸気になる発言の確認をしたいんだけど、いきなり切り出すのは無粋かな?
「婿殿どうかしましたか?」
「あの……婿殿とは一体?」
確かに口約束では婚約してるけど公の話では無い筈だけど……
「いえモット伯は貴方がどうにかしましたが、このトリステイン貴族の中にはやはり貴方を良く思わない者がいます。
学院の上級生とその実家の者達が動いています」
「ペリッソンとスティックスの実家とかですか?」
「流石ですね。
他にも幾つかの貴族達が動いています。
彼らは今の貴方に手を出す事の危なさを考えられない連中です。
だからこそ短慮に直接危害を加えそうな連中なのです」
「つまり政治的な動きをせずに、武力行使というか……
馬鹿ですかね?
でもそれと婿殿と何の関係が?」
「簡単です。
ヴァリエール公爵家と婚姻予定と広まれば早々、行動には出れませんし私が動ける口実になります」
「つまり、ウチの身内にチョッカイかけたらどうなるか分かっているんだろうな?ですか。」
「貴方は既にゲルマニアでもそれなりの地位に居るのです。
もし危害を加えられたらそれを理由に色々騒ぐ連中がでます」
「随分と買い被りを……
仮に婚約と言っても既にルイズと……ですよね?」
「そうですね、ですがまだ強制力が弱いのです。
エレオノール誰が適任ですか?」
「えっ?
あ……その……
いやそのカトレアは既に分家して領地持ちですが体が弱く政界とは無縁ですし……
ルイズではまだ子供だから親の威光でしか対応できないし……
私ならアカデミーの実績も有りますし、名前も売れてますから……
今回は仕方が無いから……その……」
「だそうです。
婿殿、公表はしますが口約束の延長ですから事が落ち着いたら解消も出来ます。
貴方の実家には私の方から話を通しておきます」
「後で破談など、エレオノール様に傷がつきますし……」
「もう何度も婚約を解消しているのです。
逆にルイズやカトレアでは破談など無理な方法ですからね」
「エレオノール様は僕なんかと婚約など平気なのですか?」
珍しく大人しい彼女に声を掛ける。
「仕方ないわね。
本当に仕方ないからなんですからね……
良いわ。
受けてあげるわ」
「僕の一存では決められないので、父上とツェルプストー辺境伯とも相談してお返事をさせて下さい」
ここまで気を使われているのは嬉しいけど、一人では決められない問題だから。
その後、幾つかの案件をお互い確認しあいヴァリエール夫人とエレオノール様は帰っていった。
SIDEヴァリエール夫人&エレオノール
「エレオノール、これは最後のチャンスです。
形振り構わず逝きなさい」
「お母様……
私は、彼の事は別に……
これは彼に危害が加わるとこのトリステインの為にならないからの処置です」
「それで良いのですか?
確かに彼は年下で変わり者ですが、今までの婚約者共と比べたら破格の相手です。
それに男ばかりが、若い相手と結婚出来るなんて事は無いのです。
分かりますね?」
確かに彼との会話は楽しい。
研究者としての討論も、たわいない世間話にしてもこれ程気の合う相手は居なかった。
家格も外見も将来性も文句は無い。
でもまだ彼は学生だ。
卒業を待っていたら30歳になってしまうしそれから子供を作るとなると……
ブツブツと悩んでいる娘に母親がダメ押しの一撃を加えた。
「学生結婚でも構わないのです。
学院や王宮への圧力なら何とでもするから問題はないわ。
もう貴女には彼と結婚するか、仕事と結婚するかしかないのよ」
エレオノールは決心した。
逝かず後家より、有能な若いツバメを侍らせたほうが100倍マシだ!
それにルイズに先を越される事は女として我慢がならなかった。
しかし正攻法では無理だし、こちらから寵愛を授かるように接する事は今更ながら恥ずかしい。
「お母様なにか良い手立てはないですか?」
「任せておきなさい。
彼は基本的に女性に対して不思議な位優しいのです。
仮にとはいえ婚約者として接していけば、突き放す事は出来ません。
反面生涯妻1人では我慢が出来ないでしょうから、その点は我慢しなさい」
「なる程、確かに彼なら一度懐に入れてしまった女性に酷い事は出来ないわね。
つまり既成事実を作れば……
この胸でも愛してくれる訳ね」
才女2人の悪巧みは続いていく。