ジュリオ来襲!男の娘部隊出撃指令有り。
クルデンホルフ大公国にて催されたベアトリス姫殿下凱旋ライブ!
その慰労会と言う名の、僕への取り込み工作が主な披露宴。
綺麗どころは居なくて、オッサンばっかりが集まっていたのに……
僕を探しに来た美少女。
貴族の令嬢としては珍しくボーイッシュで新鮮な感じの美少女なんだが……
「ツアイツ様?
どうなされましたか?」
彼女がすり寄ってくるのを後ろに下がってかわす。
ん?、な感じで首を傾げる所作は完璧な美少女だ。
「何故さがるのでしょうか?
何か私に至らない所が有るのでしょうか?」
寂し気な顔で此方を見詰める……
周りを見れば、ボインズ・ナイツ達が親指を立ててエールを送っているし。
お前ら空気嫁過ぎだ!
「いっいえ、未婚のレディとこの様な場所で2人切りは宜しく無いでしょう。
誰かに勘違いされては……」
やんわりと断ったのだが、その笑顔は変わらない。
「クスクスクス……
ツアイツ様、私は敬虔なブリミル様の信者です。
最近のツアイツ様の動きは、ブリミル様を蔑ろにしてませんか?
ツアイツ様はブリミル教をどうしたいのでしょうか?」
ブリミル教の信者だって?
クルデンホルフ大公国はトリステイン王国と同じ様にブリミル教の影響が強い。
これはクルデンホルフ大公国の貴族の令嬢の直談判?
「僕も勿論ブリミル教の信者です。
ハルケギニアに住む貴族の習いとして……
ただ、今の教皇の教えには賛同出来ない!
彼の教義は、緩やかに人類が死滅する。
次代を担う子供達を生み育てる女性達を蔑ろにする教えは、ね」
「それが答えなのですね?
ヴィットーリオ様の崇高な理想を理解しないのですね?
貴方はやはり危険な存在です」
ヤバい、教皇派の信者か?
笑顔を絶やさずに居る彼女は、一層不気味な……
彼女?
しなだれかかる様に近付いて来た彼女の手にはナイフが握られている。
しかし周りは外遊中のラブロマンスにしか見えていない!
「チッ!
君は刺客かっ?」
「ツアイツ様?
お避けになると、ベアトリス姫殿下が危ない目に合いますよ?」
彼女と睨み合う……
「ベアトリス姫殿下の周りには、イケメン貴族が群れていたよ。
彼らが盾になるさ」
彼女に取り入りたい連中が囲んでいるのだ。
暴漢が襲えば彼らが助けるだろう……
「クスクスクス……
彼女の周りには美男子ばかりが居たでしょ?
皆、綺麗な顔をしてたでしょ?
美少年と言うには、育ち過ぎた人達が……」
ロマリア聖歌隊……
201人全てが美少年で、男の娘として教皇に仕えている。
しかし入れ替わりが激しく、ある程度成長して美少年から美青年になると教皇の寵が離れる……
「ヴィットーリオの元愛妾達か……
君も男の娘だったのか?」
睨み合いは続く……
◇◇◇◇◇◇
ジュリオとツアイツが静かな戦いをしている頃、クルデンホルフ大公も娘の周りに居る連中が怪しい事に気が付いた……
アレは誰だ?
彼女は、イケメンに囲まれてご機嫌だ。
しかし、思い出そうにも彼らが誰の関係者かも分からない。
ゆっくりと娘の方に近付いて行く。
「ベアトリスよ。
宴を楽しんでいるか?」
無難に声を掛ける。
「はい、お父様!
皆さんお話がお上手で……
とても楽しんでますわ」
娘は何も気付かずにご機嫌そうだ。
周りの男達を見れば、皆にこやかに微笑んでいる……
気持ち悪い連中だ。
「そうか!
それは良かったな。
さて、お前にも紹介したい者が居るのだ。
良ければ案内したいのだが?」
彼らを見ながら笑い掛ける。
顔の筋肉が引きつってる感じで、上手く笑えているか分からない。
「お父様が、わざわざ紹介したいなんて……
誰かしら?
分かりましたわ。
それでは皆さん、きゃ?
何を……」
イケメン貴族達がベアトリスを取り囲み、彼女を拘束した。
「やはり!
お前らは何者だ?
衛兵!
奴らを取り囲め」
会場の中と外で攻防戦が始まった。
◇◇◇◇◇◇
室内が騒がしくなったのを横目で確認する。
成る程、ベアトリスちゃんの周りを固めていたのは、ロマリアの連中か……
しかし、詰めが甘いな。
彼女を拘束したが、武器は持っていない。
まぁ杖を構えているから魔法は使える連中か。
「ツアイツ様、ベアトリス姫殿下に危害を加えたくはないのです。
分かりますよね?」
こっちの美少女も、当然男か。
いや教皇風に言えば、男の娘かな。
「そうだね。
彼女を捕らえたのは流石だけど、全員が杖を構えてるけど?
あの近距離で取り囲まれているのに……
馬鹿だな。
漢の浪漫本ファンクラブの怖さを知りなよ。
イケメンに成れなかった連中のさ」
「…………?
何を言ってるの?」
彼女が言葉を言い終わる前に、イケメンに囲まれて近付けなかった……
格好良く無いけど、ベアトリスちゃんの信者達が群雲の如くイケメン達に襲い掛かった!
「なっ!
ならば貴様だけでもシネ!」
作戦の失敗を悟ったのか、玉砕覚悟で突っ込んで来た男の娘に、正面からヤクザキックで応戦する。
「きゃ!痛い……」
何処までも女性らしく倒れ込む。
翻るスカートの中を見てしまった……
「なっ?ノーパンか!
貴様!
そのなりで立派なブツをぶら下げやがって。
男の純情がズタズタだ!」
「なっ?
ヴィットーリオ様にしか、見せた事が無いのに!
この変態、痴漢、性犯罪者!」
顔を真っ赤にしながら、暴言を吐いてベランダから飛び降りた。
「ちょ!
待て、取り消せ!
貴様の方が変態だろうが!
おい、待てよ」
手摺りに飛びかかる様にして身を乗り出し、飛び降りたヤツに叫ぶ!
しかし時既に遅く、ヤツは飛竜を巧みに操り逃げて行った。
「飛竜、男の娘……
アイツがジュリオ助祭枢機卿か。
そして虚無の使い魔か。
直接、僕を殺しに来るとは流石だが……
男の娘か。
恐ろしい相手だ。
ヤツの逸物を見なければ、未だに女性より女性らしいと思ってしまう自分が怖い……」
男の娘……
流石は平成の世に、一大ブームを巻き起こしただけの事は有るね。
アレはうぶな奥手貴族だと、太刀打ち出来ないだろう……
それに、ただ暗殺に来ただけじゃないだろうな。
お互い謀略系だし、必ず何かを仕込みに来た筈だ……
この時期に直接手を出すのは、即開戦でも可笑しくないのに……
何故、自分の腹心を直接送り込んだのかな?
僕がロマリアの底力と教皇の分からない謀略に恐怖を覚えていた頃、ベアトリスちゃんもイケメンに群がりリンチを加える自身のファンに恐怖していた。
「みっ皆さん、もうその辺でお止めになっては?
なっ何故、彼らの顔だけをビンタで痛めつけるのですか?」
恐怖の余り、丁寧語だ!
「「「イケメンは悉く滅ぶべし!」」」
ベアトリスファンクラブの結束は、更に固まった!