謀略教皇VS謀略教祖!趣味と趣味の闘い・第5話
ルイズを嫁に欲しいと報告に来た依頼のヴァリエール家訪問。
何故か執事やメイドさん達から若旦那扱いなんですけど……
僕はヴァリエール公爵家を継ぎませんよね?
そう言う話でお互い納得済みですよね?
物凄く丁寧な扱いを受けながら応接室へ。
普段より壁際に並ぶメイドさんが多い様な……
「若旦那様、お帰りなさいませ」
とか
「若奥様とお帰りになられるのも、近いらしいですわ」
とか……
「早くお世継ぎ様の世話をしたいですわね」
とか……
変な会話が聞こえますね、如何にも僕がヴァリエール家を継ぐ様な?
いやいや勘違いですよね?
ソレはソレとして……
何時来ても豪華な調度品に囲まれているが、決して成金趣味でない品の良さが有る。
一朝一夕では出来ない洗練された調和と言うか。
僕の私室なんてフィギュアと漢の浪漫本だらけ……
現代の引きこもり部屋みたいなものだ。
これが貴族なりたて三代目のウチと、歴史ある名家の違いか。
ソファーに座ると直ぐに紅茶を煎れてくれる。
あとクックベリーパイが……
ルイズの大好物のコレは、ヴァリエール家専属の料理人の物が一番美味い。
他で何度も食べたけど、何か一味違うんだよね。
ついついお代わりをしてしまう……
出来れば持ち帰ってあげたい位だ。
暫し紅茶とクックベリーパイを楽しむ……
「さて義息子よ。
マザリーニ枢機卿から親書が来たそうだな。
内容は……
何が書いてあったんだ?」
一息ついた所で、ヴァリエール公爵が話を持ち出す。
マザリーニ枢機卿から親書が来た事についての相談を持ち掛けたから、内容は未だ伝えていなかった。
「トリステイン王国の未来について相談が有る。
教皇ヴィットーリオより手紙が来たそうです。
僕に対して異端審問をする様にと……
後、ルイズに虚無の可能性が有るからロマリアに差し出せ。
それと聖戦を行うので派兵要請……
どれもマザリーニ枢機卿では辛い内容ですね」
あの人はトリステイン王国の為に苦労をしているのに、実は権力は低い……
だから改革も進められないのだろうけど。
「私達から娘と義息子を取り上げ様とは!
アナタ?
まさか穏便に済ませようとは思いませんよね?」
自然な動作で立ち上がり、無表情に言い放つカリーヌ様……
プレッシャーがハンパない。
こっこれは、お姉ちゃんとガチで闘った時の顔だ!
あの城塞都市を破壊した時の……
「まっまぁ待って下さい。
マザリーニ枢機卿も反対だからこそ、僕への面会を求めたと思いますよ。
妥協点を見付ける為に……」
カリーヌ様が本気になったら、ヴァリエール王朝が興せるよね。
主に軍事クーデターで……
「直ぐに教皇に断らずに、此方に妥協させようなんて……
まぁトリステイン王国が国家の体裁を保っているのも、殆ど彼の働きが大きいですからね。
取り敢えずは納得しましょう」
そう言って座ってくれた。
取り敢えず?
トリステイン王国転覆は先送りかな?
「それで……
何時、何処で会うかですね。
トリスタニアの王宮など論外ですし。
第三者の領地か、此処に呼ぶか……
僕の動きは各国からの間者が調べてますから。
多分、トリステイン王国の貴族連中は知ってるでしょうね。
僕が此処に来ているのを……
今回は隠密行動をしてないし、護衛も一緒に動いてるから目立つし……」
僕は既にガリア王国の次期王様だから。
僕の行動は、ある程度知られている筈だ……
それだけマークされているんだ。
勿論、用心はしている。
ボインズ・ナイツの他に、ラウラさんとジャネットが陰ながら護衛してくれてる。
ジャネットには、波乱万丈な生涯を約束したからね。
危ない所、騒動が起きる所には常に傍に居て貰う。
本人はそれでご機嫌だ!
「確かにヴァリエール領に呼ぶのもトリスタニア王宮も反対だな……
トリスタニア郊外に派閥の貴族が居る。
それなりの広さの領地も有るし、信頼に値する奴だ。
何者かが入れば直ぐに連絡が入る体制にしよう。
仮に跳ねっ返りが暴走しても、我々なら跳ね返せるだろう……」
それなら安心だ。
それなりの時間が稼げれば、この面子なら何とかなるだろうし……
「そうですね。
それでお願いします」
これで一安心かな?
後はマザリーニ枢機卿への対応だが……
アレ?
ヴァリエール夫妻が左右から、僕の座っているソファーに近付いて……
「さて、ツアイツ殿……
ルイズが虚無と言われた事に対しては、疑問を持たないみたいでしたが?
既に世界の半分以上を手に入れている貴方からすれば、教皇が唱える異端審問なんて笑い飛ばせる話です。
しかし虚無とは……
ブリミル教徒にとっても、ハルケギニアに住む人々にとっても、軽い話では無い。
もし実在すれば、6000年振りの始祖の再来ですから」
「そうだ、ツアイツ殿!
君程の男が、そんな問題を見逃すとも思えない。
しかし対した問題とも思っていない感じだ。
君は……
ルイズについて、虚無について何かを知っている。
違うかな?」
ヴァリエール夫妻に両肩をガッシリと掴まれて詰問される……
しまった!
確かに、虚無なんて始祖に繋がる大問題をサラッと流してしまった……
始祖とは、虚無とは、ハルケギニアの世界では成り立ちを司る根本だった。
それを……僕は……
「ツアイツ殿。
今回の件はレコン・キスタの、ジョゼフ王の試練の時とは違う。
前は他国の貴族の関係だった。
しかし今回は、既に家族の筈だ。
何か有るなら話して欲しい」
「そうですよ。
貴方が小さい頃から我が家に来る様になってから……
私達は貴方を本当の息子の様に思ってきました。
そしてルイズを娶る事により、対外的にも貴族的にも、本当の息子になった筈です。
なのに貴方は……
独りで抱え込む必要は有りません。
まして、トリステイン王国は私達の国。
何か出来る事が有れば、何でもするつもりですよ」
大変心温まる申し出です。
ヴァリエール公爵は、本気で心配してくれる気持ちが伝わってきます。
勿論、カリーヌ様も……
しっしかし、カリーヌ様に掴まれている肩が!
肩が、何やら変な音を立て始めていま……す……。
「わっ分かりました。
たがら、落ち着きましょう。
お願いしますから……」
漸くカリーヌ様が放してくれた肩を回す。
ゴリゴリと音を立てて解れていく……
カリーヌ様。
何故、僕の事を心配してくれているのに、僕にダメージが毎回有るのですか?
姿勢を正して、ヴァリエール夫妻に向き合う。
彼らも真剣な表情で僕を見ている。
確かに僕達は家族になったのだ。
隠し事は許されない事だよね……
全てを話す為に、本当の家族として接する為にヴァリエール夫妻と向き合う。
「では、何から話して良いのか分かりませんが。
先ずはルイズの事について……」
長い話し合いになりそうです。