謀略教皇VS謀略教祖!趣味と趣味の闘い・第15話
気が付けばヴァリエール公爵とカリーヌ様、そしてマザリーニ枢機卿との間で何かの合意に至ったみたいだ……
ヴァリエール公爵が宰相として国政を担い、アンリエッタ姫は女優として国政を離れる。
マザリーニ枢機卿は、現教皇ヴィットーリオと戦い次の教皇となる。
そしてロマリアのトップとなったマザリーニ枢機卿が、民衆の為になる新しいブリミル教を推し進める……
完璧だ!
しかし……
この話を進めるには、アンリエッタ姫を説得しなければならない。
僕が、だ……
正直、気が重い。
気持ちを切り替える為に、一旦この応接室を離れよう。
彼らに断りをいれて退出する……
◇◇◇◇◇◇
肩を落とし、溜め息をつきながら退出するツアイツ殿を見送る。
思えば息子程の年齢の彼と、この国の行く末を担う話をするとは……
オッパイとか、オッパイとか、ふざけた事を言う奴と思いきや、民衆の事を誰よりも考えていた。
ブリミル教の枢機卿に対して、真っ向から宗教談義を仕掛けるとは、な。
これで6000年の間に、澱みきったブリミル教が正されるだろう。
「しかし……
良いのですかな?
ヴァリエール王朝を興す絶好の機会でしょう。
何故、わざわざアンリエッタ姫にチャンスを与えるのだ?」
現状なら、直ぐにもヴァリエール王朝は興せたろう。
「別に……
無理をしてトリステイン王国を奪う必要が無くなりましたから。
義息子の頭の中で、マザリーニ枢機卿は必要なのでしょう。
ならば、敵対する必要は有りません。
私達は、あの子の動き易い国としてトリステイン王国を変えたかったので」
そう言って、優雅に紅茶を飲む。
ほぅ?
流石に公爵夫人となった今は、優雅ですな。
若い娘の頃は、男装をしてヴァリエール公爵と暴れまわった貴女が……
一世代前の冒険譚は、私も聞いているぞ。
烈風の姫騎士殿と、その御一行の話をな。
マリアンヌ王妃も若い頃はヤンチャでしたからな。
今からでは、考えられない無茶をした、と。
その中心人物達が、若いツアイツ殿のフォローに廻るとはな!
まだまだ現役で、活躍出来そうな物だが?
「其処まで、あの若者を信頼してるのか?
嘗てマンティコア隊を率いた、鉄の規律を実践した貴女が……
オッパイ、オッパイ言っている彼を、ね。
昔を知る者達なら、信じられないでしょうな」
現役時代、もし配下の騎士がオッパイ、オッパイ言っていたら……
物理的に喋れない様にしたのではないのか?
それが、すっかり心酔してるようだが……
しかし、巨乳が大好きなツアイツ殿にとって、その……
なんだ、なぁ?
ヴァリエール公爵を見てから、烈風殿の胸を見る。
そして再び視線を合わせて、頷き合う。
「……?
何ですか、2人で?」
「「いえ、憧憬かな、と……」」
「確かに最初の時は、我が夫を誑かしたゲルマニアの変態貴族と思いましたよ。
その性根を叩き直す為に、無理矢理弟子としたのです」
何やら昔を思い出す様に天井を見上げて、思いに耽る……
「ヴァリエール公爵、確か彼は報告によれば女性の胸を任意で大きく出来るとか?
何故、烈風殿はアレなのだ?」
「ばっ馬鹿な事を!
それは我が家では禁句なのだ!
妻と長女は巨乳化しなかったのだ。
頑固な貧乳……」
不穏な単語が聞こえたので見れば、夫が何やら下らないはなしを……
「それでですね。
シゴキにシゴいたのです。
二度とオッパイとか不埒な事を言わない様に……
しかし、ツアイツは私のシゴキに耐えきったのです。
彼の信念はブレなかった。
思いは純粋だったのでしょう……
後は、情が移ったのでしょうか?
男子に恵まれなかった私達にとって、ツアイツは息子の様な存在になったのです。
今は本当の義息子ですが……
まぁ娘達が皆、彼を気に入るとは思いませんでしたが……」
そう言ってニッコリ笑って、話を終えた。
鋼の規律の創始者を、あそこまで軟化させるとは!
巨乳信仰……
私からすれば、完全なお遊びネタなのだが。
何故、民衆は彼を慕うのか?
何故、貴族までもが彼に惹かれるのか?
正しきブリミル教を布教せねばならない私だが……
残念ながら、人を惹きつける術を持たない。
オッパイか……
民衆を知るには、民衆の求める物を知らねばなるまい。
漢の浪漫本……
読んでみるか。
この後、マザリーニ枢機卿はヴァリエール公爵の伝手で漢の浪漫本を何冊か入手する。
しかし、ヴァリエール公爵が遊び心を発揮してしまった……
彼に、シスター物のジャンルを渡してしまったのだ。
この先、マザリーニ枢機卿がブリミル教のシスターを見ると、始祖ブリミルに祈り出す姿が良く見られた。
聖職者としての鋼の自制心も、針のひと突きから決壊するのは……
まぁ良く有る事だから。
そして遂に、今作最大の地雷姫様!
アンリエッタ・ド・トリステイン!
との密談の準備が整った。
◇◇◇◇◇◇
トリスタニア王宮。
白亜の外観を持つ、歴史有る建築物。
その一角に、アンリエッタ姫の私室が有る。
最近ヴァリエール公爵が、良く王宮内に居る事が多い。
なにやらマザリーニ枢機卿と、他の王宮貴族を交えた会合を開いているみたいです。
私にも参加を促しますが、とても傷心な私には……
私の愛するツアイツ様を奪ったルイズの父親に、合わせる顔はありません。
ウェールズ皇太子も、お手紙を送ってもつれないお言葉ばかり……
聞けば、ゲルマニアから姫を娶るとか。
しかも三股だと、アニエス隊長が教えてくれました。
少し前までは、私の周りにも情報を持ってきてくれた方々も居ましたが、最近見かけません。
アニエス隊長は、有象無象の私に取り入りたい連中は全てマザリーニ枢機卿達が排除したので安心だと……
何が安心なのでしょうか?
私は、王宮に捕らわれた哀れな小鳥なのです。
そんな悲観にくれる私宛に、ツアイツ様から手紙が来ました。
どうせ、ルイズとの結婚式への招待状とかでしょう……
しかし、もし私への労りや思いが書いて有るならば……
私は王位継承権を捨てても、ツアイツ様一択で縋るしかないかも知れません。
机の上に置かれた手紙……
あの人の直筆でアンリエッタ姫へ、と書かれている手紙を読むのは。
まだまだ時間が掛かると思いますわ。