謀略教皇VS謀略教祖!趣味と趣味の闘い・第21話
漢の浪漫本ファンクラブ・臨時会報に載った小さな記事……
これは、会員達にマザリーニ枢機卿の考え方(と性癖)を正しく広める事となる。
鳥の骨・鶏ガラ・トリステインを狙うロマリアの枢機卿……
様々な陰口を叩かれていた、決して人気が有る訳ではない苦労人マザリーニ枢機卿。
しかし彼は、漢の浪漫本ファンクラブ会員からの一定の支持を受ける。
彼の思想(と趣味)が、正しく理解されたから……
◇◇◇◇◇◇
私、マザリーニはツアイツ殿と対談する機会を得た。
私は澱み行くブリミル教の末路について、今はハルケギニアで最大の顧客を持つ貧巨乳派教祖の考えを知りたかったのだ。
彼は対談の中で
「素晴らしき漢達が集う、我らが漢の浪漫本ファンクラブには国家間の垣根も上下関係も無い。
あまつさえ貴族・平民と言う身分も関係無いのです。
乳と言う偉大な物の前には、そんな物はちっぽけな事でしかないんです。
我らは同士で有り、兄弟で有り、仲間なのです」
そう、言ったのだ。
私は衝撃を受けた……
そして信じられなかった。
彼の立場は、巨大な権力者その物なのだ!
彼が嘘を言ってないか、私は調べてみた。
確かに数多の信者を擁する最大教義の教祖なのに、彼は既存のブリミル教関係者の様に権力を望んで居ない。
何故だ?
理由は簡単だった。
「趣味を共にする友なんです。
だから上下関係など不要だし、もし上下関係が有るならば……
それは友では無いですよ」
嗚呼、嘗てブリミル教は権威ある宗教だった。
信仰の下に平等。
権威と権力は違う……
我らは権力を求めたから、澱み衰退しているのだ。
それを、この年若い青年に教わるとは……
私はブリミル教の何たるか、宗教の根幹を見誤っていたのだ。
彼は
「僕達はブリミル教と共存出来ますよ。
対立する意味も無い。
性癖など誰もが持つ、当たり前の感情。
そこに宗教感など有りませんから……
だからこそ、6000年も信仰され続けたブリミル教徒達にも受け入れられた。
違いますか?」
と、逆に聞き返してきた。
教皇ヴィットーリオが彼を異端・異端と騒いでいる事が、滑稽に思えてならなかった。
彼は自分の権力が失われるのを恐怖しているのだ。
ヴィットーリオがロマリアのトップで有る事は、ブリミル教にとって害悪でしかない。
私は、正しきブリミル教の為に立ち上がる事にした。
過去の権威ある正しきブリミル教に戻し、ツアイツ殿の言う共存をする為に……
対談は此処で終わっていた。
此処までならば……
「ああ、そうなんだ。
大変だね、頑張れ!」
で、終わっていただろう。
しかし、立ち会っていたヴァリエール公爵の一寸お茶目心なコメントを読んで、皆が(彼の本音を)理解した。
「マザリーニ枢機卿は対談の後で、我らが教義を理解する為に何冊かの漢の浪漫本を求めた。
そして彼も、立派な漢で有る事が分かったのだ。
何故ならば、マザリーニ枢機卿は、躊躇しながらもシスター物を一択で要求したのだ。
目を合わせない様にしながら、しかし何の迷いも無かった。
彼も立派な変態紳士なのだ!
ただ、少し恥ずかしがり屋なだけだったのだ……」
何だ、仲間じゃないか。
確かに修道女が大好きなら、ホモとは本気で敵対するよね。
ならば我らも力になろう。
元々は人気の無かったマザリーニ枢機卿だった。
しかし仲間意識が高い漢の浪漫本ファンクラブ会員にとって、彼も立派な紳士と認めた事により協力をしようと思ったのだ。
「へー現役の枢機卿が、修道女が大好物なんだ?」
「なる程、確かに合理的だよね。
自分の協会で働く女性達が好きなんだ。
だから秘密にしてるのか」
「バレたから大変だ。
マザリーニ枢機卿のエッチ!
とか言われてるぜ」
「マザリーニさんも好き者だねえ……
でも良い趣味してるよ。
僕も修道女は大好きさ。
背徳感を醸し出す所とかさ……
清楚で良いよね」
何時の時代も、趣味友達の結束力は強い。
彼も立派な変態と言う紳士として認められたのだ。
本人は、それを嬉しいと思うかは別問題だが……
この会報の後、余り話をした事も無い一部の貴族達から、フレンドリーに話し掛けられたりするらしい。
しかも、修道女物語とかを手渡されて……
肩をポンポンと叩かれ
「分かってるって!
大変だよな、立場上さ。
でも良い趣味だよ。
まぁコレはやるから、もっと素直になれって」
俺達は分かってるんだぞ的に、色々くれるらしい。
しかもタメ語だったりする……
因みにブリミル教のシスター達からは……
「マザリーニ様って……
そうなんだ、意外だったわ」
「私達を見てから、ブリミル様に祈り出すのって……
まさか我慢の限界が近いのかしら?」
「厳格な感じだったのに……
何かしら?
親しみ易い一面も有るのね。
ふふふっ、マザリーニ様が、ねぇ?」
彼女達には、概ね好評だった。
◇◇◇◇◇◇
トリステイン王宮の一室で、マザリーニ枢機卿は頭を抱えていた……
最近の彼を取り巻く環境の激減に、戸惑いを隠せなかった。
「何だ?何なんだ?
何故、私が修道女が大好物のムッツリ枢機卿になっているんだ?
しかも、躊躇無く話し掛けてくる連中は何だ?」
その執務室の机の上には、同好の士を名乗る連中からの贈り物が山済みだ!
断っても、断っても
「良いって、良いって……
分かってるから!
大変なんだろ?
流石に現役枢機卿じゃ、この手の趣味は隠しだいよな。
また新作を探してくるから、楽しみにしてろって」
とか、私はロマリアの枢機卿だぞ!
今までトリステイン王国の宰相として、国を纏めていたんだぞ!
それが……
そう言って、漢の浪漫本が沢山並んでいる机に座り頭を抱えている。
周りから見れば、エロ本の吟味に余念が無い変態としか思えない。
彼の修道女好きは、本人の知らぬ間に事実として広まっていった……
「男の娘大好きホモ教皇ヴィットーリオVS修道女大好きムッツリ枢機卿マザリーニ!」
誰もがマザリーニ枢機卿の勝利を望んでいた……
そして、この後に対ロマリア計画を練る為にツアイツとヴァリエール公爵、ド・モンモランシ伯爵やグラモン元帥を交えての会議が有る。
ツアイツはマザリーニ枢機卿の為に、とんでも無い贈り物を計画していた……