21話
……で、私等は半ば連行される形で図書館島探検に追従することとなった。
椎名が見つからなかったし、携帯も繋がらなかった……真剣ヤバい気がするんだが。
……何時の間にか準備は進められ、私達は図書館島裏門の前に立つ……お前等、この手際の良さをもっと別な面で使えよ。
「さて、では行くですよ」
「待て、私はそこの忍者にあれよあれよと言う間に振り回され、殆ど事情説明の無いまま此処に居るんだが。先に何処の何を目指すかだけは説明してくれ」
部屋に戻った後、取り敢えずボーっとしてたら、気づけば忍者が私を連れ出していた。遅刻者を連れに来たらしいが、そもそも、湯当たりしてて待ち合わせ時間も殆ど覚えてなかったんだが。
「あ、だから長谷川、パジャマだったんだ」
けらけら笑う早乙女に怒りが滲むが我慢だ。ともかく、既に此処まで来てしまった以上、私だけ帰ると言うのはこいつ等的にはNGのようだしアキラもいる。
後、子供先生もパジャマだが、そこはスルーか早乙女。
「むっ、大事なことを言い忘れてましたね。私達はこの図書館島に魔法の本を探しにきたのです」
『魔法の本』ね
……あぁ、大体想像がついた……
後、神楽坂が最近妙に食いついてきたわけも想像ついた。
神楽坂に小声で話しかけてる子供先生。
神楽坂は、子供先生に周りを気にしながら何だかんだ吹き込んでいる。周りを気にしてるって事は周りには聞かせたくない話って事だ。
そして、しきりにこちらを気にしている。
……あの魔法使いの子供先生、神楽坂に多分バレてるな、確か神楽坂たちの部屋に住み着いてるらしいから、バレる機会には事欠かないだろう。
で……朱雀のせいで私を魔法関係者だとか思い込んでそうだ、あいつ等……
要は、魔法の本欲しさに魔法関係者らしい私を巻き込みたいと。
怒りと呆れが湧き上がってくる。そんな馬鹿な話で私は巻き込まれたわけだ。
「……綾瀬、分かった、30分……いや、10分待て……専門家を呼ぶ」
「あれ、まだ呼んでなかったんだ」
不思議そうに小首を傾げるアキラ。私が遅れて現われたときも随分驚いてたが……そう言えば、遅れたことより格好と、他に誰も居ない事に驚いてたな。
「……私が呼んでると思ってたのか?」
意外そうにコクコクと頷く大河内。私はな、今の今まで事態を把握してなかったんだよ。
分かってたら最初から全部押し付けてた。
「おっ、長谷川、旦那呼ぶんだ」
ミシっと、握った携帯電話に若干の力が篭る。
によによと、不気味な笑みを浮かべるのは早乙女……言いたくは無いが、同じ世界の存在ではある。が……ラブ臭なるものを嗅ぎ付けるこいつは私には認められない。
「誰が旦那だ誰が」
「いや、長谷川は彼氏持ちってのは割りと根強い噂なんだけどね、幼馴染からは同意を得られないし、とうとう会えるのかなぁって」
……落ち着け長谷川千雨。
一時の恥と……吸血鬼に襲われたときの危機を天秤にかけろ。この件に魔法なんてものが関わってれば、また死の危険があるぞ。
「……」
……無視して通話。一秒の間もなく相手は電話に出た。
「って、あ、朱雀か? メールかアプリの途中だったか?」
いきなり電話に出られるの最近よくあるのは、携帯アプリとかメールで決定ボタンを押そうとしたのと同時に通話が入ることがある。
実際、これで色々と破損したデータが……もとい。
『いえ……桜子ちゃんがメディアさんのところに急に遊びに行ったので、今晩は何かあるかなぁっと』
椎名は核シェルターへの避難を決意したらしい。
迷わず私もそこに行きたい、あそこは色々着せ替えられるが、あらゆるトラブルを跳ね除ける無敵の城砦だ。
と言うか、最近知ったが、金ぴかの重役らしいからな、メディアさん。金ぴかは第二のビ○・ゲイツと言われるほどに急成長を遂げた異常複合企業だが。
とにかく、技術力の高さがあそこの評価の全てだろう。それこそ、世界中に散らばっていた中小の『不当に評価されてない専有の技術』を一気に一手で拾い上げて独占化したからな。
実際、私も極めて高い
「……今、図書館「5分で行きます」……おい、大河内、真剣にやばいぞ、この件、椎名がメディアさん処に避難した」
ぐっと、大河内の腕を掴んで、小声なら聞こえない距離まで離れた後で……宝石の1つを起動する。メディアさんから護身のために預けられた【魔術】で、周りにはなんでもない会話に聞こえるらしい。
朱雀が私の言葉を遮ってまで駆け出した。
たぶん、裏で魔法関係の何だか嫌なことが動いてるはずだ。
「うん、だから……放っておけないよ」
……図書館島探索のために準備を整え、意気揚々と挑もうとしている8人のクラスメイト。止めたところで止まる訳が無いのは、二年近い付き合いの中でよく理解している。
「……うわ、あいつに全部押し付けるのか」
「最悪、そうなるよね……でも、メディアさんは何も言ってきてないよね」
ついこの間、メディアさんは私達を旅行に誘った。
それに合わせたように麻帆良には割と強い地震が訪れた……メディアさん曰く、椎名の勘のおかげらしい。
大事なのは、最近になって……具体的には寝惚けて朱雀とカードを作って以来……椎名が危険を避ける幸運が私達にも影響するようになったらしい事。
なのに、メディアさんは今回は何も言わなかった……
「……椎名が嫌がるのはもう1つあったか、そっちか。うわ、無茶苦茶面倒臭い、私も嫌だぞ……私は手遅れだが」
……おそらく、私達に本当に危害が加えられるなら、椎名とメディアさんは私達をとにかく遊びに誘っただろう。
それをしなかったと言う事は……私達の危険はそこまで酷いものではなくて……それでも椎名が参加したくない理由があるということだ。
椎名は、それを怖れる。あれだけの強運、最早業運に近い、椎名の父親は出世街道まっしぐら、それを妬んでも、会長社長と仲は良く、幸運には恵まれる。
あいつが怖れる1つ、周りから特別視されて今を壊されること。
知るのは幼馴染の私達だけだ。
アイツの幸運は凄い、凄すぎる。実際、小学校入学前に宝くじ売り場で破竹の10連勝をやらかしたらしいからな……その後直ぐ、引越しをしたらしい。
だから、椎名の両親は朱雀と仲が良いことを喜んでいる。あいつはそんな事気にしないから。
……たぶん、今回の件は魔法が関わっている。だとすれば、椎名は全ての手を使って逃げるだろう。
麻帆良では椎名の幸運すらもちょっと凄いくらいの目で見られるが、魔法使いにもそれが通用するかは分からない。
此処にきて、自分の“幸運”に魔法使いまで目をつけて、また引越しするなんてことは、絶対に嫌だろう。
あいつの本能と言うか直感は、無意識にそれを理解したんだろう。
おそらく、魔法が関わる事象は全て、避け続けるだろう。
あいつの無意識下の幸運は。
「……仕組まれてるか、最低でも、誰かが監視してるぞ……椎名はそれに見つかりたくないんだ」
魔法使いに、自分の幸運を知られたくないと直感で理解したんだろう。
「仕方ないね、頑張ろう」
何時の間に私達は、何も知らない一般市民を護る特殊工作員になったんだ? アキラ、私達は唯の一般人だろう。
「でも、色んな事件には遭ったよ?」
「椎名と、朱雀とメディアさんと、朱雀が色々と頑張ってくれたお陰だ」
「……だから、何とかしてくれるよ」
心強い保証に二の句を濁す。実際、アイツは全部何とかしてくれたんだから。
「まぁ。期待に応えられるよう、頑張らせて頂きますが……、アキラは皆さんに私の説明を。千雨ちゃんは、ちょっと事情を聞かせてもらってもよろしいですか」
……後、お前はもう少し空気読め。
まだ3分と経ってないぞ。
「あぁ、可能な限り急ぎましたので……いえ、正直沸騰寸前なので、早めに状況の説明は……」
それと、妙に装いがアウトドア風な気がする……この状況、予測してたんだろうか。
「おっ来たね、噂の恋人さんが、ふっふっ、ラブ臭がって、痛い痛い、アキラ、普通に鷲捕まれた頭が痛いっ」
「……助けてあげたんだよ? ……朝倉と早乙女は、あの温度のときは近付いたら危険……神楽坂も、その……何だか興味有りそうだけど……長谷川が落ち着かせるまでは近付かないほうが良いよ」
大河内が私達から距離を取るようにジェスチャーしている。
と言うか、普通に沸騰寸前だな、こいつ……ここまで怒ることは滅多に無いんだが……ちなみに、その滅多は悉く関係者全員の保護者が呼ばれた惨事になった。
「……確認しておきたいのは一点です、この件、学園長は何か言ってましたか?」
「……いや、あのぬらりひょんからは何も聞いてないけど」
学園側が画策したのか怪しんでるんだろう。ついこの間、協定を結んだばかりの筈だしな。
「千雨ちゃんは何故?」
「……図書館島最深部のレコードホルダーらしいからな、私は。それで誘われ……連れて来られたか」
「参考までに、誰が一番千雨ちゃんを誘うのに乗り気でした?」
「綾瀬と神楽坂」
暫くした後で、深く息を吐く。
「どうやら、道化に付き合う事になりそうですね……」
怒りを霧散させていく。状況的に学園側の謀ではないと判断したんだろう。
実際、私達に協力を求めてきたのは元は綾瀬だし。
「学園とは不干渉の協定組んでるんだろ?」
「先の交渉は端的に言えば、敵対前の関係に戻るという意味が強いですからね。図書館島に不法侵入すれば、今度はこちらに非が有る立場になりますが……彼女達を放っておくのも気が引けます」
こちらに興味津々の面子を大河内が抑えている。
後、子供先生と神楽坂が凄い期待した眼でこちらを見ている。
「……あいつ等、私を魔法関係者だとか思ってるみたいだぞ」
「……学園長がリーク……は無いでしょうが……楽観的な性格してそうですから、自分の都合のいい形でこの前の事件を解釈したかもしれませんね」
大丈夫だ、お前の観察眼は間違ってない。あの2人は間違いなくそんな感じだ。
「まぁ、監督責任は子供先生にあるでしょうし。最悪あの少年に全部押し付けましょう」
「……そっか、あれでも一応教師だったな、この場合一番の責任者はあれになるか」
「それに、学園側としては私を何とか自分達の側に引き込みたいでしょうし……ね」
不法侵入したとしても、前回のようにはならず、むしろ子供先生と仲良くさせて行動を軟化させるのを狙うんじゃないかと言うのが朱雀の考え。
……学園長が腹黒ならありえそうだな。
「まぁ、大丈夫ですよ……今度はずっと傍にいますから、千雨ちゃんには傷1つつけさせません」
そっと、羽織っていたジャケットを私の肩にかけながら笑う朱雀。
……取り敢えず、暗いから顔が赤くなってることには気付かれないだろうけど。
「あ、朱雀落ち着いた?」
朱雀の熱が冷めたのを察知したのか、アキラが押し留めていたみんなを解放する。無論、率先して近寄ってくるのは早乙女だ。
「おやおや、なかなか紳士だね長谷川の旦那は」
「旦那じゃねぇっての」
にやにやと私と大河内を見比べながら笑う早乙女、とりあえず、朝倉がこの場に居ないことだけは有難い。
後、周りの目が生暖かくていたたまれない。
「へぇ、ねぇお兄さん、お兄さん的にはどっちが本命? 長谷川? アキラ?」
一応言っておくが早乙女、そいつ私等と同い年だぞ。背が高いから年上に見られがちだが。
「いえいえ、二人とも仲の良い幼馴染ですよ」
そしてあっさりと追及をかわす朱雀、まぁ、実際恋愛関係にあるわけじゃなく。
「おっ、二股かぁ、2人まとめてとは、やるねぇお兄さん、けど不幸にしちゃ駄目だよ」
「ちげ「違うよ、早乙女」
私の言葉を先に遮ったのは大河内だが……何だか嫌な予感が。
「桜子も居るから、3人だよ」
「増やすんじゃねぇっ」
大河内は相変わらず天然でボケてやがる。
「三股かぁ、本当にやるねぇ」
駄目だ、朝倉もヤバイが早乙女も十分ヤバイ。こいつの前に朱雀を出したのは失敗で。
「……それとこの間。超が挨拶に来たよ、準身内になったって……超もなのかな、かな?」
「朱雀、ちょっとあっちで語り合おう、主に拳で」
予想外の名前が出てきて、今度は私の頭が沸騰しそうだ、あぁ、今なら馬乗りになって拳を振り上げながら頭が沸騰しそうだよぅをやってられる。
「いえ、千雨ちゃん。それは語り合うんではなく一方的に語られるんだと思います。それとアキラ、それはきっと超さんの冗談で」
「嘘だ」
……アキラにネタギャグ教えたのは失敗だったかな……
「淡々と、平坦な声で言われるとかえって怖いですよ、それと落ち着きましょう千雨ちゃん、拳に握ったその石は本当に危険なんです」
そりゃあそうだろう、メディアさんが態々朱雀への攻撃用のためだけに造ったって言う宝石だ。これで殴れば朱雀のスーパーバリアーも越えられるらしい……ついでに大抵の魔法障壁も越えられるとか言ってたが、私には朱雀に実ダメージを与えられる効果の方が大きい。
まぁ、実際に石で殴ったぐらいのダメージしか与えられないらしいが、逆にそれでAランクの神秘は凄いんだとか。
「何、この後図書館島探索が控えてるからな、私が殴り疲れたら勘弁してやる」
体力無いから精々数十発が関の山だろう。
「いやいや、なかなか興味深い関係だねぇ」
「何時になったら図書館島に入れるのですか」
「うわぁ、凄いなぁ。長谷川さんアグレッシブや」
「わぁ、わぁ、これが修羅場ってヤツだね、どろどろな大人な関係なんだね」
「ニンニン、いやはや、楽しそうな御仁でござるな」
「……何だか強そうな気配がするアルよ」
「あの人もしかして……え、うん、私にはネギ先生が……」
「長谷川さんにパートナー、行ける、これで魔法の本は私達のものよ」
「……えっと、本当に行くんでしょうか、と言うか、あの人大丈夫なんですか? 長谷川さんが、石を……あ、魔力……さすが長谷川さん、あんな凄い魔法道具っ」
かくして、図書館島への扉は開かれる。
多くの波乱の種を含んだままに。
桜子の理由付けが難しい。
後、長谷川が握り締めてる宝石は某アカイアクマが見たら迷わず『殺してでも奪い取る』一択の代物
金には不自由せず、無駄に時間も有って、魔力にも事欠かない……護身用の宝石は色々凄まじい代物ばかりです。
アキラもアクセサリーとして色々貰ってます。もう魔力を隠す必要も無いので。
朱雀君は一旦沈静化、学園長の謀なら滅殺ルートでしたが、たぶん事情を把握していない(会談前に帰されたと聞かされた)ネギは本人振り回されてて
綾瀬が主犯。どうしようもないと判断しました。
後、こっそり後をつけてて介入のタイミング待ちでした。原作のイベントはチェックしてます。
……今回一番の死亡フラグ パジャマ姿の千雨を誘拐したNINJA 鷹の眼で合流地点の面々を認識してなかったら即死級。沸騰寸前の一番の理由はこれだったりするw