22話
中等部2年の3学期。
自分がネギまの世界に居ると知ってから、十分に注意をしてきた時期です。
この時期に英雄の息子は教師として麻帆良学園に赴任し、物語は紡がれ始める。
……無論、6年前の事件に介入した結果、それが無くなる可能性も有りましたが、結果としては子供先生は麻帆良に赴任し、千雨ちゃんたち2-Aの担任になった。
恐らくは、このまま原作のタイムスケジュール通りに事件や襲撃が起こる。その為、記憶が劣化しても良いよう、早くから【王の財宝】に貯蔵されていた高そうな石碑に多少内容をはぐらかせてタイムスケジュールを刻んでおきました。
これで早めに対応できるだろうと。
……原作知識を過信し、吸血鬼事件に早くから千雨ちゃんが巻き込まれたのは、原作を鵜呑みにし噂を気に留めなかった私の失態ですが……
そのため、期末テストが近付くにつれて、『魔法の本』の噂が流れ始めたときも気に留めておきました。
原作のタイムスケジュール的では図書館島勉強合宿が発生する予定です……千雨ちゃんたちは巻き込まれないし、どう考えても学園長の質の悪いいたずらとしか思えないので特に気にすることはなかったのですが。
Trrr と、電子音と共に携帯にメールの着信が入ります。メディアさんからで、内容は、急に桜子ちゃんがメディアさんのところに遊びに来たとの事……
凄く嫌な予感がしたので今日の日付と学期末テストのスケジュールを再確認します。
……学期末テストは三日後……確か、2-A有志による図書館島探索はこの辺りに発生したはず……
メディアさんに、二人の無事を確認してきますと返信して、寮を飛び出しました。
認識阻害の魔法を使って、魔法の杖に飛び乗ると空へと舞い上がる……この程度の魔法行使なら麻帆良では気にも留められません。
そのまま鷹の眼で図書館島の外周を確認し。
……重装備で図書館島探索の準備を整える2-Aの面々らしき姿と、アキラを見つけました。
「何で参加してるんですか……」
またもやバタフライエフェクトが発生したようです。
アキラは成績も悪くないし、原作では本来参加するメンバーでないんですが……ふと、千雨ちゃんの愚痴を思い出しました。
図書館島探索のレコードホルダーのせいで、頻繁に図書館島探検部に勧誘されて困ると……あれが原因ですか。
それは、桜子ちゃんが麻帆良から逃げ出すのも納得です。あれに巻き込まれないように距離を取ったんですね。
「ですが、幼馴染の不法侵入を見逃すわけにもいきませんね」
『魔法の本』を目指して図書館島に不法侵入……学園長公認のイベントに思えたのでお咎めは無さそうですが、要らぬ介入のきっかけにもなりかねませんし。
何とか連れ戻すか、広域指導員辺りに通報でもするかを考えて……
「その心配はいらんぞい」
近付いてきた気配が話しかけてくる。
この学園の最高責任者、老獪な魔法使いたる学園長が……
「……おや、まさかこんな所でお会いするとは、どうされました?」
杖も無く空中を歩むように近付いてくる学園長……あの事件以来、接触してくることは無かったのですが。
不干渉と詮索無用の協定はきちんと護られていた筈で。
「何、図書館島探検部の活動の監督じゃよ……君こそどうしたかね、こんな夜分に。もしかして君も参加者かの」
「……図書館島、探検部の、活動ですか?」
下に集まっている2-Aの面々……幼馴染含む……を指差す。学園町は鷹揚に頷いて。
大きく判の押された書類を前に出す。
「図書館島探検部の顧問から申請もきちんと出ておる……何の問題も無い活動じゃ、ただ、彼女等にはまだ伝わっておらんから、怪我等が無いようわしが監督するわけじゃ」
つまりは、2-Aの面々が不法侵入しても、公にお咎めが無いように態々書類を用意しておいたということですか。
彼女達に自覚は無くても、あれは正式な図書館島探検部の活動と言うわけだ。
顧問も了承済みの上、学園長監督下で。
「図書館島探検部の体験入部の形で数人の参加者も申請されておるから、朱雀君も参加者かね」
「……私は、不法侵入しようとしている幼馴染を連れ戻そうと思ってたんですがね」
「問題あるまい、彼女達は自覚こそ無いが、図書館島探検部の体験入部として参加しておる、『目的のもの』を探し出すのが目的じゃ」
「自覚が無いのは問題じゃないですか?」
と言うか、犯罪を助長しているようにしか聞こえない。
「だからこそ図書館島探索の本質を味わえるという趣向じゃよ、実は図書館島探検部では後輩をうまいこと侵入するように仕向けるイベントを定期的に行っておってな、道中の安全は我々が確保し、万一『目的のモノ』以外を持ち出そうとしたときには即座に発見する手筈になっておる」
……どうやら、学園長は無理矢理にでも生徒達を図書館島へ侵入させたいらしい。
そして少なくとも、今後はこのようなイベントが図書館島探検部では企画されるのだろう。
「どうじゃな、君の知り合いも居るようじゃし、君も参加してみては」
そして、どうやら私への接触もこの機会に図っているようです。
私とその身内への干渉、詮索は協定で禁じていますが、アキラが魔法関係者からの強制で無く自主的に参加したのであれば協定違反とは言えず。
私も上手いこと参加してくれればネギ先生との接点が出来る……そこから此方の警戒を切り崩そうとしているのかもしれません。
「……まさか、学園側が誘導してませんよね」
「……誓ってそれは無い。わしも魔法生徒から君の関係者が参加するらしいと聞かされた時には驚いたんじゃよ、じゃから、誤解を生まぬためにも君に説明しに来たわけじゃ」
あくまでも、これは図書館島探検部恒例のイベントであり、あの生徒たちは偶然にこの場所に集まったのだと。
そして、これを接触の良い機会だと判断して飛んできたのだろう。
「無論、君があの場から彼女を連れ戻しても一向に構わんが、ネタバラシをするのは勘弁してもらいたいの、今後の図書館島探検部のイベントに差し障るからの」
「……不法侵入にはならないと、夜中に図書館島に侵入するスリルを味わう活動だと、言うわけですか」
「その通りじゃ。何ならおぬしもわしと一緒に彼女らを監督するかの、何、暇つぶしにわしの茶飲み話に付き合ってくれればよいぞ」
魔法関係者としての接触ではなく、図書館島探索の監督役としての立場から参加者の友人への接触……ごねるほどの話ではないですね。
「……学園側のスタンスとしては、私を引き込みたいわけですか」
「話は早いんじゃが、もう少しオブラードに包んでもらえんか……そのなぁ、君は悪くないんじゃが、色々とゴタゴタしておってのぅ……無論、無用な手出しはさせんし、せん。ただ……少し手伝ってもらえると助かるとかな」
「……私、魔法使いって嫌いなんですよ」
「じゃろうな」
鷹揚に頷く学園長。何を考えているかは知れないが、私のことは多少なりとも調べたと言うことでしょう。
……少なくとも、実の両親が違法魔法使いであったことは直ぐに分かるでしょうし。
そういえば、結局捕まったんですかね、あの2人。音沙汰無いと言うことは逃げ続けているか、捕まってはいても釈放はされていないんでしょうが。
「まぁ、それは良い。少なくとも、わしらが君らに危害を加える気は無いということを……」
ふと、眼に入った光景に殺意を纏う。
視界に飛び込んで来たのは私から平常を奪うに十分な代物。幸い鷹の目を用いるためにアーチャーの能力を模した状態だ。投影を開始する。
左手に弓を、右手に捻じくれた剣の矢を。
「フォッ、ま、待て待て何を……って、何じゃアリャァっ、何であんな事に。落ち着け朱雀君。落ち着くんじゃ」
慌てて射線上に幾枚もの防御結界を張る学園長。
私の視線の先には……パジャマ姿で何者かに誘拐された様子の千雨ちゃん……
女子学生に抱えられる形で建物の上を跳びまわっている。
抵抗している様子から、あれが同意の上によるものでないことは明白。ならば射抜くのに躊躇は無く。
「は、長谷川君も参加者じゃと報告を受けておる、あれは……長瀬君か、たぶん、遅刻した彼女を連れてきたんじゃないかと……」
その名に矢を放つ寸前で指を止めた。長瀬、長瀬楓ならば千雨ちゃんたちのクラスメイトだ。目の前でクラスメイトを射抜かれればトラウマになりかねない。
実際、千雨ちゃんを抱えて屋根を駆ける彼女は真っ直ぐに図書館島へと向かっている。
「……強制参加させた、訳ではないですよね?」
「……2-Aには魔法生徒が1人おっての、同意したように見えたと報告を受けておる」
此方がキれる寸前だと理解しているのだろう。汗を拭きながらも落ち着いて返答してくれる。
やがて、合流した忍者と千雨ちゃんは暫く話し合った後落ち着いた様子で。
千雨ちゃんが携帯電話を取り出すのを見て、私も携帯電話を手にする……着信したかしてないかの勢いで通話に出て。
『って、あ、朱雀か? メールかアプリの途中だったか?』
学園長に距離を取るようにジェスチャーすると、遮音の結界を端的に展開し。
「いえ……桜子ちゃんがメディアさんのところに急に遊びに行ったので、今晩は何かあるかなぁっと」
烈火の気勢を押し留めて落ち着いた声音で対応する。
眼下で図書館島探索の準備が着々と進んでいるのを眺めながらの応答になり。
それにしても、パジャマだけのせいで千雨ちゃんが寒そうだ。上着だけでも差し入れてあげたくて。
『……今、図書館「5分で行きます」
通話を遮る形で電源を切った。
「……と言うわけで、私も参加者でお願いします」
状況を問いただすのと、千雨ちゃんに上着を渡す必要がありそうだ。
「う、うむ。長瀬君に悪気は無いと思うんじゃ、じゃから、けして手荒な真似は……」
「……善処します」
合流にはこのまま飛び降りれば事足りるけれど、即座に現われてもおかしな話だし。
件の忍者は気配察知にも秀でてそうなので少し離れた位置から気配を出しつつ近付く事にする。
さて、適当に口裏を合わせるのと……まずは事実確認ですね。
学園側が関わっていたり、長瀬さんに無理矢理連れてこられたと千雨ちゃんが言うようであれば、対応も変わりますが……
……結局のところ、話は割りと穏便に片付いた。
合流して千雨ちゃんと話してみれば、誘ったのはあくまで綾瀬さんと神楽坂さんの2人のようで、なし崩し的に同行も決定していたんだとか。
それらが確認できたお陰で熱も冷め……諸々あって千雨ちゃんに宝石での一撃を喰らう事になりました。学園長が監督してる前では勘弁してもらいたいんですが……
その後は自己紹介、順番に名前を教えてもらう事となった。
「図書館探検部の綾瀬夕映です、朱雀さんの名前は聞いたことがあるです、レコードホルダーの1人ですね。今回はよろしくお願いするです」
恐らくは、今回の探索に一番乗り気な女の子が握手を求めてくる。
……悪気は無いんでしょう、その好奇心を学園長に利用されただけで。
「えぇ、よろしく綾瀬さん」
「私、佐々木まき絵。長谷川さんたちと同じクラスなんだ、よろしくね」
「えぇ、よろしくお願いします」
桜子ちゃん並みにハイテンションな女の子。周りが暗いせいでちょっと不安がってもいますが。
「長瀬楓でござるよ……時に、先程は少し怖かったでござるが……その前はもっと」
「幼馴染の誘拐犯だと思ってましたので」
「むっ、それはすまんかったでござる」
とりあえず、千雨ちゃんが気にしてる様子はないので置いておいて良いでしょう。
千雨ちゃんは私の上着を羽織ったことで少し暖かくなったか顔も赤くしていますし。
「古菲アル、今度手合わせしないアルか」
「女性に手を上げるのは怖ろしいんで勘弁してください」
「むっ、男女差別するアルか」
「いえ……本当に女性に手を上げるのは怖いんです」
主にメディアさんや千雨ちゃんに植え付けられた恐怖心が。
「元気良いねぇ、古は。私、早乙女ハルナ。で、新しい子はこの中から探すのかな? て言うか、何股まで出来そう?」
「探しませんし、しません……あくまでも幼馴染なんですが」
「ふっふっふ、私のラブ臭センサーを舐めてもらっちゃ困る、匂う、匂うよ、って、アキラ、痛いから、頭掴まれると痛いから」
触覚がビンビン動いてた早乙女さんはアキラが連行していきました。まぁ、関わるとまた変な方に話がいきそうですしね。
「よろしくね。えっと、朱雀さん。私、神楽坂明日菜……こっちがネギで、あそこに居るのが本屋ちゃん」
かなりの期待の目でこちらを見る神楽坂さん、たぶん原作どおりに魔法はバレてるんでしょうが……この探索は学園長の監督下にあるので、残念ながら『魔法の本』とやらも、いかにもそれっぽいだけの偽物でしょう。
……できれば早々に諦めて欲しいのですが。
後、子供先生もきらきらした目で見てきます。何だか話しかけたいけど話しかけられないと言うか……一応、接触禁止の連絡は回っているということでしょうか。
ちなみに、魔力は全く感じません……魔力封印済みですか。
ちなみに、本屋さんこと宮崎さんは真っ赤になって俯いてます。
「うちは近衛このかや、よろしくな朱雀さん」
「よろしくお願いします、近衛……と言うと、学園長の」
「孫なんよ」
「似てませんね」
「よく言われるわぁ」
にこにこと、無邪気に微笑むこのかさんに微笑み返す。本当にあの腹黒ぬらりひょんの血縁なんでしょうか。
「にしても、朱雀さんは長谷川さんとか大河内さんと仲ええんやなぁ」
「えぇ、幼馴染でして」
少しだけ表情に翳りを見せる近衛さん。
「そっか、幼馴染なんか……ええなぁ……」
「では、自己紹介も終わったところで探索に向かいたいと思います。皆さん、行きますよ」
学園長の監督下と言う微妙に嫌な状況の下、私達は図書館島へと足を踏み入れました。
……前話でちょっと朱雀の行動が普段らしくないと感想で幾つも指摘を受けたので後付設定捏造してみました(マテ
誤字程度の修正はともかく、改訂はあんまりしたくないので。アキラは……それだけ信頼してるんだと思ってやってください(ぉ
ノリと勢いだけで突っ走ってると、作者の書きたい場面を優先してキャラを動かしてしまうので、迷走してしまったようです。
どっかで足を止めて振り返る必要があるかもしれません。
まぁ、色々と考えさせられて大改訂になりかねませんが。
ともあれ、図書館島……やりたいことは1つだけなんですけどねぇ……