幕間二
何処にも無く、何時でも無い空間。
用意された座敷に座すは忠義の騎士と最強の魔術師を従える主。
其の場を、白い髪の少年が訪れる。
「失礼するよ……君が、赫翼の槍騎士の主で良いのかい」
「えぇ、間違いなく。朱雀と言います……貴方は、フェイト・アーウェルンクスに違いなく?」
魔女によって招かれた少年は、幾つもの界を隔てたその空間に案内される、あらゆる干渉・感知を妨げ、この会談の内容を欠片も漏らさぬ異界へと。
「フェイトで良いよ、しかし、八門遁甲を利用した異界を構築していたとは気付けなかったよ……腕の良い魔法使いだね」
フェイトにすれば、本拠へと招かれたことも驚きだったが、一見にして無防備に見えたその場所が異界すら備える最強の魔術師の神殿であった事の方が驚きだったろう。
京都と言う関西呪術協会のお膝元で、それを築き上げた手腕はフェイトをして感心するもので。
「私ではないですが、術士には伝えておきますよ……どうぞ」
ホテルのそれと同じ造りであろう和室にはテーブルが一つ。
差し向かうようにしてフェイトが席に着くのを待って、奥に控えていただろう少女がコーヒーカップを二つテーブルに置き、そのまま隅に寄って無言のまま壁を背に座す。
「……君の従者は同席しないと聞いたけどね」
「協力者ですよ、貴方に顔を覚えてもらいたいそうで」
あくまでも、会談を行うのは主一人のみ。ただ、協力者が同席する可能性が在ると説明はされていた。
協力者ではあっても、全ての目的が合致しているわけではないので口を挟むことは在り得ると。
「そう……この香り…………良いね、何処の豆かな」
「さて、あいにくと私も所有していたというだけで銘柄には詳しくないもので、飲み物としての名称が付けられるより昔に存在した幻の豆と言ったところでしょうか……良ければ土産に持って帰って頂ければと、それなりに量もあるので十分にお分けできると思いますよ」
この世全ての財を蓄えた宝物庫、所有する主ですら全容を理解せぬ財の中に珈琲豆に酷似した種があったため其れを挽き、協力者の舌をして満足させたため用意した。
淹れた者も超一流の料理人と言えるため、一口を口に含んだフェイトも満足そうで。
「そう……来た甲斐としてはこれで充分あったかな、それと、敬語はやめてくれないか、今僕等は対等に話しているはずだ」
「では、話しやすい口調で話させていただきますよ、まぁ、元々こんな口調なんですが」
ほんの僅かにだが、気を緩める。緊張していた事実は違いなく。
「構わないよ、先までの固い感じは薄れた」
「さて、まずは会談の席についていただけたことを感謝します……ですが、先にお聞きしたいのですが……何故、貴方程の魔法使いが、態々こんなお家騒動に参加しているのかと」
まずは些細な話題から。
最終的な目的がリョウメンスクナノカミの復活であるだろう事を知っている朱雀にすれば、この事態は不可解に思える。
確かにその戦闘能力はラカンの強さ表をして8000と言う規格外なものだ。戦力としては十分と言えるだろうが……封印によって弱体化しているし、そもそも、魔法世界での活動を主とするフェイトが旧世界における力を求めるのが不可解で。
「ふむ、君は本当に色々知っていそうだね、確かに、こんな茶番に巻き込まれるのは御免なんだけど……
フェイトが口にするのは契約を遵守させる強力な魔法具の名。
ディルムッドも使用しようとしたが、言霊に縛られれば行動を大きく制限されてしまう厄介な魔法具で。
「……契約させられたと、いや、貴方が引っかかるのは少し予想外で」
「捜しものがあってね、従者を各地に派遣してたんだけど……その一人が、ちょっと引っかけられてね、利用されて使い捨てられるのが見え透いていたから、代わりに僕が出向いてきたんだ」
近衛詠春、その殆どが死亡か消息不明となっている
目的を達しない限りは生涯縛り続けるその呪縛から解き放つために、目的の達成を代わりに行う事がフェイトの目的であり。
「あぁ、なるほど。内容は、リョウメンスクナの復活ですか?」
「その通りだよ、やれやれ、本当に、いろいろ知られていそうだね」
その内容は、京都の陰陽術士によるリョウメンスクナノカミの復活。
それが果たされたときに、従者は呪縛から解き放たれる。
「成程……その従者は、魔法世界人ですか?」
「……何か関係があるのかな」
「強力な呪詛解呪のアーティファクトに心当たりがあります。
強力極まりないアーティファクトの存在に僅かにフェイトが顔を上げる。
完全石化を容易く解呪したと言う、6年前にウェールズの村に現われたという魔法使いの存在が記憶をかすめ。
「魔法世界人が解呪出来ない理由は?」
「その能力が、ありとあらゆる魔法による契約を破戒するというもので……以前にある魔法使いの吸血鬼化の解呪を行ったときに、同時に仮契約まで抹消してしまいました。つまり、その身に在る全ての魔法契約を抹消してしまいます。そして、魔法世界人への使用実績はありません、最悪……」
「なるほど、それは確かに使えないね。彼女は魔法世界人だ」
契約解除のアーティファクト、それは魅力的ではあるが、魔法世界人には使えない……残念であるが、それすらも理解している朱雀に、フェイトの警戒心が上がり。
「……契約は、何処までですか、リョウメンスクナの復活までが条件であれば有難いんですが」
「京都の陰陽術士が近衛木乃香を利用して鬼神の復活させることが計画で、それを支援する事……そう言う契約になっている、そういう意味では千草さんが、ああなってしまったのには困ってしまってね、回復手段を探す名目で出てきたんだ」
「…………鬼神の復活自体は問題ないですが、近衛さんが関わってくるのは厄介ですね」
「鬼神は構わないのかい」
「復活して直ぐに倒してしまえば良いでしょう」
軽く肩を竦める朱雀。
魔法世界での評価においては鬼神兵に数倍すると言う戦闘力を持つ鬼神だが、実のところ封印により能力が大幅に下落していることが判明している。
事実、原作では【闇の福音】の魔法の一撃によって打ち倒された……同程度の出力ならば、朱雀やメディアなら容易く用意できる。
「……契約はあなた自身ではないのですね」
「あぁ、そうだよ」
「分かりました、“
「なるほど……確かにそれは楽で良いね、僕は“千草さん”の言うことを聞けば良いわけだ」
「はい」
互いに珈琲を一口ずつ飲み込む。
人を操るのが然程得意ではないフェイトにしても、なかなか良い条件に思える。
正直、こんな事態に長々と付き合わされるのも苦に感じるし、顔を会わせた事もある近衛詠春に見つかるのも厄介だ。早々に片がつくならありがたい。
「……では、本題に入りましょうか」
「そうだね、こちらの方が大切だろう」
関西呪術協会による鬼神復活計画と言う些事に、決着の目処が立ったところで本題へと入る。
それが、この会談の目的なのだから。
「君の従者は言った、僕に取引を申し出たいと……まさか、先の鬼神の件ではないだろう?」
「えぇ、取引は『
其れは、魔法世界においては禁句として扱われる名。
先の大戦の裏で糸を引いていた黒幕、英雄によって討ち取られた“悪”と。
「『
魔法世界において武名を誇り、賞金稼ぎとしても名の知られた赫翼の槍騎士、彼はメガロ・メセンブリアへの内偵を進めながら、同時に『
「魔法世界では赫翼の槍騎士は賞金稼ぎもしていたけど……そう言えば、うちと関わりのあった組織はよく追われたね。一度として捕らえられたことは無かったけれど」
「えぇ、『
「……僕がこの件に関わると知っていたと?」
「違います、改めて紹介します……『時間跳躍術』によって未来より訪れた革命家……超鈴音です」
壁を背にして座していた少女がぺこりと頭を下げる、その単語に暫くフェイトは考え込んだ後。
「なるほど……歴史上、僕が京都に現われるのは必然と言うわけか」
「
実際のところは朱雀自身、原作知識と言う形で様々な情報を有しているが、この場では未来知識と言う形で押し通す。
時空跳躍術は魔法世界においても様々な研究がなされており、実現は不可能といわれているが……逆に言えば理論だけは存在する。その方が説明に易く。
「テロリズムか……ちなみに、その歴史には僕の従者の名前まで刻まれたのかな」
「調、焔、栞、暦、環……私が知るのはこの五者です、そして、首謀格は“災厄の火種を放置して”『完全なる世界』に逃げていったと」
それが、超鈴音からの情報提供にして、彼女の歴史における真実。
ネギ・スプリングフィールドの活躍によって『完全なる世界』の目的は最小限に食い止められ……そして、後に訪れた魔法世界の崩壊に、残された者達は嘆き憂いた。
「……うん、おかしいな、僕が去った後にテロが起こったように聞こえたけど」
「要は、貴方の計画のままでは予期せぬ事態が起きるのですよ……これを」
差し出すのは数十枚の紙片、それにはコミカルなキャラクターが彩られている。
書類等の方が良いのだろうが、万一の情報流出に備え、冗談で押し通せるような形での書面化になり。
「書類……じゃないね、
「知っているなら話が早いですね、状況によっては来年以降に週刊誌に連載される予定だそうです、多方面に天才な人間は手に負えない……と言うか、漫画を知ってるのが驚きですが」
「従者の何人かが持ってるからね、君達主従が主題のものも」
「捨ててください燃やしてください、どれだ、調とか腐の要素があってもおかしく無さそうですが」
一瞬、場の空気が荒むが、無視してそれを読み進めるフェイト。
暫ししてから、溜息を漏らす。
「……なるほど、火星人は首都を結界で覆ったため数年の延命に成功し、領土を求め地球へ侵攻を開始するか……確かに、有り得るね」
その内容は、滅びを迎えた火星からの大量の
「…………まぁ、良いですが、彼女によれば、歴史は百年を越える最低最悪の戦争を迎えると……早期に霊地を抑えられ、火星と月に拠点を確保し、旧世界へ戻ることを渇望する人類と、それを阻む旧世界の人間……貴方の計画の結果、私の平穏が破られる、それは見過ごせないのですよ」
「つまり、君の望みは」
「計画を反対しようとは思いません、私が望むのは『私の居場所』の安寧のみ……故に、世界間戦争を見過ごせないのですよ」
彼の望みはただそれ一つ。
魔法世界を切り捨てることは既に彼の許容の内にあり、協力者である未来人も最悪の場合は戦争回避を主とすることで合意している。
ただ、彼女としては可能な限り多くを救いたいという願いも強く……
「……理解した、君は僕の敵にはならないようだ」
「当然でしょう、私は……旧世界の平穏が続くのならば、十二億の魔法世界人と6700万の“人”を切り捨てます……」
ピクリと動揺を見せる超。
それを気付きながら無視する朱雀とフェイト……
「……6700万人を囲う結界だ……今の時点で、用意されているだろうね」
「……ディルムッドはあの国に喰いこむ鍵も有しています……」
「そうだね、僕に接触できる前に計画が進む可能性もあった……既に結界の基部は破壊済みと言うわけだ」
「……えぇ、私は私の安寧のために、それを殺すと決めましたので、これは協力者の未来人も同意の上です……破綻した未来での被害者の数とは桁が違うと……幾つか、条件はありますが」
仮に、京都での遭遇もなく、フェイトとの接触がなく『完全なる世界』が計画を発動した場合、確実に魔法世界の人間が死滅するようにと……彼らは決断を下し。
「良いよ、君達と手を組もう……僕らは在るべき姿になりたいだけだ、旧世界の面倒を一手に受け持ってもらえるなら此れほどありがたい協力者は無い」
「詳しい計画資料は彼女から直接聞いていただきたい……6700万人を救うことも可能な計画を」
「分かった……取引とはそのことかな」
「此処までは私の取引、此処からは彼女の取引となります……ネギ・スプリングフィールド……英雄の息子の件です」
最後に、溜息を漏らしながらその名を出す。
出来れば早めに排除したい、彼は『全てを救える方法』を求め続けるだろう。
求めること自体は構わないが……それで旧世界が巻き込まれるわけにはいかない。
「……彼は、魔法世界の滅亡を食い止める手段を、“思いつく可能性”がある」
それは、彼が超へ零してしまった情報の断片。
けれど、彼女はそれにも賭けたいと言った。
旧世界の平穏を護るのは大前提、可能であれば魔法世界6700万人の人間にも救いの手を伸ばし……本当に可能であれば、十二億人の魔法世界人も救いたいと。
これも血の繋がりかと考えてしまいそうな夢想ではあるけれど。
「ある歴史において、今より尚成長し、苦悩し、魔法世界の真実を知ったとき……彼の脳裏に閃いただろう
だが、愚昧な策である可能性もある、結果的に旧世界に乱を起こす可能性もある。
故に。
「彼を育て、魔法世界の真実を伝える許可を頂きたいのですよ……最悪の敵となりうるが故に、排除は今すべきでしょうが……機会を与えて欲しいとのことです」
彼らは道化が舞台に上がり続けることを許容する。
唯々、彼が後に思いつくだろう
「無論、思いついた
それは自嘲。
思いつかない可能性もかなり高い。
いや、あそこまで至ることは不可能だろう。故に、朱雀はフェイトを選択した。
ネギの村の壊滅を防ぎ、道を阻み、本来あるべき姿からの弱体化を望む。自身らの手に負える存在であって貰うために。
「それは、彼女の歴史では記録されていないのかい」
「これは、私が未来予知によって得た情報です……見た未来は、墓守の宮殿での決戦が始まるところまで、もしかしたら、その歴史がベストなのかもしれません……最早、望めないでしょうが」
それこそが、彼がネギ・スプリングフィールドに協力できない最大の根拠。
どんなに頑張ったところで、あの歴史を再現することは不可能だ。
放置しておけば原作通りに世界を救ってくれる事など有り得ない。
他の二人は然程影響が無くとも、彼女の不在は間違いなく英雄の息子を窮地に追いやる。
そして、あんな危険な場所へ彼女を送ることが許せるはずも無く。
「……この世界では、彼の最良の相談役が現われない……」
故に、ネギ・スプリンフィールドに期待はかけない。
それが、彼の結論となった。
原作ネギパーティーに某相談役が居なかった場合どうなるかをシュミレートしたら、当然のようにこうなりました。
朱雀たちが積極的に学園や薬味を排除しようとしないのも単純、アイディアを思いつくまでは飼い殺しが超の望みだからです
ちなみに、思いついたら即排除ですかね。色々とオコジョ刑の証拠も集まってますしw
うん、かなり外道な主人公だと思いますw