今、九峪達は神社を離れて伊雅達がいた隠れ里に向かって歩いている。
歩いていると言っても常人からすれば走っていると言っていいほどのスピードである。
神社から離れて4時間ぐらい歩いて、九峪は急に止まり周りを見回した。何処からか声が聞こえたのだ。
「伊雅、何か聞こえなかったか?」
「いいえ、何も聞こえませんでしたけど…」
伊雅は緊張した顔で答えた。
(俺にはまだ声が聞こえている。だが伊雅には聞こえない…)
九峪は「あっ」忘れてた!そんな感じの顔をして慌てて鞄の開けた。
「く〜た〜に〜…もっと早く気づいてよ!!」
鞄から出てきたキョウは真っ赤な顔をして怒っていた。
「すまん、忘れてた」
九峪は謝ってはいるが全然悪びれた顔をしていない。それどころか胸を張っている。
「大体九峪は…と喧嘩してる場合じゃなかった。この近くに火魅子の資質を持った人がいるよ!!」
「「「え?!」」」
九峪達は驚いた。まだ探す段階ですらないのに、こんなに早く見つかるとは。しかも、すぐ近くにいるらしいのだから。
九峪達は周りを見渡し人影を探した。特に人がいるような気配はなかった。
「九峪様…どうしますか?」
「キョウ、どちらの方向に居るかわからないのか?」
「ごめん、それほどの正確な探査能力はないんだ…」
すまなさそうにキョウはいった。
「なら、手分けして探そう。そう遠くないらしいから、すぐ見つかるはずだ」
「「はっ」」
三人は行く方向を決め、そして別れた。
見つけたのは九峪だった。だが状況は良くはなかった。木に持たれかかった状態で座っている少年と傷だらけで倒れている女性。そして、『敵』と戦っている女性がいた。
「よりにもよって…」
九峪は唸った…相手は魔獣だったからだ。でかい犬…そんな感じの魔獣だ。
(魔獣に対人間用の攻撃が通じるかわからないが…やるしかないか)
九峪は、鞄から糸を取り出した…その糸は特殊タングステンワイヤーという物で0.3mの太さで150kgまで耐えれるという品物だ…を魔獣の身体に巻きつけ動きを封じた。
「大丈夫か?!」
「え、ああ、大丈夫だ…」
「挨拶は後だ、あいつを片付けるぞ!」
倒れていた女性から借りた長刀を構えて飛び掛った。戦っていた女性は一瞬呆気にとられて出遅れたが、助太刀をしようと動いた…だが、その前に決着はついた。
九峪は長刀で魔獣の胴を切り裂いた。
「なんだ…魔獣という割には身体が弱いんだな」
その言い様に女性は驚愕した。魔獣の身体は岩より硬い。それを弱いとは…
「あなたは、いったい…」
「ああ、俺は九峪。これでも一応神の使いをやっている。それよりも、あなたの連れを手当てしないと…」
ワイヤーを回収して伊万里に振り向きながら名乗った。
「あ」
伊万里は、あまりにも色々な事があったので忘れていた。慌てて連れの元へ向かった。
九峪は出遅れたが、すぐに伊万里に追いつき隣を走った。
「…さっき言ってた神の使いって…冗談ですよね?」
「まあ、そう簡単に信用できないよな」
(九峪さんは嘘をついている様には見えないけど…)
「できれば、君にも自己紹介して欲しいな」
「あ、えっと、私は伊万里で山人をしている。あそこにいるのが上乃で、木にもたれかかっているのが仁清だ」
「よろしく、伊万里さん」
走りながら伊万里に笑顔で挨拶をした。
傷だらけの上乃の傍らに座り、そして鞄から出したのは消毒液と傷薬と包帯だった。
九峪は、いそいそと手当てをしていった。包帯も綺麗に巻いた。深い傷はなかったので大丈夫だろうと思いながら身体を起こし、今度は仁清の方を診断し始めた。
「すいません、命まで助けていただいた上、手当てまで…」
「気にしない気にしない…お、来たようだな」
伊万里は何が来たのかわからなかった。気配はしない…
「九峪様…こちらは?」
「!!」
伊万里は、飛び上がりそうなほど驚いた。伊雅が立っているのは伊万里の後ろだった。
急に声がしたのも驚いたが気配を感じなかった事の方が驚いていた。
山人である伊万里は獣並に目も耳も感もいい…それでも声を出すまで気づかなかったの
だ。
「伊万里さんだ。魔獣に襲われていた所を協力して倒したんだ」
伊万里はそれを聞いて
(協力って…自分一人で倒しただろ!!)
「「魔獣?!」」
「?!」
伊雅の驚きの声の他に女性の声が聞こえたのに伊万里は驚いた。
清瑞は、少年が持たれかかった木の上にいた。伊万里はまったく気づかなかった…
(私は…感が鈍ったのか?)
伊万里は少しプライドが傷ついた。
本当のところは伊雅や清瑞が異常なまでの身体能力を持っているのだが伊万里が知っているはずがなかった。
九峪は、仁清の診断を終えて伊万里の方に向いた。
「後ろにいるのが耶麻台国副王の伊雅…で木の上にいるのが乱破の清瑞だ」
伊万里は、またまた驚いた。
(耶麻台国副王!!じゃあ、さっき言ってた神の使いの事も本当のこと?!)
「九峪、それより大変だ。狗根国兵がこちらに来ているぞ」
それを聞いて伊雅と伊万里は目が飛び出んばかりに目を見開いた。
(まったく…次から次へと問題が…)
九峪は、心の中でため息をしたが顔には出さない。
「わかった、後どれぐらいでこちらに来る?」
「2時間ぐらいかと」
「わかった。兵の数は?」
清瑞は木を跳び降りて九峪の近くに降り立つ。
「数は三十人程度、武装は完璧でした。目的は耶麻台国の残党狩り、及び奴隷狩りだろう。八十人ほど捕縛されていましたから」
淡々と報告していく清瑞だった。
「助けに行くべきだ!」
「そうじゃな、清瑞!場所はどこだ!!」
伊万里の意見に伊雅が熱のこもった声で賛同した。だが、清瑞はすぐに返答しなかった。
清瑞には伊万里と伊雅が、あまりにも感情に流されているような気がしたからだ。もし場所を言ったら、すぐに行動に移るに違いない。
清瑞は、何より九峪が何も言わないのが気に掛かっていた。
「伊雅…伊万里さん…助けたいのは山々だが…ちょっと引っかかる事が…」
清瑞の勘はあたったようだ。やはり九峪は何か考え事をしていたようだ。
「と、申しますと?」
「…いや、俺は最近こちらに来たから、なんとも言えないんだけど八十人の捕虜を三十人で護送するのか?俺の世界ならまずないな」
九峪の考えている事を聞いて、伊雅と伊万里は唖然とした。自分達がどれだけ浅はかな考えで行動をしようとしていたのに気づいた。
「…確かに三十人で八十人の捕虜の護送はしませんな。さすが神の使いであらせられる!」
九峪は自分の考えが合っている事を確認して、さらに考えていた。
「では、周りにまだ兵が潜んでいるな。おそらくは耶麻台国の縁者が助けに来る事を想定しているはずだ。清瑞、今すぐに護送隊の周りを調べて来い!」
伊雅は、清瑞に命令を出し、清瑞も頷いて物見に出ようと立ち去ろうとした…その時。
「いや、待ってくれ。それもあるだろうが…おそらく捕虜も狗根国兵士だ」
「「「な!!」」」
三人は驚いた。捕虜が狗根国兵士であるなどと考えもしなかった。
「考えてみてくれ。もし三十人の兵士が倒され八十人の捕虜が敵に回ったら大きな被害を受ける可能性が高くなるし、もし狗根国兵だった場合そのまま逃がしたとしても残党の拠点はわかるんだからな」
伊雅達は、納得するしかなかった。言われてみれば誘い出すなら本物の捕虜を使う利点なんか何処にもないのだ。
「けど…もし本物の捕虜だったらどうするだ?」
伊万里は、心配そうな顔だった。
九峪は頷き
「確かにその可能性もある…が、多分襲ってくる相手が少数だと助けてから、すぐに正体をあらわすだろうな」
三十人の敵に対して少数で攻撃するのは無謀という者だ…もし少数で撃退するような強い者でも不意を突けば倒せるものだ。
それに少数で動く時点で拠点まで行く必要がないのだ。もし拠点に仲間がいるのなら少数で攻めたりはしないからだ。
「とりあえず、狗根国兵を襲ってから決めたらいい。三人とも、捕虜だからと言って気を抜くなよ」
「「「ははっ!」」」
「敵はどっちから来るんだ?」
清瑞に向かって九峪は言った。
「あっちの方角です」
清瑞は南を指差した。
「わかった。では清瑞は周りにいるはずの伏兵を探してくれ。見つからなくても30分後には戻ってくれ。それと帰ってくる時は、ここを通るなよ。」
「はっ!!」
清瑞は今度こそ物見にでた。
(まさか、ここまでの策を短時間で見抜くとは思いもしなかった…九峪の洞察力には頭が
下がる)
清瑞は走りながら思った。
(火魅子が指導者より九峪が指導者の方がいいのでは?)
清瑞はそんな事を考えていた。
今朝、九峪が話していた事を思い出して笑った。
(確かに、九峪は頭がよく、武力にも優れて、人の事を理解できる人思う。それだけに火魅子の影が薄くなるな)
清瑞は、納得しながらとりあえず考える事をやめて任務に専念する事にした。
「伊雅と伊万里には俺の手伝いをお願いしたい…いいかな?」
「はっ!喜んで!!」
「私は命を助けてもらった借りがあるし…」
(九峪さん自身にも興味あるし)
魔獣の動きを何らかの方法で止め、一太刀で切り裂いた九峪の姿が伊万里の脳に焼き付いていた。
「ありがとう」
あの九峪スマイルで言われ伊万里は、照れ隠しで顔を背けた。
「さて、話は終わりにして準備にとりかかろうか」
伊雅と伊万里は頷いた。
清瑞は言われた通り、30分経って、来た道を通らず回り道をして帰った。
「おかえり、清瑞」
九峪は笑顔で迎えた…清瑞の真後ろで
「な!!」
後ろから声を掛けられて驚きについ声が漏れてしまった。気配を消していたのに後ろをとられるとは思ってもみなかった。しかも九峪の気配はまったくしなかったのだ。
「九峪…一回死ぬか?」
清瑞の冷たい声を聞いて九峪は、ブルブルブルと激しく顔を横に振った。
「で、どうだった?」
九峪は立ち直り清瑞に聞いた。
「やはり伏兵が居ました。周りに不自然なぐらい完璧に武装した商人や先が尖ったクワを持った農民、風呂敷に鎧を包んで背負っている山人など合わせて百人ぐらいですね。あまり距離が離れていないので、すぐに援軍が来るでしょう」
(もう少し考えて武装しろよ!!)
九峪は心の中でツッコミを入れながら答えた。
「そうか…なら…速やかに捕虜の正体を確認しないといけないな」
「それなのですが…先ほど、もう一度護送している部隊の位置を確認しておこうと思って確認してたんですけど…私達以外に奇襲をかけた者達がいるようです」
「どういった戦闘をしたか分かるか?」
「その者達は、空を飛ぶ変な道具で空中から奇襲を掛けて、そうして空中に注意がいっている間に地上に潜んでいた仲間が護送兵を十人程度倒して捕虜を逃がそうとしたんですけど、やはり捕虜も狗根国兵だったようで仲間の一人が取り押さえられて他の仲間も捕まったようです。人数は四人だったようです。」
「捕虜を助けるには最善の策だな…空を飛ぶ道具の使い方も間違ってはいない…だが、捕虜が敵じゃ四人で戦闘は無理だろうな」
「あの〜私達も四人なんですけど…」
清瑞は不満げな顔で答えた。
「アハハ…忘れてた…だけど、伊雅で五十人、清瑞は四十人、伊万里さんは二十人ぐらいいけるだろ?なら大丈夫だ」
「九峪は??」
笑いながら無茶を言う九峪に清瑞は冷たくつっこんだ。
「俺は…五人までだったら…なんとか…」
清瑞の目が怪しく光るのを見て九峪は腰を引いた。
「そ、それは置いといて、捕虜はやはり敵だったのか…けど、その奇襲によって本当の捕虜ができてしまったな…」
九峪は誤魔化すように話を変えた。
清瑞も今は、そんな事を言っている場合ではないと判断した。
「はい…その四人ですが、四人とも女ですから見分けはすぐつくと思います」
「なるほど、ならその子達を解放後すぐに撤退するとしよう。伊雅と伊万里に計画通り行う、と伝えてくれ」
「はっ!」
捕虜を連れた狗根国兵は、森の中を黙々と歩いていた。
捕まっている女性三人は猿轡をされ、手を縛られて腕には札を張られていた。
腕に張られている札は、方術を封じる為のものである。
(今回は数が少なかったな…)
護送隊の指揮官がそんな事を考えていると
「て、敵襲〜!!」
最後尾からの報告だった。
確認するまでも無く、木の槍のような物が森から数十本放たれていた。
三十ほどの人影も確認ができた。
(これで、将軍に叱咤されずにすみそうだ!!)
指揮官は歓喜しながら指令を出した。
「一番隊前へ!!二番隊は弓隊で応戦!!三番隊は捕虜の監視だ!!急いで」
人影に向かって弓隊は攻撃を開始した。
そして一番隊の十人が森に突入した。
「ぐあ…」
「うわ〜〜!!」
「なんだこ…ギャ!」
あちらこちらから絶叫が聞こえてきた。
最初は残党からのものかと思っていたが自分の部下の声である事に気づいた。
「どうした!!現状報告しろ!!」
周りは混乱していた。敵の影は見えている…が近づこうとすると仲間達が倒れて行く…
兵士達は、いったい何が起こっているのかわかっていなかった。
実は人影は全て藁で作った人形で、近づこうとした者は九峪のワイヤーと罠によって葬っているのだった。
だが、森の中と言う薄暗い場所ではワイヤーを見ることも難しい。
「な!!」
「き…」
「敵……!!」
罠に気をとられている間に背後から伊雅、清瑞が奇襲をかけた。
既に罠により一番隊は壊滅していた。さらに、二番隊は弓を装備していた為、対応が遅れ半分を失った。
捕虜を監視していた三番隊は九峪の操るワイヤーの餌食となった。
「捕虜隊!!お前達も参戦しろ!捕虜部隊一番隊、剣をとれ!!」
捕虜のふりをしていた狗根国兵達も、どこからか取り出した剣を鞘から抜いて構えた。
指揮官も混乱していた為、拠点に乱破を潜り込ませる目的も忘れ応対した。
「ふん!!」
「ギャア」
「ガハ!」
伊雅が次々と兵を葬り、清瑞も負けじと奮戦している。
捕虜隊は、ろくな防具をつけていない為、さほど脅威ではなかった。それと、森の中の敵を気にして、そちらにも兵を割いていたのも敗因の一つでもある。
その頃、伊万里は本物の捕虜を助け出していた。
周りにいた兵は九峪の罠やワイヤーで倒されている。
捕虜達は兵がどうやって倒されたのか分からず戸惑い、驚いていた。
伊万里は、すぐに捕虜達の猿轡と縛られていた縄を解いた。
伊万里が一番小さい子の猿轡を外そうとすると
「その子はそのままでいい」
眼鏡をかけた女が強い口調で言った。
「もがもがふがふが!!……もがふがふがふがもが!!」(お姉ちゃんのいじわる!!……この胸なし!!)
「何か言った?」
何を言っているか分からないはずなのに、眼鏡を光らせながら怒気を含んだ声が返ってきた。
真っ青な顔をしてブルブルと横に顔を振った。
「あなたは?」
捕虜の四人の中の一人…巫女服を着た女性が言った。後ろで喧嘩をしているのを知っているにもかかわらず止めようとはしなかった。
「私は伊万里、山人をしている…事情は後で話すからとりあえずこちらへ」
「わかりました」
伊万里は、九峪と合流するべく森に入った。
「私が歩いた場所以外あまり踏まないでください。罠を張り巡らしてありますので」
「は、はい」
巫女風の服を着た女性とその連れは言われたとおり、伊万里の通ったを歩いた。一番小さい子は、抱えられて移動している。
罠を避けて歩いているので狗根国兵に追いつかれそうになった。
「捕虜がいたぞ!!急げ〜!!!!」
伊万里は焦ることなくスピードを上げずに進んでいった。
「伊万里さん…早く行ったほうがいいんじゃありません?」
「そう思うなら後ろを見てください」
さっき狗根国兵の声が聞こえていた方向を見ると、丸太の下敷きになっている兵や土に埋もれている兵などが多数見えた。
「あんな風になりたくなかったらゆっくり行きましょう」
「……そうですわね」
巫女風の女は、驚きながら伊万里の後を追った。
(あんなに多くの罠を作れると言う事は、それなりの規模の兵を持っているのだろう)
眼鏡を掛けた女は、耶麻台国縁の者が絡んでいると考えていた。
そして、伊万里は九峪と合流した。
「ご苦労様」
九峪は笑顔で迎えた。
伊万里は少し赤くなり照れて頭を掻いた。
「こちらが捕まってた方々です」
「初めまして、星華といいます」
「これはご丁寧にありがとうございます。俺は九峪といいます」
笑顔で両腕を振り回しながら挨拶をした。
「あの…何をしているのです?」
「あなたは?」
「あ、挨拶が遅れました。私は亜衣と言います。こっちが衣緒で、この小さいのが羽江といいます。」
「よろしく」
相変わらず笑顔で答える九峪。
こんな戦闘の真っ只中で笑顔でいられる九峪は只者ではない、と亜衣は思った。
「で、さっきの質問だけど。これでも狗根国兵と倒しているんだ」
「「「え?!」」」
「もが?!」
星華や亜衣達…それとおまけの羽江が驚いた。
伊万里は魔獣の件があったので、それほど驚かなかった。
「あそこに兵士がいるね?」
「はい…」
「一瞬だからよく見ててよ…おりゃ!」
人差し指を立て、他の指は握って腕を引いた。すると、兵士は何か衝撃を食らったように吹き飛ばされた。
「「「「おお!!」」」」
「もがもが!!!」
伊万里や星華、亜衣達は拍手をした。羽江はまだ猿轡を外されていなかった。
「どういった仕組みになってるんですか?!」
亜衣が訊ねた。星華も、うんうんと頷いている。
「これはワイヤーって言う物なんだけど…持った者の意志を感じ取って動いてくれる、という便利なものなんだ」
「おお〜凄い物ですな…方術か何か使用しているのですか?」
「方術は使ってないよ、ただ俺も素材が何か分からないんだ。天界の遺産ってところかな」
「なるほど、天界の遺産ですか。なら納得がいきます」
うんうん、と星華と亜衣達は頷いた。伊万里は納得がいかない顔をしていたが、特に口を挟もうとしなかった。
「とりあえず、俺達の仲間と合流するから、ついて来てくれ」
九峪は星華達を背にして歩きだした…瞬間、片足が崩れ膝を地面についた。
伊万里が、すぐに駆け寄り、後ろで星華達は心配そうな顔で見ている。
「だ、大丈夫ですか?!」
伊万里が心配そうな声…ではなく驚きの声で問いかけてきた。
「あ、あぁ…ちょっとワイヤーを長く使いすぎたようだ…悪いが伊万里さん、ちょっと肩
を…貸して……くれません…か?」
「は、はい、わかりました」
伊万里は九峪の肩を貸して、歩き始めた。
「ここから先は真っ直ぐ行ったら合流地点だ。この道には罠を仕掛けていないから安心して通っていいぞ」
「わかりました。では、先頭を…」
今いるメンバーをみて伊万里は指名した。
「衣緒さん…お願いできるかしら?」
「えぇ…いいですけど…なぜ私なんです?」
「あなたが肉弾戦では一番強そうですし…それに冷静な判断もできそうですしね」
肉弾戦が強そう、というのは女からしたら失礼な事だが後のフォローがうまくいった様で衣緒は、それほど気を害せずに申し出を受け入れてくれた。
「星華さんと亜衣さんは横を警戒しながら衣緒さんの後ろを…羽江ちゃんは…」
「私が運んで行こう」
亜衣は当然かのように言った。
「わかりました。私と九峪さんは一番最後についていきます。よろしいですか?」
「あ、あぁ…それでいいよ」
九峪は伊万里の胸を見ていた。伊万里はそれに気づかなかったようだが星華や亜衣達は気づいたようだ。
(まさか、胸を見るために?!私の方が胸大きいのに…)
星華…そういう問題じゃないだろ?
(う…負けてるから何も言えん)
亜衣…なにか違うぞ!
(私も欲しいな〜今度作ってみようかな〜)
羽江…成長したら多分できるから気にするな…多分だけどな
(呆れきれた、疲れたと言うのも嘘かもしれませんね)
衣緒…君が一番普通だ。
これも星華達に『無能な神の使い』と思わせる為の行為だ。多少は下心もあるが、それほど大胆ではない。
ちなみに、ワイヤーが意志を感じ取る何て事はないし、天界の遺産でもない。この嘘も自分の能力ではなく『ワイヤー』の能力だと思わせる為の物である。
「では、行きましょうか」
星華や亜衣達の思いなど、まるで気づいていない伊万里だった。