「と言う訳で横島クンには今度の除霊を見学してもらおうと思う。もちろん美神君もね」
前の話から一ヶ月…決して話を書くのが面倒で略したわけじゃありません、ありませんとも。
もうそろそろ横島にも生の除霊を見せてもいいだろうと思った唐巣神父が昨日依頼の電話があり提案である。
「そ、それはわいに死ねと?」
頭の中でゾンビとグールとソルジャースケルトン、アーチャースケルトンにボンゴン、終いにはダークロードなどかなり偏った妄想を膨らます。(ムナックやソヒーが入ってないのはお察し)
「一応結界の中で見学してもらう予定なので大丈夫ですよ」
「まあそれなら」
「大丈夫よ。見かけはちょっと頼りないけど先生は一流のGSだから」
と何気に酷い事をさらっと言う自分の弟子に、たまには説教も必要かもしれませんね、と思考を巡らす。
「それよりもあんた、除霊中に変な事しない…わよね?」
既に日常的なセクハラはもう諦め気味な美神だがさすがに除霊中にそんなことされたら命に関わるので釘を刺す。
「い、嫌だな〜さすがにそんな事はしないっすよ…多分(小声で)」
自分はそんな非常識ではないつもりではあるのだが…自分の煩悩に対しては些か自信がない。
実際美神を紹介される際に唐巣神父から先生となる人が女子高生である事は確認していたので付き合いが長くなるかもしれないからと思って暴走しないよう心がけていたがアッサリ崩壊してしまった。
まあ、横島が横島である象徴なので仕方ない。
そうしている間に依頼人が来ると言った時間になった。
「すみません、昨日電話をした者ですが」
「いらっしゃいませ、私が当教会の神父の唐巣です。こちらの二人は私の弟子です」
生徒と弟子の差なんて説明するのが面倒なので唐巣神父の独断で弟子になってしまった横島であった。
「美神令子です」
「横島忠夫ッス」
美神は踏みつけ、横島は踏まれつつ自己紹介する。
説明しなくても分かると思うが依頼人である女性に飛び掛ろうとした横島を美神が止めたのである。
伊達に一ヶ月も共に居たわけではない。
まあ、横島が分かり易い性格なのも確かだが。
依頼人は大人の対応で笑顔でスルーする…何気に女傑である。
「では、早速ご依頼の内容を伺いましょう」
「この中に入ってる指輪なんですが…」
「なるほど、宝石に悪霊が取り付いたと…なぜそれがお分かりになったのですか?」
「それは原作でそうなっているからです」
「「「は?」」」
横島達は聞き返すものの依頼人は笑顔で「何か?」と返す。
「と、とりあえずこの悪霊を祓えばいいのね?」
「はい、よろしくお願いします」
メタな発言を美神は華麗にスルー。
ちなみに女性に宇宙意思(作者)の干渉はありません。
「じゃあ俺は結界に入ってます」
「では、貴女もこちらへ」
二人ともスルーする事に決めたらしい。
唐巣神父は前もって横島用とは別にもう一つ反対側に結界を用意してあり、そこへ誘導する。
「何で一緒の結界じゃないんすか?!」
「「あんた(横島クン)と一緒に出来るわけがないでしょ(だろ)」」
「ハモらんでもええやん」
「はいはい、黙って結界に入ってなさい。今から除霊始めるから」
理不尽や!訴えてやる!とかなんとか言っているが命は惜しいのだろう、文句言いながらも結界の中に入る。
「では、始めるよ」
そしてケースの蓋を開けると如何にも悪霊ですという悪霊が出てきて横島の悲鳴が教会に響き渡る。
「ていうかわざわざケースの蓋を開けるまで出てこないなんて意外と律儀?」
既に何回か除霊の見学をしている美神は余裕な表情だ。
「これは説得は無理そうですね」
明らかに意識は無く、本能だけで動いているのが伺える。
「宝石にとりつく邪悪なる者よ!主、イエス・キ○ストの御名において命ずる!」
聖書を開き、精霊の力を借り、周囲から霊気が手に集中していく。
「消え去れ悪魔よ!」
「ギィィヤァァ!」
そして解き放たれ、悪霊を打ち払った。
さすが一流のGSである。
決して戦闘の描写が面倒くさいなどと言う理由ではない。
「これでもう大丈夫です。宝石にとりついていた悪霊は完全に消滅しました」
「ありがとうございます。唐巣神父!お礼はいかほど?」
「いや、お金など結構———「一千万円ですわ!」」
横島はあまりの請求額に冗談か…と思った…が。
「わかりました。小切手でよろしい?」
と平然と小切手に数字を書いていくのを見て顎が外れんばかりに開けて呆けている間に依頼人から美神に小切手が渡され、依頼人は帰っていった。
「み、美神君!いつもいつも言っているように神聖な仕事を何だと思って———」
「もらえる相手からもらえる額を貰ったんだから———」
二人で依頼に行って帰ってきた時のいつものやり取りが始まる。
「おお、神よ!許したまえ…」
そしていつものように終わりの祈りを捧げる。
そこで思い出したのか美神が横島に話しかける。
「で、どうだった?」
「いや、なんていうか…凄かった」
「そうよね。私も初めて見たと———「あれで一千万も貰えるんすか?!」———そっちね。あれは先生の実力があってこそよ。あ、後相手の財政状態にもよるわね」
「へ〜」
「違いまよ横島クン!本当は先ほどの依頼程度なら二百万程度の依頼です!!」
間違った価値観を植えつけようとする美神に唐巣神父がツッコミを入れる。
「なるほど」
二人とも極端だな〜と思ったが口にしたらまた唐巣神父(不毛)な戦いが始まるのは火を見るより明らかだったので心にしまっておく。
早く独立して金稼ぎたい!!となどとブツブツと独り言は…聞こえません、ええ、聞こえませんとも。
「改めて聞きますが、どうでしたか?初めての除霊は?」
「思ったより派手じゃなくてびっくりです」
前世の記憶にある除霊は大人数で陣を組んで封印したり、霊符を大量にばら撒いて雷や炎を発現させるような戦い…文字通り『死闘』そのものなのでギャップが激しくちょっと拍子抜けだったがどうやら妖怪や悪霊が弱くなってんだな、と横島は心の中で推察する。
改めて自分の信念を確認して会話に美神復帰。
「除霊もピンからキリだけど…まあ、普通の悪霊ならこんなものよ…普通じゃない場合はもっと派手になるらしいわよ。次回はその辺教えてあげるわ」
あいさ〜と軽いノリで次の勉強内容を決める二人を見て、意外と良い師弟関係が成立しているようで一安心する唐巣神父だった。
「では、今日はここまでにしておきましょう」
「美神さん!俺が家まで送っていきますよ!」
「そしてそのまま送り狼?」
「もちろ——ゲフ」
一寸も待たずして美神の回し蹴りが決まる。
「あんたも懲りないわね。ほらさっさと帰るわよ」
「うっす!美神さん、唐巣神父おやすみなさいませ!」
逆再生したかのように立ち上がり早々に教会を後にする。
「ははは、妙に回復が早くなってるのは気のせいかな…気のせいでしょう…」
唐巣神父の渇いた笑いで横島の初めての除霊体験は幕を閉じた。
「それで最近面倒な弟子が出来たわけよ」
「…私の美神センパイに手を出そうなんて…抹殺すべき?」
「こらこら、私は誰のものでもないわよ?」
後輩の物言いに苦笑しつつも自分に慕ってくれている後輩なので悪い気もしない。
後半が物騒だった事もさらっと流す…そもそも横島を殺せるとしたら上位の神魔だろう事は今は誰も知らない。
「けど、そんな強姦魔もどきを弟子にしていいんですか?とっととクビにしたらどうです?」
「それがそうもいかないのよ。師匠が妙に気に入ってて、それに妙なところで才能発揮するし…自分の復習にもなるのよ」
前の授業で古くからあるが強力で難しい術式の解析をさせてみたのだが、それをアッサリと答えたかと思えば最近出来たお手軽な術式を理解するのに一日掛かったなど態とやってないか?と疑っていたがそれほど器用に見えないので、偶々か…と美神は結論付けている。
美神にもちょっとだけ師匠らしさが出てきたのか少しだけ誇らしげに言う。
その表情を見て千穂は気になったらしい。
「あら?そのイヤリング素敵ね」
「あ、これですか。この前アンティークショップで見つけたんですよ」
「アンティークショップ…気をつけたほうがいいわよ。古い石には霊がとりつきやすいから」
「や、やだ。脅かさないでくださいよ」
「ま、滅多なことはないと思うけどね。今日は今から教会に行かないと行けないから明日霊視してあげるわ」
「わかりました。さよなら!」
そう言って千穂と別れ、教会へと向かう。
「みっかみさ〜ん!」
「フッ!」
「ウゴッ」
ルパンダイブをして不貞を働こうとする弟子の下へ潜り込み、鳩尾に昇龍拳を叩き込み、3Mほど吹き飛ばすがすぐに起き上がる。
「酷いじゃないっすか!いきなり殴るなんて!」
ここに来て横島も段々折檻になれてきた(というか肉体改造?)のか普通に殴られたり蹴られたりしてもダウンしなくなってきた。
「己の行動を省みてから言いなさい!」
とりあえず毎度の挨拶を終わらせ、歩き始める。
「今日は悪霊に対しての認識と知識だったわね」
「そうっすね」
「本当は現場百回行った方がずっと経験になるんだけどね。さすがに今のあんたじゃ無理か」
「現場百回って…サスペンスの警察っすか?というかそんな事したら俺が死んでまう!」
「大丈夫よ。遺言を書く時間ぐらいはあげるから」
「そりゃ安心…ってやっぱ死ぬんすか?!」
漫才のような会話は教会に着くまで続いた。
「あれ?先生、出かけるんですか?」
教会に入るといつもは除霊道具などはあまり多く持ち歩かない唐巣神父が珍しく大荷物で出かけようとしているところであった。
「丁度いい所に来ました。ええ、先ほど急な依頼が入りました。厄介な事になりそうなので君達を連れて行けませんから留守をお願いします。それと明日の夜まで帰って来れませんから御二人ともあまり遅くならないうちに帰ってくださいね」
「おお!美神さんと二人っきりっすか!デート行きましょデー———ガフッ」
「なんであんたとデート行かなきゃなんないわけ?それにさっき言った事もう忘れてるのかしらぁ?」
美神が横島をゲシゲシと何度も踏んづけているのはもう当たり前となりツッコミを入れずに「戸締りをしっかりお願いしますね?では行ってきます」と言い残して唐巣神父は早々に居なくなった。
よほど急な依頼だったのだろう。
「まったく…っていつの間にか先生行っちゃってるし…ま、いいか。とりあえず早く起きなさい!」
「………」
「…やり過ぎたかしら?」
いつもより若干強めの折檻だったがまさか起き上がれないほどのダメージが…
「黒…しかもヒラヒ———」
じゃ無くてどうやら絶景を垣間見るのに忙しいらしい。
そして更なる過激な折檻が始まった…がそれは教会ののドアが開けられた事によって終わりを迎えた。
「美神…先輩…助け…」
「ち、千穂?!」
「お姉さ———グエ」
「ちょっと待ちなさい」
いつものようにナンパ兼挨拶をしようとする横島の襟首を掴んで止めるその声は真剣そのもの。
横島を止めるためにとった行動だが美神自身も知らず知らずの内に混乱しかけた気持ちを落ち着かせる事になった。
「グエヘヘヘ、とうとう見つけ…?唐巣は何処行ったぁ!」
「美神さん…やっぱり…」
「えぇ、宝石に悪りょ——「やっぱり百合だったんすか?!」——んなわけあるかぁ!」
「百合なんて不毛っすよ不毛…いやそれはそれで…やっぱり不毛っすよ!」
「アホか!」
「俺の存在無視か…まあいい、皆殺しにしてやる」
悪霊がいまさら何を言ってんだ、とツッコミが…入るところだが二人はいっぱいいっぱいなのでそれどころではない。
「美神さん、ちゃちゃっとやっつけちゃってくださいよ〜」
「私だって除霊の見学はしたことあっても除霊なんてしたことないわよ」
「え?!…美神さん死ぬ前に良い思い出を」
「錯乱するんじゃない!なんとか時間を稼ぐから使えそうな道具持ってきなさい!」
抱きついてくる横島をしばいて、道具がある方へと蹴り飛ばすといつも持ち歩『かされている』聖書を開く。
「主、イエス・キリ○トの御名において命ずる!!悪魔よ消え去れ!」
大気にある霊気が手に収束され、そしてそれは打ち出された…が
「がーーーははは効かぬわ小娘!修行が足らんな!」
「…考えてみればクリスチャンでもない私が使っても意味ないじゃない」
と言って聖書を足元に叩きつけた…なんと罰当たりな。
「お、おい。どーでもいいが罰が当たっても知らんぞ」
その暴挙は悪霊すらも唖然とさせた。
「死ね(笑)」
「(笑)って何よ!ってヤバ」
ついツッコんでしまった為回避するタイミングを逸してしまった。
「喰らえ!ゲッタービ○ム」
…この悪霊は実はアニオタとかだったのだろうか?
「なんの!ATフィー○ド」
気分はスパロ○。
もっとも現実をスパ○ボで表すならゲッター○ームではなく改造無しのビームライ○ル、AT○ィールドもビーム○ーディングぐらいしか発揮していないのだが…それはともかく、美神の前に霊符が投げられ、簡易結界が形成され見事その攻撃を受けきり消滅した。
「ふ〜、よかった〜ちゃんと動いた」
さっき投げられた霊符は自分で作った物で少し不安があったらしい。
「あんたねぇ、こんな手製じゃなくてちゃんとした霊符持ってきなさい!」
「それがっすね、どうも唐巣神父が全部持ってちゃったみたいでこれと見鬼君しか残ってなかったんすよ!」
そういって神通棍を取り出して美神に渡す。
「こんなの使ったことないわよ」
「…いやじゃ〜!死にたくない〜!」
なんとか生き残る道を見つけたと思っていた横島に対して美神が言った事は止めとなり、横島は錯乱状態に陥った。
「あ〜も〜五月蝿いわね。なんとかしてみるから落ち着きなさい」
自分がやらなければ自分の命…とついでに横島の命はないと、改めて覚悟を決めて神通棍を構える。
すると神通棍から強い霊力の光が輝く。
「何これ?!力がみなぎってくる…これなら」
逝ける!と思ったところで。
「死ぬならせめてその胸の中で死なせてくれーーー!!」
後ろから美神の胸を鷲掴みにし…そして横島の煩悩パワーも神通棍に流れ込み閃光を発する。
「ぐぎゃーーーーこんなや…られ…かた…」
プシューという音と共に悪霊は消え去った。
「な、なんとかなったわね」
美神も緊張の糸が切れてへたり込む。
「お、おお、この感触は」
むにゅんむにゅんと未だに掴んで放す所か揉んでいる誰かさんの手。
「………」
その後千穂が目を覚ました時には赤い何かの物体となって転がっていたと言う。
そして逆再生するかのように回復していく様をみて再び気絶した事をここの記しておこう。
ちなみにこれからの折檻が神通棍に慣れる為の訓練と称して神通棍で行われるようになる。
そして翌日、教会では最近では当たり前となった二人きりの修行。
言っていた通り唐巣神父はまだ帰ってきてないが順調にセクハラ…じゃなくて修行…というより授業?というより勉強会?が行われている。
小休憩に入った時。
「そういえば、あの子から報酬とか貰ったんすか?」
「え?」
横島の言葉に驚いたように美神は目をパチパチと瞬かせる。
「だって美神さんはタダで命を賭けるのは嫌なんですよね?今回は美神さんが除霊したんだから報酬を貰うのは当然じゃないっすか」
「………」
ここで自分の日頃言っている事を横島に言われて初めて気がつく。
今回は報酬などと欠片も思わなかった。だが、それでも気分はよかった。
後輩を無事助けることができ、自分にも目立った怪我はなかった…例え貞操が少々穢されたような気がしたり、横島が肉塊と化していたりしても…だ。
「けど、美神さんみたいな綺麗な女性がお金で買えるのって勿体無いっすよね〜」
「………」
金で買える物は所詮それぐらいの価値しかないのだ。
どうせなら金をいくら積まれても買えないような女性に…とは思わなくはなかったが、でもやっぱりお金が大事…とはいえ美神の心に浅くはあるが届いた言葉となった。
「…ほら、あれよ、GS免許を持ってないから報酬を受け取ったら私が捕まっちゃうでしょ。ほら、今日はもう遅くなったから帰るわよ『横島クン』」
「それは俺の台詞っす…てあれ?」
今まで『あんた』や『おまえ』などと呼ばれていたが今日助けてもらった事で正式に自分の弟子と認め、初めて名前で呼んだのである。
送っていくという言葉と反して美神は照れ隠しで足早に歩いて行き、それを追いかける横島という構図になったが…二人とも悪い雰囲気ではなかった。
「はっ!私が知らないところで美神先輩が?!」
と謎の直感が働いた後輩がいたとかいなかったとか。