「美神君もだいぶ闘い方を覚えてきましたし」
あんたと言う奴はいつもいつも入浴を覗くに来るんじゃない!
「横島クンも霊力に対する耐久力、知識もついてきたようですし」
たまにだったらいいんすか?!
「今度除霊を任せてみましょうか」
そんなわけ無いでしょ!
美神が神通棍で横島をしばき、3秒ほどで起き上がり必死に謝っている姿を見ていた唐巣神父の独り言である。
まあ、至って普通な日常である。
「とは言ったものの…依頼がないんですよねぇ…平和で何よりなんですが」
「くそ〜なんでや、なんで隠行結界使えるようになってから見つかりやすくなったんだ」
そんな愚痴を漏らして更に折檻を喰らうがすぐさま復帰。
「あんた…再生速度が速くなってきてない?」
「慣れっすよ、慣れ」
「自慢するんじゃない」
今回は折檻というよりただのツッコミであった。
ツッコミとはいっても神通棍に霊力を纏わせないだけなので常人からすれば十分折檻ではあるが。
「さて、今日はいつものように瞑想から始めましょうか」
「う〜っす」
「わかったわ」
とりあえず話が思い浮かばなかったので横島の修行風景をお送りしようと思います。
二人が修行を始める際に一番最初にする事は座禅を組み、瞑想である。
ちなみに二人が座っている距離は5Mほど離れて座っている。
これには理由がある。
最初の頃はもっと近くでやっていたのだが美神の匂い(フェロモン?)に釣られて暴走して襲い掛かったり(もちろん迎撃されたが)襲い掛からないまでも煩悩が暴走して膨大な霊力を撒き散らして教会内がぐちゃぐちゃになって掃除が大変だったりと色々あった結果の距離なのだ。
あれで襲わねば男では…いや、漢ではない!とは横島の一言。
そして30分ほど経ち、小休憩を挟む。
「それにしても…横島クンは霊力なかなか増えませんねぇ」
「うっ!」
横島に500のダメージを与えた!(ちなみに最大HPは2500である)
始めこそ順調に増えていたが最近は増えてはいるもののGSにとっての成長期真っ只中である年齢にしては成長が著しく悪いのである。
「本当に横島クンは技術は新米GSよりしっかりしてるのに力は2流どころか3流よね」
「はぐっ!」
横島に1000のダメージを与えた!
美人によるクリティカル攻撃(容赦のない一言)が炸裂した。
「ですが最近霊符を寄付してくれて助かります」
「時々失敗作があって暴発して私達まで巻き込まれるけどね…しかも籠めた霊力は少ないのにどうやったか知らないけど威力がやたらと高いせいで私達まで巻き込まれたりするし」
「へぼっ!」
横島に3000のダメージを与えた。
横島は灰となった。
オーバーキルによりレアアイテム『横島の灰』を手に入れた。
『横島の灰』
効果:数ターン後、墓地から横島忠夫が特殊召喚される。(この特殊召喚は無効化されない)
「み、美神君」
「何よ、全部本当の事じゃない」
「ははは」
小休憩…10分ほどの休憩のつもりだったのだが横島が灰と化して復活するまで30分も休む事になった。
所変わって教会の庭。
「さて、今日は模擬霊的格闘をやってもらおうと思う」
「え?!もしかして美神さんと俺?」
「その通りです」
「美神さんと戦うなんて無理っすよ!大体死んでまう!」
「いつも私の全力の神通棍を受けて数秒で復活するあんたが死ぬって言っても説得力ないわね」
苦笑で美神がツッコミをいれる。
表情からすると自分でも日頃やりすぎているという自覚はあるのかもしれない。
「み、美神さん、手加減よろ——「するわけないでしょ!」——ですよねえ!」
神通棍を取り出し、横島に迫る…がそれと同じ速度バックダッシュ。
「あだっ」
後ろも確認せず走った結果、塀に衝突して足が止まると美神は神通棍から霊力の光を帯びさせて上段から振り下ろす。
「よ、ほ、撤退!」
それを横に転がって回避、そしてすぐに立ち上がって逃げる進路を確認して全力疾走。
最近やっと目指す方向が定まり神通棍を使うようになった美神だが所詮は付け焼刃、ボケてツッコまれる横島ならまだしもいくら相手が美女とはいえ…いや、美女だからこそ模擬戦をしたくないと言う事で逃げに徹している横島を捕まえるにはまだ届かない。
「こら、待ちなさい!」
横島を追いかけて教会の角を曲がるが。
「いたっ」
「はっはっは、これぞ『犬が曲がれば結界に当たるの術』…なんっち……て…ご、ごめんなさ〜い!」
名前通り曲がった先に霊符による結界を張って相手の足止めとちょっとしたダメージを与えるというとてつもなくせこい術というか罠である。
まあ、当然ながら美神は鬼のような形相で怒り、それを視た横島は慌てて逃げ出す。
ちなみに結界は美神がぶつかった瞬間に壊れているため障害物はない。
「今回の折檻はちょっとハードに逝くわよ」
「字が違いますよ!字が…いや、あってるのか?」
「問答無用」
「お助け〜」
「結構余裕があるようですね」
結局横島が絡めば真剣な修行ではなくコントのようになってしまう為、本人達は気づかないようだが着実に力をつけている。
「『猫にマタタビの術』」
千円札、二千円札(この時代にないとかツッコミはなし)、五千円札、が何十枚もばら撒かれる。
正体は金に見えるように幻術を仕組んだ霊符なのだ。
相手の好きな物や性格に左右される術なのであまり多用できない。
「お金?!ってそんなの騙される訳——「あ、本物が何枚か混じって」これは…偽物、こっちは…」
元々が霊符なので霊視すれば…と思うだろうがそこは無駄に凝ってしまう横島クン。
霊気が漏れないように特殊なコーティング…これも前世の記憶から得た知識で造った迷彩液と横島が名づけた…を施していて一流のGSでも見分けがつかないようになっている。
…本当は覗きようとして造ったのだが迷彩液に熱に弱く、肌に触れると効力を失ってしまうのでこんな使い道しかない…それに気づいたときの横島の落ち込みようは皆さんも想像できるでしょう。
ちなみに一万円札が幻術にないのは本物を混ぜるには金額が大きいため意味がないためである。
「ふっはっはっは!またな、とっつぁん!」
「あ、こら、待ちなさい」
持てるだけ持ってポケットに捻じ込みながら再び鬼ごっこを開始する。
結果から言うと横島の逃げ切り勝ちであった。
勝因は悪戯程度の罠で体力を削りと体力の差だった。
罠自体は本当は大した事はないのだが問題は教会を囲うようにある庭に限定されていたので下手をすると逆方向からの奇襲や追いかけずに待ち伏せなどされては注意する範囲が増える上に体力が続かないので適度な距離で逃げる為の安全策だったのだ。
そして異様にある体力が主な理由だった。
実は中学一年の時から高校の女子更衣室を覗きに行き、見つかって警察に通報されて鬼ごっこして補導されたのは初回の一回のみ(その時の迎えに来た最強の母の躾という名の拷問は補導した警察官ですらドン引きしていた)でそれ以降は補導された事がない…通報されては逮捕に燃えるパトカーに乗る警官VS自身の身一つで迎え撃つ(?)横島の鬼ごっこは何度となく繰り返し、逃げ切ると言う無謀な事を成功させている横島である。
美神もプロを視野に入れて鍛えているとはいえ、車(しかもパトカー)から逃げるほどの体力を持つ横島に勝てるわけがなかった。
ちなみいパトカーから逃げる際に白いマスクをつけて、真っ赤な制服(鼻血加工)で「赤いから三倍だ〜〜〜」とか言っていたとかいなかったとか…
「はぁ、はぁ、あ、あんた体力あり過ぎよ」
肩で息をして少し落ち込み気味な声色だ。
「甘いっすね。これぐらいでへばってたら国家の犬から逃げることなんて出来ませんよ」
金取れ…じゃなくて筋トレの量を増やそうと決心した美神であった。
「よ、横島クン。いったい君は何をしているのかな?」
「べ、別にただのバ、バード、ウォ、ウォッチング(覗き)してただけっすよ〜」
「横島クン、どもりすぎよ」
「ウハ、ウハハハハ…あ、もうこんな時間だ。帰らないと」
「…そうですね。では、帰る準備を始めてください」
あからさまな誤魔化しではあったがそれに応じてくれた唐巣神父に横島は感謝しつつ帰る為の準備を開始する。
「そういえば先生、校長からお手紙ですよ」
「え?!」
そんな横島の後ろで美神が唐巣神父に手紙を手渡す。
校長…美神が通っているのは六道女学院の校長と言えば、そう、あの人である。
「六道夫人から…ああ、そういえばもうすぐ春合宿ですか」
「え、じゃあインストラクターは先生がやるんですか?」
「ええ、前々からお願いされていたのですがそのときに限って依頼が来るんで行けなかったんですよ」
「が、が、が」
「どうしたの?横島クン」
「が、が、が、合宿!しかも女子高の!」
「「………迂闊!」」
横島が何を企んでいるのか手に取るように分かる二人は自分達の愚考に気がついた。
「よ、横島クン、君も学校があるだろう?まさかついていこうなんて…」
「そ、そうよ。横島クンが学校休んだら破門にするわよ!!」
「うっ」
美神の言葉にうろたえる横島…だが。
(ここで日頃の修行の成果を見せちゃる!)
「むふふふふ」
何かを企んでいるのは目に見えているのだが…止めれるかどうかは唐巣神父はもとより今でも偶にセクハラを許してしまう美神も自信を持てなかった。
((横島クン(クン)は時々凄いからね))
二人はだからといって許したりするわけではなく、来ないよう努力はするつもりだ。
((けど…霊感では間違いなくついて来るって言ってるんですよね(のよね)))
「と言う事で横島クン、今度の月火と来なくていいですからね」
「絶対失敗するわけにはいかんな!今回は奮発して良い材料を揃えなくては…っとととイエッサー」
超本音駄々漏れなのだがそこはあえてスルー、今から注意しても結果が変わらない為だ。
「そういえば前々から思ってたんだけど、横島クンってかなり変な覚え方してるわよねぇ。陰陽系ってのもあるけど、最近出来た術は全然なくせに古くからある高等な術とか効率が悪くでかなり昔に廃れた術とか私も知らない妖しげな術とか」
「あっはっはっは………はぁ」
実は美神に嘘をついている事に結構罪悪感を抱いている横島。
日頃が日頃で馬鹿正直に生きている彼である。
女性に嘘をつくのは良しとは思っていないのだが…唐巣神父の言葉が引っかかり、話せずにいた。
ちなみに唐巣神父に嘘をつくのなんてへのかっぱだったりするのは…まあ、横島だからしかたない。
(もう言ってもいいと思うだけど…美神さんは悪い人じゃない…よな?………もう少し先でいいか…バレた時に殺されるかもしれんけど)
金、金、金、と書いてある顔を何回も見てしまっているのでどうも一歩を踏み出せない…どころか腰が引けて仕方ない横島。
「じゃ、お疲れ様でした〜また明日〜」
「はい、お疲れ様。気をつけて帰るんだよ」
「私も帰るわ。また明日…横島クン、途中まで一緒に帰るわよ」
「はい、また明日」
「で、どうしたんすか美神さん?」
「え!な、何のこと…」
「今までわざわざ『一緒に帰る』なんて言い方しなかったじゃないですか」
「…そうだったかしら?気分よ、気分」
実は横島が合宿について行く為に準備をすると言う事が、さっき自分で暴露していたので判明したので出来るだけ横島に自由な時間を削ろうと考えての行動だが…今になっていつもと大して変わりがない事に気づき心の中で舌打ちする。
「き、気分よ。気分」
横島は美神の顔をジィっと見つめ、見つめられる美神は汗だらだら。
「ま、それは置いといてどっか寄って行きます?今日小遣い日なんで懐暖かいっすよ!」
「だからあの…『猫にマタタビの術』だったかしら…あれに二千円も混ぜてたのね」
「あ、そういえばあのお金——「返さないわよ」——美神さんにあんなやり方するからには覚悟してますよ。それにどうせ唐巣神父の生活費に使うつもりでしょ?」
「………」
横島は最近知ったのだが実は唐巣神父の財布を握っているのは美神であると言う事、そして今月も確実に食費はもちろん水道電気などの支払いも危ない事を知っている。
この前ぼったくりのように(とうかぼったくり)1000万は教会の修繕費(横島が折檻を受ける際によく壊れる)と滞納していた電気やガス、お札の購入などであっという間に消えた。
そして自分は授業料も払ってないではないか?!と言う事もあり、返ってこない事を承知であんな術を使ったのだ。
図星を指されてブスッとした顔で黙り込む美神に本当に素直じゃないなぁ〜と思うがそれでこそ美神だと横島は思うとちょっと微笑んだ…がそれが悪かった。
「何笑ってんのよ!」
交通量が多い場所なのに神通棍でしばかれる。
もちろん照れ隠しである。
(今更だけど俺は男とはいえ中学生、女子高生に警棒で殴られる姿って一般人から見たらただのイジメじゃね?)
なんて考えながら地面に沈む。
ちなみに美神も慣れたものでスカートを覗かれないように間合いを取ってある。
「で、何処行きます?俺的にはこの前商店街に出来たたこ焼き屋に行きたいな〜なんて思ったりなんかしてますけど」
「女子高生を誘っといてたこ焼き〜?ま、いいけどね…弟子に奢られるのは私のプライドが許さないから自分の分ぐらいは払うわよ」
「いやいやいや、何を仰るウサギさん。男横島、自分から誘ったからには女性に支払いをさせる訳にはいかん!」
「あ〜もう、いいから早く行くわよ!」
で、いざたこ焼き屋まで来たが…
「自分の分は払うわよ!」
「いえいえ、そんな遠慮なさらずに」
「だ〜!この会話もう何回目だと思ってんのよ」
やはり言い争っていた。
「もう十回目ぐらいですか?」
「わかってんなら折れなさいよ!」
「無理」
即答
「早くしないとたこ焼き冷めちゃうでしょ」
「………………わかりました」
結局横島が折れることになり、お互い自分の分だけ支払う事になった…が美神が支払っている間に出しっ放しの財布にこっそりお金を放り込むという、スリも真っ青な早業に美神が気づかず、気づいたのは家に帰って家計簿のチェックを始めてからであった。