うっそうとした森林の中で爆発音や石と木がぶつかる鈍い音が演奏のように聴こえる。
だが、その演奏は決して一般人が奏でれる事はなく、戦う事を生業とした者だけが奏でる曲。
演奏者のほとんどは女子高生というはどうかと思うが…十数人がいるその中でも輝く美少女が二人…とリアルで何処かが輝く中年の男性。
美神とエミ、そして唐巣神父である。
「ハァ、ハァ、ハァ…スー、ハー…こ、これはさすがにしんどいわね」
「令子はスタミナが無さ過ぎ、もっと根性だせなワケ」
肩で息をしている美神とそれを見て鼻で笑うエミ。
カチンッという音が聴こえたとは近くにいた女子高生Aさんの証言。
「あんたは後ろでチマチマ霊波砲撃って止めを刺してるだけだからいいわよ!こっちは神通棍振って疲れてるんだから!」
「二人とももうちょっと静かに除霊は出来ないのかね?」
口ではそう言っているが実際はエミも美神ほどではないが疲れてきているのは目に見えて分かる。
傍には唐巣神父もいるのだがテンションを下げない為の激励だと思い、軽い注意だけする。
「——てそんな事言い合ってる場合じゃないわね。先生、こういうのは大体ボスがいると相場は決まってるはずよね」
そしてさっきまでじゃれていた美神が真剣な表情で唐巣神父に話しかける。
口喧嘩→真剣に除霊→ちょっかい→そして口喧嘩と巡回していて今からは真剣に除霊の話である。
「その通りです。ただこの数を相手しつつ探し出すのは厳しいですね」
「確かに、これじゃろくに動けないワケ」
前衛型の生徒までが悪霊の恐怖で後ろに下がっている現状で唐巣神父は元より美神も他の生徒のフォローで手一杯で自由に動けないでいる。
「他の先生方も手が空いてるわけないしね」
ちなみに逃げ惑っていた者達(男限定)は式神達が容赦なく気絶させて結界内に放り込んでくれたおかげで現状が維持できるようになっている…意地でも動こうとしない者達は悪意があるわけではないので手に余っているようだが。
「さて、どうしたものか…」
思案していると何処からか笑い声が聞こえた。
「ハッハッハ!今こそ我の出番——「こんな忙しい時に五月蝿いです!」——うお、あああぁぁぁおぼろ!」
横島登場!そして自分の式神(レッド)から(普通の)蹴りを喰らってわざわざ登った木から落ちる。
「で、横島クン?私は結界で大人しくしておくように言わなかったかしら?」
「いや〜それが…俺もそのつもりだったんですけど…」
地面に顔が突き刺さってたり美神に声を掛けられてすぐに起き上がったりしかも無傷だったりするのは全部スルー。
とりあえず横島は自分の意思でここに来た訳ではない事は三人とも察した。
「結界が破られたワケ?」
「それはないと思うわよ?こいつの結界は強度はともかくステルス性は馬鹿に出来ないのよ…何を目的に造ったかは別としてだけど」
後半はジト目で横島を見ると目が合う前に高速で顔を逸らして口笛を吹いて誤魔化す…曲はなぜか勝利のファンファーレだ。
「あの結界符、オタクが造ったわけ?!」
「いや〜買うお金がないんで仕方なしに…紙も割りと高いんで今回でしばらく打ち止めっすね」
貯金は霊符代へ、そして旅費(サバイバルグッズの補充)の為に母親に土下座+合宿についていく事を決めてからあった教科の小テストの満点を取引材料に小遣いの前借をお願いして受理されてやっとついて来れた。
つまり当面金銭に余裕がないのである。
「オタク、私が事務所開い——「そんな事よりなんでここに来たのよ」——令子邪魔すんじゃないワケ!」
エミが横島を勧誘しようとしている事を察して話に無理やり割り込みを入れる。
「うるさい!今はそんな事言ってる場合じゃないでしょ!大体横島クンは私の所で助手してもらう予定なんだから!」
「あれ?いつの間にかそんな事になってる?いや、まあ確かに前にもそんな話したけど…もちろん異存はないッスけど…というよりバッチコイ!って感じだけど…もしかして俺の時代が来たんか?!」
だんだん混沌化していく三人に秩序の光。
「三人とも、話を進めていいかね?」
ゴゴゴゴゴッと背中に某漫画では地球人では最強のクリ○ンが現れていた…あんさん、あいつは剃ってただけやで?ってツッコミは無しで…あ、カメの甲羅背負ったじいさんに代わった。
背負っている者が微妙ながらも三人は壊れたおもちゃのように縦にコクコクコクと動かして肯定する。
「で、横島クン。なぜここに来たのですか?あなただって危険だと言う事は分かっているはず…」
「いや〜実はイエローの奴に『もう他の結界はいっぱいやけん、あんたは出てけ!』って追い出されまして」
「「「………」」」
予想外の事に絶句する三人。
まあ、確かに横島は美女美少女を助けろと命令したので横島自身よりそちらを優先するのは自然…か?
「まったく、あいつらときたら美女美少女ばっか助けて…ん?これは仕方ない事か?よし、帰ってきたら褒めてやろう!」
あくまで女性の味方な横島に敬礼。
「いや、なんと言っていいか…」
男として、師匠として、女性を助ける為の行動は褒めるに値する…が勝手に結界から出てきた事(本人は不本意とはいえ)を怒るべきか、あんな式神を放った事を説教と同時に手助けしてくれた事に感謝すべきか…悩んでしまう唐巣神父であった。
「それにしても…情けないわね〜こんなひよっこ霊能力者に助けてもらうなんて」
まだプロではない、だがそれを目指す者としてはいくら横島が霊能者だからと言って手伝ってもらってるようではプロを目指すのは困難と言える…が自分達も式神に助けられている状況の今、それを言っていいのかは甚だ疑問だが。
「それにしてもオタク、ここまでよく来れたわね。猿共が一杯の中で」
「あ、それならこいつらが頑張ってくれましたから」
SDボンノウレンジャーとはまた違ってカラーリングで黒と紫色の二色が目立つ三人組が並んでいる。
「あ〜こいつらはもしかしなくても…」
「黒い三連ボンノウ、右からオル、マッシ、ガイ。今回は事情説明が必要ないから人格は簡易的なので喋る事は出来ませんけどボンノウレンジャー達よりも除霊ではこいつ等の方が向いてるッスよ」
「なんか色々ツッコミどころが多いけど…とりあえず…どれぐらい違うの?そいつ等」
「どれ…ぐらいなんでしょうね?正直俺も細かい検証してないんですよ」
「またいい加減な事を…」
溜め息を一つ漏らしはしたものの責める様な事はしない。
数を減らしたとはいえまだ同数以上…いや、休憩しているもしくは戦意喪失で結界内にいる者も多いので比率的にはあまり変わりがない。
これが模擬戦等であったなら構わないが生憎実戦、負ければ死だ。
そんな現状で横島の式神を遠ざける理由はない…本人は別としても。
「ハァ…来たからには役に立ちなさいよ」
「別に来たくて来たわけじゃないっすよ!?」
「はいはい、で横島クンはその黒い三匹——「黒い三連ボンノウッス!」——いいから!それでボス猿を探し出しなさい」
「らじゃ〜コイツ等とは念話が出来るんで丁度良かったっすね」
行け!と命令すると三人は散開してあっと言う間に姿を消した。
「それにしても便利そうなワケ、是非私にも売って欲しいワケ」
目を輝かせて値段を尋ねてくる。
「くぅ〜!綺麗なお姉さんのお願いは聞いてあげたいッスけど、残念ながら無理です」
「オタク、意外にケチなワケ。やっぱり令子の弟弟子なワケ」
「ちょっとそれどういう事よ!」
「そのままなワケ!」
「あんた——「手がお留守ですよお二人さん」——ひぃぃ」
先ほどとは違い手も足も止めているので唐巣神父再び登場。
ダークっぽいオーラを纏って何故か十字に切る仕草がとても怖い。
「アーメン」
黒っぽいアーメンでも三匹ほどが除霊された…猿達が絶叫を上げていたような気がするがきっと気のせい!
実はクリ○ンより強いかもしれない。
その様を見て慌てて自分が除霊を再開する二人に自分はどうしたものかと悩む横島。
それに気づいた美神が話しかける。
「横島クンは周り生徒を気にしててくれる?」
「うっす。ボスザルは見つけ次第報告します!」
頼むわよ、と言い残して猿に集中する美神。
そして横島は…
(おお!白…大人しめのあの子が赤…意外だ!)
周りの生徒をしっかり見ていた…何を見ていたかは言わぬがなんとか。
「おかしいな〜」
黒い三連ボンノウを送り出してから五分ほど経った。
横島は一人で首を傾げてう〜んう〜んと唸っている。
何を唸っているかと言うともちろんどうやってコッソリスカートの奥の花園を覗こうか…ではなく未だにボスザルが見当たらない事に対してだ。
「吸引!………あんた実はサボってんじゃないでしょうね」
「俺はサボってるけどあいつらは働いてますよ。ただ…普通の猿しか見つからないんすよ」
いい感じにイライラしている美神はジト目で横島を睨む。
蛇に睨まれた蛙が如く、固まり冷や汗ダラダラの横島はなんとか動く首を激しく横に振って否定する…微妙に否定していないが。
「横島クンには期待してないわ…それにしてもおかしいわね。確かに先生もそれらしい気配を感じないって言ってるし…」
「一体どういうことだ…敵は猿だよな?…?猿?…あっ!」
横島はある不自然な事に気が付いた。
それはごく当たり前ではあるがこんな状況では気づき難い事だった。
「美神さん美神さん」
「な、何よそんなに慌てて」
急に迫ってくる横島につい拳を見舞いそうになるが表情がいつもと違って真面目なので何とか押し止める事に成功した。
「先入観で敵が立って地面にばっかりいるからそればかり気にしてたんですけど、よく考えたら相手は猿ッスよ!」
「あ!なるほど。木の上!」
そう、猿達は何故か木の上から攻撃する事はなく、あくまで包囲して陸地で闘っていた。
包囲してそれを維持できるほどに頭がいい猿達が木の上という地の利を生かさないのは本来は不自然なことなのだ。
弟弟子の分際で自分より先に気づくなんて…とかちょっと美神のプライドに傷が付いたのは本人だけの秘密。
「でもそうなると色々問題があるんすよ。どの式神も空を飛ぶ事出来ないし、何より倒す手段が…」
「それなら大丈夫なワケ」
先ほどまでいなかったはずのエミが何処からともなく現れ、その足元にはいつ描いたのか呪術の陣であろうモノが描かれていた。
「皆疲れてきたかもしれないけど慣れてもきたワケ、これなら役に立たない令子達がいなくても大丈夫だからボスザルをこっちに追い込んで貰いたいワケ」
「それは私が…と言いたいところだけど私がここを抜けるわけにはいけませんね」
エミの作戦が分かり、もう何度も注意しているが直らない悪口は無視して唐巣神父も賛成を示す。
訳が分からず首を傾げている横島は放置されて美神は頷いて皮肉を持って答える。
「ふん、お荷物のエミがいないなら楽勝ね、早く行くわよ横島クン」
え〜俺もっすか?!いやじゃ〜死にとぉな〜い!
仕方ないでしょ!あんたの式神は便利だから手伝いなさい!人手は多い方がいいんだから!
式神だけでいいじゃないっすか!俺なんか付いてっても役に立たないですよ!
どうせ念話を受信する事が出来るのはあんただけなんでしょ?!大人しく付いてきなさい!
とかなんとか話しながらも横島のGジャンの後ろ襟を掴んでズルズルと引っ張り、口はともかく抵抗をしようと横島は実際のところ必要性は理解しているようだ。
姿が見えなくなり、はぁ〜と溜め息をつくエミ。
「大丈夫かね?」
いい加減離脱率の高い前衛、そして生徒の中では一番の活躍をしていた美神がいなくなる事によって負担は全体に広がるのだがボスザルを片付けないと全滅までいかなくても何人か死傷者が出るかもしれないので仕方ない。
「令子が抜けたぐらいどうって事ないワケ。ほらオタク等も頑張るワケ!オタク等あの変態に助けられてばっかりでいいワケ!」
何気に酷い言い様だが周りで闘っている生徒を鼓舞する事には成功した。
その言葉は結界内にいた生徒達にも聞こえ、数名だが戦線に復帰する事にも成功する。
「よし、これならなんとかなりそうですね」
唐巣神父も気合を入れなおして除霊に取り掛かった。
「と言うわけでボスザルの探索を行ったおります」
「あんた誰に言ってんのよ」
「ちょっと読者の方にアピールを、と」
「あんたね〜私より明らかに台詞が多いくせにまだアピールしたりないと」
神通棍をバチバチッと放電させる…気のせいか日頃より輝いているように見える。
そう言われてもな〜正直横島が陰陽師ならっていうSSなんだからどうしても横島がメインになっちゃうんだよな。
「そ、そんな滅相もない!美神様が一番でございます!ていうかそんなに霊力を出さないでください。陰行結界が保てませんよ。後数回分しか霊力残ってないっす!」
その言葉で仕方なく神通棍を元の状態へと戻した。
今張っている陰行結界は地面に術式を描き発動させている。
結界としての強度は弱いが気配を消すには十分な代物だ。
では、なぜわざわざ自分が隠れる際にこれを使わなかったのかというとこの結界は自分の霊力のみで展開するため負担が大きいのだ。
「まったく…それより式神からの連絡はまだ無いの?もう結構時間が経ってるんだけど」
「ボンノウレンジャーと連絡したんですけど二体やられてるみたいで結構きついみたいなんで結局後から追加した三連達だけで動くしかないみたいです」
ボンノウレンジャー達は完全自立型なので横島は知る由が無かったが実はサルの悪霊にやられたわけではなく女子高生に抱いて潰されたのだが…それを知ったのはしばらく後の事である。
「そう…それで?」
「あっちも見つかってないみたいで連絡は無いですね。俺達も移動します?陰行結界なら後5回ぐらいは出来ますよ
「そうね…それにしてもこんなにいっぱい雑魚がいたらこんな安物の見鬼くんじゃボスが何処にいるか分からないじゃない!学校なんだからもっといい見鬼くん用意しなさいよ!」
悪態をつきながらもせっせと移動開始。
幸い周りには雑魚サルは居らず、障害なく移動できているのは不幸中の幸いである。
美神の霊力消費をなるべく抑える為に陰行結界を張ってコソコソ隠れて、ボスザルを探し始めてから五分ほど経っている。
「一体何処にいるのかしらね…そんなに離れた場所にいるとは思えないんだけど」
こういう群れで動く霊達は必ず指導者、つまり核となる存在が近くにいてこそ活動するという事を知っている美神は首を傾げる。
「これだけ探してるのにいないとなると…常に移動してるのかしら?」
核とは大抵強力な力を持っているもので多少離れていても細かくは分からないにしても感じるものなのに全くそれを感じさせない。
それでまず考えられる可能性は自分達に悟られず移動していること。
横島はもちろん美神も霊力こそ下手なプロのGSなどよりあるが経験が足りず、霊感もそこまでのレベルに到達していない事もあり、移動してしまえばそれだけで見つけ難くなってしまう。
それを補うために横島…というより式神からの報告を話すだけの受信機…を連れてきたのだが期待以上に役に立たないご様子。
「そういえば…こいつ等の包囲が…崩れてきてる?」
サル達の数が減ってきたからなのか、それとも統率が乱れてきたのか、原因は分からないが包囲の状態だったはずが一ヶ所だけ明らかに空白の地形が生まれていた。
そしてそれを見た美神はある予想をする。
「もしかして…あそこにいるの…かしら?」
ただ手が回らなくなっただけかもしれないと思うと同時に自分の感がただの空白地帯ではないと告げている。
そして自分の感を信じて横島を連れ、行動開始。
気配をなるべく消して障害物が多い場所を通り、敵に気づかれることなく空白地帯に到達した。
だが、それは後から考えれば誘いだったのかもしれない。
「なるほどね、どうやらあいつがボスザルみたいね。そりゃ見鬼くんに引っかからないはずよ」
木の上にボスと思われるサルがいた
今までのサルとは違い木の上にいるサルは子ザルであった。
その子ザルから霊力はそんなに感じないことから霊力による強引な支配ではなく、魅了、もしくはカリスマの部類に入るのだろう。
「そ、それは、い、いいんすけど、こ、これからどうするんすか!」
目の前にはサル…と言うよりゴリラにしか見えないそれが目の前に並んでいてそれはまるで親衛隊かのように、木の上にいる子サルには触れさせんという威圧を感じる。
とりあえず親衛ザルと命名。
「あんたの式神を一体はエミの所に向かわせて、残りの二体はすぐに集合させる!」
喋る事が出来ない三連ボンノウだが、その意図を伝えるには十分で、タイミングはエミだから大丈夫だろう…てか失敗したらコロス!と言った勢いの美神。
横島は反論せずに三連ボンノウに指示を出す。
「合流まで三分ぐらいっす」
「わかったわ。じゃあ横島クンは下がって——「ここは横島忠夫にまっかせなさ〜い!」——は?!あんた何言ってんの!もうろくな装備がないあんたなんてただのお荷物よ!」
「これだけは使いたくなかった…だが!美女、美少女を助ける為なら仕方あるまい!」
「あんたなんかキャラ変わってない?」
そんなツッコミも無視して懐からある物を取り出す…それは…次回に続く。