「令子、虫除け持ってない?」
「あんたね〜森ん中入るの分かってるんだから持ってきてなさいよ」
貸し一ね、と言って虫除けスプレーを渡す。
最初こそ散歩の延長のつもりで出かけた一行だったが蛇が出てきたり、蜘蛛の巣に引っかかって騒いだり、唐巣神父だけなぜか逸れたり(設定的に連れて行かないと行けなくなったけど扱いに困った…なんてことではないんだからね!)…これは大した問題ではないが…でちょっとした冒険となっている。
「あ、光が見えてきたワケ」
「案外遠かったわね…まったく!横島のヤツ、見つけたらただじゃおかないんだから!!」
美神達が勝手に来たのだから横島が怒られる理由はないはずなのだが…まあ横島と美神だし。
「横し………ま?」
そこに見たのは…でっかい鉄板が一枚と寸胴鍋がレンガ造りの台の上に置かれている。
どうやら鉄板焼きと何か…キャンプの定番であればカレー…をする予定らしい。
そして離れた場所にテント…じゃなくてモンゴルのゲルがあった。
「あれ?美神さんにエミさん?なんでここに?」
横島の疑問はもっともだ。
だが、自分の持ち込んだ物の方が不思議な物である事を気づいて欲しいと二人は思った。
「なんか森の中で煙が上がってたからまたあんたが変な事してないか見にきたんだけど」
色んな意味で手遅れだ。
「あ、そうだったんスか。てっきり俺の飯を狙ってきたのかと」
「オタク、令子はともかくワタシがそんな事すると思ってるワケ!」
「私はともかくってどう言う事よ!」
「まあまあ、お二人は飯食べました?」
美人が喧嘩するのはあまり見たくなかった横島は及び腰ながら仲裁に入る。
「ん、まあね」
「なら食後のデザートでもいかがっスか?」
そう言って取り出したのは何の変哲もないアイスクリームだった。
「悪いけどそういうのは食事についてたのよ」
エミや美神が通っててもお嬢様学校の名は伊達ではないらしい。
「ならば!」
次に取り出したのはスナック菓子。
ポテチに始まり出るわ出るわ、あっという間にコンビニの菓子コーナーみたいな量に至った。
「あ、あんた一体何処に持ってたのこんな量」
「き、禁則事項です」
某未来人を真似てみたらしいが男では萌えん、というか燃えろ。
ネタバレさせると横島特製の吸魔護符、つまり封印符のおかげだ。
とりあえず現地でしか使わない荷物を全部封印しておいて必要になったら開封する…なんて便利なアイテムだ。
唐巣神父からは知られるなとは言っていたが使うなとは言われてない。
つまり横島なりに考えた有効活用である。
だからと言って最初から一人で過ごす事が前提にしてなぜゲル?なぜ寸胴鍋?とか突っ込んではいけない。
ちなみに美神達は気づいていないがアイスクリームはクーラーボックスなどで冷やした物と思っているが実は冷蔵庫で冷やした物だったりする。
発電機はもちろん、仮説トイレまであるのだからびっくりである。
無駄に豪華なキャンプだ。
「まあ、いいわ。でもスナック系は太るから…チョコレートある?カカオの割合が多いヤツがいいんだけど」
「それなら85%ぐらいのがあったな…確か」
ゲルの中にある冷蔵庫に探しに行く。
その取りに行く横島の後ろ姿を見て、まさかあるとは思わなかったわと呟いてしまった美神。
エミも苦笑して同じ思いなのだろう頷いている。
「はい、美神さん。これでいいっスか?」
そう言って戻ってきた横島は美神にチョコを渡す。
それは紛れなく自分が注文したチョコだった。
「…本当にあったわね。ところでこのゲルどうしたのよ。普通の人はこんなの持ってないわよ」
「親父が単身赴任でモンゴルまで行ってきた時の土産らしいっス」
「これを土産って…あんたのお父さん変わってるわね」
この非常識な子にして非常識な親なんだな…と自分の事を棚に上げて思う美神。
「確か要らんもん買ってくんなボケェ!って事でおかんの監督の下、アマゾン川を素っ裸で泳がされたらしいけど」
「アマゾンって…よく無事だったわね」
「それが何でか無傷で泳ぎきったらしいっスよ。まあ、現地で女引っ掛けててシバかれて3ヶ月ぐらい入院してたっスけどね」
ん〜さすがおかん、容赦ないな。と改めて思う横島に対して美神とエミは顔を引きつらせている。
ただ、よく考えると美神とエミ、二人は親が居らず(美神の父親は別居中だし)普通?の家庭は横島だけなのだ。
「ところで俺まだ飯食ってないんで食っていいっスか?」
「気にしないで食べていいわよ」
「ワタシには何かないわけ?出来ればアルコール的なものとか」
唐巣神父が居ないからの暴言。
もちろんあるわけが…
「ワインなら」
あったらしい。
一応念のために言っておくが決して横島は飲むつもりでもってきたわけではない。
元々は料理用に持ってきたものだ。
「お、分かってるじゃない。おつまみはないワケ?」
「只今用意します!」
敬礼して例の鉄板の前で何か造り出した。
「ていうかオタクが料理が出来るなんて意外なワケ」
「そんな複雑な料理は出来ませんけどね」
なんで横島に料理スキルがあるのか…それは今までの流れ的に分かると思うが…もちろん母親からの試練で死なないためである。
さすがに親なので本当に死にそうなら助けてくれるだろうがその『本当に』のレベルが一般人とはかけ離れているので苦しいとか痛いとかではなく、それらを通り越して無になりかけた時に助けられる。
さすがにそこまでになる事を月一以上でやられては身体が持たないので選択余地なしで習得したのだ。
「へい、お待ち」
出てきたのはチーズチップスと山菜炒めだ。
見た目は合格、匂いも合格…と美神とエミは一通り食べれそうか調べてから口にした。
その様子に多少苦笑が漏れたが…気持ちは分からなくはないので何も言うまいと自分に言い聞かせた。
「ただいま戻っ——あれ?美神様にエミ様?なぜこんなゴミ捨て場に?」
「おま——仮にも創造主の根城をゴミ捨て場というか!今度ゆっくり話し合わないといけない気がするな」
現れたのはボンノウレンジャーの生き残り、レッド、イエロー、ピンクであった。
三人は各々身体に似合わぬサイズのリュックを背負っての登場だ。
「これが要らんなら別に——「俺が悪かった」——それでいい、ほれ」
式神に土下座する創造主なんて歴史の紐を解いてもそうは居ないだろう。
レッド達は背負っていたリュックを横島に放り投げる。
「どれどれ」
中身は…イノシシだった。
「お、今日はぼたん鍋にするか」
何気に野生児横島、肉は食べれても生きているのは可哀想…なんて温い考えは小学5年の夏に捨てている。
もっとも袋に入っているのはもう死んでいるようだが。
他にも茸などがたくさん入っている…入ってはいる。
「お前ら…わざとか?それとも気づかなかったのか?」
一見、食べれる茸だけが入っているように見える。
だが、その中に食べれる茸によく似た毒茸が少し混じっている。
「そりゃ」
「わざとに」
「決まってるじゃないか」
「こいつらは〜!…はぁ、もういい。次は風呂の準備頼む」
もう付き合うのに疲れたって感じでレッド達に次の指示を出す。
「確か封印——おっと、まあ、例の所にあるから頼んだぞ」
思わず自分で自爆しかけたが美神は封印符については話していないし、エミには想像も出来ないだろう。
もっとも美神は、あ、こいつまだ何か隠してるわね…などと思っているが今は突っ込まない。
(きっちり証拠を握ってからね…その時は徹底的に利用してあげるわ)
早いうちに秘密をバラした方が身の為かもしれない。
レッド達が作業に行くのを見送ると寸胴鍋を仕舞って別の鍋を取り出してせっせと調理を始める。
「美神さん、エミさん、イノシシの解体ショーとか見たいですか?」
「「……遠慮するわ(ワケ)」」
了解しました!と敬礼一つ残してイノシシの入っているリュックを背負って森の中へと消えていった。
「それにしても…おたくの弟弟子って何者なワケ?今時の中学生がイノシシ捌くとか聞いた事ないワケ」
「そんな事気にしてたらあいつと一緒に居られないから聞いてないのよ。まあ家庭が特別だって事ぐらいかしら、知っているのわ」
苦笑して答える美神を見てエミはふ〜ん、とだけ返した。
「じゃあ、いただきます」
目の前には山の幸が盛り沢山のぼたん鍋がテーブルに置かれている。
ちなみにご飯だが…飯盒(はんごう)ではなく、発電機を持ってきており、炊飯ジャーで炊いたものだったりする。
「へ〜本当に料理出来たのね」
「自分で言うのもなんですけど割りと美味いっすよ?食べます?」
「ば、馬鹿言うんじゃないわよ。あんたはただ付いて来ただけでしょうが私は修行の為にここにいるのよ。食べれる訳ないでしょ!」
ちょっとだけ食べたかったのは美神だけの秘密。
「へ〜そんな事してるんすか?」
確かにそれで霊力が上がる事を知っている横島は納得と同時に疑問が浮かぶ、その理由は…
「でもそれって最低一ヶ月以上続けないと効果ないっすよね?」
「「は?」」
あれ?俺何か間違えたか?でもあってるよな〜?いやでもあの時代の事だし現代では違うのか?いやいやこの前読んだ参考書通りなら古くからある習慣にはそういう概念が備わるって書いてあったよな?それなら本来は一生って事になるからどうなんだ?と疑問だらけの横島、そして教えられている事と違って唖然としている美神とエミはお互いの顔を見る。
「そんな話聞いたことないわよ。エミ、あんたは?」
「ワタシもないワケ。そんなに続けないといけないなら先生達も予め言うと思うワケ」
あーでもないこーでもないと話しているうちに横島は食事を終わらせ、なんだかんだで結局美神達は一応食べなかった。
「はー喰った喰った。ところで…美神さん達はこれからどうするんすか?お泊りですか?!ムフフな展開っすか?!いや〜困ったな〜初めてが3人なん——ぐはっ!」
いつもは仲が悪い二人だがそれが嘘かのように息ぴったりな攻撃で横島を殴り飛ばす。
「んな訳ないでしょ。もうそろそろ帰るわよ」
「それはいいっすけど…先生達がここら辺は結構熊が出るって言ってたんで気をつけて」
帰ろうと横島に背を向けた美神とエミは足を止めて、再び横島に向いた。
「オタクそんな所で野宿するつもりなワケ?!」
「そうよ!いくら霊能があるからって寝てる時に襲われたら一溜まりもないわよ」
一応心配はしてくれているのだが剣幕の方が凄くてそれに気づけない横島。
「だ、大丈夫っすよ。二重に結界張ってるんで動物と男は入って来れませんから」
いつもなら罠を何重にも仕掛けるんですけどね。という言葉は誰にも聞こえなかった。
そこでエミが気づく。
「もしかして…唐巣神父と逸れたのって…」
ハッと美神は横島を見ると、あちゃー俺やっちまった?的な表情を浮かべていたので拳を遠慮なく打ち込む。
「まったく、横島クンがいると碌な事がないわね」
もっとも横島が頼んだわけではないのだが…美神の気持ちも分からないではない。
結局美神とエミは狼(横島)の家を寝床を借りる事にした。
「「さすがに熊とは戦いたくないわ(ワケ)」」
珍しく息が揃ったのだがその後恒例の『話し合い』があったのだがもう慣れてきた横島は飛び火が自分に飛んでこないように泣きながらも逞しく「風呂へ行って来る」と小声で告げ、逃げる…もっとも逃げている時点で逞しくなのかは甚だ疑問だが。
「ふ〜、いい風呂だ〜」
そして腐女子と一部の特殊な性癖の持ち主以外求めない男のサービスショット!!
いや〜本当に漫画やアニメじゃなくて良かった。
………アニメでも漫画でも続編が出るならあってもいいから続編プリーズ!!
ゴホン、ちょっと暴走してしまいました。
ちなみに入っている風呂はドラム缶風呂、横島のこだわりの一品。
別にユニットバス、サウナ風呂、木桶風呂、ジェットバスなど本来持ち歩く物ではない物でもOKだったのだが…
「野宿と言えばドラム缶風呂っしょ!」
という事らしい。
もちろん準備したのは式神達で今は死なれたら困る&美神達が規定外の外泊を隠す為の一手として唐巣神父の捜索に出ている。
「で、私達は放って一人露店風呂を楽しむ…と?」
「結構いい度胸してるワケ」
「なら一緒に入ります?というか背中流しま——「裸で出てくな!」——うぐ、あつ!」
展開が読めている美神は全て言い終わる前に横島を黙らす。
「一応準備もほとんど出来てるッスけど——「なら早くしなさい!」——ゲフッ申し訳ないッス」
手際がいいのか丁稚としてのレベルがあがったのか何か陰謀があるのか…最後が濃厚のような気もする。
「ここに来るまで結構大変だったワケ、ありがたく使わせてもらうワケ…覗いたら………」
「え?!続きは?!続きはなんっすか?!」
横島の叫びを無視して去るエミ。
そして美神が後を引き継ぎ。
「まあ、最低不能、悪かったら死?」
「ハ、ハハハ」
あまりにもサラッと男としての死と生物としての死の二択に引きつった笑いを浮かべる横島。
これだけ脅せば覗くまい、と思うエミとは反対に来ない事なぞないだろう、と頭を痛める美神であった。
が、風呂の準備を終わらせ美神達がいざ入ろうとした時に式神達が唐巣神父を釣れて帰ってきたので横島の野望は潰えた。
まあ、そんな訳もなく唐巣神父と激戦を繰り広げ、またもや自分の式神の不意打ちによって撃墜されたのは余談。