「ギャーーーーー!」
「キャーーーーー!」
澄み切った空気
小鳥の囀り
まだ日の頭が見え始める頃
それの何もかもをぶち壊すかのような男と女の絶叫
「横島クン…貴方は何て事を!」
抱き合う男女、横島と美神。
そして悲鳴で駆けつけてきた唐巣神父。
一方的に横島が加害者と決め付けている辺りを見ると日頃どのように思っているかがわかる…仕方ないが。
「朝から五月蝿いワケ」
そんな混沌の中で唯一のんびり寝床から起き上がる。
「誤解や〜!誤解なんや〜!
「問答無用」
騒がしい朝だが概ねいつも通りだ。
ただ家族というものを生まれて此の方独りで過ごしてきたエミにとってはちょっと新鮮で、ちょっと羨ましい光景だった。
だからと言って混ざりたいとは思わなかったが。
で、本当のところは…風呂が終わり、唐巣神父は連絡は式神に任せ、横島が暴走しないか監視の為一緒に野宿する事になった。
そしてトランプやUNOなどで一通り遊び終わり、寝る事になったのだが…
「寝れん」
思春期真盛りの横島にとって拷問と誘惑以外の何ものでもない。
「ここで襲い掛かっては犬畜生にも劣る…しかし!据え膳食わぬは男の…」
厚手一枚のカーテンを隔てて異性が二人、小学生でもない限り欲と理性の天秤が揺れ動くのは仕方ない事である。
隣で唐巣神父が寝ているのが横島の聴覚には美神とエミの寝息のみが聴こえる。
「くそ〜…この縄さえ解けたら!」
そう、実は横島…簀巻き状態なのである。
しかも手足にはご丁寧に手錠までされている。
「手錠なんてされたらさすがに抜け出せねぇ」
手錠がなかったら何とか出来てしまう辺りアホのの極みである。
「これさえなけりゃ…あんなことやこんなことや年齢制限が掛かるようなことまで——ふも〜〜〜〜〜〜!」
何やら暴走しているようだ。
想像だけで悶えまくっている横島に若さを感じる。
「てあれ?手錠外れてる?しかも縄まで…時々俺ってすげぇな」
拘束していたはずの縄と手錠が地面に転がり、横島という名の獣が檻から解放された瞬間であった。
「よっしゃ、これで…ムフフフフ…いざ逝かん極楽へ!」
唯一女性陣隔てていた壁(カーテン)は脆くも崩れ、獣の侵入を易々と許してしまう。
昼間の除霊で疲れているのか、または唐巣神父の見張りを期待してなのか結界もトラップもなくあられもない寝姿が現れる。
美神もエミも横島の予備の服を借りて寝ている。
二人はゲル内が暑い為か少し大きめのランニングシャツと短パンで眠っていた。
成熟手前(この段階でかなりスタイルがいいが)の二人の胸はランニングシャツに張り付き、その形がくっきりと見える。
そして短パンは少しずり上がっており、生足がより際どく出ている。
「ハァーハァーハァーハッ——ゴフゴフゴフッ!」
あまりに興奮しすぎて咳き込んだようだ。
そして横島は何かに取り憑かれたかのようにゆっくりした足取りで美神に寄っていく。
「メ…フィス…ト」
おや?本当に何かに取り憑いているようだ。
(ち…が…う)
自分の体が違う何かに操られているかのように美神に近寄る。
「メフィ…ス…ト」
(ちが…う)
また一歩近寄る。
「メフィス——違うっつってるだろ!自主規制拳!」
叫んでいつの間にか某汎用人型決戦兵器の初号機並に暴走した股間に自分の拳を叩きつける。
「———ッ!」
自分の暴走がどれほどのものか本能的に悟り、手加減なしの拳−ナニの暴走状態=………想像しただけでもゾッとするものだろう。
股間を押さえて膝を地面に落とし、前のめりに倒れた。
「ハッ—フッ——アッ——」
呼吸が正しく出来ないほど本気で殴りつけたらしい。
なんとか呼吸を整えるが体は動かない、動くとまだ響くからだ。
「なん——やっちゅう—ねん。自分の意思以外で女の子襲うなんて遠慮願うわ」
自分の意思なら女性を襲うと言っているあたり犯罪者一歩手前である。
もっとも最近は美神と出会ってから覗きやら偶に成功するセクハラやらで女日照りとはちょっとだけ縁遠くなっている………これでも一応美神と会う前までよりはマシになっているのである。
「てかさっきのはなんや?…っとそんなことは置いといて美神さんは——てチョッ!待——ッ!」
横島がいた位置は美神が寝ている布団(寝袋は窮屈だからと却下された)の本当にすぐ傍で倒れていたのだが…事もあろうに寝ぼけている美神が横島の首に手を回して胸に抱き寄せたのだ。
だが、それだけで終わらない。
「んぎがでぎなぎ(息が出来ない)」
男的には天国、生命的には地獄。
何とかせねばともがくが力的にはまだ横島の方があるはずなのだがロックは外れず、それどころか夢の中で何か捕まえようとしているのか横島がもがけばもがくほど逃がすまいと腕に力が入る。
「ぐぴ!」
そしてトドメに横島を絞め落とし、朝までそのままの格好で寝ていた為冒頭のような事になったのである。
ちなみに式神達は何をしていたのかというと…
「む、創造主が部屋に入ったな」
「だが、美神殿には『横島が私に何かしようとしたら瞬殺しろ』って言われたからなぁ」
「うむ…まだ様子見だな」
自分だけ護って貰おうとするのところが美神らしい。
これでエミに手を手を出したらそれはそれで悔しく思うだろう。
そして横島暴走。
「あ、創造主、変なスイッチ入った」
「てかあれヤバクね?俺ら抑えれるか?」
「まあ、騒動になれば美神殿達も起きるだろ」
横島が股間に拳を振り下ろす
「うげ、創造主が!」
「またこれは奇異な事を…」
美神が横島を胸に引き寄せる。
「あ!み、美神殿…」
「おい、これはどうしたらいいんだ?」
「どうもこうも…言われたのは『何かしようとしたら』だからこの場合はどうしようもないんじゃ…」
「後で怒られるな…あ、落ちた」
「まあ、仕方ない。女性の命令無視は消滅に繋がるからな。朝、大人しく滅せられよう」
一応ロボット三原則と同じ仕組みを仕組んでいるのだ。
ただ、横島が対象に入っておらず、男に対しては若干ゆるく設定されているだけである。
「「「はぁ」」」
式神達の悩みは耐えない。
「イテテテテ、まだ首が痛む」
真っ青になった首が痛々しい…もっとも
「胸はもちろん腕も柔らかかったなぁ〜ムフフフフ」
絞め殺されかけたのに懲りないのは見て分かる。
で、今は何をしているかというと朝食(昨日の作り置き)を皆で終わらせ、美神達は他の先生達に事情説明をする為に先に旅館に帰り、横島は野宿の後片付けを終わらせて合流に向かっている所である。
「にしても…あの暴走はやばかったな」
自分がナニをしようとしたかを思い出し制御できない自分の行動に寒気を感じる。
ちょっとだけ今は近くに誰か居て欲しいと思うが周りには木や草、よくて鳥しか居ない。
「ま、考えても仕方ないか」
それで終わるが横島クオリティ。
少し真剣な考え事をしていたので、あっと言う間に旅館に到着、そして現れた光景は…美神とエミ、唐巣神父が偉いであろう先生に叱られている姿。
「………」
横島絶句中。
その光景は当然といえば当然である。
仮の教師といえる立場の唐巣神父が他の正規の先生に連絡せずに生徒を二人連れて一時的にとはいえ行方知れずになり、さらにそのまま予定外外泊、しかも野宿と色々とやっちゃっているのである。
そして美神とエミが某運命の剣の従者の直感スキルを持ってるかのように横島が着いた瞬間に若干顔だけこちらに向けて眼だけこちらに向ける。
その瞳はやっぱり某運命の乗り手の魔眼かのようだ。
横島はさっきの寒気は実はコレの予知だったのかと思うほど再び寒気が走り、全力で逃げたい気持ちをなんとか押し殺す。
なにやら口だけ動かして何か伝えようとしている美神に気づいた横島は何処で覚えたか分からない読唇術でそれを読み取る。
「あ・と・で・こ・ろ・す………い、いやじゃ〜〜!」
叫びはするものの逃げてもどうせ捕まって余計に折檻が酷くなるのはもう体験しているので、ひたすら刑の執行を待つしかないと諦めていたりする。
それから30分ほど長々と説教され続け、やっと解放されて折檻する気満々で横島に向かおうとする美神だったが説教をしていた先生に「コラァ!何処に行こうとしてる!これから授業だろ!」と首根っこを掴まれて引きずって連れ去られた。
どうやら刑の執行に猶予が出来たようだ…ただ執行される際に刑が重くなる可能性あり。
本来の合宿の予定では今日もGS補佐実習だったはずだったのだが昨日の除霊が予想を超える規模だった為、除霊道具に余裕がない状態なので実習ではなく、座禅や座学、模擬霊的格闘などが行われた。
つまりいつも学校でやっている事と変わりない…などと美神がツッコんだら先生に「これだけの霊脈で行う修行が学校と同じ分けなかろう!未熟者めが!」と叩かれ、それを見たエミが爆笑し、気が障った美神が更に…などといういつもの流れはカット。
その間横島は…目の前をうろつくご馳走、体操着姿(ブルマ仕様)の女子高生の群れに突撃するべきか、こっそり陰で堪能すべきか…と思考をそのまま口に出してしまい、たまたま近くにいた美神に聞こえて鬼ごっこが始まったりと色々あったが話は日が暮れ始めた頃へ。
「ま、こんなこんな感じ?」
「そうね、よくやったワケ」
「て、あんたも手伝え!」
美神とエミが何かの準備をしている。
実は今二人が作っているのは横島の処刑台だったりする。
「力仕事は美神に任せるワケ」
美神の額の血管が浮き、手にしていた木の丸太をエミ向いて投げる。
「ちょっ!これは洒落になってないワケ!」
「あら、ごめんあそばせ〜手が滑ってしまいましたわ〜」
続いてエミも額に血管が浮く。
女同士の争いは醜いのでカット。
「ハァハァハァ…は、早くしないと時間がないわよ」
「し、仕方ないから手伝うワケ」
結局こうなるんだったら喧嘩しなければいいのに…などと思わなくもないがこれもコミュニケーションの一種と言う事にしよう。
そして30分ほど経つと処刑の舞台が整った。
「よし、じゃあ後はあんた達に任せるわよ」
「「「は〜い、お姉さま」」」
現れたのは美神の後輩…ではない。
忘れてはいけない、この合宿は美神と同じ学年しかいない…つまり同級生にお姉さまと呼ばれているのである。
「だからお姉さまはやめてってば!」
「ま、慕われてるんだから贅沢は言わないワケ」
「そういや今夜も野宿か、そろそろ用意しないとなぁ〜」
「あら、あなた…確かお姉——じゃなくて美神さんのところの弟弟子さん」(チッ何でこんな冴えないヤツと一緒に…)
「おっねえさ〜ん方!とお茶しませんか!」
いつも通りナンパ遂行。
「あら、いいわよ。どうせなら私たちの部屋来る?」(うげ〜いつの時代の台詞よ)
「え?………ハッ!」
キョロキョロと周りを見回す横島。
ドッキリではないかとカメラを探している様子。
だが、それらしい物が見つからず?マークを頭の上に大量に浮かべる。
「どうしたの?来ないの」(てか来るな!でもそれじゃあお姉さまの作戦が…)
「…マジ?」
やっと事態が把握出来た横島は…
「今まで続けてきてよかった!人類には小さな一歩だが、俺にとっては偉大な飛躍!」
何処から国旗取り出しそれを掲げて喜ぶ横島。
「そ、そうよかったわね」
ほんの少しだけ罪悪感を抱くがお姉さまの為…と雀の涙程度の罪悪感を隠す。
「ほら、これでも飲んで落ち着いたら」
持っていたジュースの缶を横島に差し出す。
平静を失っているのか横島はそれを躊躇なく受け取り、一気に飲み干す。
いつもの彼なら更に感激しておかしな行動を取るんだろうが、今は初めてのナンパの成功で激しく動揺している。
そして…
「あ…れ?ねむ…く——」
パタリと倒れ、眠ってしまった。
「誰よ。こんな強力な睡眠薬持ってきたの」
そう、彼女達の任務は横島を眠らして連れて行くことであった。
とはいえジュースを渡した彼女はこれほどの効果があるとは思っておらず、軽く焦ってしまう。
「あ、それ私がお姉——おとと」
「あ、あんたナニに使う気だったのよ」
美神が彼女達を頼ったのは良かったのか悪かったのか、そしてこの場にいないのは幸か不幸か…それは誰も判らない。
「ん、ふわ〜…ああああぁぁぁ?!」
横島が目覚め、その眼に映った光景は…まず屋内に居た筈なのにいつの間にやら屋外。
次に気づいたのが視点、明らかに高さが自分の身長より遥かに上、そして何より…
「このご時世に魔女狩りっすか?!ん?俺は男だから異教徒狩りか?」
十字に組まれた木に手足を括られ、張り付けにされているのである。
「失礼ね」
もちろん声の持ち主は美神、そしてよく見ると全生徒が集まっているらしい。
ただし先生達の姿が見えない。
「あ、美神さん助け——「キャンプファイヤーよ」——て…て、えぇ!いや、確かに定番のイベントッスけど!」
元々キャンプファイヤーには親睦の火や儀式の火などのと呼ばれる。
「つまり今回は邪(横島)なものを払おうって儀式なわけよ。ついでに獣(横島)除けにもなるしね」
「…mjd?」
うんうん、と一同が一斉に頷く。
他の生徒はともかく、美神はもちろん嘘である。
美神の折檻…というかマジで処刑っぽいが折檻なのだ。
「あの〜いくら丈夫でも創造主が死——「ファイヤ!」——力及ばない私をお許しください」
珍しく横島の味方をする式神だが聞く耳持たず、点火される。
「萌えあが〜れ萌えあが〜れ俺!…いやじゃ〜!」
歌を歌っている辺り余裕があるのか?
「大丈夫よ、死体が残ってたらカ○ト寺院に行けば蘇れるから」
「いやいや、そんなところないっすから!もしあったとしても消滅する可能性が——「横島クンなら灰になったぐらいなら自力で復活できるでしょ。さて、みんな踊るわよ」——ええ〜!」
マイム・マイムが流れ、美神達は踊り、横島は贄にされて合宿の最後のイベントを楽しく?過ごした。
「ふ〜これで家にやっと帰れるわね」
「やっとオタクと顔を合わせなくて済むワケ」
「それはこっちの台詞よ!」
また不毛な喧嘩を始めようとした時、ノックの音が鳴る。
「この時間誰かしら?カギ開いてるから入ってきていいわよ〜」
「失礼します」
入ってきたのは式神達だった。
「あら、どうしたの?」
呼ばない限り横島のセクハラ防止機能として働いている式神が自分達に会いに来るなんて事はなかったのでちょっと戸惑っている。
(まさか横島がまた変なこと考えてるんじゃないでしょうね)
だが、美神の予想とは違って式神達はいたって真剣な眼差し。
「今日はお別れを言いにきました。短い間でしたがお世話になりました」
「「お世話になりました」」
綺麗に列に並びお辞儀をして早々に入ってきたドアか出て行こうとする。
「ちょ、ちょっと待ちなさいって」
それを美神が呼び止める。
もちろん律儀な式神達は足を止めて振り返る。
「どういう事なのよ。なんでお別れの挨拶なのよ」
「私達の依り代が限界でもう形を保てる残り時間が少なくなってるんです」
霊力的に余裕があるにも関わらず、核となる依り代が耐え切れないなんて普通の式神では考えられないので予想外だった美神は心の中で舌打ちする。
(また横島クンはこんな非常識な事を…エミになんて言って誤魔化そうかしら…フォローする私の身になりなさいよ!)
なんて思ったりするが姉弟子としてちょっとだけ面倒を見るのも最近は楽しかったりする…ちょっとだけだが。
「そっか…世話になったわね。今度はいつ会えるかわかんないけど元気で…て言うのも変か」
「それは創造主次第ですね。我々の存在は創造主が式神として記録してくれたならまた会えるでしょう」
「そう…」
「いっそ美神が忠夫に言ってあげたらいいんじゃない?」
さり気なく名前で呼んだ事に反応し掛けたがそこへツッコミを入れると自分がピンチになると直感的にわかった美神はそこは無視し、頭を振って否定する。
「それは無理ね。陰陽師にとって式神は身を守る盾であり剣でもあるのよ?私達の我侭で横島クンの武器を勝手に選ぶわけにはいかないわ」
「美神…オタク…まさか惚れ——ダッ!何すんのよ!」
エミの喋っている最中に美神は頭と顎をもって無理やり口を閉ざさせる。
そしてまたお決まりの喧嘩へと移行しようとした、その時。
「「「あ、限界が来たようです」」」
「「え?あ…」」
足が消え、胴辺りまで消えた所で核である依り代が見えたがそれも一瞬で、消えていった部分と同じように依り代も灰となって散っていく。
「「「では、お元気で」」」
「ええ、貴方達も」
「今度会えたらガードマンとして雇ってあげるワケ」
「「「その時を楽しみにしてます」」」
そうして式神達は消えていった。
その頃横島は…灰となっていた。
「あ〜死ぬか(以下略)端折るな!」