「お〜ご苦労さん」
軽い態度で労を労う横島。
「それは俺の台詞だ!」
そして答えるのも横島。
ドッペルゲンガー…つまり横島はもうすぐ死ぬって事…じゃなくてアリバイ作り用に家と学校に通っていた式神である。
そう、合宿から帰ってきたのだ。
「ほい、これに全部書いてあるから後は頼むわ」
「おう、お疲れさん」
自分がどういう事をしたか事細かく書かれているであろう日記を投げ渡し、ポンッと煙を出して何の躊躇もなく消える。
非戦闘用式神(この式神)は汎用式神(ボンノウレンジャー達)と違って性格までコピーしている反面、横島には忠実に従う普通の式神の面も持ち合わせている。
「さて、公園にでも行くか」
今は学校からの帰りなので本当は時間がないのだが状況把握を優先…なにせ命が掛かっている。
そして公園に着き、早々に日記を開く。
「あ〜あいつと遊ぶ約束したのか…うお!1万円拾ったってマジで?!ラッキー…おいぃ!ドラマのネタバレすんな!ああ!今度はマンガの——」
色々書いてはいけない事が書かれているらしい。
だからといって読まないわけにはいかないので泣く泣く最後まで読む横島であった。
その甲斐あって親や先生に友達までバレずにすんだ。
ただ、グレートマザーが何やら疑っていたようだ。
下手な霊能力者より良い直感してないか?!と横島は冷や汗が止まらなかったらしい。
さて、ここから大きく形式を変えます。
決して作者が本編を早く書きたくてショートカットしたとかじゃない!!
〇〇月××日
今日から日記をつけることにした。
何故かというと某理想郷のXXX板にあったヨコアスとい
〇〇月××日
なんか知らんけど知らん間に倒れてた。
初日から中途半端な日記になってもうた。
〇〇月××日
今日、学校の帰りに知らんじいさんと可愛いお姉さんと会った。
お姉さんはあのじいさんの孫なのだろうか?
どうやら迷子のようだ。
そのお姉さんにナンパしたら腕が飛んできた。
最近のオートメイルは進んでるな〜
〇〇月××日
最近陰陽術の研究が楽しくて仕方ない。
なんて思っている事に気づいた俺はいつからこんなヒッキーになったんだ?と思い、外にウィンドナンパしに出かけた…までは良かったんだが最初にナンパしたのがまさか美神さんだったとは…
〇〇月××日
厄珍から女性型式神の催促の手紙が着た。
仕方ないからとりあえず未完成でもいいから送ってくれとの事だったので送ってやった…『フシュルルル〜〜ッ』と息をする一応(ここ重要)女性型の式神を送ってやった。
未完成でもいいなんて言った事を後悔しやがれ。
〇〇月××日
今日改めて美神さんに言われた。
事務所を開いたら私の所で働かないかって。
そんな急に…って事はないけど、本気で言っているとは思わなかった。
早くても俺が高校になるぐらいだそうだから慌てなくてもいいと言われた。
最近美神さんの身体にメリハリができ、更に綺麗になっていく…断る理由はないな…将来の視野には入れておこう。
とりあえずプロポーズと受け——とまで言ったが最後、その後数時間の記憶がない。
〇〇月××日
今度は厄珍から小包が届いた。
この前の仕返しかと思いながらも慎重に開けていくとまず包装紙と箱の間に手紙が挟まっていた。
どうせ碌な事は書かれていないだろうと高を括って開けて読んでみると…まさかの追加発注だった。
確かにあの式神は普通の『力』を発揮する分にはそこら辺のケント紙で創られたインスタントな式神なぞより強いだろうけど…転んでもタダでは起きないとはこの事だな。
そして箱の方は結構な量の上質な紙と墨汁と小さな瓶に砂…手紙には精霊石の粉末と書いていた…が精霊石とはなんぞや?…が入っていた。
これを使って作れとの事らしい。
残りは研究に使っていいとの事…頑張るか。
〇〇月××日
あ〜肩凝った!
2日で終わらすのは無理があったか?
ねむ…寝よ
〇〇月××日
色々考えて決めた。
とりあえず美神さんの所で働ける事を目指す。
と言うわけで勉強しなくちゃな。
「母さん」
「ん〜どうしたの〜」
TVの前のテーブルで煎餅食べているまったりモードの母、百合子が気だるそうに返事する。
「オヤジって確か結構やり手のサラリーマンなんだよな?」
「そうねー(私ほどではないけど)そこそこ有能よー…でどうしたのよ?忠夫が父さんの事聞くなんて」
確かに横島が男の事を聞くなんて事はほとんどないのだ。
「それが友達が真剣に将来事務所開くって言っててさ。それで何を勉強したら言いか聞こ——「え〜っとまずあれと、これもいいわね。あ、ついでだから会社の実績データ黒崎君に頼んで持ってきてもらって」——て母さん?!」
先ほどまでテーブルの上には煎餅しかなかったはずなのにいつの間にか何十冊もの本…そのうちの一冊に紅井流帝王学なるタイトルがある。
一応言っておくと紅井とは横島百合子の旧姓である。
あーでもないこーでもないとか言っているかと思うと次の瞬間には電話で誰かに何かを伝えている。
「か、母さん?」
戸惑った口調でもう一度親を呼ぶ。
口元でシィーッと人差し指を当てて黙れと言われ、仕方なしに大人しく待つ横島。
(もしかして地雷を踏んだか?いや、どっちかというと死亡フラグ?)
自分の発言に後悔するが…当然もう手遅れである。
電話が終わったのは30分後だった。
「で、どういたしたのですか母上?」
なんだかとっても嫌な予感が全開な横島は逃げたい思いを抑えて聞く。
「もちろん忠夫の勉強に必要な物揃えてたのよ。さぁ私が教えてあげるから頑張りなさい!」
「え、ちょっ!」
こうして横島の不用意な一言によって地獄すら生温いと後に知り合った鬼すら震え上がる日常生活が始まった。
〇〇月××日
やっと日記が書けた。
あれから1週間…まだそんなもんか…死ぬ…
学校の帰り、教会に来ない俺を心配してくれたのか(そんな事ないか…自分で書いてて凹むわ〜)珍しく美神さんが俺の学校の校門まで迎えに来てくれた。
どうしたんだろ?用事かな?と思うがあまりツッコムと殴られるから言わなかったけど正直嬉しかった。
だが、それも束の間であっという間に別れる時間になり、これからしばらく教会に行けない事を伝えた。
〇〇月××日
最近は夢の中まで損益計算書や貸借対照表を書いている。
寝てるんだけど寝てる気がしない。
〇〇月××日
明日テストするらしい。
もちろん母さんが出す。
これに合格すれば週に1日だけ自由くれるらしい!
これは是が非でも獲りにいかなくてわ!
〇〇月××日
まずはテストの内容を書いておこう。
一枚の見積書を渡された。
その見積もりを出来る限る削減を試みなさい。
なんとか8000万ぐらい削った。
次は事業計画書とそれを作成するのに必要なデータを渡された。
これも同じクリア条件。
きつかった。
〇〇月××日
ギリギリ合格を伝えられる。
これでやっと美神さんところに行ける。
そういえば今日学校でもテストがあった。
点数は…平均点93点。
いやまあ…驚きませんよ?
家での勉強は会計とか経営論とかだけじゃなかったからな?
海外での活動も考えて英語。
文化、歴史知らずして商い出来ずという事で社会。
数学は言わずもがな。
古文漢文はスラスラなんでパス。
理科…これが少し悪かったがそれでもそこそこだ。
一応母さんにもテストを見せたが…リアクションは特になかった。
〇〇月××日
今日は休みだ!
だが母よ。なぜ休みが水曜なんだ?日曜日にしてくれても良かったではないか!
と言ったのは覚えているがその後の記憶はない。
とりあえず久しぶりに美神さんと顔をあわせたが…期待はしてなかったけど何のリアクションもなかったorz
そういえば唐巣神父が痩せてた気が…なぜだ?
ここで横島が百合子に半監禁状態が始まって少し経った頃に巻き戻ります。
(あいつ…今日も来ないわね)
もう連絡なく来なくてなってからもうすぐ一週間経とうとしている。
確かに今までもこれぐらいなら来なかった事はあった。
こういう時は大体セクハラの下準備と相場は決まっているのだが…今回はそういった時間をかけるセクハラの下準備をするほどのイベントがない。
そこが疑問の始まりだった。
近いうちに何かあるのかと思った美神はそうならば今から手を打つべきだとまずは自分の身近を帖佐…ちげ!調査開始。
だが結果は何もなし。
横島の同級生を縛りあげ…ゴホゴホ、拳で語り…ゴホゴホ、まあ、聞き方はどうあれ横島の身の回りでもないらしい。
一応もうすぐテストがあるとは言っていたが…横島のキャラ的にテスト勉強という感じではないので違うだろうと美神が勝手な結論を出す。
「どういうことかしらね」
首を傾げる。
ちなみに苛立ちが声にハッキリと出ている。
そんな苛立ちのオーラで揺れる教会に唐巣神父は美神を見ないようにして掃除をしている。
裏がないのは余計に怪しく思えて仕方ない美神は次は何を調べようかと頭を働かす。
「み、美神君」
「はい?」
今邪魔すんなゴルァ的視線で射抜く美神にビクッと若干引く唐巣神父。
「美神君お願いしたい事があるんですよ。分かっているとは思いますが最近横島クンが続いて休んでいるんで様子を見てきてくれませんか?」
「え?え、えぇ、分かりました。仕方ないヤツね〜」
美神本人は隠していたつもりでも唐巣神父は美神の悩み事は分かっている。
唐巣神父的にも横島のセクハラは見逃せないので抑制ができるならその方がいいだろうという思いもある…がもちろん美神が思い悩んでいる事の解決の糸口のつもりでの提案である。
「じゃあ明日学校の帰りに寄ってきます。だから来るのが遅くなります」
「はい。わかりました」
にこやかに、そして心中ではホッと一息つく。
(これで少しは落ち着くでしょう)
唐巣神父の苦労は絶えない。
翌日。
(横島クンまだかしら)
校門を背もたれに他の者にも分かるぐらいに誰かを待っている。
ちなみにここは横島の学校…つまり中学校なのだ。
美神が…というより高校生が校門で誰かを待っている、しかも美人となると騒動にならないわけがない。
男達は色めき立ち、女達は男達の行動を見て軽蔑する。
先生達は不審者?とはいえ相手は女と言う事で対応に困っている。
美神はと言えばそんな周囲の事など全く無視、というより視界にすら入っているか怪しい。
そして騒ぎに気づいてという訳ではないが、横島が玄関から現れる。
「ん?なんだあの人だ…か……り、あれ?美神さんこんな所でなにしてンスか?もしかして俺を迎えに来てくれたンスか?!いや〜これは告白としか——ぐは!何曝すん——「横島!あのお姉さんとはどんな関係だ!」——美神さんとは——「横島テメェ!生徒の分際…いや、中坊風情が女連れたぁいい度胸だ!」——ちょ、先生が生徒になんて——「あんた一体お姉さまをどんなネタで脅してるの!」——誤解や〜誤解なんや〜」
男子生徒、体育教師(独身)、女子生徒に取り囲まれてもみくちゃになる横島。
それに気づいた美神が動く。
「ホラホラ邪魔邪魔。そいつに用事があるんだから退いた退いた」
教師だろうが男子生徒だろうが女子生徒だろうがポイポイっと放り投げて横島を掘り出す。
「美神さん助かり——「ほら、いくわよ」——いいいいぃぃぃ!」
とりあえずその場から離脱。
後日、男子生徒と体育教師が横島に尋問しようとしたが体育教師は教頭に見つかり説教され、男子生徒は女子生徒の冷たい視線に気づき慌てて解散…なんて事は余談。
「それでどうしたんですか美神さん?やっぱ愛の告は——ゴフッ」
「んん〜やっぱこれよね!」
今までのイライラの全てを乗せた思いっきり、手加減無しのブローがめり込む。
そして美神はカ・イ・カ・ン的な表情を浮かべる。
事態がよく分からない横島ただただ転げまわる。
「痛いじゃないっスか!内臓破裂するところでしたよ!」
と言っている割には元気そうである。
「で?」
「え?なんスか?」
「言わないと分からないわけ?」
「はっ!美神さんのパンツを覗いたからであり——」
次の瞬間横島は地面にめり込んだ…でここで思うんだがよく道路とかでそういうシーン見ますがあれって誰が修繕費払ってるんでしょうね?
横島は首をどうにか引っこ抜き、素早く土下座する。
その様はだんだんと慣れてきている感がある。
ギロッと睨みつけると美神は続きを促す。
「で?」
先ほどのプレッシャーとは比にならない…ニュータイプで例えるならカ○とシャ○ぐらいの差だ。
今度こそ期待通りの答えでなかったなら…
(死!)
「美神さんの事務所で働く為に勉強していたであります!」
「ハァ、嘘はいいから早く言いなさい。今のはさすがに聞かなかったことにしてあげるから」
ガチで言ったのに微塵も信じてもらえませんでした。
教訓、日頃の行いが大事である。
「閣下!本当であります!こちらをどうぞ!」
「…」
そう言って出したのは授業中にも勉強しろとの母上の命により授業の写しすらせずにやっている問題集(母上お手製)だ。
そこに書かれている物は…明らかに中学生が勉強するようなレベルではない。
それが分かっても尚信じられないと言った表情で困惑している美神に横島は肩を落す。
「美神さ〜ん、俺もそれなりに真剣に考えたんスよ?危ない仕事は嫌だから断ろうとか」
そこで美神の身体がビクッと跳ねたが横島は気づかない。
「でも美神さんの身体も捨てがた——イ、イタイッス、まあ、色々考えた結果とりあえず危険が少ない事務仕事でも引き受けようかという妥協点を見出した訳っすよ!」
(なるほど…確かに横島クンの霊能から考えると後方支援が向いてる…だが、何より除霊中にセクハラで邪魔されて死ぬ…なんて洒落になんないわね)
一瞬自分の未来のようなものを視てしまった美神はそれを忘れる為に頭を横に振る。
「え…ダメッスか?」
「あ、そうじゃないのよ。ん〜確かに良い案だとは思うんだけど…」
「何か問題があるんスか?」
「横島クンの修行になんないでしょ?」
「いや、俺別にそこまで強くならなくても…」
元々、変に霊能に目覚めたので悪霊やある程度の知識を得て覗きに使いたい程度な横島に取って危険ではない修行ならともかく実戦はいくら前世の記憶があるからと言ってもさすがに腰が引ける。
「それに事務だけだと給料が安いわよ?」
「お金にそれほど執着はないッスけど…」
いくらアダルティなグッズやビデオやゲームなどは欲しいがGS助手の給料がいくらか知らない横島だがGSへの依頼料から考えると助手でもそれなりの金額が貰えるのだろうと想像がつく。
むぅ、と美神は小さく唸る。
(なんだかとっても自分が汚れてるみたいじゃない!横島の方が汚れ役のはずなのに!)
とりあえず一発殴っておく。
「分かったわよ。で、いつ教会に来るの?」
本音は何時になったらあんた殴ってストレス発散できるのよ?である。
「それが予定が立たないんスよ。今スケジュール決めてんの母さんなんで」
ちなみにうちの最高権力者ッス、と付け加える。
「そう…じゃあ先生には私から事情を伝えておくわね」
横島は苦笑を浮かべて、お願いします、と頼んだ。
それからしばらく会っていなかった間の事で話が盛り上がり、どうせだからと喫茶店に入り雑談して別れた。
美神は横島が自分の事務所で働く事が決まった事で終始機嫌が良く、何より——
「いやいや…何を考えてんのよ私、そんな事はありえないっての」
横島(高島)に会えて嬉しい。
最後にけちが付き、不機嫌になって帰路につく美神であった。
横島は横島で後日、喫茶に入ったのも同級生に目撃され、嫉妬の波に飲まれたとか飲まれなかったとか。
「で、横島クンの様子はどうでした?」
ニコニコ動…じゃなくて笑顔で迎える唐巣神父にちょっと…いや、結構ムカツク。
とりあえず事情を説明する。
そして更に笑顔で
「良かったですね。美神君」
それが限界まで水を貯めたダムへの集中豪雨。
つまりキレた。
「うが〜〜〜!何言ってるんですか!」
素早く神通棍を取り出し、九○龍閃が如き連打を叩き込む。
そして脱兎が如く逃げ出す。
「………」
ただの屍のようだ。
その倒れている様、横島ほどではないが似合っているGS美神のキャラで他に居まい。
そして横島が教会を訪れるまで美神が教会には来るものの修行以外の何もかもストライキを起し、唐巣神父は餓えるハメとなった。
それを知った横島は唐巣神父にこう言ったらしい。
「神父としては一流だが大人としては二流だ!」
まあ、いい大人が健康管理しない、収入が少ないでは言われても仕方ない。
これがトドメとなり、しばらく唐巣神父は床から起きれなかった。