袁隗ばあちゃんの家に来てから早三日、仕事もせずにのんびり過ごしておる。
昨日魯粛から早く帰って仕事して下さい的な手紙が来たが華麗にスルー、多分大丈夫じゃ…何がどう大丈夫なのか吾自身も分からぬが大丈夫じゃ。
うるさい小姑がおらんから今日は街へ出かけておる。
南陽の宛も最近は活気溢れる街となったがやはり若干シルクロードから外れておるのと洛陽は帝の膝下なだけあって珍しい物が多数ある。
珍しい生き物やそれの革製品、不老不死の霊薬(笑)など見ていて飽きぬ…まぁ最後の珍品を売っておった商人は警邏隊に連行されて行ったから処刑は免れんじゃろう、明らかに詐欺じゃからな。
不老不死の霊薬って確か水銀だったかの、水銀があるなら何かに有効活用出来ないかと思ったのじゃがパッと思いつく使用用途は体温計と蛍光灯、電池ぐらいか…どれも作り方が分からぬ。
原作に登場する阿蘇阿蘇なども売っておる。その阿蘇阿蘇がなぜ紙媒体の書物をあれだけ安く多く発行されているのか疑問に思い、影達を使って調べてみたのじゃが未だに発行元が掴めぬ。
それにしても久しぶりの休暇も堪能したしそろそろ帰るべきかの〜もうそろそろ帰らぬと魯粛か七乃、ひょっとすると紀霊が迎えに来るやもしれんし程々にして帰ら…
「ん?」
何やら見覚えがある背中姿がおったが…もしかしてもしかするのか?そういえばあの者はこの界隈の出身であったか、それなら不思議ではないがこんな思し召しがあるのじゃろうか。
慌ててその者の背を追いかけ、声を掛ける。
「そこのお姉さん、少し聞きたいことがあるのじゃが」
するとキョロキョロと周りを見た後、吾を見て自分か?と視線で吾に聞いてきたのでそれに頷いて答える。
自分で声を掛けておいてなんじゃが正直ナンパしてるようにしか聞こえぬな。
「何か御用でしょうか」
分かっておったとはいえ話し方が固いのー…っと、そういえばこの前賈駆で思ったではないか、吾はいいとこのお嬢様の格好をしておるのじゃから宦官でも軽くは扱わんはずじゃ。
ふむ、そう考えたなら賈駆の見識は宦官以下なのか?…いや世渡り上手な宦官は優秀だとは思うがの、身の保身に関しては。
「うむ、吾が見たところおぬしは腕が立つようじゃが誰ぞに仕えておるのか?」
「確かに腕に覚えはありますが未だ仕えたことありません」
「何と勿体無い。そうじゃ吾に仕えてみんか?客将でもよいぞ。どこぞに仕官するつもりでおるのじゃったら軍を率いる経験は積んでおいて損はないし、何なら吾が紹介してやっても良いぞ」
「ありがたい申し出ですが今は仕官するつもりはありません。申し訳ありません」
まぁそうじゃろうな
三国志で一番の有名人じゃし忠義者としても有名なのだからそう簡単に靡かれても困るがチャレンジ精神って大事じゃと吾は思うんじゃ。
「ちなみに俸禄は一万貫なんじゃが」
「は?」
「む、もしや興味がでたか?ならば一万五千貫…いや、ここは切り良く二万貫——「ちょ、ちょっとお待ちを」——ん?どうしたのじゃ」
「す、すすす少し落ち着きましょう」
落ち着くのはおぬしじゃ、吾は至って冷静じゃ。
「客将にそんな馬鹿げた俸禄なんて聞いたことがございません。私をからかっておられるんですね」
気持ちは分かるが前提条件が違うわ!100%勝つ博打をやらぬ阿呆はおらんじゃろ?それと同じじゃ。もっとも劉備辺りは博打なんぞせんかもしれんがな。
もし仕えるのが一時であったとしても恩は売れようし無駄にはならぬはずじゃ。
さて、吾が切れる最後の札を受けてみよ!
「ちなみに月俸じゃぞ」
「仕えさせていただきます」
むはははは、世の中金じゃ、金。
………いや、まぁ、何というか正直こんなやり方で仲魔…ゲフン、仲間になるとは欠片も思ってなかったのじゃが…もしかして吾の原作知識ってもう既にあてに出来ぬぐらいの誤差が生まれてしまったいるのかや?!
別にいいがの、正直恋姫のシナリオはそもそも一刀を中心にした身の回りの将とのイチャラブがメインで戦闘イベントはそれほど重要なことはないし、そう簡単に変わるものでもないしの。
黄巾の乱、反董卓連合、赤壁の戦いぐらいしか大勢に影響がないのじゃから…これが魔砲少女や龍球みたいな世界の危機やパワーインフレが激しいと怖いがな。
「うむうむ、先ほどもちらっと申したが別にずっと吾に仕えよという訳ではなく客将待遇、つまりお試し期間じゃから安心して仕えるが良い…おっと名を名乗っておらんかったな、吾は姓は袁、名は術、字は公路じゃ。よろしく頼むぞ」
「ははっ」
(しまった。最近生活が苦しすぎて勢いで仕えてしまった…しかも袁術といえば南陽の虐殺太守と噂されている…)
「やったーこれで紀霊の仕事が減って吾の仕事も減るのじゃ〜」
武官が少なくて大変じゃったからなぁ、呉景や孫賁の二人は武人であって武官には向いておらんのじゃ。つまりデスクワークが苦手なのじゃ。
全く、類は友を呼ぶと言うが脳筋には脳筋が集まるとでも言うのじゃろうか?…そういえば吾の所は表面は脳天気、中身は腹黒な者が多いが…まさかそういうことなのかや?!
(ないな。こんな子が虐殺何て…それに虐殺太守と同時に南陽は景気が良いと聞くし…ひょっとすると良き太守なのかもしれん。存外悪い選択ではないかもしれん)
「して、おぬしの名は何と申すのじゃ」
もちろん吾は真名まで知っておるがさすがに口にはせんぞ。まだ死ぬ覚悟は出来ておるが好き好んで処刑台には立ちとうはない。
「はっ、これは失礼いたしました。私の名は———」
「七乃〜魯粛〜紀霊〜今帰ったぞ〜それと良い物拾ったぞ〜〜〜」
「お嬢様!寂しかったですよー…」
「あら、袁術様、お帰りなさい…」
「おかえりなさいませお嬢様…」
「「「それで隣の女性はどなた(ですか)(でしょうか)?」」」
「うむ、実は洛陽で拾った——」
「姓は関、名は羽、字を雲長と申します。客将という身ではありますがこれからよろしくお願い致します」
改めて髭神様GETなのじゃー!もっともこの世界では美髯公ではなく美髪公じゃがな。
………スカウトしておいて今更なんじゃが良かったのじゃろうか?張飛が一緒でない所を見るとアニメ版の展開ではないことは分かるし、ゲーム展開では初期から一緒にいたが今の現状では出会う前であることも分かる。問題は関羽と張飛がいつどういう風に出会ったのか、という事じゃ。
もし飢えて死にかけている張飛を関羽が助けたなどといった出会い方であった場合最悪張飛は……まあ、考えても仕方ないかの、死んでくれた方が何かと都合が——ゴホン。
拾えれば拾えたで嬉しいが問題は張飛の出自が北側、確か幽州だったはずじゃから無理かのぉ。
ついでに劉備も出自は同じだったと記憶しておるが…なぜ関羽だけ出自が違うんじゃろう。さすがにそういう知識は無い。
まぁ劉備は拾えるなら拾うが役に立ちそうにないので売しゅ——花を売ってもらうとしよう…いやさすがに人道に外れ過ぎか?それに変に信者が増えて乗っ取りなんてされては悪夢じゃし大人しく処刑でよいか。
「お嬢様は本当に拾いものをするのがお好きですね。張勲然り孤児然り小次郎然り蜂蜜然り」
色々拾っておる自覚はあるが蜂蜜は採りに行ってるのじゃ!拾っておるのではない!
そういえばこの前の報告では孤児を引き取り始めてこの前五千人突破したと聞いた時には驚いたものじゃ…いや、孤児を引き取った事よりそれを全て面倒見てもなお余りある金の方に驚いておるんじゃがな。
投資する→金が増える→投資する→金が増える→投資………というループが止まらぬ。
袁家というのは黄金律が備わっているらしいの、史実ならばカリスマのスキルを持ってそうじゃがな…あ、袁術にはカリスマなんぞないか、あったとしてもカリスマF(笑)じゃろうな。
最近は投資や新たな商売を広げる手段に困っておる。
中国人らしく富とは独占するもの的な考え——ん?日本人もあまり変わらんか、資本主義なんぞ富の独占を目的にしたようなものじゃ——もあるがさすがに吾が消費せず蓄えては冗談抜きで南陽周辺地域が干上がってしまうので消費せねばならんのじゃが問題は消費しても増えるというループから抜け出せぬからあっちに手を出しこっちに手を出しと色々やっておる。
話が逸れたな。
「紀霊さん酷いですよー事実でも言っていい事と悪い事があります!」
「何、お前はお嬢様に拾われる事がそんなに嫌だったのか」
「そんな訳ないじゃないですか!お嬢様命の私を舐めないで下さい!」
「なら何が言いたい」
「うっ、うううぅぅぅ、お嬢様〜紀霊さんが虐めます〜」
涙目で抱きついてくる七乃をニヨニヨしながら頭を撫でながら言う。
「気のせいじゃ」
「お嬢様まで冷たい?!」
もちろん冗談じゃがな。
最近は七乃をからかって遊ぶのがマイブームじゃ。
(本当にここは大丈夫なのだろうか)
と言いたげな表情が出ておるぞ。関羽。
全く、原作通り考えていることが分かりやすいが奴じゃのぉ、今は客将じゃからそれでも良いがもっと偉くなった場合は後々面倒なことになるぞ。
しかし…この空気に慣れぬようなら残念じゃがそのうち関羽は出て行くやもしれんな。義理堅い彼女じゃから黙って出て行くような事はせんじゃろうが…劉備は早い内に暗殺でもしておくべきかの?
ぶっちゃけ苦労という意味では吾と劉備ならそんなに変わらないと思うぞ。
「では仕事の話はほとんど魯粛に任せておるから分からん事は魯粛に聞けば良いぞ。軍の事に関しては紀霊の方が専門じゃ。七乃——張勲は吾の事じゃったら大体知っておるから吾に用事があったり疑問がある場合張勲じゃな」
「はあ」(最後のはどうなんだろう。もちろんお互いを知り合うのは必要ではあるが第三者に聞くのではなく本人に聞けば良いのでは?)
「後やっておくことは———」
「新たな将が入ったならばやることは一つでしょう」
ん?何かあったかの?しかも何やら紀霊からめっちゃオーラが出ておるぞ。いつの間に念を覚えたんじゃ。すると何か、呂布は強化系だとでも…ピッタリすぎて笑えんわ。
では吾は変化系じゃろうな、水見式で本来は味しか変わらないはずじゃが頑張って蜂蜜に変えるぞ。ちなみに諸葛亮と鳳統は変態系じゃろ常考。
「ではこちらへ」
そんな下らない事を考えておったら紀霊が関羽を先導するように部屋を出て行く。
しかも関羽も察したのか後ろ姿には紀霊と同じようなオーラを発しておる…だからおぬし等はいつから念を———
「ハァッ!」
「ッッ!」
一体何が行われるのかとドキドキしておったんじゃが何のことはない。ただの腕試しのようじゃ。
まぁ二次小説のテンプレ展開じゃから半ば予想しておったが正直半信半疑(初対面同士でいきなり模擬戦するか?的な意味で)じゃったがな。
どこかのポケットの中のモンスターじゃないんじゃから…まぁ賭博ではないだけマシかの、あの世界はなぜか戦って勝てば小遣いくれるという謎の経済じゃからな。そういえばリリカルな魔砲な二次小説でも父親と兄に挑まれるってテンプレがあったのぉ。
紀霊は武官でもあるが武人でもあるので関羽の武が気になって仕方ないというのと関羽もそれに呼応するという感じに応じたのが真相じゃ。
そして今二人は吾から見れば死闘じゃが本人達からすれば模擬戦という分かっておったがレベルが違うなんて言葉で収まらないような格差で収まらない戦いが行われておる。
お互いの獲物が弾き合う音が某アニメのOPを思い出すの〜キンキンキン!と。
「二人とも野蛮人さんですねー今度から暴れ馬と鬼眼って呼びましょうか」
なるほど、ポニーテールの関羽は暴れ馬で初対面じゃと怖い印象を与える釣り目の紀霊が鬼眼か、なかなかいいかもしれんな。
「ところで七乃よ。こういう諺を知っておるか。口は災いの元、雉も鳴かずば射たれまい」
ほれ、関羽と紀霊がこちらを睨んでおるぞ。
手は止まっておらんが…おぬしらどうやって斬り合っておるのじゃ?
「大丈夫ですよぅ、これで暴力なんて振るったらそれこそ野蛮人じゃないですかー」
ほう、一応考えてはおったようじゃな。
そしてその言葉を聞いた二人がまるで八つ当たりをするかのように力強さと速さが増し、本当の殺し合いのようじゃ…二人とも愛用の武器でやりあっておるんじゃから程々にのするのじゃぞ。
と言うか何で真剣でやってるのじゃ?刃引きした物でいいじゃろ…
「本当の実力は本物でないと分からないと仰られて」
魯粛も困った顔をしておる所を見ると一応止めはしたんじゃろうな。
あの二人が言葉だけで止まらないのは吾も知っておるが…いや吾が言えば紀霊は止まるじゃろうがしばらく不機嫌になるのは目に見えとるから止めたりせんがな。
「それにしても紀霊さんは以前から強い事は知っていましたがこれほどまでとは思いませんでしたが袁術様の拾ってきた関羽さんもかなりの腕前ですわね」
むしろ吾が驚いたのは関羽が強い事ではなく、紀霊の強さになんじゃが。
確かに演義基準でいえば紀霊が関羽に匹敵しててももちろんおかしくはないが…やはり紀霊は史実でも演義でも脇役というかちょい役でしかなかったイメージが強いからのぉ、軍を率いる分には信頼しておったが個人の武も信頼できる事が分かって嬉しいぞ。
もっとも一番の要因は配下に加える前まではただの吾付きの侍女がこんなに強いなんて思うものか。
恐らくではあるが母上自身のボディガードを兼ねておったのじゃろうな。
まさか……まさかとは思うが母上が華琳ちゃんと
「後は軍を率いる事が出来たなら武官の期待の星ですわね」
負のループに捕まりかけていた吾に魯粛が声を掛けてくれて負の思考から抜ケ出スコトニ成功ス。
「そうは言ってものーあやつは客将じゃからな。いつ呆れられて出て行くか分からんし」
「あら、あの方は義理堅そうですから大丈夫だと思いますよ」
それはどうじゃろ。
この世界が二次小説の世界かそれを多少でも影響受けておる場合は北郷が拾われる勢力は蜀であることが多いからの、もし蜀に拾われて関羽が会うことがあれば…うん、普通に寝返りそうじゃ。
これが前世で流行っておったNTR(寝取られ)というやつか?!
劉備だけならば今のうちに『皆が笑顔な世界』などという反吐が…ゴホン、虫唾が走るような妄言を信用せぬよう調きょ———躾られるじゃろう。たぶん。
後は孫家が独立戦争を仕掛けてきた時にあちら側に引きぬかれぬよう気をつければ大丈夫な気もする。
「せいっ!」
「ふん!」
それにしても庭が凄い勢いで耕されておるのーいっそ何かこのまま植えてしまうか?ヨモギとかドクダミとか薬になる植物がいいかもしれんな。緊急時には役に立つ…と何処かの小説で読んだが具体的にはどうするか分からんが傷口に塗って揉んで飲んだらどっちかは効くじゃろ。
蜂蜜と一緒に飲めば飲みやすそうじゃし一石二鳥じゃ!
「多少五月蝿いですけど平和ですねー」
「そうですわねー」
「なのじゃー………王手」
「あら?」
ちなみに吾は七乃の膝の上で魯粛と将棋を打っておった。
最初は将同士の戦いなんぞなかなか見れんから真剣に見ておったんじゃが既に1時間以上経過しておるのでさすがに飽きてきてこの状態になったのじゃ。
もちろん蜂蜜は片手に持っておるぞ。
あまり興味が無いかもしれんが吾対魯粛の勝率は大体3割じゃ。
華琳ちゃんより手強い…と本人に言ったら最後、きっと絶によって吾の首は物理的に飛ぶじゃろうが魯粛の腹の底の見えなさは半端ではなく、逆に華琳ちゃんの性格は長い付き合いで熟知しておるから戦いやすいんじゃよ。
今回は本当にギリギリ勝利を拾ったがな。
「本当に袁術様は強いですね。他の人には負けたことありませんのに」
「魯粛にそう言ってもらえると自信がつくのぉ」
次は吾お手製の人生難ばかり
マジか?!まさかの大金星!紀霊TUEEのじゃ?!もしかして転生オリ主って紀霊なのではないのか?
「参りました。くっ、まだまだ修行が足りないようです」
「関羽に足らないのは鍛錬より実戦経験の方でしょう。これから経験を積めばもっといい勝負ができるでしょう」
…もしかせんでも紀霊は割りと余裕じゃったのか?それとも虚勢か…それにしても関羽の実戦経験か。
なるほど、確かに今はまだ黄巾の乱すらまだなのだから実戦なんぞしたことないじゃろうし何よりまだ『一般人』なのか。ならば人殺しすらしたことない可能性が高いしのぉ。
何処まで行くのか末恐ろしいような期待するような複雑な気持ちじゃな。さすが神として祀られる人物よ。
と言うかもしかしてこのまま紀霊に躾を任せたら原作以上に強くなるんじゃ?しかもその上で劉備とか孫策なんかに引き抜かれると普通に吾が死んじゃうんじゃ…選択間違えたか。
「後は将としての教養を身につければ一軍の将として申し分ないでしょう」
やっぱりかーこれは面倒な事になったのー…まぁ良い、面倒じゃから引き抜かれたり困ったりした時に考えるのじゃ。
そういえば関羽の持つ青龍刀って何処から手に入れたものなんじゃろ。オーダーメイドの武器を作るほどの余裕はなかったようじゃし、やはり代々伝わる物なんじゃろうか。
「では紀霊が教養と武を教え、魯粛が政、七乃は………適当に頼むぞ」
「私だけ扱いが酷いです!訴えますよ!そして負けます!」
負けるんかい。
いや、だって七乃が教えれるのって腹黒い事くらいじゃが関羽にそんな事教えようとすれば下手したら斬られるぞ。
紀霊や魯粛なら自分の身ぐらいは守れるじゃろうが七乃は…
「無理ですぅ一刀両断ですよぉ」
うむ、七乃は裏側守備表示じゃからダメージ計算を行わず破壊されるのがオチじゃろう。
「では明日から鍛錬を始めるとしましょう」
「はい。よろしくお願いします」
何やら二人は既に師弟関係っぽいものを形成しつつあるようじゃ。
確かに紀霊は吾が関わらねば生真面目で関羽と相性が良かろう。
原作で言うと楽進とも相性が良さそうよな、ちょっと楽進のメンタルが一歩遅れを取りそうではあるが。
「私は孤児院で使っている教科書を用意しておきますね。それで勉強した後は張勲さんに事務仕事をしていただいたらどうかしら?」
「ふむ、政の勉強をさせてようにも基礎は大事じゃな。よく考えれば算術とてどの程度できるか分からんのじゃし」
ついついゲームのイメージが強くて内政もそこそこ出来ると思っておったが普通に考えれば史実や原作はともかくこの関羽は農民出自(ご両親に挨拶に行った際に確認した)なのじゃから読み書きが可能なのかどうかも知らんしの。
先入観は駄目じゃな。
「ふむ、方針は決まったの。これからよろしく頼むぞ、関羽」
「はっ、ご期待に答えられるよう頑張ります」
来た当初は不安そうな表情をしておったが今ではやる気の満ちておるから大丈夫そうじゃな。
ぬおおおおおおおおおおおおおおお!
「お嬢様が燃えてます!いえ、萌えてます!」
察しが良い者ならわかると思うが…また溜まった仕事と格闘しておるのじゃ。
関羽を連れ帰って早二ヶ月ほど経ち、関羽もだいぶここの空気にも慣れてきたようでお小言が多くなってきた今日この頃じゃ。
ちなみに仕事が多すぎて只今完徹二日目じゃ、睡眠不足はお肌の大敵というが成長の大敵でもあるのじゃが問答無用に積まれていく書簡。
なぜまた忙しいかというと前回は内向きの政策、いやどちらかと言うと改革かの?…じゃったが今回は外向きの政策でインフラ整備、特に道路拡張整備とバスの代わりに馬車の巡回スケジュールが組みあがり各部所からその報告が流れこんできたのじゃ。
この時代の常識ならば道路の拡張などは敵の進行を早めるなどの防衛上の問題があるのじゃが前にも少し触れたが南陽郡は盆地であり、南以外は楚国の時代に長城が築かれている上に山や竹林などの自然の要害が存在しておる。つまり南以外はある程度好きな様に出来るのじゃ。
安全地帯が広いというのはメリットで、ちなみに史実の曹操は当時誰も注目しておらんかった理由の一つが本拠地陳留がある州は四方敵に囲まれて安全地帯の少なさじゃな、他にも賊や近隣の豪族などが略奪し、民が離散した事や近隣諸侯の中に袁紹、劉備、呂布だった事も追い打ちであったであろう。
奇跡的に青州におった黄巾の残党を組み込んだおかげで民と兵両方が解決したのが勝利の鍵じゃ。
もっとも恋姫にはそんな設定は無さそうじゃがな。
つまり南陽郡は南以外は防備は問題がない事から広い面積の開拓が行えてインフラ整備をしたところで敵が来なければ問題無いということじゃ。
もっとも仕事が溜まっておる原因じゃが実のところ関羽のせいであったりする。
まぁ自業自得というか何というか…まだ客将であるからして関羽の前ではドラ猫の皮を被ってゴロゴロしながら毛を舐める代わりに蜂蜜を舐めておるようにしておるのじゃが関羽は吾をしっかりとした太守にしたいらしく教育ママ的な立場となって吾がサボらぬように暇さえあれば様子を伺いに来るので迂闊に仕事が出来ぬせいで徹夜して仕事をする事に…その代わり昼間寝ておるがな。
関羽なら信頼出来るとは思っておるが原作通り話が進むと呉軍勢が吾の下に来ると考えるとひょっとすると関羽が呉軍勢傘下に入る可能性があるとなると迂闊に話せぬのじゃ。
「そういえば兵器開発はどうなっておる」
「それでしたらお嬢様発案の歯車のおかげで弩と投石器の性能向上しました。その代わり費用も時間も増えましたけどねぇ」
「むう、やはり歯車を作るには工業力が足らんか」
全て手作りじゃからの〜今まで作ってきた物より精密性を求める物じゃから素人では歪んだものしか出来ず職人に任せなくてはならんから仕方なのぉ。しかも職人ですらごく一部の者しか作れん状況じゃから大量生産には難がある。
もう水力発電開発して工場でも作ってやろうか…いや、さすがに恋姫の世界で産業革命起こすのは気が引ける…というかそんな事すれば色々と取り返しの付かない事になりそうじゃ、主に地球と全人類にとって。
せめて日本侵略とか台湾侵略とかフィリピン侵略程度に収めるべきじゃ………ハッ?!日本侵略は絶対にNO!すっかり忘れてたがここの卑弥呼ってアレじゃろ?!絶対ろくでもない事になるぞ。
それにしても中国は本当になんでも資源があるから楽じゃのー今度はガラス製品にでも手を出してみるか?あれは儲かりそうじゃしなぁ…陶器が値崩れしそうじゃがな。
ふむ、歯車が出来たんじゃから水車と風車を作ってみるか?…いや風車は立地が難しいし水車だけ検討してみるか、水車があれば麦を挽くのも楽になり民の自由な時間が増えるし使用料を取れば更に収入が増えるがメンテの事もあるし国営にするか、いや国営じゃと他の州にも教えを請われれば断れなくなるし、むむむ。
何にしても職人の育成は急務か、孤児は大体文官か兵士に振り分けておったが再検討が必要やもしれん。
いや、とりあえず魯家を通して郡を跨いで募集してみるか。幸い資金は腐るほどあるからの。
「という訳で魯粛に話を通しておいてたも」
「分かりましたーでもでも職人の引き抜きなんてしたら豪族さん達が怒りますよ」
「大丈夫じゃ。あやつらは金以上に大事なものなんぞ自分の命以外ありはせん。特に荊州から引き抜くようにとも言っといてたも」
そうじゃ、職人が集まったら班に分けて船を作らせて兵士に競艇もどきをさせて水軍強化を狙ってみるか、予算は順位で決めたて賭博で稼いだ一部を回せばいいじゃろうし…うん、いい考えかもしれん。
船で知ってることと言えば動力は蒸気機関、大型船ならディーゼルがいいとか竜骨の存在ぐらいしか知らんからほとんど職人に任せることになるのぉ…ああ、唯一ライフジャケットぐらいは何とか出来るかも。
発泡スチロールとか浮き輪(ゴム)の代替品を考えなくてはならんな。
ん?そういえば南に行けばベトナム、タイ、インドがある訳じゃがもしかしてゴムは手に入るかもしれんか、魯家に頼んで探してもらうとするかの。
ゴムがあれば色々できるぞ。
輪ゴム、ゴム銃、下着のゴム…なんじゃあまり要りそうなものがないではないか!……もちろん冗談じゃ。
そういえばコンドー————ゴホン、最近精神年齢故か下ネタが多い気がするのじゃ。
今更ながらこの見かけで下ネタはないぞ。注意せねば。
「何かお嬢様からいい匂いが」
いや、香水とか付けて居らんから気のせいじゃ。だから近づくでない、クンカクンカするでない!
匂いといえば石鹸なのじゃが石鹸はこの世界には既にあるのじゃがそれは高級品で上流階級の者達しか使えぬ贅沢品に過ぎぬ。
とりあえず疫病とか怖いので新しい商品として民衆向けの物を作るかの。
問題は民が石鹸を買う気になれるかじゃが…そうじゃ、飲食店に石鹸を配布するか。
全ての民に配布など無理じゃが飲食店ぐらいなら配れるじゃろう。
高級品は匂いの付いた物を売れば問題無いじゃろ…ハーブ石鹸とか面白いかもしれん、どうやって作るかは知らんがな。刻んで煮出して入れれば出来るじゃろうか?
こうやって考えれば考えるほど色々なネタが出てくるせいであっちやこっちに手を回してなかなか仕事が減らないという感じじゃな。
「袁術様、実家の方から貿易報告書が届いきました」
「…そこに置いてたも」
前言撤回じゃ。減らぬどころか増えておる。間違いない。