第三百五十五話
孫策達の読み通りに叛乱軍との戦いは一日で終えることはなかった。
叛乱軍が粘りに粘ったことで劉備軍の弱点が露呈する。
弱点とは痩せ細った兵士達の体力だ。
訓練された彼らは満足な食事も取れない中で士気を保ち、よく戦ったが士気だけで戦うにも限度があった。正しく、腹が減っては戦はできぬという状態となった。
劉備軍は時が経つにつれて勢いが落ち、最終的には有利だったはずが五分、いや若干不利に傾いて初日を終えてしまう。
「早く決着をつけたかったが相手もなかなかやる」
厳顔は微妙な表情でつぶやく。
微妙な表情になったのは、今戦っている叛乱軍は自身が下手を打って起こった今回の蜂起の被害者と言ってもいい存在だ。上手く立ち回れたなら彼らが味方となっていた可能性があったことを思ってのことである。
ちなみに今回、厳顔が大将を務めるのは交渉役として派遣されていたことで人脈を築いていることもあるが蜂起をさせてしまったことへの尻拭いも兼ねている。
「明日こそワタシの爆砕噴鉄で粉砕してみせましょう!桃香様のために!」
厳顔の心境に気づかずに魏延は隣で息巻いて鼓舞……本人的には鼓舞のつもり……する。聞いた周りの者達はそれに応えて声を上げる――が――
(寒々しいわね。その忠誠心は尊敬するけど、それにも限度があるわよ。もう疲れ切ってますって表情に書いてあるじゃない。忠義だけで冷たい現実を捻じ曲げることなんて出来ないわよ)
兵士達の様子を探りに行った周瑜の方に視線をやるとすぐに気づき、返答が来たが、その返答は横。つまり兵士達は限界に近い。もしくは既に限界を突破している可能性まである。
(明日戦い切れたら勝てるでしょうけど……これ、もし負けたら私達が負けたことになるのよね?ハァ人を巻き込んでおいて更に迷惑を掛ける気?いえ、それも狙いなのかしら)
孫策の実績に傷をつけることで袁術からの評価を下げ、劉備側に引き寄せる――
(無理筋ね。私の名声を傷つけるのが劉備ちゃん達自身なんだから私との関係が良くなるわけがないわね。むしろ全部暴露して袁術ちゃんに謝って劉備ちゃん達を討つことで名誉挽回って流れが普通でしょ)
とはいえ、勝ってもある意味困るが、負けるともっと困る孫策は周瑜に近寄り――
「兵糧、少し多く開放しましょう」
「それが得策だろう。このまま負けては雪蓮の名に傷がつく。何より袁術様が不審に思って調査に乗り出される可能性が高いことが問題だ」
「それは拙いわね……私達も出るべきかしら」
「恨まれそうだが仕方あるまい」
「恨みたいのはこっちなんだけどね」
「違いない」
「根回しはしておく?」
「……厳顔殿と鳳統殿には通しておくべきだろうな」
「じゃ兵糧の件とまめてお願いね。私はちょっと気分を落ち着かせておくから」
不本意ではあるが出番があるということで気分が高揚してきたため、静めるために散策に出かけた。
そして劉備側の反応はというと、兵糧が提供されることは喜んだが、援護に関しては渋々という感じで了承した。兵士達が限界であることを察していたらしい。しかし、孫策達の手を借りれば今以上に譲歩する必要がある。余裕がない劉備達は素直に援護を喜ぶことができなかった。